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録音の主体がアナログからデジタルに変わり、CDがそれまでのレコードにとって代わっていった流れとほぼ呼応するように、わが国のマーケットで販売される海外録音盤のバンド国別勢力地図も大きく塗り変わった。それまでのDecca,
EMI, Philips, RCAといった誰もが知っているメジャー・レーベルが各国自慢のバンドを起用して一般音楽ファン向けに制作したエンターテイテント性の高い録音の数がどんどん減り、それに代わるようにウィンド・ミュージックの楽譜を出版している楽譜出版社が自社出版物のプロモーションもかねて録音したCDが次第に増えていったからだ。それら出版社ものは、まず、有力な出版社のあるオランダやベルギーのものが先頭を切り、その大成功を見た他国の出版社がそれに続いた。
もちろん、大手が築き上げたそれまでのマーケットとニーズが完全に無くなったわけでは無かった。イギリスでも、大手撤退の隙間を埋めるようにバンド録音専門の新興レーベルがつぎつぎと生まれ、ものすごい数のバンド・レコードやCDが毎月のように録音・発売されてマーケットを引き継ぎ、ビジネスとしても大きな成功をみた。しかし、その一方で、それらの多くは、一部を除いて、録音コストを抑えるために、ホール録音ではなく、響きのないポップス用の小さなスタジオにプレイヤーをぎっしりと詰め込んで録音されたものだったことから、自然そのサウンド・クオリティは、実際のナマ演奏から程遠く、かつてのメジャー・レーベルによる録音を知るファンをがっかりさせることも多かった。そんな事情とは知らない日本でも、ファンの間で"イギリスのバンドは、もうダメだ"という見当違いな憶測すら実しやかに語られるようになっていった。
"スペシャリスト・レコーディング(Specialist Recording
Company / SRC)"は、2001年、すでに多くのクラシック録音で名声を博していたプロデューサー、マイク・プアートンをマネージング・ディレクターとして、新しいコンセプトのもとでのバンド録音を実現するためのレーベルとして誕生した。
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Mike Purton
(by Courtesy of the
Bromley Youth Music Trust) |
マイク・プアートンは、1973年、厳格で鳴る指揮者サー・ジョン・バルビローリが率いていたイギリスの名門オーケストラ、ハレ管弦楽団に21才の若さで首席ホルンとして迎え入れられ、演奏活動の傍ら、1978-1991年、ロイヤル・ノーザン・カレッジ・オブ・ミュージックのホルンの主任教授、1991-1997年、フィリップ・ジョーンズのもとでトリニティ・カレッジ・オブ・ミュージックの管打楽器科ヘッド、1987年からはべネンデン音楽学校の音楽監督も兼任、というすばらしいキャリアの持ち主だ。レコード・プロデュースの夢もこの間に実現し、最初のシリーズはVirgin
Classicsのための室内楽録音だった。過去にプロデュースしたCDは、EMI,
Naxos, ASV, BMGなどにあり、トリニティ時代にコールドストリーム・ガーズ・バンドの音楽監督デーヴィッド・マーシャル少佐と知己を得たことが今日のSRC設立へとつながった。
SRCには、既存の新興レーベルと一線を画するつぎのような録音コンセプトがあった。まず、録音会場には教会もしくはナチュラルな残響をもつコンサート・ホールだけが選ばれていること。つぎに、録音エンジニアにはメジャー・レーベルのクラシック録音で経験をつんだ第一級エンジニアだけが起用されていること。ここには、Tony
FaulknerやPhilip Hobbsなどの新旧の録音スペシャリストたちが名を連ねる。そして、徹底したプアートン自身のスコア・リサーチとシリーズ・コンセプト。そして、制作現場での妥協を許さない指揮者とのコラボレーション。プログラム・ノートにも第一線の専門家を起用、などなど。
この結果、気品に満ちたジュエル・ケースに収められた"サー・エドワード・エルガー(Vol.1 & 2)"、"サー・アーサー・ブリス"、"サー・マルコム・アーノルド"、"サー・エドワード・ジャーマン"、"サー・アーサー・サリヴァン"、"サー・ウィリアム・ウォルトン"とつづいた最初の英国作曲家シリーズがすばらしい録音とともに颯爽と登場したとき、それらはイギリスのバンド関係者だけでなく、日本のイギリス音楽ファンをも狂喜乱舞させた。
その後、イギリスの伝統的バンド・コンサート・スタイルでひとつのテーマに沿ったレパートリーを録音した「バンドスタンド・シリーズ」や、演奏バンドの歴史や埋もれたレパートリーに今一度スポットを当てる「レジメンタル・シリーズ」など、SRCには新しい学究的シリーズも登場しているが、プロデューサー、プアートンの頑固なまでの制作哲学は終始一徹。今後は、イギリスのみならず、スペインやオランダにも手を伸ばしてみたい、と語る。
グスターヴ・ホルスト、レイフ・ヴォーン=ウィリアムズなど、イギリスは今日のバンド・オリジナルのルーツとなったすばらしい作品を生み出した国。その国の今を伝えるSRCの新しいコンセプトによるバンドCDは、バンド・ミュージックを愛するすべての人々にぜひとも愛聴いただきたい名品・定盤といえるのではないだろうか。
(ウィンド・ナビゲーター: 樋口幸弘)
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