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【特集】悩んだら、これを読め!
バンド指導者が選ぶ「2008年度・お薦め自由曲」vol.2

選曲:西村三四郎
(吹奏楽研究家)


みなさん、初めまして!こんにちは。西村三四郎と申します。

今回依頼を受けまして「コンクールに向けて小編成で演奏できる吹奏楽作品」について書かせてもらうことになりました。

曲目を見てもらったら分かるように、全て日本人によるオリジナル作品。古いものからから新しいもの、作曲者も巨匠級から若手まで、まんべんなく選んでみました。(それでもやっぱり偏ってます…)

また、楽譜とCDが両方手に入るのがベストですが、無理な場合は最低どちらかは確実に手に入るものに絞っています。

一見バラバラなようですが、共通するのはどの曲も「技術的にも音楽的にも、それなりに骨がある」ということでしょうか。そういうものに取り組んでこそレベルアップできると、私は考えています。

では、張り切っていってみましょう!


●秘儀 I -管楽合奏のための-(西村 朗、2007)


【楽譜】東京ハッスルコピー[出版譜]
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-8570/
【参考CD】「バンド維新2008」
佐藤義政(指揮)/航空自衛隊航空中央音楽隊[キングレコード/KICC-682]

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1445/

2008年2月に浜松で開催された
演奏会「バンド維新2008」のための委嘱作品から。

最小17人で演奏できるこの作品、既に各方面から評価が高いですね。
西村氏と言えば「ヘテロフォニー」という作曲技法が
キーポイントになりますが、
この作品でもしっかりその書き方が貫かれています。

特に目立った変拍子はありませんが、
小節の中のリズムの割り付け方が独特です。
(パート毎に全く違うリズムが割り付けてあって、
それが一つに合わさることで一本のリズムに聞こえる。
これはホケトゥスという書法。)

正直なところ、この作品の出現は本当にうれしかった。
この程度の人数で演奏可能な作品の中では
ダントツの内容とクオリティと言えるでしょう。


前奏曲と遁走曲(天野正道、2007)


【楽譜】CAFUAレコード[レンタル]
【参考CD】「CAFUAセレクション2007
吹奏楽コンクール自由曲選『メトロプレックス』」
加養浩幸(指揮)/航空自衛隊西部航空音楽隊[CAFUA/CACG-0096]

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cdi-0058/

吹奏楽業界で今や知らぬ者はない状態の天野正道氏。
「GR」や「BR」を始めとする交響組曲シリーズや、
「おほなゐ」「エマナチェ・イ・メディタチェ」
「エクスピエイション」など多くの作品が演奏されています。

そして、今月は待望のCD「天野正道 meets SEGA」が発売されましたよね。
(皆さん、買われましたか?)

 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1482/

さて、タイトルの中の遁走曲とは「フーガ」のことで、
提示されたテーマが少しずつ形を変えながら色々なパートに受け継がれ、
さながら追いかけてくるような様で展開してゆく音楽の形式です。

J.S.バッハやベートーヴェン、
新しいところではショスタコーヴィチなどが有名です。

この作品は何と言っても近年の吹奏楽作品では珍しい
絶対音楽だということです。

最近の吹奏楽オリジナル作品では
明確な描写性やストーリー性を持たせた作品が非常に多く見られます。
(それが時代の要請なのでしょうか?)

そんな中で音楽の形式に徹底的にこだわったこの作品の存在は、
現在の日本の吹奏楽業界の流行りから見れば、
かなり異彩を放ったものだと言えるでしょう。


「かごめかごめ」の主題による幻想曲
  〜吹奏楽(17人編成)のための(露木正登、2005)


【楽譜】未出版 問合せ先:「21世紀の吹奏楽」実行委員会事務局
www.ne.jp/asahi/21c/wind-1/index.html
    
【参考CD】「21世紀の吹奏楽『響宴IX』新作邦人作品集」
池上政人(指揮)/駒澤大学吹奏楽部[ブレーン/BOCD-7476-7(2枚組)]

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0922/

1998年3月に第1回が開催された「21世紀の吹奏楽/響宴」も
2008年3月の演奏会で11回目を迎えました。

この演奏会で取り上げられたのをきっかけに
広く演奏されるようになった作品も少なくありません。
この作品は第9回「響宴」のために作曲されました。
全パート各1人、合計17人の編成です。

「日本的情緒とか日本趣味の様なものを
音楽で表現することに全く興味がない」という露木氏の言葉を借りると、
この作品は「かごめかごめ」という遊び唄をテーマに試みた
「音楽的な遊び」なのだそうです。

実際、スコアには楽器配置の指定として
「各楽器群はできるだけ離して配置する」という表記がされていたりで、
作曲者自身のこだわりが垣間見えます。

また、この作品はソロがとても多いのが特徴です。

吹奏楽と言うよりも、
「少し規模が拡大したアンサンブル作品」…
と捉えた方が良いかもしれません。

次にご紹介するのは、いわゆる「小編成作品」ではありませんが、工夫次第で
小編成でも演奏可能な作品です。バンド毎の状態に合わせて楽器のないパートを
書き換えたり、思い切って省くことで、十分演奏できると思います。


吹奏楽のための序曲(間宮芳生、1985)


【楽譜】全日本吹奏楽連盟[出版譜]
【参考CD】「ジャパニーズ・バンド・レパートリーVol.3『能面』」
小田野宏之(指揮)/東京佼成ウインドオーケストラ
[佼成出版社/KOCD-2903]他

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1178/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0030/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1198/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0986/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1507/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1497/

過去の吹奏楽コンクール課題曲から。1986年度の課題曲Cです。
過去の課題曲で繰り返し演奏されるものと言えば
保科 洋氏の「風紋」(1986)が有名ですが、
今回はあえて間宮氏の「序曲」を取り上げてみました。

この作品もストーリー性や描写性のない作品ですが、
間宮氏によれば「日本古来の雅楽と、より民衆的な神楽・田楽などの
二つの流れが集まった作品」であるとのこと。

聴いてみるとその洗練されたハーモニーやメロディの
展開など、非常に斬新。それが独特の清涼感を感じさせる、
これは後年の「ベリーを摘んだらダンスにしよう」(1993)にも通じるものです。

とても20年以上も前の作品とは思えません。
課題曲って、コンクール以外では、
よくてその年々の演奏会で取り上げられる程度です。

全国大会が終われば御役御免になってしまい、
ごく一部を除いてほとんど顧みられることがない。
とても残念なことです。

この時代の課題曲には良作が多数ありますから、
それらが再評価されて今後も演奏され継がれていくことを願ってやみません。


遮光の反映〜吹奏楽のために(中橋愛生、2001)


 【楽譜】ブレーン[レンタル]
【参考CD】「21世紀の吹奏楽『響宴VII』〜新作邦人作品集」
若林義人(指揮)/龍谷大学学友会学術文化局吹奏楽部
[ブレーン/BOCD-7472〜3(2枚組)]

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0587/

「科戸の鵲巣 〜吹奏楽のための祝典序曲」で
このところ認知度が急上昇中の中橋氏。
この4月からはNHK-FMの新番組「吹奏楽のひびき」の
パーソナリティも務められています。

その中橋氏が大学院在学中の頃に作曲した作品です。

作品については中橋氏が自身のホームページでかなり詳しく解説されていて、
それをご覧いただくのが一番ですのでここでは細かく取り上げません。

氏の吹奏楽作品の特徴の一つとして挙げられるのが、
その独特のパート割りによる記譜法ではないかと思います。

近現代のオーケストラ作品では当たり前に使われるようになった
パート内の細かな分割を多用した作曲法は、
これまでの吹奏楽作品ではほとんど見られないものでした。

(例えば「科戸の鵲巣」では、
Bbクラリネットやトランペットのパートは1つしかない。
その「1つのパート」の中でそれぞれ最大で8声に分割される。
「8番まである」というのではないのがポイント。)

恐らく初めてスコアを見る指揮者の方々もパート譜を見る奏者の皆さんも、
見たことがない楽譜に戸惑われるかもしれません。

この「遮光の反映」でも上記の記譜法がしっかりと実践されています。
随所に特殊奏法が顔を出す極めて現代的な作品です。

オプションパートを除くと最小で31人で演奏できるようになっています。

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Lady Mallow 葵上 (田村文生、2005)
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【楽譜】ブレーン[レンタル]
【参考CD】なし

1994年度のコンクール課題曲「饗応夫人」(1993)で、
多くの吹奏楽関係者を震撼させた田村氏。
過去にも現代的な課題曲はいくつかありましたが、
「饗応夫人」はそれらを遙かに凌駕する技術難度、1小節毎に変わる複雑な拍子、
強烈な不協和音、そして7分に迫る演奏時間などなど、衝撃の作品でした。

巷では「こんな曲、中学生が演奏できるわけがない」と言われたようですが、
全国大会ではいくつもの学校が取り上げていました。
それももう14年(!)も前のことになってしまったんですね。

その田村氏の現在のところ最新の吹奏楽作品がこの「葵上」。
源氏物語の「葵上の段」を題材にした
室町時代の謡曲(能)「葵上」に基づいた作品です。

「葵上」そのものの解説はここでは省かせていただきますが、
この作品も始まりから終わりまで一貫して「田村節」が冴え渡る、
純粋の現代音楽です。

編成も多種類の打楽器のほか、
グラスハープや笙(雅楽で用いる竹製の楽器)まで含んでいます。

葵上と六条御息所の生霊との対決の描写や、
アルト・サクソフォーンやE♭クラリネットのエキセントリックなソロはもちろんですが、一番の魅力はやはり随所に聞かれる日本的な幽玄さではないでしょうか。

筆者は2年前に京都で開催された第55回関西吹奏楽コンクールの中学校小編成部門で、兵庫県代表として出場した宍粟市立一宮北中学校の演奏で初めてこの作品を聴きました。荒さは残るものの、指揮者の確かな音楽作りと中学生離れした各ソロの技術力の高さに圧倒された記憶があります。

中学生の、しかも小編成のバンドがこのような純然とした現代音楽を取り上げることに否定的な考えを持つ方も多いのではないかと思います。

しかし私は、柔軟な吸収力のある中学生や高校生だからこそ、こういった作品も臆することなく演奏してほしいと思うのです。

そして、最後に日本の吹奏楽の歴史に残る作曲家の作品から。
(これらも「小編成作品」ではありませんが、工夫次第で十分演奏可能です)

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吹奏楽のための木挽歌(小山清茂、1957/70)
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【楽譜】音楽之友社[出版譜]
【参考CD】「フェイバリット・パスト・アルバム・シリーズ『深層の祭』」
小田野宏之(指揮)/東京佼成ウインドオーケストラ [佼成出版社/KOCD-0401]他

【収録CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0331/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0888/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0278/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1169/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1112/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1497/

 

今さら多くの説明を必要としない、
戦後日本を代表する管弦楽作品の吹奏楽版です。

日本の民謡にまつわる吹奏楽オリジナルは数多くありますが、
筆者はその中でもこの作品が一番だと思っています。

特に「日本の響きをつくる〜小山清茂の仕事」(音楽之友社刊)で
福田 滋氏が指摘しているように、
3楽章「朝のうた」の音色の多彩さは目を見張るものがあります。

(筆者が知らないだけだと思うのですが、
コンクールではこの楽章はほとんど演奏されません。実に残念!)

 


巫女の詠えるうた(大栗 裕、1979)


【楽譜】ヤマハ教販[出版譜、現在絶版]
【参考CD】「関西吹奏楽コンクール名演集ヴィンテージVol.2」
辻井清幸(指揮)/尼崎市吹奏楽団[ワールドレコード/JWRCD-182DD]


「東洋のバルトーク」こと大栗氏の作品というと
、一番に「大阪俗謡による幻想曲」 (1955/74)、
そして「吹奏楽のための神話」(1973)や「仮面幻想」(1981)が有名ですね。
コンクールの小編成部門では「吹奏楽のための小狂詩曲」(1966)もよく耳にします。

この「巫女の詠えるうた」はそんな大栗氏の作品の中では比較的演奏頻度の高くない作品ではないかと思いますが、「どうしてあまり演奏されないのかな?」と首をかしげたくなる作品です。(確かに楽譜は目下絶版ですが…)

演奏時間は7分と短いながら、大栗氏らしいハーモニーやリズムの応酬と、
独特の緊張感がたまりません。

筆者は大栗氏の吹奏楽作品の中でこの作品がもっとも現代的ではないかと思っているのですが、皆さんはどう感じられるでしょうか。
(大栗氏の作品集として、朝比奈隆氏と木村吉宏氏が指揮した大阪市音楽団によるCDがありますが、一度再発売されて現在は廃盤です。主要な作品はすべて収録されており、資料的価値も高いものでした。復活を強く望みます)

 

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吹奏楽のためのバラードII(兼田 敏、1982)
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【楽譜】ブロード・ミュージック[レンタル]
【参考CD】「兼田 敏 作品集」
山下一史(指揮)/東京佼成ウインドオーケストラ
[EMIミュージック/TOCZ-9271-2(2枚組、廃盤)]

2001年に亡くなられた兼田敏氏は日本の吹奏楽界を代表する存在でした。
名曲「シンフォニックバンドのためのパッサカリア」(1971)や、
1986年度のコンクール課題曲「嗚呼!」(1985)などでその名は広く知られています。

兼田氏のバラード・シリーズは全部で5曲作曲されました。
2作目のこの作品について、
氏は「一言でいえば、バンドの為の歌、というようなものを意図した」
(参考CD解説書から)と語っていますが、
まさに氏の「歌心」にあふれた作品と言えます。

深くのびやかに歌い上げる部分と、兼田氏独特の現代的なハーモニーとリズム(特に低音金管楽器の細かなパッセージ)を伴って動く部分との対比が実に見事です。

この作品もこれと言ったストーリー性や描写性はありませんが、音楽的な「深さ」で演奏者も聴き手も鷲づかみにされる、こういった作品は近年ではとても珍しくなってしまったように思います。

(紹介の参考CDは現在は廃盤です。このアルバムは2枚のCDで兼田作品の世界を大きく俯瞰できる非常に重要なディスクです。再発売を強く望みます。)

 


リフレクション―映像―(保科 洋、1992)


【楽譜】保科音楽事務所[レンタル]
【参考CD】「新・吹奏楽名曲コレクション〜ウインド・スタンダーズVol.12
〜ジャパニーズ・バンド・ミュージック〜抒情的『祭』
木村吉宏(指揮)/大阪市音楽団[EMIミュージック/TOCF-6016(廃盤)]他

 

戦後の吹奏楽界を兼田氏と共にけん引してきたのが保科洋氏。
保科氏と兼田氏の絡みについては色々なところで書かれ語られているので、
ここでは省きます。

保科氏と言えば教会旋法を多用した時に叙情的、
時にロマンティックなテイストの作品が多いのが特徴ですが、
この「リフレクション」でも
そうした氏の作風の特徴がしっかりと伝わってきます。

技術難度は高いものではなく、
むしろ「楽譜を音にしやすい作品」ではないかと思います。

しかし、この作品は
非常に「深い」「訴えかけてくる」音楽なのです。

作曲者自ら「音楽的な表現をするための工夫は必要」(参考CD解説書から)
と表明しているように、
全曲通して出てくる大小の「うねり」をどう表現するかが
大きなポイントになることでしょう。

かつてはバラ売りなしのセット販売の楽譜・CD全集に収録されていた作品で、
長らく楽譜の入手が困難でしたが、
昨年(2007年)、保科氏の音楽事務所からレンタルの形で出直しになりました。


 

【質問メール宛先】bpmaster@bandpower.net

(2008.05.22)


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