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【レポート】

バンド維新2009

日時:2009年2月28日(土)曲家によるレクチャーと公開練習
日時:3
月1日(日) 初演コンサート
会場:アクトシティ浜松中ホール

レポート: 富樫鉄火(音楽ライター)


 ≪夏の思い出≫≪雪の降る街を≫や、多くの合唱曲で知られる作曲家・中田喜直(1923〜2000)が、以前、ある音楽雑誌の座談会で、こんなことを述べていた。

「音楽の発展というのは、創作と演奏が一緒になってなければだめなんですよ。演奏だけが発達して作品はないなんて、そんなのは発展じゃないんでね、日本の合唱界がこんなに発展したのは、作曲家と演奏家が一緒に盛んにしたんですよ。合唱の作品を委嘱されて、楽譜が売れて、そこでプロの作曲家としての報酬が出る。そういうことがなかったら、ただのアマチュアの世界ですよ」

 この発言中の、「合唱」を、そのまま「吹奏楽」に置き換えることができる。まさに日本の吹奏楽界は、作曲家と、(主に)アマチュア・バンドがともに連携を取り合って多くの作品を生み出し、演奏されることで発展してきたのである。
  そのことを先鋭的に象徴しているのが、昨年から始まった「バンド維新」である。

 吹奏楽曲の新作発表会ということでは、すでに「21世紀の吹奏楽≪響宴≫」がある。今年も3月15日に、第12回の開催が予定されている。この催しは、「未出版」「未発表」の吹奏楽曲が披露されるが、作曲家陣は、主として吹奏楽界を中心に活躍しているひとが多い。演奏団体も、アマチュアもあればプロもある。

 これに対し「バンド維新」は、
1)中学高校生が対象(よって演奏団体もすべて中高生)。
2)普段、あまり吹奏楽曲を書いていない作曲家が起用される。
3)中小編成向きの曲。
4)楽譜とCD(プロの演奏)が、ほぼ同時に発売される。
5)初演コンサート前日に、作曲家自身のクリニック(公開練習)がある。
  といった違った特徴がある。
  主催は、今年から浜松市文化振興財団が全面的に請け負うことになった。会場は、静岡県の「日本の楽都」アクトシティ浜松である。

 今年も、作曲家・北爪道夫を中心に、8人の新作が発表された。

 すでに航空自衛隊航空中央音楽隊によるCD録音は済んでおり、5月にキングレコードから発売されるようだ。ちなみに楽譜は、フルスコア、セットともにすでに東京ハッスルコピーから発売されており、コンサート当日、会場でも販売されていた。新作発表会なのに、この手際のよさは驚くべきもので、主催事務局の苦労がしのばれる。

 初演コンサート当日は、一部の作曲家を除いて、ほとんどが会場に駆けつけていた(前日、クリニックがあった)。演奏する中高生にとっては、作曲者自身の前で初演する栄誉を担うわけだ。

 8曲がどういうものであったかは、CD発売がまだなので、予断を与えないよう、多言は控える。
  ただ、どの曲も、いわゆる吹奏楽一般の世界でさかんに演奏されているタイプの曲とは、かなり違うことだけは言っておこう。
  特に、もともとが「中小編成」向けであるために、「コンサートバンド」曲というよりは、「ウインドアンサンブル」曲、つまり、管打楽器によるアンサンブル的な要素が強い曲が多い。

 漫然と聴いていると「これが中高生向きの音楽なのか」と言いたくなる高度な曲もある。その一方で、前田憲男や渡辺俊幸のように、最初からポップスの方向を目指している曲もある。特に渡辺の曲は、ローランド社製の「V-Drums」という「電子ドラムセット」をフィーチャーした曲で、私など、寡聞にしてそんな楽器があることすら知らなかったのだが、これは、今後の少人数吹奏楽部にとって新たな指針になるかもしれない(あらゆる種類の打楽器の音が出せるようだ。もちろん、通常のドラムセットで演奏することもできる)。

 また、新実徳英の登場も新鮮だった。合唱音楽で知られているひとだが、過去、吹奏楽曲を書いているのだろうか。今回も児童合唱との共演曲で、さすがに合唱曲集≪白いうた青いうた≫で知られるベテランだけに、従来の吹奏楽コンサート会場では聴いたことのない、美しく真摯な響きが満ちていた(余談だが、中高生で合唱にかかわっていれば≪白いうた青いうた≫を知らない者はいないと思う。その新実が、最近、『うたの不思議 「白いうた青いうた」の秘密』なる本を上梓している。少しでもこの曲集を知っている方は必読である)。

 一般公募入選の片岡俊治は、すでに「響宴」で何度か新作を発表しているひとである。今回は、なんとも手ごわい曲で挑んできた、といった印象を受けた。

 先述のように、CD発売がまだなので、多くの方々が実際に聴けるようになる以前に、あまり細かい論評をすることは避けるが、「バンド維新」が、日本の吹奏楽界にある意味で「ワサビ」を効かせていることは間違いない。

 あとは、これら(昨年も含めれば計16曲)を、いかにして中高生たちの間に広め、定着させていくかであろう。それにはまず、中高生たちが「演奏したい」と願う、あるいは顧問の先生が「生徒たちに演奏させたい」と感じる、そういう曲が生み出されなければならないわけで、これはもう、今後も、作曲家諸氏の奮闘を祈念する、としかいいようがない。

 あとは、主催者、レコード会社、楽譜出版社が、どのような対応をつづけるか……であろう。初演が浜松なのは、これは主催者が事実上浜松市なのだからいいとして、果たして、浜松における初演だけで終わっていていいのか、という考えもあろう。
  昨年もそうだったが、「ぜひ、東京あたりでもやってもらいたい」と感じたひとは、筆者だけではないだろう。
  (これはプロの興行だから比較にはならないが)たとえば、なにわオーケストラル・ウインズなどは、近年、本拠地の関西だけでなく、東京までやってきてコンサートを開催している。難しいだろうが、あのような形がとれれば、とも思う。

 もちろん、そのためにCD発売があるのだろうが、これはプロによる理想的な模範デモ演奏である。やはり、曲の対象である中高生が挑んで、ナマで演奏してこそ、企画の意義も達成されると思うのだ。

 でないと、せっかくこれほどのレベルの企画を実現させているのに、いつしか曲の存在も忘れられ、楽譜は絶版となり、それこそ冒頭で紹介した中田喜直の言葉のように「演奏だけが発達して作品はないなんて、そんなのは発展じゃない」ことになりかねない。これは、吹奏楽振興に少しばかりかかわっている我々(筆者やバンドパワー)にも責任があるのだが。

【演奏曲目と演奏団体】

  • 外山雄三≪新しい行進曲≫(浜松市立南部中学)
  • 前田憲男≪Let's Swing≫(静岡県立浜名高校)
  • 片岡俊治≪Memento-mori〜for Wind Ensemble≫(東海大学附属高輪台高校)
  • ※一公募新実徳英≪Ave Maria≫(浜松市立与進中学)
  • 渡辺俊幸≪V-Drums and Small Wind Ensemble≫(静岡県立気賀高校)
  • 丹生ナオミ≪青竜舞(せいりょうのまい)≫(浜松学芸中学・高校)
  • 野平一郎≪Le temps tisse〜織られた時V pour ensemble d'harmonie≫(浜松明けの星高校)
  • 北爪道夫≪雲の上の散歩道≫(名古屋市立新郊中学)

【速報】
3月1日に行なわれた当日のライブの様子が、3月15日と22日のNHK-FM「吹奏楽のひびき」で放送されます(午後9:30〜午後10:00)。時間がとれなくて会場に足を運べなかった皆さん、これは必聴ですよ!

【番組の詳細】吹奏楽のひびき〜バンド維新2009作品発表コンサート >>>>
http://cgi2.nhk.or.jp:80/hensei/program/p.cgi?area=001&date=2009-03-15&ch=07&eid=42



(2009.03.09)


【バンド維新関連】

■バンド維新2009スコア集【吹奏楽-フルスコア】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/sc-5252/

■バンド維新2008スコア集【吹奏楽-フルスコア】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/sc-5245/

■バンド維新2008〜吹奏楽の今/航空自衛隊航空中央音楽隊
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1445/


 
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