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【レポート】

「芸術音楽としての吹奏楽―邦人作品で吹奏楽の本来持つ魅力の再検証を」
スリーシェルズの新CD「奏楽堂の響き3」

text:山本哲也(作曲家)

▲撮影:小嶋雅夫

 2006年より隔年で開催され、今回で第3回を数える「奏楽堂の響き」のライブ録音によるCDが発売となった。
 「奏楽堂」とは現在の東京藝術大学奏楽堂ではなく、前身の旧東京音楽学校の奏楽堂のことで、1890年に創建された日本最古の木造洋式音楽ホールのことである。滝廉太郎や山田耕筰も演奏を披露した伝統のある会場で、邦人作品の歴史を紐解くのに最も適したホールとも言えるだろう。

 さて、過去2回に渡り開催されてきた「奏楽堂の響き」コンサートだが、今回も昭和の音楽史から同時代の音楽に至るまで幅広い選曲となっている。それらのほとんどが世界初CD化となる作品で、ステージで上演されるのも極めて稀である。これまでの日本の吹奏楽史において不運にも取りこぼしてしまった作品を紹介し現代に蘇らせるという主旨のもと、今回のこのCD化は吹奏楽界にとっても重要な位置付けとなることは間違いない。
 演奏はリベラ・ウィンド・シンフォニー、指揮はバンドジャーナルにおいて『日本の作曲家と吹奏楽の世界』の連載を持つ福田滋氏。邦人作曲家作品の紹介と普及をライフワークとしている氏ならではの、ストレートな表現が吹奏楽の魅力を存分に引き出している渾身の一枚だ。

 当日のステージは三部構成で組まれ、それぞれ『戦前・戦中世代の機会音楽』、『3人の会の音楽』、『新世代と新編曲』というタイトルが付けられている。各ステージ冒頭にはファンファーレが選曲されており、ライブとしてのプログラム構成も見事に考えられたものになっている。

 第1部のファンファーレは佐藤勝《日本万国博覧会ファンファーレ》だ。トランペットによるファンファーレは高度経済成長の象徴である1970年開催の日本万国博覧会(大阪万博)の幕開けに相応しい華々しく爽快な作品だ。
 高校野球大会歌《栄冠は君に輝く》や数々の応援歌や行進曲を手掛けた作曲家である古関裕而の《モーターボート行進曲》は、競艇場で旋回するモーターボートを思い起こさせるような第1マーチの主題に心が引き寄せられた。

 深井史郎の《英魂を送る―故山本五十六元帥の霊へ捧ぐ》は、タイトルから推測できるように非常に重厚で、荘重な葬送行進曲だ。深井の吹奏楽作品というと管弦楽からアレンジされた《パロディ的な四楽章》が有名だが、吹奏楽オリジナルである本作は戦後ずっと再演されず、今回久方振りの上演がCDに収録された。

▲指揮:福田氏

 第2部は昭和の現代音楽史に大きな反響を残した「3人の会」の作曲家を取り上げる。
 最年長者の團伊玖磨の作品からは、第2部のファンファーレである《皇太子殿下入場ファンファーレ》、第2部3曲目に収録された《行進曲「希望のあしおと」》、そして中でも興味深いのは2曲目の《吹奏楽のための「ぞうさん」》で、童謡の作曲家としても活躍した團自らがアレンジを手掛け、世代を問わず愛されている《ぞうさん》の新しい一面を垣間見ることが出来るだろう。さらに、《ぞうさん》だけでなく團の他の童謡旋律も引用されている。是非お買い求めになって確認していただきたい。

 芥川也寸志の《JALマーチ》は、8小節のテーマをオスティナート的に反復しながら、調性や対旋律、オーケストレーションを変化させていくというシンプルな行進曲。
 最後は題名のない音楽会の初代司会者でもあった黛敏郎の作品で、今回のコンサートのために新たに編曲された《交響組曲「東京オリンピック」》だ。アレンジの堀井友徳氏が「純音楽的聴覚にも堪えうる」ようにと語る、無調によるミステリアスな序奏から始まり、優雅でスローなワルツなどを絡めた、ドラマチックな展開を持った交響組曲である。

 第3部では気鋭の作曲家川島素晴氏による2作品と、2009年度全日本吹奏楽連盟作曲コンクール第1位を受賞し注目を集めている江原大介氏への委嘱作品と、新編曲作品が2曲並んでいる。

▲川島素晴インタビュー

  川島素晴《ファンファーレ'88》は川島氏が16歳の時の作品。作曲者自身が「若書きの作品」「1984年のジョン・ウィリアムズ《オリンピック・ファンファーレ》の影響を多分に受けている」と言いながらも、その作風を深いところまで掘り下げて研究したのだろうか、高校生が作曲したものとは思えないほどのとても安定したファンファーレとなっている。初演以来22年ぶりの再演となった。
そして今回の委嘱作品である《吹奏楽のための協奏曲》は、前述の《ファンファーレ'88》から20年以上経た川島氏の現在の作曲スタイルによるものである。川島氏は、「吹奏楽の可能性に、最大限挑戦した内容となっている」と解説で述べているが、ここでの作曲法は作曲者自身がマニック(Manic・躁状態)と呼んでいる手法で、性格的なパッセージを順番に直列で提示し、それを反復させながら各パッセージが出現する間隔を狭くしていくことで、パッセージごとの境界が薄らいでいき、最終的には全体で一つの表現に収斂される、というもの。演奏時間も約5分半と、吹奏楽コンクールの自由曲としてもカットなしで演奏できるよう今後の汎用性を考慮されたものである。このような作品はこれまでの吹奏楽界では存在してこなかったため、吹奏楽の新しい可能性を探求し今後の指標の一つとなりうる作品だ。
また、これら川島作品についての詳細は作曲者ホームページで閲覧できる。 (http://www.komp.jp/260.html)

 江原氏の委嘱新作である《フレイム―吹奏楽とクラリネットのための協奏曲》は、作曲家本人が「(伊福部昭と同様に)『吹奏楽』のフォルテが好き」と語るように、まさに燃えるように突き進むかのごとく、エネルギーに満ちた力強い作品だ。約8分半の間、吹奏楽を相手に全力で対峙する丹羽綾子氏のクラリネットにももちろん注目だ。また、この作品は2011年3月21日に開催される「21世紀の吹奏楽『響宴』」においての再演が決まっている。

▲江原大介氏インタビュー

  佐藤勝《「ゴジラ対メカゴジラ」より》は、あの有名な「ゴジラ」の音楽とは一味違う、一度聴いたらクセになるような軽快でジャジーな作品。ビッグバンドによるサウンドを前面に押し出したポップス志向の音楽は、ファンの間でも大変人気が高いナンバーなのだそうだ。
《SF交響ファンタジー第3番》は映画「ゴジラ」をはじめとする特撮映画音楽の作曲家としても有名な伊福部昭によるもので、今回のCDでタクトを振っている福田滋氏によるアレンジ。また、同第2番は2008年発売の「奏楽堂の響き2」にも収録されている。原曲の持つエネルギーを管楽器で拡張させた壮大な楽曲となっており、特に後半のリズムオスティナートとブラスの咆哮は、まさに伊福部節炸裂といえよう。筆者は会場でこの快演をライブで聴いていたが、力のこもった演奏に対する喝采が今でも印象に残っている。

 最後に、このライブ録音が珍しい楽曲を取り上げた単なる記録用のCDではなく、純粋に音楽として愛聴していただければこの上なく幸いに思う。また、日本の吹奏楽界におけるアマチュアイズムの頂点である吹奏楽コンクールとは別の視点から吹奏楽を再検証することで、現状の吹奏楽界に一石を投じるような一枚になることを願っている。続編にも十分に期待したいところだ。

【このCDをBPショップで購入する】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2199/

【執筆者プロフィール】
山本 哲也 (Tetsuya YAMAMOTO)
1989年長野県生まれ。作曲を川島素晴、北爪道夫の各氏に、ピアノを井上郷子氏に師事。
2010年第27回現音作曲新人賞、第8回弘前桜の園作曲コンクール一般の部第1位および弘前市長賞(審査委員長:下山一二三)、第2回広島作曲コンクール大学生・一般部門第2位受賞。
作品は現代音楽を中心に吹奏楽作品も手掛けている。作曲の会「Shining」会員。
現在、国立音楽大学音楽文化デザイン学科3年に在学中。

【スリーシェルズ】http://3scd.web.fc2.com/
【リベラ・ウインド・シンフォニー】http://liberawind.web.fc2.com/

■吹奏楽による「奏楽堂の響き3」
【演奏】リベラ・ウインド・シンフォニー
【指揮】福田 滋

《プログラム》
佐藤 勝(1928-1999):日本万国博覧会ファンファーレ(1970)
古関裕而(1909-1989):モーターボート行進曲(1971)
深井史郎(1907-1959):「英魂を送る」故山本五十六元帥の霊へ捧ぐ(1943)
團伊玖磨(1924-2001):皇太子殿下入場ファンファーレ(1970)
團伊玖磨(1924-2001):吹奏楽のための「ぞうさん」(1998)
團伊玖磨(1924-2001):行進曲「希望のあしおと」(1998)
芥川也寸志(1925-1989):JALマーチ(1964)
黛 敏郎(1929-1997):組曲「東京オリンピック」(新編曲初演)(1964)
川島素晴(1972-):ファンファーレ'88
川島素晴(1972-):吹奏楽のための協奏曲(2010)委嘱初演/ほか
江原大介(1982-):「フレイム」−吹奏楽とクラリネットのための協奏曲(2010)委嘱初演
             ◆クラリネット独奏/丹羽綾子
佐藤 勝(1928-1999):「ゴジラ対メカゴジラ」より(1974)
伊福部昭(1914-2006):SF交響ファンタジー第3番(1983)

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【その他リベラ関連CD】

■奏楽堂の響き
〜吹奏楽による「奏楽堂ゆかりの作曲家たち」
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■奏楽堂の響き 2
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■奏楽堂の響き 3
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■團伊玖磨吹奏楽作品集 Vol.1
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■團 伊玖磨吹奏楽作品集 Vol.2
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■沖縄の響き 金井喜久子管楽作品集
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■別宮貞雄 管楽作品コレクション
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(2010.12.28)

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