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【話題曲】

没後15年、アーカイヴ化が進む、薄命の作曲家ジョン・ゴーランドの作品群。
そして、心にひびく名曲『ピース』の話題


Text: 樋口幸弘(ウィンド・ナビゲーター)



 イギリスの作曲家ジョン・ゴーランド(1942〜1993)。1990年代に、その作品が日本に紹介され始めたとき、それらが、ブラス・バンド曲であったり、ユーフォ二アムの独奏曲だったため、情報不足の日本では、一般には、ブラス・バンドのフィールドで活躍した音楽家あるいは作曲家と認識されてきた。

 不幸なことに、ゴーランドは、日本への紹介が始まったそのほぼ同じタイミングの1993年4月14日、神経系の障害のため、作曲家としてはこれからという、50才の若さで亡くなってしまう。このため、作品のほとんども未出版。雑誌等のメディアに発表された曲名やプレイヤーなどから得られるわずかな情報以外、遠く離れた日本から彼自身やその作品についての何かを得ることは、ほとんど不可能に近い状況だった。

 紹介されるや、アッという間に日本中のユーフォニアム奏者のレパートリーとなった『ピース(Peace)』についても同様だった。幸いなことに、この曲は作曲者が亡くなる以前に英Hallamshire から出版されていたが、その出版譜にもプログラム・ノート、出版年などの曲目関連情報は一切なし。この曲を演奏しようとするものは、唯一わかっている曲名と曲想からなんとかプログラム・ノートをひねり出している有り様だった。

 筆者もあるCDにプログラム・ノート執筆を依頼されたことがあったが、取り掛かってみてはじめて、それがどれだけたいへんなことであるか、痛感させられることになった。

 わずかな可能性を信じて、イギリスでこの曲を演奏した可能性のある指揮者、ユーフォ二アム奏者、はたまた放送局にまでFAXや電話を繰り返す日々。しかし、この作品についてのきちんとしたリサーチがなされていないことは、作曲者の本国イギリスにおいても同様だった。やっとのことで、初演者が旧知のユーフォニアム奏者ロバート・チャイルズであることが判明し、相談すると、彼も方々関係者に電話をかけて、オリジナルはファミリーのために書いたオルガン曲であり、ゴーランドのいとこの結婚式で自らオルガンを弾いてプレゼントしたことをつきとめてくれた。

 その後、多くの時間が流れた。

 幸いなことに、ゴーランドの死後、その音楽は忘れられることはなかった。いや、逆に時代が進むにつれ、残された音楽への関心ははどんどん高まりを見せていった。その結果、いくつもの出版社から、さまざまなジャンルの作品が出版され、その再評価や研究が行われ、作品集も企画されるようになった。

 イギリスでは、ゴーランド・トラストという組織が作られ、2001年、母校ロイヤル・ノーザン音楽カレッジ(RNCM)には、ゴーランドの母親の遺言により、手元に遺されていた膨大な手稿類の寄贈を得たアーカイヴもできた。その後、このRNCMのアーカイヴには、各出版社からも手書き譜が提供され、今やゴーランドに関する、唯一、絶対のコレクションとなっている。

 これらによって、ゴーランド研究は、飛躍的に進んだ。その結果、それまで出版されていた『ピース』の楽譜からも、写譜時のミスと思われる間違いがいくつも発見され、近年新しい版が起こされ、再出版された。(ピアノ伴奏版の例だと、ピアノ伴奏譜、ユーフォニアム独奏譜の両方から間違いが発見されている。) 

 『ピース』は、1973年、若くして癌のために亡くなった作曲者の姪アリスへの捧げ物として書かれたオルガン曲が原曲。作曲者と近親者にとってひじょうに大切な曲の1つであり、1977年、作曲者の従兄バーナード・ホイットリーと妻ジリアン・スミス(旧姓)の結婚式でも作曲者によるオルガン演奏が行われた。その後、ブラス・バンド伴奏のユーフォニアム独奏曲に書き改められ、ロバート・チャイルズ独奏、レイ・ファー指揮、グライムソープ・コリアリー・バンドの演奏で初演奏が行われた。現在、“ピアノ伴奏版”“ブラス・バンド伴奏版”“テンピース・ブラス伴奏版”の3つのバージョンの他、デリック・アッシュモア編による“ウィンド・バンド伴奏版”が出版されている。(出版は、いずれも英Hallamshire)

 20代にステイリーブリッジ・バンドというブラス・バンドに入り、一時ユーフォニアムを演奏した時期もあったゴーランド。『ピース』のほか、『ユーフォニアム協奏曲第1番』(英Cester版)、『同第2番』(英Studio版)の2曲のコンチェルトは、ユーフォニアムのために書かれた音楽の中でも、名曲中の名曲に数えられている。

ピース(Peace)の主な録音

・Chester Brass (英Look、LK/LP7035)
<LP (絶版) / オリジナル・ブラス・バンド伴奏版 / 作曲者自作自演>

【指揮】ジョン・ゴーランド
【独奏】ロバート・リー
【伴奏】シティ・オブ・チェスター・バンド

Peace (英Doyen、DOYCD186)
<CD / 改訂ブラス・バンド伴奏版>

【指揮】ロバート・チャイルズ
【独奏】デーヴィッド・チャイルズ
【伴奏】スコティッシュ・CO-OP・バンド

・The Mountbatten Festival of Music 2003 (英Blue Band Magazine、RMB CD13)
<CD / 改訂ウィンド・バンド伴奏版 / 編曲: デリック・アッシュモア>

【指揮】クリス・J・デーヴィス
【独奏】スティーヴ・ボイス
【伴奏】ロイヤル・マリーンズ・バンド

・流れゆく時間の中を・・・ (WindStream、WST-25005)
<CD / 改訂ピアノ伴奏版>

【独奏】木村寛仁
【伴奏】佐藤友美(ピアノ)


ジョン・ゴーランド John Golland

 

 1942年9月13日、英ランカシャー地方のアシュトン=アンダー=ラインに生まれ、1993年4月14日、マンチェスターでその短い人生を終えた。享年50才。マンチェスター大学とロイヤル・マンチェスター音楽カレッジ(現ロイヤル・ノーザン音楽カレッジ)に学び、ピアノをマジョリー・クレメンティ、作曲をトーマス・ピットフィールドに師事。指揮者としても活躍。歌劇、管弦楽、ウィンド・パンド、声楽など、作品は多岐のジャンルにわたり、100曲以上を数える。有名な2曲の『ユーフォニアム協奏曲』のほか、ウィンド・バンドのために書かれた大曲『アトモスフィアーズ』やブラス・バンドのための『サウンズ』など、没後遺された多くの作品にスポットが当てられ、再評価が進んでいる。

(2008.03.13)


(C)2008、Yukihiro Higuchi / 樋口幸弘
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