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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」

 2002年11月8日(金)、大阪のフェスティバルホ−ルで開催された「大阪市音楽団(市音)第85回定期演奏会」における秋山和慶(あきやま かずよし)の指揮による鮮烈な日本初演以降、ある意味、日本のバンド界を席巻することになった『ハリスンの夢 (Harrison's Dream)』。
 それまで、熱烈なブラス・バンド・ファンをのぞき、『ケルトの叫び (Cry of the Celts)』の編曲者である程度しか知られていなかったピーター・グレイアムの名は、ほぼ時を同じくしてつぎつぎと紹介され始めた『ゲールフォース (Gaelforce)』、『シャイン・アズ・ザ・ライト (Shine as the Light)』、『交響曲“モンタージュ”(Montage)』、『ザ・レッド・マシーン (The Red Machine)』などの、バラエティーに富んだ作品を通じて、アッという間に日本のウィンド・バンド・ファンの知るところとなった。

 ピーターとは、イギリスの有名なブラス・バンド“ブラック・ダイク・バンド”が、まだ“ジョン・フォスター・ブラック・ダイク・ミルズ・バンド”という名前だった当時の1990年に来日した際、その後、ブラス・バンド関係者が一様に名作と認めることになる彼の『エッセンス・オブ・タイム (The Essence of Time)』(1990年のヨーロピアン・ブラス・バンド選手権のテストピース)のノートを書いた関係から交友が始まった。

 その後、ブリーズ・ブラス・バンドによる『エッセンス・オブ・タイム』の再演、市音に紹介した『ハリスンの夢』や『交響曲“モンタージュ”』、『ザ・レッド・マシーン』が、コンサートやレコーディングでつぎつぎと取り上げられ、見事な成果を上げたことなどを通じ、お互いにツーカーの厚い信頼関係を築きあげていた。ことに、市音の自主制作CD「ニュー・ウィンド・レパートリー2005」(大阪市教育振興公社、OMSB-2811)に収録された『ザ・レッド・マシーン』(指揮 : 秋山和慶)は、彼の特別なお気に入りとなっていた。

 そのピーターからひじょうにエキサイティングな一通のメールが届いたのは、2005年の5月のことだった。

 ちょうどその頃、オランダで開催されたその年のヨーロピアン・ブラス・バンド選手権のライヴをインターネット配信もされているBBC放送の番組「リッスン・トゥー・ザ・バンド」で聴き、創立150周年を迎えたブラック・ダイク・バンドがイングランド代表として久しぶりに登場して、見事ぶっちぎりで優勝を飾ったこと、また、そのブラック・ダイクが自由選択曲として世界初演したピーターの新作『地底旅行 (Journey to the Centre of the Earth)』がヨーロッパでものすごい反響を呼んでいることを知っていた筆者には、彼のこのメールの意図するところを即座に理解することができた。

 案の定、ピーターのメールは、『地底旅行』のことで埋め尽くされていた。曰く、「この作品が大成功を収めたこと」、「最初から、ウィンド・オーケストラへのトランスクライブのアイディアを持っていること」、「それは必ずやウィンド・オーケストラのための魅力的なレパートリーになるであろうこと」、「日本のウィンド・オーケストラで、このトランスに関心があるところがあるかどうか」などなど。要するに、ここ数年、CDやミッド・ウェスト・クリニックで聴いた東京佼成ウインドオーケストラのナマ演奏などを通じて日本のバンドの演奏水準を知ったピーターが、この作品のウィンド・オケ・バージョンを書くなら、出来れば日本の楽団のために書きたい、と願ってのメールだった。

 ピーターには、すぐに“トライを約束する”と返信。同時に、BBCが抜粋だけの放送だったので、できるだけ速やかに全曲の音源とブラス・バンド・スコアを送付することを要請した。

 さて、どうしよう。筆者には、この提案に対して2つの演奏団体名がすぐに思い浮かぶ。しかし、ここはまず最初に、ピーターの作品にとって、言わば“お得意様”になっている市音に電話することにした。

(つづく)

 


(c)2007, Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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