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斎藤高順の音楽
吹奏楽作品集「ブルー・インパルス」が発売!

text:福田 滋(陸上自衛隊中央音楽隊/チーフ・ライブラリアン)


11月22日にユニバーサル・ミュージックから“ブルー・インパルス”−斎藤高順吹奏楽作品集[UCCS-1098]が発売された。
 民間人出身としては異例の航空自衛隊音楽隊長を務め、日本を代表する吹奏楽作曲者として活躍、一昨年亡くなった斎藤高順(1924-2004)初の本格的な作品集である。航空自衛隊を象徴する名曲で、FM東京の番組「フレッシュ・モーニング」のテーマ曲としても有名であった「ブルー・インパルス」をはじめとする作品に加え、小津安二郎監督作品を自ら吹奏楽用に編曲した貴重なものも含んでいる本アルバムは大変に貴重である。
 演奏は斎藤高順が隊長を務めた航空自衛隊航空中央音楽隊(指揮:進藤潤)である。元隊長の作品集ということでメンバーも大変熱のこもった演奏を繰り広げている。
「自然への回帰」や「フライング・エキスプレス」、交響詩「母なる海」、「マーチング・エスカルゴ」、「バンドのためのコンチェルティーノ」、「テューバの恋人」は初CD化である。
注目は作曲者自身アレンジによる、小津安二郎監督の映画作品3作の音楽(「東京物語」「彼岸花」「秋刀魚の味」)で、吹奏楽の世界に入る前の斎藤ワールドが聞ける。

1.松竹映画「東京物語」(1953)より“主題と夜想曲”
2.松竹映画「彼岸花」(1958)より“主題曲(サセレシア)”
3.松竹映画「秋刀魚の味」(1962)より“主題曲とポルカ”

さて、斎藤にとっての初めての映画音楽が小津安二郎監督の代表作となった「東京物語」(1953年)であった。 このときの経緯を斎藤氏はこう語ってくれた。「小津監督が今までどんな映画をやってきたのか?と聞いてきたので、今度が初めてと答えたら、監督は大いに結構、と上機嫌だったのです。さて、小津監督に出来上がった音楽を聞いてもらうときには緊張しました。監督は結構厳しいことを言う人物と噂に聞いていたからです。何度か書き直しを命ぜられた人もいたと聞いていました。実際に聞いていただくと、監督はなかなか良いね。と笑ってくださいましたので、ホっとしたことを覚えています。」

↑映画「東京物語」のポスターと
一緒に(自宅で)

以後、斎藤は小津に気に入られ「早春」

(1956)、「東京暮色」(1957)、「浮草」(1959)、「秋日和」(1960)、「秋刀魚の味」(1962)と立て続けに小津映画の音楽を担当することになる。
 小津は斎藤に「ぼくは、登場人物の感情や役者の表情を助けるための音楽を、決して希望しない」と言い、またこのようにも言った。「いくら映画に悲しい気持ちの登場人物が現れていても、その時、空は青空で。陽が燦々と照り輝いていることもあるでしょう。これと同じで、私の映画のための音楽は、何が起ころうと、いつもお天気の良い音楽であって欲しいのです。」と伝えた。
 こうした小津の要望に斎藤の音楽はピッタリと合っていたのだと思う。晩年作「小早川家の秋」では黛敏郎を起用しているが、弦楽器中心に作品を書いた斎藤に比べ、管楽器主体の新しい感覚の音楽は小津作品にうまくかみ合っていなかったように思える。主に場面転換に音楽を使用する小津であるが、新感覚の黛の音楽では、作品の流れがスムーズに行かず、変わってしまうのである。どうしても、あの底抜けに明るい斎藤のポルカ「サセレシア」のような音楽が聞きたくなるのである。
 斎藤と小津監督のつながりは監督の死まで続く「小津監督は私の長男の名づけ親でもあります。章一と命名していただきました。その後昭和38年に父が亡くなったときには監督が葬式のためにわざわざ来宅をしていただきました。このときはまさかその年の暮れに監督が他界されるとは夢にも思いませんでした。この後直ぐに監督の首に悪性の腫瘍ができて築地のガンセンターに入院されたのです。お見舞いに行くと病室に原節子さん、司葉子さんがいて監督と4人でお話したのが永遠のお別れとなりました。この後、12月12日に佐田啓二さんから赤いチョッキをプレゼントされ着せてもらったそうですが、そのお祝いの後まもなく亡くなったそうです。この日は監督のちょうど60歳の誕生日で還暦でした」
「小津監督は私のポルカに歌詞をつけて寿美花代さんに歌ってもらい歌曲にしようと提案してくれましたが、ついにそれは実現しませんでした」
 このように小津作品に欠かせない音楽が黛敏郎のそれではなく、斎藤高順のものであると確信できるのである(もちろん音楽の内容ではなくという但し書きがつくが…)。 本人もこのように語ってくれた。「私が普通に書いた音楽を小津監督が気に入ってくれた、と今でも思っています。ですからあれは“小津調”と言われていますが、実は“斎藤調”なんですね。小津監督の好みの楽器はストリングス、フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルンです。トランペットやトロンボーンといった金管楽器はあまり好きではありませんでした。それから木琴、グロッケン、そしてアコーディオンが好きでしたねぇ。」

 コンクールなどに代表される効果的、華麗な音響を求める昨今の吹奏楽界において、このようにやさしくてホっとさせてくれる音楽が、吹奏楽でも表現可能なことをこのCDで多くの映画音楽ファンや吹奏楽ファンに確認していただきたいと思う。
進藤潤指揮の航空自衛隊航空中央音楽隊は、充実した響きで斎藤高順の芸術を見事に表出させている。
なお、録音制作は白樺録音企画の金子雅雄よるもので、ジャケットには斎藤氏と親交のあった秋山紀夫氏のお言葉を頂戴し、曲目解説は私が書かせていただいた。

↑ 小津安二郎監督作品撮影でのひとコマ。(1957年)後列、左から3人目が斎藤高順氏。小津監督の他に笠智衆、有馬稲子らの顔が見える

 

(AD 2006.11.24)


 

 

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