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2000年1月6日、イギリスへ帰国したフィリップ(Philip
Sparke) から "ミッド・ウェスト" の成果を知らせるFAXが舞いこんだ。文面には、自分の今度の新作(複数)に多くの関心が寄せられたということや、自分がプロデュ−スした新しいCDのこと、東京佼成ウィンドオ−ケストラや大阪市音楽団(市音)が2000年にどんな曲をレコ−ディングするのかといったいつもの質問が綴られていた。
筆者は7日に返信を送ったが、その中で<アメリカの大学バンドのために書いた30分を超える新作>という言いまわしで、市音から質問を受けた今度の
"大作" に話題を振ってみた。世界中を相手にしているウルトラ超多忙の彼は、悪気はまったくないけれど、ときどき約束事をポカッと忘れてしまうことがある。そこで、タイミングを見計らってジャスト・フィットの質問を繰りだすと
"瞬間的に約束を思い出してくれる" ことがしばしばあったからだ。果たして、打ち返しは10分もしないうちにきた。
「ディア−・ユキヒロ。来週はレコ−ディングのために留守にするけど、戻ったら我々の新しいCDを全部送るよ。ボクの人生は今とてもエキサイティングだ。そして、キミには、起こっていることのすべてを知っていてもらおうと思う。
新しい "ビッグ" な曲は初演され、 100パ−セント完全な演奏というわけではないが、曲の印象をよく伝えているそのときの録音をもっている。キミに見てもらうためにスコアとテ−プを1〜2週間のうちに送る。シカゴへもスコアをもっていったんだけれど、多くの人が大きな関心を示してくれ、とくに日本からの参加者はものすごい関心を示してくれた。ボクはまず、OMSB(市音)の友人たちと出会い、そのとき、彼らは
"日本における初演" を望んだ。ボクは、彼らが確実に最初にパ−ト譜を手にできるように努めようと話した。すると、彼らは
"日本初演" をすることができる。それは、2000年11月に行なわれることになるだろう。
ボクは、その後で、ミスタ−・キムラ(木村吉宏さん:元市音団長、定年退職後、同団名誉指揮者)と会った。そのとき、
"彼" も自分が "初演奏" をすることを望んだ。(けれど、ボクはOMSBとのヤリトリについて切りだせなかったんだ!!!!!!)
さて、これで、キミは起っていることのすべてを知ったことになる!!!
一方、この曲の録音は、KOSEI(佼成出版社)のためのプランとしてはOKだ。だけど、ボクらは
"OMSB(市音)が日本で最初の演奏機会をもつ" という、ボクが(シカゴで)した約束を固く守るべきだと思うんだ。キミもそれでOKならいいんだけど!」 (1/7付)
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「剣と王冠」
(KOCD-3904)
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ここで、突然、佼成出版社の名前が出てくるのにはワケがある。当時、筆者は、1998年に発売された同社の
"ヨ−ロピアン・ウィンド・サ−クル" シリ−ズ第4集「剣と王冠」(同、KOCD-3904)につづく企画をかなり前から早急に立案するように言われていたものの、父の死去とその後何年もつづくことになるわが家の大混乱の中でそのままとなっていた。しかし、頭の中では絶えず構想を練り続けており、スパ−ク作品の中からは、「ディヴァ−ジョンズ〜スイスのフォ−クソングによる変奏曲(Diversions-Variations
on a Swiss Folk Song ) 」(1998)もしくは、予算とフィリップの体調が許せばブラス・バンド・オリジナルの名作「ケンブリッジ・ヴァリエ−ション(Cambridge
Variations)」(1991)のウィンド・バンド・ヴァ−ジョンを新しく作る、あるいは
"今度の新作" がいいのでは漠然と考えていた。そこで、このファイルの始めでふれた同じ7日付のフィリップへの返信の中で、ついでに
"来るべき佼成出版社のレコ−ディングで今度の大作を取り上げるというアイディアはどうだろうか"
と打診していたのだ。(最終的に、同シリ−ズの第5集「パリのスケッチ」(KOCD-3905、2000年制作)
には、他の収録曲とのバランスなど、さまざまな理由から、「ディヴァ−ジョンズ」が採用された。本当に長い間、筆者がプランを練り上げるのを辛抱強く待ち、第5集を世に送り出していただいた同シリ−ズの担当責任者、水野博文さんには
"敬復" 以外、申し上げる言葉が見つからない。 "フィリップの体調"
を気にかけていたのは、1999年の年初に彼は長期入院を余儀なくされ、ドクタ−から最短でも15ヵ月は無理をするなと厳命されていたことを知っていたからだった。)
それにしても、フィリップからの通信を読む限り、なんともエライことになっている。1998年に定年を迎えられて市音を退職後、その名誉指揮者となられた木村さんは、その後も市音を指揮される機会はたびたびあるが、一方では広島ウィンドオ−ケストラや尼崎市吹奏楽団、近畿大学吹奏楽部など、プロ、アマチュアを問わず、広く市音以外の多くのバンドでもフリ−ランスの指揮者として活躍されている。そして、その市音にも首席指揮者をはじめ、何人も指揮者がいるわけだから、2000年11月の定期演奏会を木村さんが指揮される予定になっているとは限らない。普通に考えると、おそらく、木村さんは市音以外のバンドでの
"国内初演奏" を考えていらっしゃるだろう。筆者は、両者とも付き合いが深い。現時点で、その両者がともに
"初演" を望んでいるわけだ。完全なるダブル・ブッキングだ!!フィリップも困った問題を投げ掛けてきたもんだ。フィリップには木村さんが定年を迎えたことをかなり前に伝えていたが、外国人が日本の個々のバンド事情に明るいハズはなし。
"ミッド・ウェスト" の現場でも、市音と木村さんが別々に現われて個別に情報収集をする姿に多少の戸惑いもあったのだろう。文面は、まるで
"なんとかしてくれ" と言っているようなもんだ。ウ〜ン、困った。ただし、微妙に相前後するタイミングとなったとはいうものの、両者がほとんど同時に作品を気に入った(つまり、作品がおもしろい)ことと、フィリップが
"日本で最初の演奏を市音にやってもらおう" と考えていることだけは確かだった。
しかし、翌8日に "ミッド・ウェスト土産" をもって拙宅を訪れた市音プログラム編成委員の方々に取材すると、事態はさらに深刻だった。結果的に、フィリップは、シカゴで市音の他に木村さんにもフル・スコアを手渡しているという。スコアは少なくとも2部持っていたのだな。しかし、言っていることと、やっていることが違うじゃないか。作曲者から直々にフル・スコアを手渡された木村さんも、過去に彼の作品の
"日本初演" をいくつも手懸けられてきた経緯もあったので、今度の
"大作" の初演にも相当意欲を燃やしていらっしゃるに違いない。しかし、今度の作品はフィリップの作曲家人生で最大規模の作品だ。その日本初演は、ウィンド・バンド(吹奏楽)の世界だけにこだわらず、理想をいうならば、広く一般のクラシック音楽の世界にも通じるステ−ジで行なわれるにこしたことがない。近年、この国でよく耳にする
"誰が先に演奏したか" といった "先陣争い"
の綱引きをやっている場合ではない。まずは、作品ありき。筆者は、アレコレ悩んだ末、スコアが要求する編成上のキャスティングを必ず
"完璧に" 実現するステ−ジと、初演後に作曲家と作品に与えられるクリティカルなステ−タスを最優先する立場をとることとし、その夜に返信を打った。
「ディア−・フィリップ。キミの "ビッグ" な新作の日本における初演奏に関しては、ボクは市音をサポ−トする。今度の作品に限っては、責任ある立場の評論家が入る演奏会で日本に紹介されるべきだ。この件に関して、両者はきっと紳士的に話し合うことになると思う。」
......つづく
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