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【CD】

ついに甦った幻の音源! 
  エリック・バンクス指揮、ドリーム・バンドによる
≪惑星≫≪ローマの松≫≪展覧会の絵≫

text:富樫鉄火(音楽ライター)

 1980年代末から90年代初頭にかけて、東芝EMI(現EMIミュージック・ジャパン)が、ロンドンのアビーロード・スタジオ(ビートルズやピンクフロイドの録音で有名)で、驚くべき吹奏楽ディスクを録音制作した。この≪惑星≫≪ローマの松≫≪展覧会の絵≫などである。

 どこが“驚くべき〜”だったのか。

 まず演奏が、事実上この録音のために編成された「ロンドン・シンフォニック・ウインド・オーケストラ」(LSWO)であったこと。メンバーは、フィルハーモニア管、ロンドン響、ロンドン・フィル、ロイヤル・フィル、BBC響など一流オーケストラの管打楽器奏者。ほかに王立音楽院の有名教授、トップ軍楽隊の奏者も含まれていた。いわば、イギリスの一流管打楽器奏者を総動員した“ドリーム・バンド”である。当時のイギリス音楽事情に詳しい方だったら、ライナー末尾のメンバー表にため息が出るに違いない。

 さらには、使用スコアのほとんどが、この録音のための新編曲である点も驚きだった。特に≪展覧会の絵≫は、ラヴェルの管弦楽版に頼ることなく、あくまでムソルグスキーのオリジナル・ピアノ譜をもとにしながら、自由な発想で、吹奏楽ならではの響きを導き出している(だから、ラヴェルがカットした<第5プロムナード>も、ちゃんと収録されている。また≪ローマの松≫のラスト<アッピア街道の松>では、バンダ(金管別働隊)を13人で編成し、とてつもない爆演を披露している。

 いったい、こんなことを実現させたのは誰か。それが指揮者のエリック・バンクス(1932〜)だ。ロイヤル・エア・フォース・セントラル・バンド(王立空軍中央軍楽隊)を中心に、長年活躍したイギリス吹奏楽界のカリスマである。しばしば来日し、昭和音楽大学やアマチュア・バンドの指導・指揮もこなした。スパーク≪ドラゴンの年≫を日本初演したのも彼である。そんなバンクスが89年に退官したのを機に組織したのが、このLSWOだったのだ。

 発売当時、このディスクは、日本の吹奏楽関係者に衝撃を与えた。超絶技巧を要する原調編曲を平然とこなすLSWOの実力にも驚かされた。このようなプロジェクトを日本のレーベルが実現させたことにも賞賛の声が上がった。スタジオ録音ながらホール感の広がりを感じさせる音質は、さすがにアビーロード・スタジオといえたが、それを作り上げたのは日英両スタッフの努力と執念の賜物だった。

 当時はCD初期で、まだLPが混在していた。よって録音制作も、昔ながらの方法で行なわれた。オルガンはスタジオ内に大音響を響かせて同時収録、バンダや女声合唱も衝立の向こうで同時演奏・収録された。別録音してあとで合成するなんて贅沢は許されなかった。こうなると、何度も録り直しなんてできない。収録は、緊張の連続だった。

 この音源が、スタジオ録音にもかかわらずライヴのような面白さに溢れている理由は、ここにある。特に念入りなリハーサルもなく、多くのトラックは、ほぼ一発でOKテイクとされた。腕利きの集まりだからできたことだが、それにしたって初めて見る編曲譜だ。ちょっとしたミスは必ず起きる。だがバンクスは、ナマ・コンサート同様、一過性の迫力を記録しようとした。だから、よく聴けば随所にホコロビはある。しかしバンクスは、ほとんど録り直しをしなかった。まるで“聴衆のいないスタジオでのライヴ録音”のようだった。

 このディスクはその後、長いこと入手困難がつづき、吹奏楽ファンの間で“幻の音源”と化した。初出時期は、いまや懐かしきバブルの末期である。それだけにバブル経済が最後に放った“仇花”のような印象があった。

 それが、20年近くを経て、ついに復刻された。どれだけの人たちが待っていたことだろう。そしてあらためて聴くと“仇花”どころか、編曲も演奏も音質も、まったく古さを感じさせず、時代を超越していることに驚かされる。特にこの20年の間に、≪惑星≫や≪ローマの松≫は、日本吹奏楽界のレパートリーとして完全に定着した。原調編曲による演奏や出版も、珍しくなくなっている。

 この音源は、現在の吹奏楽ブームの扉を開いた水先案内人だったのである。ぜひ、多くの若い方々に聴いていただきたい。


■≪惑星≫&≪展覧会の絵≫(2枚組)EMI/TOCF-56081-82 ¥2,500(税込)

→EMIの試聴サイト
http://www.emimusic.jp/brass/other/classic.htm

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指揮:エリック・バンクス
演奏:ロンドン・シンフォニック・ウインド・オーケストラ
合唱:ブライトン・フェスティヴァル女声合唱団(≪惑星≫〜海王星)
編曲:サイ・ペイン、サイモン・ライト、ジョージ・ミラー中佐
録音:1989〜1991年、アビイ・ロード・スタジオ(ロンドン)

【収録曲目】
組曲≪惑星≫作品32 [全曲]
  作曲:グスタヴ・ホルスト
  編曲:サイ・ペイン

交響詩≪ローマの松≫ [全曲]
  作曲:オットリーノ・レスピーギ
  編曲:サイ・ペイン

組曲≪展覧会の絵≫ [全曲]
  作曲:モデスト・ムソルグスキー
  編曲:サイモン・ライト

ロシアの復活祭序曲≪輝かしき休日≫ 作品36
  作曲:リムスキー=コルサコフ
  編曲:ジョージ・ミラー中佐

 

(2008.05.05)


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