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■ノルウェー・バンドスタンド CD-0713
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海外レーベルを聴く愉しみ
ジョンブルの誇り〜スペシャリスト・レコーディング (4)

ウィンド・ナビゲーター: 樋口幸弘

各バンドの“歴史“や“人”、
埋もれていたレパートリーにスポットを当てるアカデミックなシリーズ -“レジメンタル・シリーズ”(SRC - Regimental Series)

 スペシャリスト・レーベル(SRC)の“レジメンタル・シリーズ”は、“イギリス名作曲家シリーズ”の大成功後に、“バンドスタンド・シリーズ”と同じような経緯で生みだされた同社のサード・シリーズだ。

 前の項で書いたように、SRCの“名作曲家シリーズ”でプロデューサーのマイク・プアートンとそのスキルフルな録音スタッフたちが証明してみせたハイ・クオリティなアルバム作りは、なかなかいい録音機会とプロデューサーに恵まれなかったイギリスのミリタリー・バンド(ウィンド・バンド)関係者を大いに奮い立たせた。

 しかし、どんなジャンルのCD作りでも、作り手と演奏側のプログラミングについての考え方には、常にギャップがある。プアートンもまさにこの問題に直面した。各バンドの音楽監督たちの多くが、彼らが日常的に演奏しているような、マーチやポップな音楽を主体としたいわゆる典型的ミリタリー・バンドのレパートリーを、SRCでCD化したいと考えたからだ。しかし、クオリティにこだわりさえなければ、その手のレパートリーの入ったCDは、市場に溢れていた。新しくCDを作るには、採算性はもとより、既存CDとのバッティングも視野に入れなくてはならない。

 そこで、プアートンは、各バンドの演奏の“歴史”と“人”に着目。バンド創設時から今日に至るまで演奏してきたすべての楽譜をもう一度洗い直して、各バンドの歴代の音楽監督やプレイヤーが最も大切にしてきたレパートリーから1枚のCDを作ることとした。これが新しい“レジメンタル・シリーズ”のコンセプトとなった。

 イギリス陸軍のミリタリー・バンドのほとんどは、バンドが所属する各連隊の連隊長や士官のポケット・マネーで作られ、運営されてきた歴史的経緯がある。シリーズ名に“レジメンタル (連隊の)”という文字を入れたのは、隠れたヒットだった。関係者のプライドを大いに刺激したからだ。そして、すべてが協力的に動き出した。

 創設350年以上の歴史をもつグレナディア・ガーズ・バンドを筆頭に、100年、200年以上の歴史をもつバンドはザラにあるイギリスのミリタリー・バンド。その長い演奏の歴史には、それぞれの時代を代表するような多くの優れた音楽家が深く関わり、各バンド独自のレパートリーを作っていった。時の流れによって、それらはどんどん新しいものに代えられていったが、プアートンによって再び陽の目をあてられ、各CDに収録された曲には、単に珍しいだけでなく、本当にいい曲が多いのも事実。相当年期の入った音楽ファンにとっても、初めて聴くことになるものが多いだけに要注目。また、ピーター・グレイアムの知られざるマーチなども入っているCDがあるだけに、現代曲ファンも見逃せない。

 その他、ファンにとって見過ごせないのは、各連隊やバンドの協力で提供された他で見ることのできない歴史的絵画や写真が豊富に使われているブックレット。ワインを片手にページをめくるとき、ちょっとだけ王侯貴族になったような気分になれる。

 “アカデミックさ”ということになれば、これほどの“こだわりアカデミック”を演出したシリーズは、かつてなかった。マイク・プアートン、なかなかやるな、という印象だ!!

<ワン・ポイント・ガイド>

[1]【ミュージック・オブ・ザ・ロイヤル・アーティレリー】
The Music of the Royal Artillery

【指揮】マルコム・トレント中佐
【演奏】ロイヤル・アーティレリー・バンド
【録音】2004.3.8-9、ウーリッチ・タウン・ホール(ウーリッチ)
【CD番号】Specialist、SRC131
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0931/

 シリーズ第1弾は、1762年創設で、かつて100名に超える編成で管弦楽演奏まで行い、イギリス最優秀のオーケストラとしても知られていたロイヤル・アーティレリー・バンド。その最も華やかな時代は、ドヴォルザークの弟子カヴァリエレ・ラディスラオ・ザヴェルタルが指揮者をつとめていた時代(1881-1907)で、ドヴォルザークの“新世界交響曲”やスメタナの“売られた花嫁”などのイギリス初演がその時代に行われている。このCDの最大の売りは、そのザヴェルタルのグランド・マーチ『ヴィクトリア女王』が発掘・収録されたこと。その他、ロイヤル・アーティレリー250周年委嘱曲のブリスのファンファーレ『ザ・ライト・オブ・ザ・ライン』も誇らしげに演奏されている。指揮は、SRCのCD「グリニッヂ・バンドスタンド」と同じくトレント中佐。


[2]【ミュージック・オブ・ザ・ライフ・ガーズ】
The Music of the Life Guards

【指揮】デーヴィッド・W・クレスウェル少佐
【演奏】ライフ・ガーズ・バンド
【録音】2004.11.22-23、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
【CD番号】Specialist、SRC132
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1059/

 イギリスの近衛兵には、歩兵のほかに騎兵連隊も2つある。ライフ・ガーズ・バンドは、そのうちの1つの連隊に所属し、創設は1660年。得意技は、もちろん馬上演奏(馬に乗ったまま演奏し、行進も行う)。現在、34名編成の中編成だが、演奏はひじょうにスキルフルで、サウンドもとてもやわらかい。CDには、ベートーヴェンの『ツァップフェンストライヒ第2番』やドナジォフスキーの『プレオブラジェンスキー』など、馬上演奏時のテンポで演奏されるマーチもたっぷり収録されているが、同じ曲でもテンポ感が違うとこうも違って聞こえるか、というくらい何とも厳かな気分が味わえる。


[3]【ミュージック・オブ・ザ・ブルーズ & ロイヤルズ】
The Music of the Blues and Royals

【指揮】ダグラス・D・ロバートスン少佐
【演奏】ブルーズ & ロイヤルズ・バンド
【録音】2005.11.23-24、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
【CD番号】Specialist、SRC133
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1081/

 ライフ・ガーズに続き企画されたのは、もうひとつの近衛騎兵連隊のバンド、ブルーズ & ロイヤルズ・バンドのCD。1969年、原連隊の統合により、近衛騎兵のロイヤル・ホース・ガーズ・バンド(1805年創設)にロイヤル・ドラグーンズ(ファースト・グラグーンズ)・バンド(1802年創設)が吸収されるかたちで、現在のバンドとなった。ライフ・ガーズと同規模の編成をもつ。かつて、このバンドの先達たちが演奏してきた今は演奏されなくなったマーチを徹底的に掘り起こしたこのCDの選曲は、シリーズの中で最もマニアックかも知れない。これで、バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』や、シュトラウス(父)の『ラデツキー行進曲』や、モリコーネの『ガブリエルのオーボエ』などが入ってなかったら、逆にレコード・アカデミー賞ものだったかも知れない。マーチ演奏は、これまた、とても格調高い。


[4]【ミュージック・オブ・ザ・ウェルシュ・ガーズ】
The Music of the Welsh Guards

【指揮】デーヴィッド・W・クレスウェル少佐
【演奏】ウェルシュ・ガーズ・バンド
【録音】2006.12.11-12、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
【CD番号】Specialist、SRC134
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1376/

 1915年創設のこのバンドは、近衛歩兵5連隊のバンドの中で最も歴史が浅い。しかし、ベルベットが包み込むような美しいテュッティ・サウンドは、脈々とつづくこのバンドの伝統となっており、バンド創設にあたり楽器購入費を募金で集めたウェールズの人々にとっても大きな誇りとなっている。それは、ウェールズ民謡『ホワイト・ロックのデーヴィッド』やモーツァルトの『交響曲第39番』から“メヌエット”などのコンサート・アイテムを演奏するときだけではなく、タイケの『旧友』やビッドグッドの『勇者の後裔』、グッドウィンの『空軍大政略マーチ(ドイツ空軍マーチ)』、ステーサムのグランド・マーチ『グレート・アンド・グローリアス』といったマーチを演奏するときも変わらない。収録曲のほとんどがバンドの歴代音楽監督による作編曲であり、その手の内に入った演奏からは、一種独特のやすらぎさえ覚える。音楽監督のクレスウェル少佐は、2005年6月にCD[2]のライフ・ガーズからこのバンドに移動になった。


[5]【ミュージック・オブ・ザ・グレナディア・ガーズ】
The Music of the Grenadier Guards

【指揮】デニス・バートン少佐
【演奏】グレナディア・ガーズ・バンド
【録音】2005.12.7-8、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
【CD番号】Specialist、SRC135
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1060/

 2006年に創設350周年というアニヴァーサリー・イヤーを迎えたグレナディア・ガーズ・バンドの記念碑的アルバム。さすがにロンドンをベースとするバンドだけに、歴代の楽長や音楽監督にも後世に名を残した人が多く、このCDのほとんどがそういった人々の作編曲であるのも凄い。有名な『ブリティッシュ・グレナディアーズ』は無論のこと、BBCテレビの「モンティー・パイソン」のテーマににこのバンドの演奏が使われたことからさらに有名になったスーザの『自由の鐘』、このバンドが演奏した自作を聴いて感動したナイジェル・クラークから贈られた『忘れし英雄たち』など、収録曲もすべてこのバンドに因んだものだ。


[6]【ミュージック・オブ・ザ・ロイヤル・エンジニアーズ】
The Music of the Royal Engineers

【指揮】エド・H・キーリー少佐
【演奏】ロイヤル・エンジニアーズ・バンド
【録音】2005.12.12-13、ロイヤル・ドックヤード・チャペル(チャタム)
【CD番号】Specialist、SRC136
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1080/

 2006年、創設150年という節目の年を迎えたロイヤル・エンジニアーズ・バンドの記念アルバムであると同時に、同年8月に退役した音楽監督のキーリー少佐の引退記念盤ともなった。目玉曲は、ピーター・グレイアムに委嘱された新作『ロイヤル・エンジニアーズ・バンド150周年マーチ』。典型的ブリティッシュ・マーチのメロディー・ラインと明るい響きをもつこのコンサート・マーチは、このバンドの定番としてだけでなく、広く一般に演奏される新作マーチになるかもしれない。他の収録曲も、バンドの150年に因んで選ばれたマーチが中心だが、指揮者のキーリー少佐がマーチ演奏において示すスピード感覚とバランスは現代の指揮者の多くが忘れてしまった一種独特の味があり、クイック・マーチ、スロー・マーチのいずれにおいても、そのやや前のめり気味にセットされたノリノリの演奏は、とても心地よい。オールド・ファンにとっては懐かしい、1960年代のロイヤル・マリーンズの演奏に近い爽快感を覚えた。

(ウィンド・ナビゲーター: 樋口幸弘)

(2007.12.07)

 

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