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【レポート】

シエナ・ウインド・オーケストラ
第32回定期演奏会

日時:2010年6月16日
会場:横浜みなとみらいホール
レポート:福田 滋
(C) photo:Rikimaru Hotta



★横浜みなとみらいホールに響く、
リヒャルト・シュトラウスとモーリス・ラヴェルという2大巨匠の世界。


  トップクラスの人気を誇り、今年結成20周年を迎えたシエナ・ウインド・オーケストラと世界に羽ばたく指揮者、金聖響のコンビによる好企画である。

 金聖響とシエナの定期演奏会は年1回であるが、毎回その内容の濃さには驚かされる。会場を見渡せば熱気に満ちた若い吹奏楽ファンと、マニアもうなる選曲とのギャップが興奮を掻き立てる。現在、吹奏楽界やメディアの中心にいるシエナ・ウインドであるが、定期演奏会では大いなる挑戦を実践し続けているのだ。

 プログラム第1部はリヒャルト・シュトラウスの作品集。「ウィーン市の祝典音楽」より“ファンファーレ”(エリック・バンクス編曲)で華やかに開始されたが、全曲を聴けないのが残念なほど充実の演奏であった。
 続く「13楽器のためのセレナード 変ホ長調作品7」は、このバンドの実力を良く示し、合奏体としてのシエナを越えた個々の奏者の音楽性を聴衆にしっかりと印象づけた。一人ひとりの音楽性の高さがあっての合奏力ということが今日のシエナを形づけるキーポイントである。
 3曲目は、コンクールなどでお馴染みの楽劇「サロメ」作品54より“7つのヴェールの踊り”(仲田守編曲)。いくぶん速いテンポによる鮮烈なリズムと内にこめられた情熱とで一気に聴衆を惹きつけることに成功している。パーカッションなどのバランスが気になる個所もあったが、音楽的には全く問題ない。身を乗り出して聴き入っていた学生たちの姿が印象的であった。

 1部最後に置かれた交響詩「死と変容」作品21は、吹奏楽のコンサートでは滅多に聴けない作品であろう。指揮者、金聖響が今回の企画でとくに拘った曲だという。「芸術家の死の瞬間を音楽で表現しようとした」(作曲者)と語るように人間が死ぬ際、どのような境地になるかを描いた作品。シュトラウスがその後に連続して発表する交響詩群の出発点となった重要なものである。重いテーマの曲をじっくりと聴かせてくれたが、編曲にやや問題があったと思う。使用したのは吹奏楽用の編曲としては唯一の出版譜であるジェームス・キースのアレンジによるものであるが、現在の吹奏楽界で求められている傾向のものとは違い不満の残るものであった。ここまでの表現が吹奏楽で可能であるからこそ、ますます良い編曲の登場が待たれる。


 休憩の後はラヴェルの2作品。最初の「道化師の朝の歌」(仲田守編曲)は、実力のあるバンドは良く取り上げる隠れた人気作品である。演奏は前半やや精彩を欠き、この曲の持つリズムの面白さを充分に聴かせているとは思えなかったが、これも編曲によるものと思われる。しかし、中間部以降のダイナミックな音楽創りはさすがで、最後は気持ち良く曲を盛りたてていたと思う。
 メインのバレエ音楽「ダフニスとクロエ」第2組曲(真島俊夫編曲)は大きな感動を呼ぶ仕上がり。この曲もコンクールで良く演奏される人気作で、全国大会の演奏回数が100回に近づいているという。これは高得点狙いという思惑によるものかも知れないが、この日の演奏はそのような次元を遥に越えていた。吹奏楽編成でもここまでの色彩感、音楽表現が可能であると、吹奏楽愛好家に勇気を与えてくれたコンサートだった。

 万雷の拍手に応えてのアンコールはリヒャルト・シュトラウスの8つの歌曲作品10より「万霊節」(飯島俊成編曲)と恒例の「星条旗よ永遠なれ」で終了。熱い横浜の夜の宴に幕が下りた。

 吹奏楽界のトップ・ランナーとしての役割を着実に果たしているシエナ・ウインドの今後の活動からますます目が離せない。

▲第32回定期演奏会のチラシとパンフレット

■シエナ・ウインド・オーケストラのCD、DVD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/c/0000000845/

◆今回の定期演奏会や今後の活動についてメンバーに聞いてみました
(スペシャル・インタヴュー)

●中村 めぐみさん(コンサート・ミストレス)

−今回の定期の聴きどころは?

 「今回の定期演奏会は曲が凄い。まずは来ていただいたお客様に私たちの本気の姿、生きざまを見ていただけたらと思います。大げさなようですが命をかけてやっていますので(笑)。今回の選曲はシエナ側とマエストロと相談をして決めたのですが、特に交響詩「死と変容」はマエストロが熱望されていたものです」

−演奏で気をつけているところは 

「シエナにしかできないことをやって行きたいですね。私たちのすべての音に名前がつけられるような演奏にしたい。もちろん曲が難しければそれができることでは決してないのですが。実はこの曲目での公演を事前に川口でもやっているのですが、このような作品にとり組むとオーケストラが成長していくのが実感としてあるのですね。そのような引出しをオーケストラ自体が増やしていって、もっともっといろいろなことに対応できるようになりたいと、常に上を見ていたいと思っています」

−シエナの目指すサウンドとは?

「理想は、オーケストラの音が触れそうな音? ホールの空気が動物のように動く演奏?をしてみたいですね。客席にいる聴衆が傍観しているのではなく、自分たちも気持を燃やして、激しい音楽であれば、激しい気持ちになる、自分もそうなのですが終わったら自分も参加したような、また自分のためにこの演奏会があるような、2千人のお客さん全員がそう思える音を出していきたいと思います」

−管楽器での音楽の追求について

「オリジナル作品、アレンジ作品の演奏アプローチの差は、スコアという建築物を感じているのですが、オケにおいてはひとつの楽器の世界以上に多種多様な要求をされていると思います。突き詰めていけば、ヴァイオリンにしかできない音楽やクラリネットにしかできない音楽はないと思っています。絶対音楽的なものを求めているのです。ヴァイオリンであれば特有の奏法、表現法がありますが、それをクラで吹けばビブラートをかけないで表現することも多いです。しかし、そのフレーズが自然であればそれで良いと思うのです。そこを目指せば、吹奏楽と管弦楽との差もあまり関係ないのではないのでしょうか。私は素晴らしい管弦楽を聴いていると、人の声が聞こえてくることがあります。音楽の息吹とかが聴こえるのでしょうか。それはたぶん作曲家が求めている音楽だと思うのです。」

●久良木文(トランペット)

−入団して何年になりますか?

「えーと、6、7年目でしょうか。」

−トランペット奏者からの本日の聴きどころは?

「今回はオーケストラで有名、なおかつ吹奏楽でも良く演奏される作品を取り上げています。オケ曲は大変難しいのですが、トランペット的にはコルネットやフリューゲルなどを駆使して弦楽器のパートを吹くことは、オケでは経験のできないことなのでやりがいもあり、楽しいです。例えば他のパートと音楽を一緒に作れたり、新たな一面に出会えたりとか」

−シエナとしての今回の選曲について

 「定期演奏会の曲は指揮者の金さんの好みでとてもよく合っていると思います。シエナは若者に受けるような楽しい曲も演奏でき、この定期のようなシリアスな作品も一流指揮者と真剣に音楽作りが出来るといった、2面性の活動ができるのがとても良いですね。

−ウインド・オーケストラに入って良かったことと今後の活動は?

「私は管楽器が息を送りこんで創り出すサウンドがとても好きなので、合っているのでしょう。今後はリサイタルといった大袈裟なものではなく、個人的にレストランとかの小さいところで演奏活動ができればと思っています。気楽にお食事を楽しみながらのコンサートとか良いですよね。それを皮切りにどんどんいろいろなことに挑戦していきたいと思っています」

●塚本 修也(代表理事・トロンボーン)

−今回のコンサートについて

 「シエナと聖響さんとの定期演奏会は年に1回しかないので、聖響さんの持ち味を生かせるためのクラシカルなプログラミングとなりました。オール・クラシックなのですが、その中で聖響さんは現在リヒャルトを研究していて、とくに「死と変容」は絶対に演ろうと、シエナは内容の深い作品をやっていくべきだと強く説かれました。」

−コンサート全体の狙いは?

「構成は1部のリヒャルトに対して吹奏楽の人気曲のラヴェルをカップリングさせました。コンクールの自由曲にとり上げられる作品ばかりで、そして内容も濃いものばかりです。聖響さんは“深いところまで理解して欲しい”と楽員に要求しています。今回の選曲は、吹奏楽でどこまでオーケストラ曲の響きが出せるかという挑戦でもあります」

−編曲へのこだわりは?

「死と変容」は1種類なので選べなかったのですが、「サロメ」は調にもこだわり、原調でノーカット版の仲田編曲を探し出しました。決定したのはリハーサルの1週間前というギリギリでした。聖響さんは、何故作曲家がその調で書いたのかということにもこだわりを持っていますので・・・」

−シエナ20周年を振りかえって

「シエナの20年は正に激動の20周年でした。常にメンバーも入れ替わってきましたし、音楽も生きているし動いていますから、より新しい物をとりいれてきたつもりです。その上でシエナの伝統も作っていかなければなりませんでした。また、多くのCDなどを出してきたので、それらを聴いて下さっているファンのみなさんのご期待にも添わなければなりません。日々、プレッシャーとの戦いですね。しかし近い将来、シエナには飛躍的な動きがありますので、みなさんご期待下さい。」

−今後の目標は?

「吹奏楽の世界はレパートリーが幅広いので、ジャンルにとらわれず、また1歩先をいくような、そして様々な人たちとのコラボレーションなどにも挑戦していきたいと思っています。」

−ありがとうございました。

(C) photo:Rikimaru Hotta

お知らせ
シエナ結成20周年の企画は、「第33回定期演奏会」(指揮/佐渡裕、9月24日東京芸術劇場)や「ブラスウィーク2010」(指揮/金聖響、10月24日東京芸術劇場)、20周年特別プロジェクトとして2回のコンサート(指揮/佐渡裕、1月7日横浜みなとみらいホール、1月8日サントリーホール)など注目の演奏会が目白押しである。

(2010.07.07)

 
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◎金聖響&シエナWO
 
 
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