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【弔辞】

富永君、ありがとう!  安らかにお眠りください


 富永さん。

 あなたを失ったことで、片腕をもがれたような思いでいるひとたちが、たくさんいます。そんな方々を代表して、僭越ながら、お別れのことばを述べさせていただきます。

 あなたは、吹奏楽の世界でさまざまな仕事を手がけられ、吹奏楽振興のために奔走されました。おそらく今日、ここに来ている多くの方々が、そのことをよく知っているはずです。

 そんなあなたが、ここ数年、吹奏楽に関する文章を本格的に書くようになりました。私があなたと知り合ったのは10年ほど前になりますが、そのころ、編集の仕事をしていた私が「吹奏楽の解説や評論などを本気で書く気はないか」とけしかけると、照れくさそうな顔をして「ぼくが文章を書くなんて、とんでもありませんよ」といっていたものです。

 それが、奇妙な縁で、あなたと、そして石本和富さんと私の3人で、『一音入魂 全日本吹奏楽コンクール名曲名演50』なる本を、正続あわせて2冊も書くことになりました。しかも、日本を代表する文芸出版社である河出書房新社という、一流出版社からです。吹奏楽に関する専門書が、音楽出版社以外から、これほど本格的な形で刊行されるのは画期的なことでした。

 この本にかけるあなたの情熱は、いま思い出しても頭が下がるものでした。

 あなたの、吹奏楽に関する豊富な知識と情熱は、ときには分量をはみ出し、ページ内におさめることができないほどでした。小澤俊朗先生のコメントがいただけると、「なかなか面白い内容になりそうですよ」とメールしてきたものでした。小長谷宗一先生から「スターパズルマーチ」に関する裏話が聞けたときは、夜中に楽しそうに電話してきたものです。バンドパワーでの日常業務に追われながら50本もの原稿を書くことは、実にたいへんだったと思いますが、少しずつ送られてくるあなたの原稿を読む日々は、私にとって至福のひとときでした。幸いこの本は、増刷になり、多くの読者に読んでもらうことができています。

 音楽は消えてしまうけれど、本は残る。いまの若いひとたちが知らない、吹奏楽の数々の物語は、あなたの文章によって、確実に残り、伝わっていくのです。あなたは、吹奏楽界に残した多くの業績の中に、「本」という形で、もうひとつ、重要な仕事を加えたのです。

 惜しむらくは、それからたった二ヶ月で、あなたがこの世を去ってしまったことです。あなたは、自分が書いた文章を若い人たちが読む姿を、これからはもう見ることはできない。今後、さらにユニークな内容の本を出して行こうと話し合っていた計画を、実現させることも、もうできない。文化は、何かの形で次の世代に伝わることによってのみ、熟成し、発展するものです。しかし、あなたが持っている知識と情熱は、あなた自身が持っていってしまった。このようにして失われていった文化が、人類の歴史の中に、どれだけあったことでしょう。スケールこそ違いますが、まさかそれと同じことが、あなたをめぐって起きるとは、夢にも思いませんでした。

 おそらくいまごろあなたは、いつものような照れ笑いを浮かべて「すいませんね〜」と笑っていることでしょう。そして私たちは、亜細亜大学吹奏楽団、東京佼成ウインドオーケストラ、21世紀の吹奏楽:響宴、バンドパワー、そして、あなたが残した2冊の本、これらに接するたびに、あなたのことを思い出し、富永啓之という「文化」が日本の吹奏楽界にいたことを、語り合ってゆくでしょう。

 安らかにお眠りください。さようなら。

富樫鉄火(音楽ライター)

(2008.11.07)


 
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