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【注目曲】

ロバート・シェルドン: スピリット・オブ・キリアン・ヒル

〜 アメリカ・ジョージア州のあるミドルスクールのエリアを愉快に描いた、
さわやかタッチの演奏会序曲

Text:樋口幸弘

 日本とは違い、学校のカリキュラムの一環として、吹奏楽を選択することのできるアメリカでは、スクール・バンドと作曲家の間にも、互いの信頼に基づいた協力関係が築かれている。この結果、バンドは、自らの実情に合わせた作品を身近な作曲家に委嘱して作曲してもらうことができ、こういった創作活動の中から、幾多のすばらしい作品が生まれている。

 スクール・バンドのためにおびただしい数の作品を提供し、全米学校バンド・ディレクター協会から、“ヴォルクウェイン賞”、“スタンバリー賞”の両賞が贈られたほか、アメリカ作曲家・著作家・出版者協会(ASCAP)の“スタンダード賞”を受賞したウィンド・バンド作品も実に17曲を数えるという、ロバート・シェルドンも、このジャンルに大きな貢献を続けている作曲家のひとりだ。

 米ジョージア州リリバーンのトリッカム・ミドル・スクールの音楽部の委嘱で作曲され、2007年1月21日、同校で行われたコンサートで、作曲者自身の客演指揮で初演された『スピリット・オブ・キリアン・ヒル (The Spirit of Killian Hill)』も、シェルドンのそういった活動の中から生み出された作品だ。

 この作品の完成時のエピソードが面白い。

 委嘱時の条件で、同校のバンド、オーケストラ、コーラスが合同演奏できるように作曲されたこの作品は、オリジナルの曲名が、今とは少し違って『スピリット・オブ・ストーン・マウンテン』というものだった。

 合同演奏で、コーラスが歌うのは、同校の生徒の合作になる歌詞だったが、ここで関係者の間で議論になった(といっても悪い意味ではない)のが、曲名に使われていた“ストーン・マウンテン”だった。それは、確かにこの学校の校区にあるエリア名のひとつで、シェルドンは、気を利かせて今度の委嘱作の曲名に取り入れたつもりだった。しかし、学校関係者にとっては、“ストーン・マウンテン”より、もっと地元を強く意識させるエリア名があった。それが現在の曲名に使われている“キリアン・ヒル”で、当然のことながら、それは生徒たちが作った歌詞の中にも含まれていた。

 その一方、作曲者が指揮した初演自体は大成功!! しかし、学校関係者にとっては、どうしても曲名がシックリこない。それで、彼らはシェルドン先生に御伺いをたて、曲名を自分たちのお気に入りに変えてもらうことに決めた。交渉の結果、幸いなことに作曲家の同意を得て、曲名は公式に現在のものに変更されることになった。そして、関係者一同、すべてハッピー!! ハッピー!!

 しかし、なんともバツが悪いというべきか、その後、この作品が、コーラスを省いた純粋なバンド曲として出版されることになったとき、この曲名変更の件が、どうやら出版社内部において徹底して伝わらなかったようだ。

 出版されたスコアを見ると、大きな曲名はすべて正しく現曲名になっているが、スコアの表紙にある簡単なプログラム・ノートの中の曲名が、なんとオリジナルのまま、『スピリット・オブ・ストーン・マウンテン』と、デーンと印刷されている。それも、一番目立つ文頭で!!

 後日、このことをシェルドン本人に正すと、ただただ苦笑するばかり。(みなさん、反面教師にしましょうね!!)

 そんなハプニングがあるにはあったが、曲自体は、とても愉快な作品で、急〜緩〜急のスタイルで書かれ、原曲に歌があったことをイメージさせる親しみやすい旋律が耳に残る、さわやかタッチの演奏会序曲となっている。また、もともと3つの異なるグループの合同演奏用に書かれた、ということもあるのだろう。大編成から小編成までのいろいろな人数で演奏しても、シンプルなオーケストレーションが功を奏し、すばらしい演奏効果が期待できる。屋外でもOKだ。 

 この曲も、2008年4月発売の、秋山和慶指揮、大阪市音楽団演奏のCD「ニュー・ウィンド・レパートリー2008」(大阪市教育振興公社、OMSB-2814)に収録されたことにより、日本でも多くのバンドによって演奏されることになるだろう。


【編成】

Flute
Oboe
Bassoon
B♭ Clarinets (T、U)
E♭ Alto Clarinet
B♭ Bass Clarinet
E♭ Alto Saxophones (T、U)
B♭ Tenor Saxophone
E♭ Bariton Saxophone
B♭ Trumpets (T、U)
Horn
Trombones (T、U)
Euphonium
Tuba
Timpani
Mallet Percussion (Glockenspiel)
Percussion (Snare Drum、Bass Drum、Clash Cymbals、Suspended Cymbal、Triangle)

【楽譜】

2007年、米Alfred


ロバート・シェルドン Robert Sheldon

1954年2月3日、米ペンシルヴェ二ア州チェスターに生まれる。マイアミ大学に学び、音楽教育で音楽学士号を、ついでフロリダ大学に進み、器楽指揮で芸術修士号を取得した。フロリダ、イリノイの両州のパブリック・スクールで器楽を教えたほか、フロリダ・ステート大学でも教鞭をとった。全米学校バンド・ディレクター協会から、ヴォルクウェイン賞、スタンバリー賞の両賞が贈られ、アメリカ作曲家・著作家・出版者協会(ASCAP)のスタンダード賞を受賞したウィンド・バンド作品も17曲を数える。速筆、多作家で、作曲活動の傍ら、イリノイ・セントラル・カレッジのプレイリー・ウィンド・アンサンブルの専任指揮者をつとめている。

(C)2008、Yukihiro Higuchi / 樋口幸弘

(2008.04.30)


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