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樋口幸弘の「マイ・フェイヴァリッツ!!」

オラフ王を称えて -
グスターヴ・ホルスト: ミリタリー・バンドのための全作品集

The Praise of King Olaf - Holst's Complete Music for Military Band

指揮:レイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセン
Leif Arne Tangen Pedersen
演奏:ノルウェー王国海軍バンド
Royal Norwegian Navy Band

【外伝-01】

vol.11



 グスターヴ・ホルストが、その生涯で、ウィンド・バンドのために書いた作編曲をすべて収めた世界初のCD「オラフ王を称えて」は、その演奏と録音のすばらしさから、世界各国で絶賛を博し、日本でも輸入盤としては信じられないほどのセールスを記録するヒット・アルバムとなった。

 同時に、ホルスト再評価の動きも起こり、日本各地のコンサートでも積極的にその作品が取り上げられるなど、この1つのアルバムが音楽界に与えた影響もはかり知れないほど大きいものだった。

 収録全作品にスポットをあてた拙稿も、連載10回を数えたが、扱うテーマがホルストというクラシックの大家の作品だったので、執筆調査中に新たに知りえた興味をひく事実も、焦点をぼかさないように、本題以外は敢えて触れてこなかった。 

 しかし、そういった事実のいくつかは、ウィンド・ミュージック史において極めて重要な歴史的意味を持ちながら、情報があふれる現代の喧騒の中に完全に忘れ去られようとしている。そこで、毎月1回、いくつかの関連テーマにしぼった「ホルスト外伝」として、続編を書かせていただくことにした。

フェネル指揮、イーストマン・ウィンド・アンサンブルが
ホルストの2つの組曲の“世界初録音者”たり得た不思議?? <前篇>

 デジタル全盛で、パソコンやインターネットという、ホルストが生きた時代には想像すら不可能な文明の利器を手に入れた21世紀に生きるCD世代の音楽ファンからすると、イギリス人作曲家ホルストの『ミリタリー・バンドのための組曲第1番』と『同第2番』が、本国イギリスのバンドではなく、海をこえたアメリカで、フレデリック・フェネルという、ウィンド・アンサンブル・ムーブメントの創始者によって初めて商業レコーディングされたことに、どうしても違和感が残るのではないだろうか。

 ホルストの2つの組曲は、イギリスでは人気が無かったのか。ここまでの本編に書いてきたように、そのような事実はない。いや、もっと積極的に言葉を選ぶなら、両組曲はイギリスのミリタリー・バンドの“お気に入り”だった。

 それではどうして?

 結論を先に書こう。フェネルは、ひじょうにラッキーだった。

 これについては、まず、フェネルのイーストマン音楽学校時代が、まさにオーディオの大革新期にあったという“時代背景”と、レパートリー面においても将来を見据えたアイディアをつぎつぎと提案することのできた新進気鋭のプロデューサーを揃えたレコード会社との運命的な出会いという“人的な側面”のふたつが、彼がイーストマン音楽学校のカリキュラムの中で取り組もうとしていた新しいプロジェクトと見事にフィットしたということを挙げておかねばならないだろう。

 前者のオーディオ革命は、第2次世界大戦後のアメリカで起こった。それを時系列で整理するとおよそ以下のような流れとなる。

【1948年】米Columbia社が、それまでのSPレコードに代わるLP方式レコードを発表。

【1949年】米RCA Victor社が、EP方式レコードを発表。LP と EPをめぐる、激しい主導権争いが勃発。

【1951年】LPとEPを相互に販売することで両者が和解し、以後、世界のレコード会社が発売するすべてのレコードが、この2つの方式に規格統一される。(SPレコードの生産は継続されるが、やがて生産終了。)

 以上の説明には、「SP (Standard Playing)」「LP (Long Playing)」「EP (Extended Playing)」という、CD世代にはさっぱり何のことかわからない3つの“レコード規格”が登場する。それらについての説明は、他のレコード史の著作などにゆずりたいが、とにかく、この時代のLPやEPの登場は、レコードの1つの面に2〜5分(盤の直径によって異なる)しか音楽が収録できなかった従来のSP盤に対し、格段に演奏時間の長い音楽が収録可能になるという、当時としては夢のような話だった。

 吹奏楽曲を例に出すともっと分かりやすい。即ち、それまでのSPでは、A面とB面にマーチを各1曲ずつ収録すればそれでおしまい。11分近くかかるホルストの『組曲第1番』全曲を1つの面に収録するなど、どんなにあがいても物理的に不可能だった。

 実際、イギリスにはつぎのようなSP盤(英His Master's Voice、B.10676)があった。演奏者は、F・ヴィヴィアン・ダン中佐(Lt.-Col. F. Vivian Dunn)指揮、ロイヤル・マリーンズ・ポーツマス・バンド(The Band of H.M. Royal Marines (Portsmouth))で、曲目は、

MARCH (No.3 from “Suite No.1 in E flat major”) (Holst)

 そう、これは、まさしくホルストの『組曲第1番』第3楽章「マーチ」のSPレコードだ。同じレコードのB面には、有名な『ワルチング・マチルダ』(Cowan, arr. C. H. Jaeger)が収められていて、他の楽章はない。手元の資料から、これは1953年10月19-20日の両日に、ロンドンのE.M.I.アビー・ロード・スタジオで収録された同バンド初のLP用音源からシングル・カットされたSP盤と判明したが、収録時間は、A面が<3分15秒>、裏返して聴くB面が<2分56秒>という、ほんとうにアッという間に音楽の終わるレコードだった。

 まさに、これが当時のSPの限界だったわけで、より長時間収録可能のLPやEPの登場が、世界中のレコード会社が色めきたたせたのも無理はなかった。ことに、片面に20数分以上の音楽を収録できるLPは、演奏時間の長いクラシック音楽向きで、音質面の改良も望めたので、レコード各社は、それまでのカタログには多くを載せることのできなかったクラシック・レパートリーの拡充に積極的に乗り出すことになった。

 米Mercuryレーベルのクラシック部門の責任者デーヴィッド・ホールがフレデリック・フェネルと初めて接触したのは、そんな折りも折り、1952年4月のことだった。

(つづく)
 
(C)2008、Yukihiro Higuchi/樋口幸弘

(2008.05.26)

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オラフ王を称えて -
グスターヴ・ホルスト: ミリタリー・バンドのための全作品集
The Praise of King Olaf - Holst's Complete Music for Military Band

指揮:レイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセン Leif Arne Tangen Pedersen
演奏:ノルウェー王国海軍バンド Royal Norwegian Navy Band

【曲目】

3つの民謡
Three Folk Tunes

ミリタリー・バンドのための組曲第1番 変ホ長調 作品28-1
First Suite in E flat for Military Band, Op.28 No.1

「ハマースミス」 - プレリュードとスケルツォ 作品52
Hammersmith - Prelude & Scherzo Op.52

ミリタリー・バンドのための組曲第2番 へ長調 作品28-2
Second Suite in F for Military Band, Op.28 No.2

ジーグ風フーガ(ヨハン・セバスティアン・バッハ/ホルスト編)
Fugue A La Gigue (Johan Sebastian Bach, arr. Holst)

ムーアサイド組曲(作曲者自身によるミリタリー・バンド用バージョン - 未完)
A Moorside Suite - Unfinished transcription for Military Band

オラフ王を称えて
The Praise of King Olaf - For Choir and Military Band

マーチング・ソング(「2つの無言歌」から)
Marching Song

ムーアサイド組曲(ゴードン・ジェイコブ編)
A Moorside Suite (arr. Gordon Jacob)

祖国よ、我は汝に誓う(レイフ・ヴォーン=ウィリアムズ編)
I Vow To Thee My Country (arr. Ralph Vaughan Williams)

組曲『惑星』より"火星" (G・スミス編)
Mars from ‘The Planets’(arr. G. Smith)

組曲『惑星』より"木星" (G・スミス編)
Jupiter from ‘The Planets’(arr. G. Smith)

録音:2006年2月13日-17日
会場:テンスベルィ審判教会(ノルウェー)
プロデューサー:マイク・プアートン
エンジニア:マーティン・アトキンスン
CD番号:英Specialist, SRC110

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(C)2007、Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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