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■ハリスンの夢
収録CD
(ブラスバンド)
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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−12
ピ−タ−・グレイアム:ハリスンの夢
HARRISON’S DREAM
(Peter Graham)
File No.12-09:コーポロンが!! ハンスバーガーが!!

 大阪市音楽団(市音)による日本初演、BPラジオなど、『ハリスンの夢』をめぐるいろいろなプロジェクトが同時進行的に動きはじめてからしばらくたった2002年7月1日、筆者はピーターから興味深いメールを受け取った。

 それは、アメリカの指揮者ユージン・コーポロン(Eugene Corporon)から『日本滞在中に東京佼成ウインドオーケストラを訪れて、シカゴのミッドウェスト・クリニックでは“ハリスンの夢”を演奏したらいい、と薦めてきたよ』とのメールを受け取った後、今度はドナルド・ハンスバーガー(Donald Hunsberger)から『ミッドウェストで東京佼成を客演指揮するので“ハリスンの夢”のスコアが欲しい』とのリクエストがあった、という内容のメールだった。

 この年の12月、東京佼成ウインドオーケストラが、アメリカのシカゴで開かれるミッドウェスト・クリニックに出演することは知っていた。しかし、ほぼ同じ時期にアメリカの2人の指揮者がまったく同じ曲名を口にするとは・・・・・・。『ハリスンの夢』に対するオストウォルド賞の授賞式があった3月のABA(アメリカ・バンドマスターズ・アソシエーション)総会で配られた Gramercy Music のカタログが効果を奏し、こんどのミッドウェストではいろいろなバンドがピーターの曲を演奏することが決まっていたので、彼は無邪気に『これで3曲目だ!!』と喜んでいるが、それにしても同じ時期というのが気にかかる。  
  ピーターからはもう少し詳しい事情が分からないかという問いが振られる一方、市音に日本初演を薦めた責任や、ラジオ番組の準備もあったので、早速、佼成に電話を入れて事情を確かめることにした。すると、おおよそつぎのようなことが判った。

 まず、今回のアメリカ演奏旅行とシカゴのミッドウェスト・コンサートは、当初フレデリック・フェネル(Frederick Fennell)の指揮で行われることが企画されたが、フェネルの急な入院のために現時点ではツアーの正指揮者が未定なこと。また、シカゴ出演が決まってからというもの、世界中の出版社から膨大な数の楽譜が届いていて、楽譜の山が手付かずの状態にあること。6月半ばに昭和音楽大学のコンサートを指揮するために来日したコーポロンが空き時間に佼成ウインドを訪れ、その時に選曲についてのアドバイスがあったこと。曲については、彼以外にもいろいろな人からアドバイスがあること。そして、ハンスバーガーには客演指揮で1〜2曲振ってもらう予定になっていて、曲目は検討中であること・・・、などなど。いろいろなことを教示いただいた。

 そういうことだったのか。地球は狭い!! 以上の内容を、早速、ピーターにそっくり返信したが、その後しばらくたって、突然ある予感が頭をよぎった。

 『ひょっとすると、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドが1月のセッションでレコーディングした“ハリスンの夢”収録のCDがもう出来上がっているのではないのか?』

 ピーターの以前のメールには、確か“6月に作る”と書いてあった。同バンドの隊長で指揮者のロウル・E・グレイアム大佐(Colonel Lowel E. Graham)も、ちょうどこのあたりで定年のはずで、このCDは実質“引退記念盤”だった。そんなCDのスケジュールが大幅にズレることはちょっと考えにくい。ということは、コーポロンやハンスバーガーがすでにその録音を聴いている可能性があった。そうだとすると、もう少し待てば、こちらにもCDが届くかもしれない。

 そんなワクワクした気持ちで、ピーターにつぎのような短いメールを送ったのは、7月6日のことだった。

 『ディアー、ピーター。“ハリスンの夢”が入っているアメリカ空軍バンドのオフィシャルなCDをすでに受け取っているかい? 』

 著名なアメリカ人指揮者たちが騒ぎ出したことで、“ハリスンの夢”はさらに広く知られることになるだろう。しかし、このとき、筆者もピーターも、直後にこの作品をめぐる大きなドラマが待ち受けていることなど、予想だにしていなかった。

(つづく)

▲ドナルド・ハンスバーガー指揮、東京佼成ウインドオーケストラ演奏の『ハリスンの夢』が収録されているCD“シカゴ・ライヴ”(佼成出版社、KOCD-8010)



(c)2008,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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