吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー

【注目曲】

フィリップ・スパーク: セントローレンス川のこだま
〜 カナダ・ケベック市の400周年を祝う、クラシック・テイストの民謡組曲

Text:樋口幸弘

 『ドラゴンの年』『オリエント急行』『山の歌』『ダンス・ムーブメント』『ハイランド讃歌組曲』『宇宙の音楽』などなど。個性あふれる作風で新作発表のたびにウィンドの世界に新風を巻き起こしてきた、イギリスの作曲家フィリップ・スパーク(1951〜)。その作品リストに、また1つ、クラシック・テイストのすばらしい音楽が加った。

 2008年、市が開かれてからちょうど400周年を迎えたカナダ・ケベック市の記念祭で初演するレパートリーとして、ケベック州を本拠とするカナダ陸軍のミリタリー・バンド“ケベック選抜軽歩兵軍楽隊(La Musique des Voltigeurs de Quebec)”が委嘱した『セントローレンス川のこだま(Sounds of the Saint Lawrence)』がそれだ。 

 作曲・完成は2007年。五大湖を源とし、ケベック州を流域とする大河の名を曲名に取り込んだこの組曲は、「レント 〜 モルト・ヴィーヴォ」の第1楽章、「モルト・レント」の第2楽章、「レント 〜 ヴィーヴォ」の第3楽章の3楽章構成で、“ケベック民謡組曲”という副題のとおり、ケベック地方で親しまれているつぎの7つの民謡のメロディーが織り込まれている。

・山の彼方(La-haut sur ces montagnes)
・田舎ふうの夕べ(Vellee rustique)
・小さなジャン(Petit Jean)
・澄んだ泉に(A la claire fontaine)
・船乗り万歳(Vive les matelots)
・これが櫂だ(C'est l'aviron)
・居酒屋へ(Au cabaret)

 このうち、“山の彼方”のメロディーは、3つの楽章の導入などに形を変えて現れ、作品全体を結びつける最も重要な役割を果たしている。また、第1楽章には“田舎ふうの夕べ”と“小さなジャン”、第2楽章には“澄んだ泉に”と“船乗り万歳”、第3楽章には“これが櫂だ”と“居酒屋へ”といった具合に、各楽章主部には、それぞれ異なる2曲の民謡が対となって使われている。

 第1楽章で、ドラムのロールにつづき、左右1本ずつ配されたトランペットとバンド内のフルートと鍵盤打楽器の掛け合いで、まるで“こだま”のように響く「山の彼方」のメロディーは、特に印象的で、作品には、これ以外にも“こだま(エコー)”のように聴こえるさまざまな音楽的な仕掛けがある。さすがスパーク!! というところか。その他、雄大な大河の流れを感じさせる第2楽章や、祝祭の愉しさを聴かせる第3楽章の音楽からも、この作曲家のさらなる円熟味が感じられる。演奏効果にあふれた作品だ。

 音楽監督フランソワ・ドリオ大尉指揮、ケベック選抜軽歩兵軍楽隊による世界初演は、2008年4月19日、ケベック市における建市400周年記念祭において。それに先立ち、同軍楽隊の記念CDの録音も行われたが、日本でも、関係者の奔走と特別な許可により、秋山和慶指揮、大阪市音楽団の演奏がCD「ニュー・ウィンド・レパートリー2008」(大阪市教育振興公社、OMSB-2814)にセッション・レコーディングされた。とにもかくにも、世界初演後わずか2日後という、4/21のCD発売を実現した市音に拍手喝采だ!!

 (なお、日本初演は、4/26、大阪国際交流センターにおける「大阪市音楽団 吹奏楽フェスタ2008」(1日目)において。小松一彦指揮で。)


【編成】
Piccolo
Flute (T、U)
Oboe
Bassoon
E♭ Clarinet
B♭ Clarinets (T<div.>、U<div.>、V<div.>)
E♭ Alto Clarinet
B♭ Bass Clarinet
E♭ Alto Saxophones (T、U)
B♭ Tenor Saxophone
E♭ Baritone Saxophone
B♭ Trumpets (T<div.>、U、V)
Horns (T、U、V、W)
Trombones (T、U、V)
Euphoniums (div.)
Tubas (div.)
String Bass
Timpani
Mallet Pecussion (Glockenspiel、Vibraphone、Chime)
Percussion (Snare Drum、Bass Drum、Suspended Cymbal、Bongo、Tambourine、Triangle、Wood Block)

【楽譜】
2008年、英Anglo Music Press


フィリップ・スパーク Philip Sparke

 1951年12月29日、イギリスのロンドンに生まれる。ロンドンの王立音楽カレッジ(RCM)にピアノ、トランペット、作曲を学び、在学中から主にブラス・バンド(サクソルン属を中心とする金管楽器と打楽器によるバンド)のための作品を発表。BBC放送の委嘱でブラス・バンドのために作曲した『スカイライダー』(1985)、『オリエント急行』(1986)、『スリップストリーム』(1987)の3作で、“ヨーロッパ放送ユニオン(EBU)新作バンド曲コンペ”3年連続第1位に輝き、アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドの委嘱でウィンド・バンド(木管、金管、打楽器からなるいわゆる“吹奏楽”)のために作曲した『ダンス・ム−ブメント 』(1995)でアメリカの“サドラ−国際作曲賞”を、大阪市音楽団第90回定期演奏会のために書いた『宇宙の音楽』ウィンド・バンド版(2004)で同じくアメリカの“NBAレヴェリ賞”を受賞。世界的な活躍がつづいている。

(2008.03.29)


吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー