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【ウィンドこぼれ話】

指揮者・鈴木孝佳、あの日の『オセロ』を語る!!

Text: 樋口幸弘(ウィンド・ナビゲーター)

 2008年1月12日(土)、埼玉県・和光市民文化センター(サンアゼリア)大ホールで開かれたタッド・ウインドシンフォニーの「ニュー・イヤー・コンサート2008」。アルフレッド・リードの『音楽祭のプレリュード』やフランシス・マクベスの『マスク』、グスターヴ・ホルストの『組曲第1番』、ロバート・ジェイガーの『シンフォ二ア・ノビリシマ』、ジェームズ・バーンズの『アルヴァマー序曲』、ウィリアム・ヒルの『セント・アンソニー・ヴァリエーションズ』が演奏されるとあって、折からの冷たい雨にもかかわらず、ホールは前数列を除いてほぼぎっしり。1200名近い聴衆の中には、おじさんファンも多く、ウィンドの不朽の名曲を連ねたこのライヴは大成功だった。

   

 東京藝術大学に学び、小林研一郎、汐澤安彦に師事。アメリカではバーンスタインの門も叩いた指揮者・鈴木孝佳(タッド鈴木)のくりだす音楽は、とにかく理屈抜きに愉しい。前夜、偶然同宿となったことから、お好きな焼酎を肴にいろいろな話を伺った。

 どうしても訊きたかったことだったので、自然と話は2006年6月8日の「タッド第13回定期」で演奏されたアルフレッド・リードの『オセロ』に向う。1976年に作曲され、シェークスピアを題材にしたこの作品は、人気曲としてこれまで数多く演奏され、作曲者本人の指揮も含めCDも何種類も発売されている。しかし、イギリス音楽大好き人間の筆者としては、シェークスピアの音楽はやはりウィリアム・ウォルトンであり、発売されたリードの『オセロ』のどのCDの演奏からも何かしら違和感を覚えてきた。ところがあの日、タッド・ウインドシンフォニーの演奏が第2楽章「朝の音楽(キプロス)」にさしかかったとき、体の中に電光が走った。『これはまさに、シェークスピアだ!!』

 単刀直入、それをぶつけると、『私の第2楽章はえらい速いでしょう!!』と笑いながら応えるタッド氏。そして、『指定どおりじゃないが、あれこそタッド流。シェークスピアのイギリス音楽をイメージしたテンポ』だとも。

 こちらも続ける。『とにかく、あれで、はじめて“オセロ”の全楽章がリンクしはじめたんです。そして、第3楽章「オセロとデズデモーナ」、第4楽章「廷臣たちの入場」のドラマへと向っていった。』

 そこまで喋ると、『はじめて、そんなこと言われましたよ。楽譜には書いてないことをやるんで、ジェームズ・バーンズなんかとはしょっちゅうケンカになるんですがね。しかし、しぱらくたって本人も自分が振るときには私と同じことをやっている。(笑)』と、いかにも愉快だ、と言わんばかりの答えが返ってくる。

 そして、『いや、とにかく、第4楽章まで進んで、これは本当にいい曲だと思いましたよ。そして、第5楽章「デズデモーナの死、終曲」。音楽がここまできた時、これは、チャイコフスキーの“悲愴”だと思いました。』というと、

 『それについては、作曲者のリードさんとも議論し合ったことがありました。』と言いながら、ちょっと神妙な顔つきになったタッド氏。突然、思いがけないことを話し出された。

 それは、2005年、アルフレッド・リードが亡くなったとき、葬儀に出れない非礼を詫びるために奥さんに電話されたときの話だった。なんでも、作曲家リードのライブラリーには、タッド氏が指揮した演奏ばかりを集めた“タッド・コーナー”があり、生前、リードは奥さんにこう語っていたそうだ。

 “故人は、これらの演奏はことごとく私の書いたことを無視している、と語っていました。しかしね、そう言いながらも、しょっちゅうあなたの演奏を取り出して聴いていたんですよ。”

 実際、アルフレッド・リードからもっと自分の曲を演奏してほしいと言われていたタッド氏。愛情のこもった奥さんの言葉を聞いて、電話ごしながら、リード作品をどんどん取り上げることを約束されたんだそうだ。

 そして、あの日の『オセロ』。筆者個人にとっても忘れられない感動的なその演奏のウラに、こんな秘められたストーリーがあった。


【CD情報】

■タッド・ウィンド・コンサート(1) トミー・ユー/灰から救われた魂たち

【演奏】タッド・ウインドシンフォニー
【指揮】鈴木孝佳(タッド鈴木)

【曲目】
1.交響的序曲(ジェームズ・バーンズ)
2.灰から救われた魂たち(トミー・ユー)
3.オセロ(全曲)(アルフレッド・リード)

【収録】2006.6.8 大田区民ホール アプリコ(東京)
【価格】1,400円(税込)
【CD番号】WindStream、WST-25003

【BPショップ】http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1129/

(2008.01.26)


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■タッド・ウインドシンフォニーのCD
■トミー・ユー/灰から救われた魂たち(世界初演)
■矢部政男:吹奏楽の為の交響的舞曲「月の宴」
■ジュリー・ジロー:ヴィジリス・キープ(本邦初演)
 
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