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盲学校が演奏して日本一を獲得した「幻のオリジナル曲」
ついに楽譜出版決定!

J.グラステイル作曲
≪ジャンヌ・ダルク〜8つの打楽器群のための≫
  (出版:ビムス・エディションズ)

by 富樫哲佳(音楽ライター)

 2005年の春に開催された、第28回全日本アンサンブル・コンテスト(全国大会)で、「ある団体」が、たいへんな話題となった。

 それは、「大学の部」に出場し、8人のパーカッション・アンサンブルで見事金賞を射止めた、九州代表「熊本県立盲学校」アンサンブル部である。

 校名でお分かりのように「盲学校」、つまり、視覚障害者専門学校の参加だ。全日本吹奏楽連盟が主催するいくつかのコンクール、コンテストの歴史の中でも、障害者バンドの参加は、これが初めてのことだったらしい。

 もちろん彼らは、熊本支部予選〜九州大会をすべて「金賞」獲得で通過し、そして、全国大会でも金賞を獲得した。
 その過程は、九州にお住まいの方であれば、この夏、テレビ熊本で『僕らが見つけた音と光』と題したTVドキュメントが放映されたので、それで見て、知った方も多いと思う。

 視覚障害者によるパーカッション・アンサンブルがいかに難しいものであるか。

 「アンサンブル」は、指揮者がいないから、通常は、「アイ・コンタクト」・・・つまり、パート・リーダー的存在の者が、曲の始まり〜リタルダンド〜フェルマータ〜音の切れ目〜ア・テンポ・・・こういった指示を、身振りや視線で「合図」して送る。

 しかし、彼らのほとんどは、視力がゼロに近い。全盲のメンバーもいる。だから「アイ・コンタクト」ができない。

 さらにいえば、マレット類の場合、目的の音の鍵盤を正確に叩くことも難しい。ドラム類にしたって、叩く場所によって音色は変わる。また、当然ながら1人の奏者が、いくつもの打楽器を担当するわけで、自分の身体の周囲の、どこにどの楽器が、どんな位置でセッティングされているのかを、頭の中で把握していなければならない。

 もちろん、日常の訓練に加え、カンを働かせて、狙った場所を叩くことになるのだろうが、もし、立ち位置が少しでもずれてしまえば、当然、叩く場所もずれる。マレット類のように音階を発する打楽器の場合、違う音を叩いてしまったら、それでオシマイだ。

 だから、彼らのステージ上のヴィジュアルは、他団体とは、少々違っていた。8人のうち、半分近くが、客席に背を向けていた。そして、通常のパーカッション・アンサンブルよりも、すべての奏者と楽器が、ずっと中央に寄り集まっていた。
 「アイ・コンタクト」ができない分、彼らは、他奏者の「気配」、あるいは「息」を感じながら、音楽をつくりあげるのである。だから、客席に背を向けて奏者同士が向き合い、ずっと中央に固まって、8人が「一体」となって演奏しなければならなかったのである。

 そういった数々のハンディを乗り越えて、「熊本県立盲学校」は、日本一の座を射止めた。

 言うまでもないが、彼らは、「障害者なのに頑張った」から金賞を獲得できたのではない。あくまで、演奏された音楽が素晴らしかったから、金賞を獲得したのである。そのことは、当日、会場にいた人なら、あるいは、ビデオや録音を聴いた人なら、納得できるはずだ。

 そんな彼らを指導し、日本一に導いたのが、同部の指導者、九州在住のフリー・パーカッショニスト冨田篤氏である。
 冨田氏は、楽譜が読めない(=見えない)彼らのために、すべてのパートを自分で演奏し、テープに収録し、聴かせ、覚えさせた。そのほか、ひとことでは言えないほど多くの試行錯誤を重ね、「ある曲」を、ひたすら練習し、指導し、ステージ上で演奏した。

 実は、その「ある曲」の存在が、「盲学校」の出場という”事件”と同時に、アンコンの熊本支部大会〜九州大会〜全国大会の過程で、これまた、大きな話題となっていた。

 その曲とは、彼らが演奏した、≪ジャンヌ・ダルク〜8つの打楽器群のための≫(ジェリー・グラステイル作曲)

 ジャンヌ・ダルクとは、英仏百年戦争の末期、追い詰められたフランス側にあって、突如として神の声を聞き、軍を率いて戦況を逆転させた不思議な少女である。のちに、その才覚を恐れられ、逮捕、火刑に処せられた(現在は、聖人に列せられている)。
 クラシック音楽の題材にもなっているし、吹奏楽曲でも、坂井貴祐の≪吹奏楽のための叙事詩「ジャンヌ・ダルク」≫なる曲があるのを見ても分るように、音楽モチーフとしても十分通用する存在なのだ。

 そんなジャンヌ・ダルクの生き様をモチーフにした曲だけあって、(戦闘を思わせる)激しい前半部〜(処刑後を思わせる)静謐な後半部と、聴かせどころ満点のアンサンブル曲であった。

 ただ、話題になったのは、その音楽的内容ばかりではなかった。

「いったい、どこの出版社から出ている楽譜なのか」「作曲者グラステイルとは、どこの国の誰なのか。そんな作曲者、どのリストにも出ていない」・・・ひいては、アンコン後、多くの団体が「あの曲を演奏したいのだが、どうすれば楽譜を入手できるのか」と、冨田氏や、盲学校に、問い合わせが相次いだらしい。

 ある楽譜出版社に至っては、世界中の、アンサンブル譜を出している出版社に問い合わせ、輸入を試みようとしたらしいが、結局、何も分らなかったという。

 これに関する「謎解き」は、あえてここではしないが、要するに、この曲と作曲者は、盲学校の指導者・冨田篤氏との、極めて個人的な関係の上に存在するものらしいのだ。だから、楽譜も、あくまで盲学校のために用意されたようなもので、一般に出版されている楽譜ではなかったのである。いわば「幻のオリジナル曲」とでもいうか。

 それが、ついに、一般発売されることになった。どのような過程を経て、オフィシャル刊行に至ったのかは知る由もないが、きっと、パーカッション・アンサンブルの新曲を探している人たちにとっては福音に違いない。

 機会があれば、スコアを実際に見ていただきたい。この曲を、楽譜を読む(=見る)ことのできない視覚障害者が演奏することが、どんなにスゴイことであるか。そして、パーカッション奏者の方々は、ぜひ、挑戦してみていただきたい(セル出版で、定価3,500円だそうなので、比較的入手しやすいはずだ)。人間の持つ可能性がいかに無限大であるかを、身をもって感じると思う。


ジェリー・グラステイル作曲
≪ジャンヌ・ダルク〜8つの打楽器群のための≫


  フルスコア+パート譜セット/定価:3500円(税別)
  出版:ビムス・エディションズ http://www.bmseditions.com/
  〒353-0004 埼玉県志木市本町4-5-39-102
  Tel.048-471-6884/Fax.048-471-6885

■熊本県立盲学校 http://www.edu-c.pref.kumamoto.jp/sh/kumamo

■冨田篤氏が所属するパーカッション・グループ「パルスX」HP http://pulse5.web.infoseek.co.jp/

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