オストウォルド作曲賞受賞作品、ピーター・グレイアムの『ハリスンの夢』日本初演プロジェクトが進む中、これとは別にウェブ・マガジン「バンドパワー」のホーム・ページから独自のラジオ番組を発信しようとする試行錯誤が続いていた。
発案は2001年。筆者の意を受けたバンドパワーのコタロー氏がJASRACに訊ねたところ、“現状では事実上不可能”との回答。著作権をめぐる日本政府の法解釈や整備が、地球的規模でダイナミックに動くインターネット社会の現状や技術進歩にまったく追いついてなかったことが大きな妨げとなっていたのだ。一方でネット上の海賊放送は事実上野放し状態だったので、いずれルールが確立されたときの懸案事項ということにして、ラジオ計画は一旦立ち消えになった。
しかし、その後、インターネットラジオについての政府やJASRAC(日本音楽著作権協会)の方針が決定。申請を出して正式に認可が下りれば、ストリーミング方式によるインターネット放送が可能となった。因みに、BPラジオのJASRAC許諾番号は、第9005609001Y31018号。正規のインターネットラジオだ。認可を得るまでのコタロー氏の熱意とねばりは、筆に尽くせないものがあった。
つぎに課題となったのは、ラジオで使う音源だった。JASRACの許諾条件が、音源使用許可を得たものだけが放送可能と定めているからだ。
ここで著作権の概念について少し書いておく必要があるだろう。“著作権”とは、英語で書くと“Copyright(コピーライト)”であることは、皆さんよくご承知だろう。すなわち、“コピー(複製)を作るライト(権利)”が“コピーライト”というわけだ。日本語では実際には“複製権”といった方がわかりいい。音楽の場合、著作権は基本的に楽曲を生み出した人、すなわち作曲家あるいは出版社に帰属する。当然、レコードやCDなどは楽曲の“複製”にあたり、レコード会社やプロダクション等は、プレス枚数分だけ作曲家から“複製を作る権利”を買って製品化する。そして、たまたまレコードやCDがヒットすると、作曲家は自動的に大きな収入を得ることになる。
一方、作曲家から“複製を作る権利”を買って製品化されたレコードやCDには“隣接著作権”が存在する。わかりやすく言うと、レコードやCDなどの商業録音物からさらに複製を作る権利を今度はレコード会社がもつ、ということだ。それらを使う放送も、当然レコードやCDの“複製”にあたるから、放送で使用するにはレコード会社の事前許可が必要になる。(放送目的などのプロモーション用サンプルは例外。また、CD等を使う無償放送も“楽曲の複製”にあたるから、原著作者、すなわち作曲家もしくは出版社には著作権料が支払われる。)
そこで、コタロー氏が国内のレコード会社に当たったところ、ものの見事に『ノー!!』という回答ばかり。海外のレコード会社も大手はすべて『ノー!!』で、『楽曲のプロモーションということであれば、事前申請と許可さえあればOK』と一部出版社系が理解を示してくれた。その他、アメリカのミリタリー・バンドがリクルートや教育、放送目的で作っているCDや演奏団体がもつライヴなども使用可能なことがわかった。(番組テーマを酒井 格の“大仏と鹿”[参照: File No.01-01〜12]に定めたのも、筆者が大好きないい曲だったことは無論のこと、実はこれが作曲者を通じて提供された演奏会主催者のライヴ音源で、商業録音物でなかったことも大きな理由だった。)
この当時、『最初の放送どう考えている?』というコタロー氏の質問に、筆者はこう答えている。
『ピーターからの連絡だと、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドがちゃんとセッションで録った“ハリスンの夢”が入っているCDを6月に作ることになっていて、完成したらこちらへも送られてくる手筈になっているんだ。今年受賞したばかりの曲だから、ニュースという意味でも最初の放送にこれを使わない手はない。結構インパクトがあるはずだからね。しかし、楽譜はまだ出版されてないし、今、ちょうど日本初演の計画も進んでいるところだから、BPラジオの放送開始は初演コンサートの直前、秋がいいと思うよ。これまでにも、出版社の言う出版時期が大幅に遅れ、楽譜の準備がない時点で作品を紹介してしまう結果となって、何度もエラい目にあったことがあるしね。
そして、“ハリスンの夢”の前後にも、強烈なインパクトのある曲を配置する。たとえば、モートン・グールドの“アメリカン・サリュート(America Salute)”や、フィリップ・スパークの“ダンス・ムーブメント(Dance Movements)”という曲をね。彼らのいい録音があるから・・・・・・。』
そこまで言うと、コタロー氏はこう返してきた。
『オオォーッ!? “ハリスンの夢”と“ダンス・ムーブメント”をいっぺんにやるの? もったいなくない? みんな喜ぶと思うけど、なんとも過激な!! 』
筆者はこう返した。
『今度の番組は、いろいろな演奏者にテーマを絞ったシリーズにしたいと思うんだ。“ハリスン”を紹介することももちろん大きな目的だけど、バンドのこともちゃんと紹介しておきたい。というのも、“ハリスン”も“ダンス・ムーブメント”も、実はエア・フォースの委嘱曲なんだから。けど、まだ誰にも言ったらダメだよ。』
これを聞いて、コタロー氏も思わず納得。サービス精神旺盛のその口にチャックをすることを約束してくれた。あとは、CDの到着を待つばかりだ!!
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「アメリカン・サリュート」が収録されている「I Am an American」(非売品) |
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「ダンス・ムーブメント」が収録されている「EXCURSION」(非売品) |
(つづく)
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