アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドが2002年1月にセッションで録音した『ハリスンの夢』が収録されているCDが、ひょっとしてすでに出来上がっているのではとの予感から、作曲者のピーター・グレイアムにメールで照会した返事はその日のうちに返ってきた。
それによると、彼もまだCDを受け取っていないとのこと。しかし、アメリカにいる彼の友人がすでに受け取っているようだとも。予感は当たっていた。ということは、我々がそれを聴く日もそう遠くはなさそうだ。なんだか、ワクワクした気持ちになってくる。
しかし、それからわずか10日後の7月17日、筆者は、そんな愉快な気分を吹き飛ばす内容の1通のグループ・メールを受信した。発信者は、ジェイニー・グレイアム。ピーターの奥さんであり、グラマーシー・ミュージックの実質の責任者だ。
グラマーシー・ミュージックは、ピーター・グレイアム作曲、ウィンド・オーケストラのための『ハリスンの夢』が、ドナルド・ハンスバーガー・ウィンド・ライブラリーに含まれ、ワーナー・ブロス出版社(フロリダ州マイアミ)を通じてワールドワイドに手に入るようになることを、ここにお知らせできることを嬉しく思います。パブリックなプレゼンテーションは、2002年12月、シカゴのミッドウェスト・クリニックにおけるワーナー・ブロス出版社のブースにおいて行われます。 |
メールを見るなり、全身からどんどん血の気が引いていくのを感じた。ピーターの曲がメジャーになることは、友人としてこれほどうれしいことはない。しかし、商売っ気の強いアメリカの大手出版社ワーナーと、指揮者ドナルド・ハンスバーガーが一旦動き始めたとなると、彼らのビジネスが11月に決定している大阪市音楽団(市音)の日本初演への大きな障害になる可能性があった。なぜなら、市音はまだ楽譜を受け取っておらず、へたをうつと楽譜を受け取れない可能性すらあったからだ。
この時点で、グラマーシーとワーナーの契約がいつ発効するのかは不明だった。しかし、この連絡を受けた今、直ちに動かないとすべてが水泡に帰す。即行でピーターにメールを打つ。
『ディアー・ピーター、
ジェイ二ーから“ハリスンの夢”のドナルド・ハンスバーガー・ウィンド・ライブラリーでのディストリビューションについてのグループ・メールを受けとった。本当におめでとう!!
しかし、この件に関して少しばかり質問がある。キミも知ってのとおり、大阪市音楽団は今年11月にその日本初演を行うことになっている。これはすでにオフィシャルなものだ。その演奏のための楽譜一式はいつ受け取れるだろうか。前に、7月の終わりには準備が整うとの連絡をもらっているが・・・・・・。
この演奏会が“ハリスンの夢”のようなグレートな作品を紹介するためにはとても重要な機会となることは前に書いたとおりだ。放送用録音があり、CDになる可能性もある。指揮者とライブラリアンは、キミからの返答を待っている。
できるだけ早く、状況を知らせてほしい。ユキヒロ』
ビックリしたのか、返答はすぐにあった。要約すると、それには「現在、ワーナーが自分たちの様式に揃えて出版準備を進めているが、どんなに早くてもそれは11月になると思われる」、「一旦、出版になると、ディスリビューションについてのすべてのハンドルはすべてワーナーが握ることになり、グラマーシー・ミュージックが販売できるかどうかについても不透明」、「8月の大部分をアメリカで過ごす予定だが、その前に市音用の楽譜セットを完成させて、直接筆者のもとへ発送する」といった内容が書かれていた。
やれやれ、間一髪だった!!
また、同じメールには、ピーターもまだアメリカ空軍からCDを受け取っておらず、バンドに照会しても“なしの礫(つぶて)”状態だったが、今日、指揮者のロウル・E・グレイアムから、CDが届いたかどうかについての個人的な確認メールがあり、ロウルは筆者の住所も確認していることも書かれてあった。まあ、昔に比べて輸送手段が発達した現在とは言え、それでもアメリカからイギリスや日本への距離があるということなんだろう。
かくして、市音用の楽譜セットは、ピーターが約束したとおり、8月7日に筆者のもとへ届き、チェックの後、ただちに楽団に手渡された。
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▲▼楽譜セットには、これが市音専用の楽譜セットであることが印字されている
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(つづく) |