| 現在、NAXOSレーベルから、「日本作曲家選輯」なるCDシリーズのリリースが続いている。
日本の近現代作曲家を、1枚につき1人取り上げて、代表曲と、稀少作品・初録音作品を組み合わせる、たいへん意欲的なシリーズだ。現在までに、14枚ほどがリリースされており、完結の暁には、100タイトルほどにもなろうかという、壮大なプロジェクトでもある。
演奏者の多くは、海外の地方オーケストラで、指揮者は日本人だったり海外だったり様々だが、どれも、的確に音楽を表現しており、なるほど「音楽に国境はない」のだと、あらためて感動させられてしまう名演揃いである。
その中で、指揮者もオケも日本という、海外レーベルながら準日本産のような1枚があり、大ヒットを飛ばしている。
それは「大栗裕」を取り上げた1枚で、指揮は下野竜也、オケが大阪フィルハーモニー交響楽団である(NAXOS 8.555321)。
収録曲目は、ヴァイオリン協奏曲 (1963)、大阪俗謡による幻想曲 (1955,
1970改訂版) 、管弦楽のための神話〜天の岩屋戸の物語による (1977管弦楽版)、大阪のわらべうたによる狂詩曲・・・など。
これを見て、「あれ?」と思った吹奏楽ファンも多いと思う。その多くは「吹奏楽曲」として人気抜群の曲ばかりではないか、と。
たとえば、上記でいえば、大阪・淀川工業高校の十八番として有名な「大阪俗謡による幻想曲」は、1955年に管弦楽版として作曲され、74年に吹奏楽版に作曲者本人によって改訂編曲されている。
「わらべうた」は、79年に管弦楽版として作曲されたものを、木村吉宏(当時、大阪市音楽団団長)が03年に吹奏楽版に改訂編曲している。
そして「神話」は、その逆で、73年に、大阪市音楽団創立50周年記念作品として、最初から吹奏楽曲として作曲されたものが、77年になって管弦楽版に改訂編曲されている。
なぜ、かように、大栗作品は、管弦楽⇔吹奏楽の境を、自在に超えるのだろうか?
その理由のひとつが、大栗自身が「浪速のバルトーク」と呼ばれた点にあるかもしれない。
大栗裕(1918〜1982)は、大阪に生まれ、ホルン奏者としていくつかのオケに参加しながら、独学で作曲を勉強した。関西歌劇団が上演した歌劇「赤い陣羽織」(木下順二脚本)で成功をおさめ、以後は、関西交響楽団を主な発表の場にしながら、独特の作品を書きつづけた。
どこが「独特」だったのか。彼は、ひたすら、関西の土俗的なリズム、メロディー、和製、音楽風土を自作に取り入れた。ゆえに、ひたすら東欧のムードを追ったハンガリーのバルトークにちなんで「浪速のバルトーク」と称された。
バルトーク作品といえば、「舞踏組曲」や「中国の不思議な役人」なども、吹奏楽レパートリーとして定着している。
どうやら、土俗的な音楽にこだわると、メロディーやリズムが、極めて明朗でハッキリ、かつキビキビする作品が生れるようだ。それが、吹奏楽化しやすい理由のひとつなのではないだろうか。
また、作曲者自身がホルン出身だったため、管楽器に対する感度や愛着がずば抜けていたとも考えられる。
そんな大栗作品の代表作、上記NAXOS盤にも管弦楽版が収録されている「吹奏楽のための神話〜天の岩屋戸の物語による
」が、2005年10月14日(金)、神奈川・横浜の「みなとみらいホール」でのシエナ・ウィンド・オーケストラの特別演奏会で演奏される。しかも、指揮は、NAXOS盤と同じ、下野竜也である。
下野は、2000年に、東京国際音楽コンクール(指揮部門)で優勝、翌年にはブザンソン国際指揮者コンクールでも優勝。その上、最近では東京佼成ウインドオーケストラの定期などにも登場しており、いまや、吹奏楽指揮者としても人気急上昇中だ。もちろん、上記NAXOSのCD「大栗裕」も、大ヒットさせている。
そんな彼が、シエナのコンサートに登場し、大栗作品を振るわけだが、実は、下野は、たいへん似た試みを、札幌交響楽団で行っている。
吹奏楽ファンならば、カレル・フサ作曲「プラハのための音楽1968」をご存知だろう。1968年の「プラハの春」を、当時のソ連が武力で弾圧した、その悲劇を音楽にした、感動的な吹奏楽曲だ。
この吹奏楽曲を聴いた、往年の名指揮者ジョージ・セルが、感動し、作曲者に管弦楽版への改訂編曲を依頼した。よって「プラハ」は、オリジナル吹奏楽版と、管弦楽版の2種類があるわけだが、下野は、昨年、札幌交響楽団のコンサートで、この管弦楽版を日本初演しているのだ。
決して管弦楽版はレコーディングの多い曲ではないので、ぜひ聴いてみたかったと思うのは、筆者だけではないだろう。
大栗作品は、管弦楽と吹奏楽の境界を、楽々と超えた。フサの「プラハ」も。そして、それら双方を、これもまた、楽々と超え、同列に並べて指揮している(ように見えてしまう!)下野竜也は、もしかしたら、新しいタイプの指揮者かもしれない。
彼が、シエナに、どんな新しい響きをもたらしてくれるのか、興味は尽きない
Text:富樫哲佳 |