このような意義のあるコンサートが、日曜日の昼間に、都心からかなり離れた場所で開催されたことが残念でならない。
もちろん、そうなった事情があることは十二分に承知しているし、主催者側に何か責任がある、といったわけではないことも分っている。しかしとにかく、残念でならない。
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4月25日(日)13時半、埼玉県・所沢市にある、所沢市民文化センター「ミューズ」にて、リベラ・ウインド・シンフォニーの第2回コンサートが開催された。
リベラ・ウインド・シンフォニー(LWS)とは、2000年3月に、埼玉県西部地区の市民吹奏楽団の間で開催されたイベントをきっかけに誕生した、市民吹奏楽団である。すでに、第1回コンサートを開催し、レコーディングなども行なわれ、CDを発売している。指揮・指導には、陸上自衛隊中央音楽隊のユーフォニアム奏者、チーフ・ライブラリアンである福田滋氏があたっている。
指揮の福田氏の個性や、本業の関係もあってか、そのレパートリーは、あまりに独特である。つまり、マーチや邦人作品の、それも、普段陽の目を見ない作品を多く取り上げているのだ。よって、コンクール課題曲・人気自由曲の模範演奏とか、海外の最新オリジナル作品の紹介とか、その種の視点は一切ない。これひとつをとっても、現在の吹奏楽界で、LWSが、いかに個性的な存在であるか知れよう。
今回のコンサートでも、その個性はいかんなく発揮された。
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冒頭は、フランスの作曲家、ウジェーヌ・ボザ(1905〜)の≪子供たちの序曲≫で幕が開いた。レスピーギ≪ローマの松≫にインスピレーションを得て書かれたオリジナルである。ボザ自身は、オペラ・コミックの指揮者から、音楽学校の校長をつとめ、教育者として名を成した人だ。それだけに、曲調も、ひたすら明るくて楽しい。
次に、アメリカ系イギリス人の作曲家アーサー・ブリス(1891〜1975)による、映画≪来たるべき世界≫(1936)からの音楽が組曲で演奏された。この、H.G.ウェルズのSF小説を原作とする映画の音楽は、近年、再評価が高く、レコーディングも盛んに行なわれるようになった。今回は、渡部哲哉氏による新編曲初演だという。
そして、「3つのハッピー・バースデイ」と総称して、小曲が3曲演奏された。
バーンスタインによる≪ミュージカル・トースト≫、ストラヴィンスキーによる≪祝賀会前奏曲≫、ジョン・ウィリアムズによる≪ハッピー・バースデー変奏曲≫である。
どれも、「誕生日祝い」にちなんだ曲だそうで、その発掘力・企画力に驚いた。
第1部最後は、御大・真島俊夫氏の編曲による≪ディズニー・ソングブック≫。同じ真島氏が、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」シリーズで発表している≪ディズニー・メドレー≫とは別で、こちらは、曲数や演奏時間に縛られることなく、たっぷりと自由にアレンジされたメドレーである。
さて、ここまでが前半部だったのだが、これだけでも、なかなか個性的な内容であることが分ると思う。 しかし、LWSの本領は、このあと、第2部で爆発した。
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第2部は、まず、イギリスの指揮者で、「プロムス」の創始者として知られるサー・ヘンリー・ウッド(1869〜1944)による≪イギリスの海の歌による幻想曲≫(編曲:福田滋)で幕を開けた。今でも、「プロムス」では必ず演奏される人気曲である。今回は、ヴァイオリンとチェロのソロを迎えての演奏だった。もちろん、吹奏楽版初演である。
次に、驚くべき曲が来た。團伊玖磨(1924〜2001)による≪キスカ・マーチ≫である。まさか、こんな曲をナマで聴ける日が来るとは、夢にも思わなかった。
これは、1965年の東宝映画『太平洋奇跡の作戦 キスカ』のために書かれた映画音楽の中の一編である。太平洋戦争の末期、連合軍に封鎖されたキスカ島に取り残された数百人の日本兵を、濃霧にまぎれて全員救出した、戦史に残る有名エピソードを映画化した作品だ(映画としても傑作である。なぜ、この作品がDVD化されないのか、理解に苦しむ)。
映画公開時は、映画館の前で、海上自衛隊東京音楽隊が、この曲を演奏したという。今回、福田滋氏が、楽譜を発掘し、校訂を加え、團伊玖磨氏ご遺族の許諾を得ての、史上初、完全演奏となった。
團伊玖磨特有の明るさと勇壮なムードが見事に合体した、実に美しいマーチだった。
驚きはまだ続いた。
次に演奏されたのは、芥川也寸志(1925〜1989)が25歳の時(1950)に作曲し、NHK管弦楽懸賞で特選を受賞した名作≪交響管弦楽のための音楽≫全2楽章の、吹奏楽版であった。過去、いくつかの吹奏楽編曲版が出ているが、今回は亀井光太郎版。著作権管理の関係上、コンクールなどの教育的機会以外の場で演奏されることは、非常に少ない曲である。今回のような一般コンサートで全曲が演奏されるのは珍しい。これも芥川也寸志氏ご遺族の好意的許諾があってのことだったようだ。
第2部の最後は、巨匠・伊福部昭(1914〜)の、≪SF交響ファンタジー第1番≫吹奏楽版初演だった(編曲:福田滋)。
これは、伊福部昭が、主として東宝特撮怪獣映画のために書いた音楽をまとめたオーケストラ曲で、第3番まである。
初演は、今でも忘れない、1983年の夏、汐澤安彦指揮・東京交響楽団、会場は確か、渋谷公会堂だった。この模様はライヴLP化され、当時、たいへんな話題になった。その後、3曲とも、邦人管弦楽曲の重要なレパートリーとなって、盛んに演奏・録音されている。
今回の第1番に登場する音楽は、『ゴジラ』『キングコング対ゴジラ』『宇宙大戦争』『フランケンシュタイン対地底怪獣バラゴン』『三大怪獣地球最大の決戦』『怪獣総進撃』の6編の音楽を自由に組み合わせたもの。
美しい部分と血沸き肉踊る部分とが違和感なく交錯しており、編曲も、原曲の味を完璧に再現した出来だった。
以上が正式なプログラムであるが、アンコール2曲にも驚いた。
まず、黛敏郎(1929〜1997)の、行進曲≪黎明≫が演奏された(演奏前に、指揮の福田氏が曲名を言ったのだが、聴き取れなかった。確か、この曲だと思う。不勉強ですいません)。1981年に防衛大学のために書かれた美しいマーチだ。レコーディングも、そうたくさんはないので、今回は貴重な演奏の機会だった。
2曲目が、なんと、芥川也寸志の≪赤穂浪士≫のテーマだった。1964年のNHK大河ドラマのテーマ曲で、芥川也寸志の最もポピュラーな有名曲であると同時に、日本のTVドラマ音楽史上に残る超傑作だ。
この曲がオーケストラで演奏されることはしばしばあるが、吹奏楽版は、私は初めて聴いた。楽譜が出ているのだろうか、それとも、これも福田滋氏の編曲なのだろうか。
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もう改めて述べる必要もないだろう。
LWSは、余暇としてのアマチュア・バンドの楽しみを凌駕して、驚くべきプログラムを組んでいるのだ。吹奏楽界のみならず、日本の音楽界において、特筆されるべき活動をしている。
それには、指揮者・福田滋氏の個性、そして尽力が大きいと思われる。その徹底した活動姿勢には、何か、執念のようなものさえ感じるのだ。
演奏も、どうやら日常的に活動しているバンドではなさそうなのだが、それにしては、なかなか立派だった。アマチュアが、今回のような曲目に挑んで、あれだけのレベルの演奏を聴かせてくれるのであれば、文句は言えない(しかも、入場無料なのだ)。
今回演奏された邦人作品に、難解な曲はひとつもない。分りやすくて、楽しくて、美しい曲ばかりだった。もっともっと、多くの人たちに聴いてもらいたい名曲ばかりだった。
だからこそ、私が冒頭で書いたように、このような企画が、日曜日の昼間に、埼玉県・所沢という場所で開催されたことが残念でならないのだ。別に、所沢という場所に偏見があるわけではない。平日は仕事を持っているであろう、埼玉県在住のメンバー中心のバンドが、入場無料で開催する以上、こうなるのは仕方がない。だが、これほどの企画を実現させている以上、やはり、もっと多くの人たちに知られてこそ、福田氏とLWSの苦労は報われると思うのだ。
それには、私やBand Powerのような、吹奏楽を陰から応援している連中にも責任があるだろう。こういう企画・存在を、もっと告知し、知らしめなければならないと、肝に銘じた次第である。
多くのことを考えさせられた、たいへん重要なコンサートだった。次の機会があれば、ぜひ、多くの人たちに行っていただきたい。
■コンサート会場入り口(左)
■ 当日のプログラム(中)
■ 当日、團伊玖磨先生の妹さんから届いた花(右)
【関連CD】
アーサー・ブリスの映画≪来たるべき世界≫
「トーンプレロマス55」(黛敏郎管楽作品集)/東京佼成ウインドオーケストラ
レジェンダリー「秋田南高等学校吹奏楽部」
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