作曲者ピーター・グレイアムから大阪市音楽団(市音)用の完全な楽譜セットを受け取る少し前の2002年7月29日夕刻、筆者は、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドが同じ年の1月にセッション録音した『ハリスンの夢』収録のCD「Signatures」(USAF、BOL-0202、非売品)をついに受け取った。
このCDは、驚いたことにかの“FedEx便”で届いた。これには、つぎのような少々込み入った経緯があった。
“File No.12-10”に書いたとおり、7月17日のジェイ二ーのグループ・メールに驚いた筆者が、慌てて“市音用”の楽譜セットの受け渡しについての照会メールをピーターに送り、そのやりとりの中で、偶然、我々2人ともCDをまだ受け取っていないことが判明。ピーターはその件をCDの指揮者ロウル・E・グレイアム大佐に伝えていた。その後、大佐からその旨を知らされた空軍バンドの担当者から、23日に『CDは数週間前に送ったが・・・』との照会があり、ピーターも筆者も『未着』と返答。国際間の郵便は行方不明になることがあり、アメリカ国内のバンド関係者にはすでにCDは渡っていたので、郵便事故と判断した担当者は、25日、たった1枚のCDを、送料はべラボーに高くつくが確実に送達状況が追跡できるFedExで送ることを決めたというわけだ。
しかし、一旦行動を起こすとなれば、その素早さはさすがにミリタリー。この件は、後日、郵便事故などではなく、空軍バンドがCDを船便(!?)で発送していたためと判明したが、それはさておき、届いたCDは、空軍バンド在任中に多くのオリジナル作品のレコーディングを行ったロウル・E・グレイアムの引退を彩るファースト・クラスのすばらしいCDだった。『私たちは、喜んで、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドによる最新録音のコンパクト・ディスクを、贈答品としてあなたに送ります(We are pleased to send you these complimentary copies of the latest compact disc recording by The United States Air Force Band, Washington D.C.)』と印刷されたグリーティング・カードも誇らしげだ。
収録されていた曲は、つぎのとおりで、ひじょうに魅力的な内容だった。
1.コラールとアレルヤ(ハワード・ハンソン)
Chorale and Alleluia (Howard Hanson)
2.バンドのための詩篇(ヴィンセント・パーシケッティ)
Psalm for Band (Vincent Paersichetti)
3.主題と変奏、作品43a(アルノルト・シェーンベルク)
Theme and Variations (Arnold Schoenberg)
4.交響曲変ロ調(パウル・ヒンデミット)
Symphony in Bb (Paul Hindemith)
5.エスカペイド(ジャック・スタンプ)
Escapade (Jack Stamp)
6.ハリスンの夢(ピーター・グレイアム)
Harrison's Dream (Peter Graham)
ジャケットに各収録曲の作曲家のサインがズラリと入り、曲目のラインナップを見ただけで『やるなー!!』と唸らされる。どれもこれも聴きたい曲ばかりだったが、今度ばかりは、まずアルバムのトリを飾るピーターの曲から確認せねばなるまい。
早速、CDプレイヤーにディスクを入れる。曲が始まるや、『なるほど、そうきたか!!』と思わず独り言。ピーターから最初に聴かされたライヴ演奏(File No.12-02参照)の周囲を圧するような猛烈なテンポではなく、やや落ち着いたテンポでしっかりとしたアンサンブルと音楽を作っている。演奏時間でいうと、ライヴはおよそ13分11秒で、こんどのCDはおよそ13分28秒(ブックレット表記は13分25秒)。ライヴでは、最後のロングトーンを“そこまでいくか”というくらい思いっきり引っ張っていたので、実際のテンポ感の違いはこの演奏時間以上のものがある。しかし、両者のトータル・サウンドのイメージにさほどの違いを感じさせないのは、さすがはアメリカ屈指のアンサンブル能力を誇るU.S.エア・フォースと言える。
一聴後、ラジオ放送の件があったので、CDの到着を今か今かと待っていたバンドパワーのコタロー氏に一報を入れる。
『エア・フォースの“ハリスンの夢”のCD届いたよ。前のライヴのような猛烈なテンポではなく、ちょっと安全なテンポに落していたけど、それでも初めて聴いた人には、ものすごいテンポに聴こえるかもね。演奏はとても音楽的。どう、聴いてみたい?』というと、『もちろん!!』との返答。
そこで、前回同様、CDプレイヤーの前に電話の受話器をセットしてプレイ開始。後年、このCDはそっくりそのままアメリカのKlavierレーベルから市販(CD番号: K11148)となったが、この2002年当時は、誰でもおいそれと簡単に入手できるわけではない米空軍の非売品CD。電話で演奏の内容を確認したコタロー氏も、秋の放送開始に向けて本当にいい材料が揃ったことに、ホッと胸をなでおろしている様子だった。
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▲『ハリスンの夢』収録のCD「Signatures」(USAF、BOL-0202、非売品) |
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▲米空軍バンドからのグリーティングカード |
(つづく) |