みなさん、こんにちわ。私、新潮社の編集者・森重良太と申します。単行本『息を聴け』(冨田篤著、新潮社刊)を担当編集した者です。
『息を聴け』は、BPショップでも多くの方々にご購入いただいたので、言うまでもないかもしれませんが、この本は、熊本県立盲学校アンサンブル部(打楽器)が、2004〜05年の全日本アンサンブルコンテスト(大学の部)に挑戦し、見事、全国大会で金賞を獲得するまでを、指導したプロ打楽器奏者・冨田篤先生が書かれたノンフィクションです。
その熊本県立盲学校(以下「盲学校」と略す)が、いま開催中のアンサンブルコンテストに再挑戦しています。
実は『息を聴け』刊行後、多くの読者の方から「その後、盲学校アンサンブル部はどうしているのですか」「もう、盲学校はアンコンには出ないのですか」との問い合わせをいただいていました。そこで、BP編集部の薦めもあり、近況報告を兼ねて、彼らのアンコン再挑戦の模様を、お伝えしようと思います。
はじめに、なぜ彼らが、2004〜05年のアンコン以後、今回の(2007〜08年の)アンコンまで、出場しなかったのか――ですが、それには、盲学校の仕組みについて述べる必要があります(これも『息を聴け』をお読みの方でしたら、周知の話でしょうが)。
通常、アンコンに出場する学校団体(小学校、中学校、高校、大学)は、吹奏楽部の選抜メンバーであることがほとんどです。そして「学校」「クラブ活動」である以上、毎年のように、卒業していく部員がいて、入れ替わりに入学してくる新入部員がいます。
ところが盲学校は、そうではありません。
熊本県立盲学校の場合、幼稚部、小学部、中学部、高等部、そして専攻科などがあり、異なった年齢の生徒たちが、ひとつの学校の中で寄宿舎生活を送っています。つまり、下は幼稚園にあたる幼児から、上は大学生相当(専攻科)の年齢、また、50歳代の大人までいます。
なぜなら視覚障害には、生来の人もいれば、大人になってから病気や事故などで視覚障害となった人たちもいるからです。彼らに通常の学校学習に加え、自立支援、さらには鍼灸・マッサージなどの専門技術を身につけ、国家資格を獲得してプロとなるまでを指導するのも盲学校なのです。
そしてクラブ活動は、原則として中等部以上の生徒が一緒になって行なわれています。2005年の全国大会金賞メンバーが、中等部・高等部、そして大学生にあたる専攻科の混成だったことは、『息を聴け』をお読みの方なら、ご記憶にあるでしょう。
そして盲学校アンサンブル部の場合、ほかの学校吹奏楽部のように、毎年、ある程度一定のメンバーが卒業し、入れ替わりに新入部員が入部してくるわけではありません。何しろ、中等部以上で一緒に活動しているのですから。彼らが2005年のアンコンで日本一になった後、高等部生徒の多くが盲学校を卒業していきました。そのため、なかなかメンバーがそろわなかったという事情もあったようです。
余談ながら、さる私の知人が「視覚障害者が打楽器アンサンブルをやる」と聞いて、自分が小学校の頃に学芸会でやった器楽合奏を想像したそうです。とんでもない話です。アンコンを知らない方のために言いますが、彼らが演奏する音楽は、ほとんどプロ・レベルの、驚異的テクニックを要求される楽曲です。それほどのレベルの楽曲がこなせなければ、全国大会などへは、とても進めません。学芸会の曲でいいのなら、毎年のように出られたでしょうが……。
しかし、あれから3年たって、ついに盲学校アンサンブル部のメンバー構成も、再びアンコンに挑戦できる下地ができたというわけです。部員たちもそれを察したのか、今回は、生徒自ら「アンコンに出たい」と冨田先生に相談してきたそうです。
私が冨田先生から「またアンコンに出ることになりました」と連絡を受けたのは、2007年の夏頃でした。「そりゃすごいですね。いよいよメンバー、そろったんですか」と聞くと、「はい。前回、中等部から参加したMもまだ続けています」。
私は、ちょっとジーンとしてしまいました。『息を聴け』で、たった1人、中等部から参加していたMさんは、高等部となってからもアンサンブル部をつづけ、先輩たちのあとを見事に継いでいたのです。
私は、たまたま九州方面に出張する用事があったので、期日をあわせて、彼らの再挑戦の様子を見に行くことにしました。
そもそも『息を聴け』を企画した頃は、すでに彼らは全国大会制覇を成し遂げた後でしたから、私は彼らの2004〜05年アンコンでの勇姿はビデオでしか見ていません。
実をいうと、あるとき、雑誌「バンドジャーナル」を見ていたら、2005年アンコン全国大会の結果が出ていて、出場団体の演奏写真が載っていました。その中に、(失礼ながら)少々変わったヴィジュアルの写真があったのです。それは打楽器8重奏でしたが、ほとんどの楽器が異様なまでに舞台中央に集まっていて、しかも奏者の半分近くが、客席に背を向けて演奏しています。
私も昔、吹奏楽部にいたことがあるので、アンサンブルのステージ配置はわかっているつもりです。おおむね舞台上に、楽器も奏者も「扇型」もしくは「逆凹型」に広がり、奏者は「客席に向かって」演奏するのが普通です。
なのに「いったい、この団体は……」と思ってキャプションを見たら「熊本県立盲学校」とあるではないですか。しかも「ゴールド金賞」を取っているのです。
なるほど……視覚障害があるため、8人の奏者がなるべく固まって、他奏者の気配を感じながら演奏したのだろう、と私は想像しました(それはまさに「他奏者の息を聴いて合わせる」姿だったのです)。いったい彼らは、どんな過程をたどって、全国大会までの道のりを経てきたのだろう、指導者はどんな人なのだろう……さっそく私は、指導者である冨田先生に会いに行きました。先生は、たいへん真摯な方で、吹奏楽が大好きな人でした。堂々と、盲学校アンサンブル部の成し遂げたことを、多くの人たちに知ってもらい、視覚障害者が健常者とまったく同じ人たちであることを知らせたい、そして「視覚障害者なのにスゴイ」などと言われることのない世の中になってほしい……と言われました。
単行本『息を聴け』企画は、こうしてスタートしました。だから私は、彼らの前回のアンコンには接していないのです。もちろんその後、盲学校を訪れ、彼らのナマ演奏は聴かせてもらいましたが、それ以後、アンコンには出場していません。
私は、今度こそ、彼らのアンコンでの演奏を実際に見て聴いてみたいと思いました。
最初の関門である、熊本県大会――正確に言うと「第33回九州アンサンブルコンテスト・熊本支部予選」。
2007年12月9日(日)、熊本県下益城郡城南町にある「火の君総合文化センター」。
熊本県立盲学校の再挑戦が始まったのです。
(つづく)
※(下)は、12月14日頃掲載予定。
(2007.12.11) |