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【レポート】
吹奏楽による「奏楽堂の響き4」

日時:2012年5月6日(日)18:30開演
会場:旧東京音楽学校奏楽堂(上野公園内)
レポート:細木原豪紀

▲ステージ全景-我が国最古のコンサート・ホールは趣がある

 2006年から2年毎に行われ、今回で4回目となる「奏楽堂の響き」コンサート(2012年5月6日 於 旧東京音楽学校奏楽堂)に伺った。
 この演奏会シリーズは、芥川也寸志、團伊玖磨、黛敏郎による「3人の会」をはじめとする、日本がエネルギーに満ちあふれていた昭和音楽界を彩った作品と、新進気鋭の作曲家への委嘱作品を中心にプログラミングされたものである。通常の吹奏楽の演奏会では到底真似出来ないような、資料的価値が高い演奏会シリーズになっており、毎回新しい観点から、吹奏楽の歴史の中で埋もれていた名曲を発掘すると共に、積極的に委嘱を行って企画を押し進める西耕一氏を中心とする運営の努力と、それを見事に再現する演奏には感嘆し続けている。

▲今年の委嘱初演は鹿野草平氏。司会の西 耕一がインタビュー

 指揮は日本の作曲家による吹奏楽作品紹介の第一人者で、2011年12月には書籍『日本の作曲家と吹奏楽の世界』を出版した福田滋氏。演奏も都内現役プロ奏者によって結成され、スリーシェルズレーベルからのCD「團伊玖磨 吹奏楽作品集」「別宮貞雄 管楽作品コレクション」「金井喜久子管楽作品集 沖縄の響き」など歴史的に重要な作品群を数多く収録し、その演奏法を熟知しているリベラ・ウインド・シンフォニーである。

▲指揮者はリベラ・ウインド音楽監督の福田滋氏

 今回は『日本のテレビ・ラジオ音楽』『3人の会の仕事』『現代の作曲家達』『北海道の作曲家』と四部構成となっている。演奏会用作品に拘らずラジオやテレビ、映画、機会音楽なども含めて選曲され、今回のために新たに編曲された作品も多かった。

 オープニングピースとして黛敏郎《映画「天地創造」より間奏曲》が演奏された。映画音楽としても職人技が光るこの楽曲は、第6旋法のフガートに始まり、明瞭なテーマを経て再びフガートに回帰した。しばしば演奏される同映画の《メインテーマ》《ノアの方舟》と比較して松木敏晃氏の編曲は、より原曲の持つ本質に近い印象を持った。

 第1部ではテレビ・ラジオの放送開始と放送終了の音楽やニュースのテーマ音楽に絞られたプログラムであった。信時潔《全国放送開始》《都市放送開始》は、日本放送協会のラジオのためのジングル楽曲。吹奏楽のための黎明期の作品として、この曲の発掘は大きな成果であろう。
次に演奏された《日本テレビ「鳩の休日」》は《パロディー的な四楽章》で有名な深井史郎によるものである。スコアが現存しないため、様々な録音を比較検討した上での松木氏による復元編曲になった。同時に管弦楽版も製作したそうで発表の機会が楽しみである。池辺晋一郎《MBS毎日放送オープニング/クロージング》では、フルート(原曲はパンフルート)を中心にした爽やかな楽曲であった。
 作曲家のたかしまあきひこ氏も臨席された中で演奏された《FNNニューステーマ》は2012年現在も「産経テレニュースFNN」で用いられているもので、これも原曲通りの編成で演奏された。独特な和声上でのファンファーレは、わずか15秒で確実な効果を挙げており、《盆回り》(「8時だョ!全員集合」のオチに使われる曲)も作曲した、たかしま氏の卓越したセンスを感じずにはいられなかった。第1部最後には、黛敏郎による《NNNニューステーマ》が奏された。ニュース番組のテーマとは思えない絢爛な楽曲であり、氏の純音楽にも一切引けを取らない傑作である。

 第2部での「3人の会」による機会音楽や映像・舞台音楽では、各作曲家の持つ個性と大衆性が共存し、一般的な吹奏楽ファンでも取っつきやすい作品であった。芥川による《みつばちマーチ》は、子供向けの明るい曲調で現在の吹奏楽団にとっても充分レパートリーになりうるものであり、ビギンのリズムが印象的な黛《栄光への5000キロ》、重厚で熟れたサウンドの芥川《映画音楽組曲「八甲田山」》もまた、普通の吹奏楽団でも演奏できるナンバーである。間に挟まれた團《おやさと大行進曲》は、楽譜CD共に未出版であるが、関係各所の多くの協力の上での、蘇演となった。この第2部は空調が効かず会場全体が蒸し暑くなっていたのだが、その中でのリベラ・ウインドの熱演が印象的であった。

▲毎年参加はお馴染み、ヴィーヴ・サクソフォン・クヮルテット

 第3部は、『現代の作曲家』と題して三善晃(天野正道編)《祝典序曲》と、2010年の吹奏楽コンクール課題曲V番の《吹奏楽のためのスケルツォ第2番「夏」》で吹奏楽界を震撼させた鹿野草平氏による委嘱作品が並んだ。
 三善作品は野外で演奏されることを想定しているため、客席のドアを開放した状態で演奏された。編曲は秋田南高校と同一のものであり、高校生とプロによるアプローチの違いを聴き比べるのも面白いだろう。鹿野草平氏による委嘱作品《ファイブ・コンビネーション》は、5/8拍子の中で、リズムの様々な分割方法を提起するスタイルの楽曲であり、《スケルツォ》シリーズから続く自身の書法を完全に会得したように感じた。また、約8分という演奏時間や、力強さがありながら理知整然とした曲調などを含めて、そのまま吹奏楽コンクールでも使用できるような作品でもあった。自身の作品の芸術性を高めながらも、現場における楽曲の利用価値を高めていくことは、現代音楽のフィールドで活躍する作曲家が吹奏楽曲を書く時の大きな課題であるが、それを見事に実現しているように感じた。

 第4部は北海道の作曲家を特集し、伊福部昭と佐藤勝による3作品が演奏された。最初に伊福部昭《北海道讃歌》は、名バリトンの佐藤光政氏によって朗々と歌われた。この曲はアンコールでも歌われ、佐藤氏の絶妙なマイク遣い(時には完全に生の声のみにもなった)が楽曲の良さを引き出した。記録映画のための佐藤勝《交響組曲「札幌オリンピック」》は、作曲者自身による管弦楽版もあるが、堀井友徳氏により吹奏楽に適した楽曲を再構成したものである。最終楽章で第2楽章「スキージャンプ」のテーマが表れるなど、非常に優れた構成であった。最後には長編アニメーション「わんぱく王子の大蛇退治」から伊福部昭による《アメノウズメの舞》がチョイスされた。短いながらも春の祭典を思い立てるような優れたバレエ音楽であった。

 今回プログラミングされた楽曲はメディアのための音楽が多かった。そのため一般的な現代音楽に比べて、耳障りも良く演奏の難易度も高くないものが多いため、そのままアマチュア吹奏楽団の演奏会でも使えるものばかりである。昨年末に東北大学学友会吹奏楽部が定期演奏会において黛敏郎の交響組曲《東京オリンピック》を取り上げた事例があるように、吹奏楽の芸術性をより高める上でも、今回の演奏会で紹介された楽曲をアマチュア団体が再演する機会があることを、切に望んでいる。

▲Colorful全員が参加したクラリネット・パートは華やか

【リベラ・ウィンド・シンフォニーのCD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/c/0000001369/

(2012.05.22)

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