吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー

【レポート】

21世紀の傑作、ここに誕生!
ヴァンデルロースト「いにしえの時から」

圧倒的成功を収めたタッドWS第17回定期演奏会

Text: 樋口幸弘 (ウィンド・ナビゲーター)

 ヤン・ヴァンデルローストがこの日のために完成させた、渾身の力作「いにしえの時から」ウィンド・オーケストラ版の世界初演と、その成果を自ら確認するために作曲者が来日する、という話題でも注目を集めた“タッド・ウインドシンフォニー第17回定期演奏会”が、6月18日(金)、東京・大田区民ホール アプリコで開催された。

 プログラムは、アルフレッド・リードの「春の猟犬」、エリック・ウィッテカーの「オクトーバー」、クロード・T・スミスの「フェスティヴァル・ヴァリエーション」とつづく第1部と、ロジャー・ニクソンの「フェスティヴァル・ファンファーレ・マーチ」、フィリップ・スパークの「故郷からの手紙」、そしてヤン・ヴァンデルローストの注目作「いにしえの時から」をフィナーレに据えた第2部の、すべてオリジナル・ピースからなる堂々たる演目。

 いかにも《ザ・プロフェッショナル》という、見事なプログラミングだ!

 指揮は、同WSの音楽監督としてすっかりおなじみとなった鈴木孝佳(タッド鈴木)氏。

 コンサート第1部は、ファンにおなじみのリードの名曲「春の猟犬」で幕開けた。これは、ハウンドドッグが愉しげに駆ける様が目に浮かぶような軽快な演奏で、会場の空気も一気に和む。つづくウィッテカーの「オクトーバー」も日本でおなじみの作品だが、これも、聴衆のハートを釘付けにする第1部の白眉とも言える美しい演奏となった。

 第1部のラストは、難曲の1つとして有名なスミスの「フェスティヴァル・ヴァリエーション」。ここでは、スコアどおりチェロも加わり、パワーやスピードだけを競うだけのような非音楽的な演奏とは次元の違う、スコアの内面と音楽的な仕掛けを浮き立たせるアプローチが光った。

 しかし、何度聴いてもすごい作品だ!

 第2部のオープナーは、ニクソンの「フェスティヴァル・ファンファーレ・マーチ」。聞けば、昨年物故したニクソンはタッド氏のアメリカにおける恩人の1人だったそうで、これは追憶の意を込めての演奏だった。人情家のタッド氏らしい選曲だ。

 つづくスパークの「故郷からの手紙」ヴァンデルローストの「いにしえの時から」の2曲は、タッド氏のヨーロッパの新しい友人たちの作品だった。

 まずは「故郷からの手紙」。日本の新宿で偶然出会い意気投合して以来、スパークの作品はタッド氏のお気に入りだ。この作品は、家族を残して海外に行くことの多い作曲家の想いを音楽として綴ったものだが、深い共感を覚えた氏のタクトも大きく揺れ動き、聴くもののハートを揺さぶる。終演後に『いい曲というのは、それに従って棒を振るだけで導いてくれますね』と語ってくれた氏の言葉そのものの、とてもエモーショナルな演奏だった。

 そして、クライマックスの「いにしえの時から」。これは、第15回定期で演奏され、後にCD化(Windstream、WST-25008)された「カンタベリー・コラール」以来、深い信頼関係にあるヴァンデルローストから世界初演を託された作品だった。

 かつて黄金時代にあったフランドル楽派のポリフォニーと呼ばれる音楽手法にインスパイアードされ、サクソルンやサクソフォンを生み出したアドルフ・サクスへの深い敬意を込めて書かれた演奏時間18分強の意欲作だ。原曲は、“ヨーロピアン・ブラス・バンド選手権2009”の課題として書かれたブラスバンド作品だが、今回、ピアノやハープなど、多くの楽器を加え、ウィンド・オーケストラ曲としてリオーケストレーションされた。

 それにしても、生命感のある、なんてすごい曲なんだろうか!

 どのパートにも、出版社が考える最高グレード“Grade 6”なんてはるかかなたの高い技術レベルと音楽性が要求され、そんな作品に共感を覚えたタッドWSの各プレイヤーは高いポテンシャルとテクニックでこの作品に挑みかかっていく!

 これはもう、作曲家と演奏家の音符を通してのバトルだ!

 そして、終結部に至る直前に現れる“アドルフ・サクスに捧げた”というハートにグッとくるメロディーが聴かれるあたりで聴衆の感動はクライマックスに!

 圧倒的輝きのエンディングにつづいて沸き起こった嵐のような拍手が、今回の世界初演の圧倒的成功を証明していた。

 つぎつぎとスタンディングで称えられるソリストたち! つづいて、客席からステージへと導かれた作曲者とタッド氏のハグ! 会場内すべての顔に満面の笑みが浮かぶ。

 はっきり言おう! これを聴き逃した人には一生後悔するほどのライヴだったことを!

 そして、21世紀のウィンドの傑作がまた1曲、この日、日本で産声を上げたことを!

▲すばらしい演奏に! すばらしい作品に!
互いを称えあうヴァンデルロースト氏とタッド氏

(C)2010、樋口幸弘 / Yukihiro Higuchi

(2010.06.24)

◎圧倒的名演奏、名曲の宝庫!「タッド・ウィンド・コンサート」シリーズをチェックする!

■タッド・ウィンド・コンサート(1)
トミー・ユー/灰から救われた魂たち(世界初演)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1129/

■タッド・ウィンド・コンサート(2)
矢部政男/吹奏楽の為の交響的舞曲「月の宴」
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1215/

■タッド・ウィンド・コンサート(3)
ジュリー・ジロー/ヴィジリス・キープ(本邦初演)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1437/

■タッド・ウィンド・コンサート(4)
ロバート・E・ジェイガー/交響曲第1番
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1552/

■タッド・ウィンド・コンサート(5)
ヤン・ヴァンデルロースト/カンタベリー・コラール
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1769/

■タッド・ウィンド・コンサート(6)
スティーヴン・ライニキー/交響曲第1番「ニュー・デイ・ライジング」
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1922/

■タッド・ウィンド・コンサート(7)
アルフレッド・リード/アルメニアン・ダンス パートI
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1983/

■タッド・ウィンド・コンサート(8)
マーク・D・キャンプハウス/ローザのための楽章
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2006/

■タッド・ウィンド・コンサート(9)
アルフレッド・リード/エルサレム賛歌
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2091/

◎「いにしえの時から」のオリジナル・ブラスバンド版の音源・映像をチェックする

■ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2009【CD2枚組】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1945/

■第2回ワールド・ブラスバンド選手権(世界音楽コンクール2009ハイライト)【CD2枚組】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2090/

■トライアンファント・ブラス〜コーリー・バンド【CD】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2088/

■ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2009【DVD2枚組-PALシステム】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/dvd-9378/

吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
 
 
 
 
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー