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伝統のコンサート・スタイルで、
知られざる名曲との出会いが愉しめる
“バンドスタンド・シリーズ”
(SRC - Bandstand Series)
2002年、スペシャリスト(SRC)レーベルの“イギリス名作曲家シリーズ(Single
Composer Series)”の登場とそれに対する高い評価は、ひとりイギリス音楽ファンだけでなく、なかなか良質の録音機会とプロデューサーに恵まれなかったイギリスのミリタリー・バンド(ウィンド・バンド)関係者にも大いに歓迎されることとなった。その結果、SRCが“名作曲家シリーズ”で起用したバンド以外の多くのバンドの音楽監督たちもつぎつぎとプロデューサーのマイク・プアートンにアプローチを始め、会食をしながら自らのバンドの録音機会を探るという、いかにもヨーロッパ的な話し合いの機会が幾度となくもたれた。
しかし、同じイギリス人音楽監督と言えども音楽スタイルや趣向は千差万別。話を聞きながら、プアートンは、自ら立ち上げた“名作曲家シリーズ”の企画コンセプトと、音楽監督たちが実際に録音したいと考えているレパートリーやコンサート・スタイルとのギャップを埋めながら、新しいコンセプトのシリーズを作りだす必要を感じた。その結果、セカンド・シリーズとして生み出されたのが“バンドスタンド・シリーズ”だ。
イギリスの“バンドスタンド”は、町の中心部や公園、あるいはリゾート地などに設けられたほとんどが円形ステージをもつ屋根付きの野外音楽堂をさす。ラジオ放送やレコードが登場する前は、一般庶民が良質のナマの音楽に接することのできるほとんど唯一の娯楽施設であり、出演するのは、もっぱらミリタリー・バンドや町のブラス・バンド。人々はその周囲に置かれたデッキチェアに身をゆだねながら、新聞をひろげたり、編み物をするなど、思い思いのスタイルで音楽を愉しむ。このコンサートでは、プログラム進行と楽曲解説も指揮者の重要な役割で、ユーモアたっぷりに語りかけられる指揮者の話を聞くのも愉しみのひとつ。こんなバンドスタンドのコンサートは、いつしか、マーチ、序曲に始まり、独奏曲やワルツなど多種多彩な音楽がつづく、「バンドスタンド・スタイル」と呼ばれるイギリスのバンド独特のコンサート・スタイルを生みだすこととなった。
SRCの“バンドスタンド・シリーズ”は、アルバムごとに決めたテーマにしたがって選んだレパートリーを、最もイギリスらしいバンドスタンド・スタイルでプログラミングしたシリーズだ。プログラムには、プロデューサーのプアートンがイギリス各地のライブラリーやコレクション、バンドの楽譜庫などから再発掘したレパートリーも含まれ、他に録音がないすばらしい作品との出会いが愉しめるだけでなく、先にスタートした“名作曲家シリーズ”の補完的役割を果たすこととなった。
一方、録音会場やエンジニア、使用編成の選択など、プロデューサー、プアートンのプロデュースにかける基本姿勢はまったく同じ。このシリーズでSRCデビューを果たし、その音楽性を高く評価されたノルウェー海軍バンドは、彼らのベストセラー・アルバムとなったホルスト作品集「オラフ王を称えて」の録音をまかされるに至った。
ゆったりとしたバンド・コンサートの時間の流れの中で、知られざるすばらしい作品との出会いも愉しめる“バンドスタンド・シリーズ”。第4作からは、テーマ選択のレンジもいっそう拡がり、フィリップ・スパークやゴフ・リチャーズ、ピーター・グレイアムなどの現代作曲家の作品も盛り込まれるようになったことから、現代ウィンド・ミュージック・ファンにとっても見逃せないシリーズとなった。
[1]【アイリッシュ・ガーズ・バンドスタンド
- エリンを忘れるな】
An Irish Guards Bandstand - Let Erin
Remember
指揮:アンドルー・チャトバーン少佐
演奏:アイリッシュ・ガーズ・バンド
録音:2002.10.23-24、ロイヤル・ホスピタル・チャペル(チェルシー)
CD番号:Specialist、SRC121(CD-0581)
近年、美しい歌曲の宝庫として、また、リヴァーダンスなど、アイリッシュ・ダンスが世界的注目を集めることとなったアイルランドをテーマとしたすばらしいアルバム。チャールズ・スタンフォードの序曲『シャミュス・オブライエン』やジョン・アンセルの『3つのアイルリッシュ・ダンス』、ルロイ・アンダーソンの『アイルランド組曲』からの3曲、パーシー・グレインジャーの『デリー地方のアイルランド民謡(ロンドンデリーのうた)』などの有名曲に混じり、ドイツから渡りアイルランド音楽の発展に寄与したヴィルヘルム・フリッツ・ブラセの『アイルランド幻想曲“エリンを忘れるな”』やBBC放送吹奏楽団の指揮者だったバートラム・ウォルトン・オードンヌルの『アイルランドの2つのトーン・スケッチ』など、なかなか耳にすることができないウィンド・オリジナルの古典が収録されている。フィドル独奏をまじえたJ.D.ブリッグデンの『ケルト舞曲』は、“リール”“セッション”“ダンス”など、アイルランドの人々にとって最も身近な音楽の姿をよくとらえている。
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0581/
[2]【ノルウェー・バンドスタンド】
A Norwegian Bandstand
指揮:レイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセン
演奏:ノルウェー王国海軍バンド
録音:2004.3.31 & 2004.4.2、バッケンテイゲン(ノルウェー)
CD番号:Specialist、SRC122(CD-0713)
ベストセラーとなったホルスト作品集「オラフ王を称えて」を録音したノルウェー海軍バンドのSRCデビュー・アルバムで、プアートンが自国以外のバンド、録音スタッフと行った初セッション盤となった。収録されている音楽は、グリーグの『ノルウェー舞曲』、ハルヴォルセンの『ノルウェー狂詩曲第1番』、ハンセンの『ヴァルドレス』、スヴェンセンの『パリの謝肉祭』など、すべてノルウェー作曲家の手になる作品ばかり。アルバム全体をとおして自国の音楽に対する理解の深さと愛情が感じられるのが大きな魅力となっている。演奏者のノルウェー海軍バンドは、1820年の創設。近年の改正で完全なウィンド・アンサンブル編成となり、30数名の小編成ながら、粒ぞろいの奏者を揃え、クラシック・スキルのすばらしい演奏活動を展開している。指揮者のペデルセンは、1988年以降、現在もオスロ・フィルのソロ・クラリネット奏者をつとめており、2003年秋にこのバンドの首席指揮者に就任した。
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0713/
[3]【ヘンリー・バンドスタンド】
A Henley Bandstand
指揮:デニス・バートン少佐
演奏:グレナディア・ガーズ・バンド
録音:2004.2.24-25、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
CD番号:Specialist、SRC123(CD-0678)
毎年7月、英オックスフォードシャー州のテムズ河畔で行われるボート・レース“ヘンリー・ロイヤル・レガッタ”は、ビクトリア女王時代からつづくイギリス王室主催の夏の伝統行事のひとつ。河畔のバンドスタンドではミリタリー・バンドの演奏が行われ、避暑をかねて集まった観衆はレースを目で追いながら、同時に川面をわたる音楽も愉しんでいる。なんとも贅沢な時の過ごし方だ。グレナディア・ガーズ・バンドは、過去25年以上にわたって“ヘンリー”の演奏をつとめ、このアルバムではその演奏レパートリーから、エロールの歌劇『ザンパ』序曲やムソルグスキーの歌劇『ソロチンスクの市』から“ゴパック”、ウッドの狂詩曲『船乗り』といったクラシック音楽から、『コール・ポーター・スペクタキュラー』のようなライト・ミュージックまで、耳なじみのいい音楽がつぎからつぎへと演奏される。一方、イギリス録音界の権威トニー・フォークナーがとらえたすばらしいサウンドも、グレナディア・ガーズの優雅な演奏を盛りたてている。
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0678/
[4]【グリニッジ・バンドスタンド】
A Greenwich Bandstand
指揮:マルコム・トレント中佐
演奏:ロイヤル・アーティレリー・バンド
録音:2005.6.22-23、ウーリッチ・タウン・ホール(ロンドン)
CD番号:Specialist、SRC124(CD-0933)
2005年、このアルバムが企画・録音された年が、ネルソン提督率いるイギリス艦隊がナポレオンのフランス=スペイン連合艦隊を打ち破った“トラファルガー海戦”戦勝200周年にあたったことから、船乗りにとって欠かせない世界標準時計があり、このバンドの本拠に程近く演奏でよく訪れるグリニッジがテーマに選ばれた。海や旅にちなんだ音楽を中心としたアルバムで、ヴィルヘルム・ツェーレの名マーチ『トラファルガー』に始まり、ジョン・アンセルの序曲『帆船』、フィリップ・スパークの『オリエント急行』、同じく『ハイランド讃歌組曲』から“アルドロス城”、アルフレッド・リード編の『グリーンスリーヴズ』、ゴフ・リチャーズ編の『羊飼いの歌』、ゴードン・ラングフォードの『イギリスの海の歌による幻想曲』、ピーター・グレイアム編の『ケルトの叫び』から“ブレークアウト”など、世界中でおなじみとなっている音楽が、イギリスのバンドならではのレンジの広い音楽表現とダイナミックな演奏で愉しめる。ぜひともマークしておきたい1枚だ。
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0933/
[5]【キャッスル・ヒル・バンドスタンド】
Castle Hill Bandstand
指揮:S・C・バーンウェル少佐
演奏:アイリッシュ・ガーズ・バンド
録音:2006.8.17-18、チェルシー・バラックズ・チャペル(ロンドン)
CD番号:Specialist、SRC125(CD-1202)
ロンドンを訪れた観光客がちょっと足を伸ばして訪れる場所のひとつに、女王一家がウィークエンドを過ごすウィンザー城がある。城丘の最も高所のジュビリー・ガーデンに設けられたキャッスル・ヒル・バンドスタンドでは、4月から8月の毎週日曜日、午後2時30分から4時にかけて近衛各連隊に所属するいずれかのバンドのコンサートが行われる。このアルバムには、キャッスル・ヒルで演奏される典型的なプロが収められており、ダンの有名なマーチ『キャプテン・ジェネラル』、スッペの『詩人と農夫』序曲、ホゼイの『自由の同盟』、モス編の『ジョン・ウィリアムズ・シンフォニック・サウンドトラック』、カーナウの『よろこびの翼』という、変化に富んだレパートリーが、バンドスタンド・コンサートの流れに従って愉しめる。指揮者のバーンウェル少佐は、2005年6月に就任した新しい音楽監督。このとき奏者移動もあったことから、典型的ブリティッシュ・スタイルの前監督時代とはレパートリーも一新、よりインターナショナルな演奏スタイルのバンドとなった印象がある。
[6]【ライフルズ・バンドスタンド】
A Rifles Bandstand
指揮:カリュム・C・グレイ少佐
演奏:ライフルズ・バンド & ビューグルズ
録音:2006.11.28-29、ラムジィ・アビー(ハンプシャー)
CD番号:Specialist、SRC126(CD-1253)
近年の統廃合により、2007年2月1日に正式発足した新バンドと同バンド所属の人気者ビューグル鼓隊を伴ったデビュー・アルバム。録音はそれに先立ち、2006年中に行われた。40名に満たない小編成のバンドながら、モチベーションもスキルもともに高く、録音会場となったハンプシャーのラムジィ・アビー(寺院)の豊かな響きを味方につけて、すばらしい演奏を愉しむことができる。さすが本場モノと唸らせる野性味あふれるアーノルドの『4つのスコットランド舞曲』(全曲)や、アルプスの山々の情景が眼の前に映し出されるようなスパークの『山の歌』などにみせる豊かな表現は、編成のハンデなど微塵も感じさせない。また、久しぶりに収録されたファーノンの『ウェストミンスター・ワルツ』、ビンジの『ウォーターミル(水車)』、ベイコのマーチ『ロイヤル・ウィンザー』など、つぎつぎと演奏されるライト・ミュージックも、聴衆にバンド・コンサートの愉しみを伝える好アイテムといえる。バンド名こそ知られていないが、ぜひマークしておきたいアルバムだ。
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1253/
(ウィンド・ナビゲーター: 樋口幸弘)
(2007.06.25)
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