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【CD】
「吹奏楽による奏楽堂の響き4」がリリース

Text:大石 泰(東京藝術大学演奏藝術センター准教授・元テレビ朝日プロデューサー)

 かつて阪神タイガースで活躍し、その後大リーグ挑戦を経て、最終的には北海道日本ハムファイターズで現役生活にピリオドを打った新庄剛志というプロ野球選手がいた。彼はその人を食った言動と、プロ野球選手らしからぬファッションで実力以上(?)に人気を博し、引退時に「記録ではなく記憶に残る選手」と言われた。

 福田滋指揮、リベラ・ウインド・シンフォニー演奏のCD「吹奏楽による奏楽堂の響き4」(スリーシェルズ3SCD-0011)の試聴評を書くにあたって、一見何の関係もないプロ野球選手のことから始めたのには理由がある。しかしその種明かしは少し後に譲るとして、まずこのCDのことを押さえておこう。このCDはスリーシェルズが製作し続けている「吹奏楽による奏楽堂の響き」シリーズの4作目で、2012年5月6日に旧東京音楽学校奏楽堂で行われた演奏会のライブ録音である。私はその演奏会に実際に足を運んでいるが、熱心な聴衆が詰めかけて、なかなか盛況のコンサートであった。

 西耕一氏の企画・構成によるこの日の演奏会は、特集1《日本のテレビ・ラジオ音楽》、特集2《3人の会の仕事》、特集3《現代の作曲家》、特集4《北海道の作曲家》という4つのパートに分かれ、全17曲が演奏されたが、特集3にプログラムされていた三善晃《祝典序曲》はCDには収録されていない。上記4つのテーマに論理的つながりはないが、そこで演奏された楽曲にはある共通点が見られる。第一の共通点は、團伊玖磨が天理教真柱・中山善司氏のご成婚記念に作曲した《おやさと大行進曲》と、今回のコンサートのための委嘱作・鹿野草平《ファイヴ・コンビネーション》(2012)を除いて、いずれも吹奏楽オリジナルの楽曲ではないということ。そして第二の共通点は、上記2曲を除いた収録曲のいずれもが演奏時間が短いという点である。

 実際に収録されている曲の時間をチェックしてみよう。もっとも長いのは佐藤勝《交響組曲「札幌オリンピック」》(12’42”)で、次が芥川也寸志《映画音楽組曲「八甲田山」より》(8’59”)である。しかしこれらは、前者が1972年に開催された札幌オリンピックの公式記録映画(総監督:篠田正浩)につけられた佐藤の音楽を、堀井友徳が再編曲・再構成したもの。そして後者が、1977年公開の東宝映画「八甲田山」(監督:森谷司郎)の芥川作曲の劇中音楽を松木敏晃がピックアップして吹奏楽版組曲として編んだものである。従って単独の曲として長いのは、前述の團伊玖磨《おやさと大行進曲》(8’32”)、鹿野草平《ファイヴ・コンビネーション》(8’01”)であり、これらは先ほど述べたように、数少ない吹奏楽オリジナルの曲である。逆に短いものは特集1《日本のテレビ・ラジオ音楽》の中の、たかしまあきひこ《FNNニュース・テーマ》(20”)、信時潔《都市放送開始》(36”)など、演奏時間2分にも満たない曲が7曲を占めている。その他の曲もおおむね3〜4分程度の演奏時間である(曲名と演奏時間はいずれもCDジャケットに掲載されているものを採用)。

  曲の長さが短いのには当然の理由があって、そもそもここに収録されている曲のほとんどが、テレビや映画をはじめとする映像に付するために作曲されたものだからである。これ以上、曲の長さを云々してもあまり意味はないので、映像に関連した曲を中心に簡単に所感を述べよう。

 CDの最初に収録されているのは、黛敏郎の映画音楽《天地創造》(1965)より〈間奏曲〉である。「天地創造」は1966年公開のハリウッド映画で、監督はジョン・ヒューストン。当初、作曲はストラヴィンスキーに依頼されたが、彼が断わったため黛にお鉢が回ってきたという。冒頭の主題のフーガ的処理など、小品ながら作曲家の熟達した腕が発揮されていて、アカデミー音楽賞にノミネートされたのも頷ける仕上がりだ。続いて、特集1《日本のテレビ・ラジオ音楽》として、テレビのニュース番組などのテーマが収録されている。私にとってはこの部分が特に興味深く、このCDの大きな魅力と考えている。
 信時潔《全国放送開始》と《都市放送開始》(1941)は大変珍しい。NHKラジオ(日本放送協会)の毎日の放送開始の音楽として作曲されたもので、1951年生まれの筆者も初めて耳にする曲である。続いて収録されている深井史郎(松木敏晃編曲)の《日本テレビ「鳩の休日」》(1953)は、現在も使用されているメロディで、子どもの頃に鳩の映像とともに耳にした記憶がある。続く池辺晋一郎(福田滋編曲)の《MBS毎日放送オープニング、クロージング音楽》(1990)は、池辺らしい洒落た曲だが、MBSが関西圏の放送局であるため、関東在住の私は聴く機会がなかった。そのかわり、たかしまあきひこ《FNNニュース・テーマ》(1984)と黛敏郎(堀井友徳編曲)の《NNNニュース・テーマ》(1973)は、それぞれフジテレビと日本テレビ系列のニュースで流れたものなので、強く耳に残っている。たかしまの曲はあたかも電波が空中を飛び交っているようなイメージで、黛の曲も溌剌とした緊張感に満ちていて、ニュースの開幕を告げるにふさわしい。ただし黛作品にゆったりした抒情的な中間部以降があることは知らなかった。

 CDではこの後、特集2《3人の会の仕事》として改めて黛敏郎《映画「栄光への5000キロ」》(1969)より〈メインタイトル〉、芥川也寸志《ミュージカル「みつばちマーヤ」》(1967)より〈みつばちマーチ〉と《映画音楽組曲「八甲田山」より》(1977)、團伊玖磨《おやさと大行進曲》(1992)、さらに特集4《北海道の作曲家》として、佐藤勝《交響組曲「札幌オリンピック」》(1972)、伊福部昭《北海道讃歌》(1961)と《わんぱく王子の大蛇退治》(1963)より〈アメノウズメの舞〉といった1910〜20年代生まれの作曲家の作品が取り上げられている。このうち伊福部の《北海道讃歌》は、北海道讃歌制定委員会が歌詞を公募した「道民がこぞって歌う北海道の歌」の最優秀作品(作詞:森みつ)。この曲と芥川の〈みつばちマーチ〉、それに前述の團の曲以外は、いずれも映画・アニメなど映像に関連したものである。そこでここからは個別の曲について触れるのはやめて、「映像の音楽」というくくりで私の考えを述べさせてもらうことにする。

 まず問題にしなければならないのは、この種の実用音楽が作曲家にとってはいわば「生活の糧」で、音楽界の常識では通常「作品」としてとらえられることがないという点である。従って、コンサートのプログラムとして取り上げられないばかりか、譜面そのものも散逸してしまったり、場合によっては、その作曲家の作品リストから抹消されてしまうことさえあるのである。そうなれば、そうした曲はどんどん忘れ去られていく一方であろう。
 しかしこれらの曲は、果たして「消えるに任せて」よい「価値のない」ものなのだろうか。今さら言うまでもないが、映像のための音楽は、映像と一緒になって初めて最大の力を発揮するように作曲されている。そうした性格上、テーマミュージックは別にして、映像と切り離してその価値を論ずることに難しい一面があることは否めない。たとえばプロコフィエフの《アレクサンドル・ネフスキー》のように、映像なしに演奏のみでコンサート・ピースとして成立する曲は極めて珍しい。

 そうした前提で、もう一度このCDの曲目を眺めていただきたい。確かにこれらの曲では、シンフォニーやオペラを作曲するようなエネルギーはつぎ込まれてはいないものの、そこには各作曲家の個性と、職人技ともいえる技術が結集している。演奏時間が短い分、見方を変えれば大変贅沢な楽曲とも言えるのである。しかも、それが日本人のどのくらいの人の耳に届いたかという視点で捉えれば、たとえばニュースのテーマ音楽など、どんなクラシックの名曲をも凌駕しているのである。R.シュトラウスの《英雄の生涯》を聴いたことがなくても、黛敏郎の《スポーツ行進曲》(NTVのスポーツニュースのテーマ)を耳にしたことのない人は少ないだろう。

 個人的な話で恐縮だが、私はかつて30年間テレビ朝日に在籍し、テレビ番組の制作にあたっていた。特に長く関わったのが「題名のない音楽会」で、当時の企画・司会を担当していた黛敏郎さんとは、公私にわたってお付き合いをさせていただいた。そうした人間として、「黛敏郎の代表作は《スポーツ行進曲》」と言われてしまうことには忸怩たる思いがあるのだが、少なくとも《スポーツ行進曲》が彼の曲中、もっとも人口に膾炙したものであることは間違いないだろう。ちなみに黛の《スポーツ行進曲》は、この吹奏楽シリーズの2枚目のアルバムに収められている。

 話を元に戻そう。特定の年代、あるいは階層の人々にとっては強く印象に残る、そうした「映像の音楽」が「作品」として扱われないことで、いつしか記憶から失われ、社会からも消えて行ってしまうのはいかにも惜しい。その意味で私は、そうした楽曲を粘り強く発掘し、あえて演奏会で取り上げ録音を残すという西耕一氏が進めている「吹奏楽による奏楽堂の響き」シリーズを高く評価するのである。

 冒頭でプロ野球の新庄剛志選手のことに触れた。彼はプレーヤーとして特筆すべき成績を残したわけではないが、ファンの「記憶」に残る選手であった。この「記憶に残る」ということも重要な価値基準の一つと考える。スポーツ選手の「記憶」は、様々な手段で後世に語り継がれるかもしれないが、こと音楽の「記憶」については言葉で語り継ぐことは難しい。音楽の「記憶」は時間の経過に伴い、いつしか実体のないものになってしまうであろう。音楽は「音源」や「譜面」など「記録」に残してこそ、伝えられていくものなのである。

◎「奏楽堂の響き4」の詳細をチェックする
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2784/


◎吹奏楽による奏楽堂の響きシリーズ&リベラ・ウインド・シンフォニーCD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/c/0000001369/

▲リベラ・ウインド・シンフォニー
▲指揮者:福田 滋(音楽監督)
▲司会・企画の西 耕一と歌手・佐藤光政
▲最強のクラリネット陣(Coloefulも全員参加!)

 

■大石 泰プロフィール
1951年東京生まれ。作曲を端山貢明氏に師事。1974年慶應義塾大学経済学部を卒業後、日本教育テレビ(現テレビ朝日)入社。美術部に五年間在籍した後、制作現場に異動し、主に「題名のない音楽会」「オリジナル・コンサート」などの音楽番組を担当。特に故黛敏郎氏が企画・司会を務めた「題名のない音楽会」には、ディレクター、プロデューサーとしてその制作に深く関わる。
 その後、黒柳徹子さん司会のトーク番組「徹子の部屋」のプロデューサーを務め、2004年3月テレビ朝日を退社。同年4月より東京藝術大学演奏藝術センターに移り「コンサート制作論」などの講座を教えながら、藝大奏楽堂で行われる「藝大とあそぼう」シリーズ等のコンサートの企画・制作に当たっている。
 また学外でも、「井上あずみ親と子のはじめてのコンサート」シリーズ、JASRAC主催の「カジュアル・ゼミナール」など様々なコンサートの構成・演出も行っている。
 現在、東京藝術大学演奏藝術センター准教授。

 

【演奏会レポート】吹奏楽による「奏楽堂の響き4」
http://www.bandpower.net/news/2012/05/07_sougaku2012/01.htm


(2013.02.12)

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