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■ザ・レッド・マシーン〜ピーター・グレイアム作品集/演奏:コールド・ストリーム・ガーズ CD-0720
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意欲的な新レーベル、ここに誕生。

「團伊玖磨・吹奏楽作品集vol.1」

 2005年3月、1つの新しいレーベルが誕生した。
「スリーシェルズ」(Three Shells)である。
text:中橋 愛生(作曲)

 このレーベル、「日本の作曲家の聴く機会の少ない知られざる作品を掘り起こし、それら名曲に今一度接する楽しみを広く提供したい」というポリシーのもとに設立されたのだという。明確な理念を掲げるレーベルというものは、これまでの吹奏楽界には殆ど皆無であったと言ってもいいだろう。このような姿勢を持つレーベルが立ち上げられたのは、実に感慨深い。

■團伊玖磨 吹奏楽作品集 vol.1
3SCD-0001
定価:2,800円(税込)

 なおかつ、それが邦人作曲家に特化されたものである、ということも興味深い。近年、邦人作品が取り上げられる機会というのは爆発的に増加した。それは実に喜ばしいことではあるのだが、その反面、取り上げられる邦人作品が「現行の作曲家」の作品に偏り過ぎているさみしさも感じないわけではなかった(と、「現行の作曲家」が言うのも奇妙な話だが)。
 過去の重要な作曲家の作品を再評価し、後世に伝えていくこと。これは、現代に生きる我々の一つの責務である。邦人作曲家のそうした管弦楽作品をディスクとして残していく活動としてはNAXOSによる「日本作曲家選輯」シリーズが注目を集めているが、同様の志を抱いた動きが吹奏楽にも現れたことは、この上ない喜びである。

 その第一弾として5月10日に発売されたのが、今回紹介する「團伊玖磨・吹奏楽作品集vol.1」である。改めて書くまでもないが、團伊玖磨は1924年に東京に生まれ、2001年に演奏旅行先の中国蘇州で死去した著名な作曲家である。オペラ「夕鶴」や歌曲「花の街」、童謡「ぞうさん」などの優れた作品を生み出した作曲家であると同時に、随筆「パイプのけむり」の執筆、東京駅「エキコン」の音楽監督など、幅広い活動を行っていた人物でもある。團は、1942年に東京音楽学校(現:東京藝術大学)作曲科に入学してすぐの1944年に陸軍戸山学校軍楽隊に入隊、芥川也寸志らと共に吹奏楽に従事しており、このこともあってか、吹奏楽作品を多数残している。しかし、ほんの3〜4曲を除いては、そのほとんどが余り広く知られているとは言い難いのが現状である。そんな作曲家の代表曲と重要曲、そして秘曲を選りすぐった今回のCD。決意と意欲を世に示した、このレーベルの出発点にふさわしい一枚だ。

 録音にあたって、演奏を担当しているのは「リベラ・ウインド・シンフォニー」(http://liberawind.hp.infoseek.co.jp/)である。その意欲的な活動や実力・実績に関しては、過去にこのバンドパワーでも紹介されたことがあるので、そちらを参照して頂きたい。

  「リベラ・ウィンド レコーディング・レポート」
  http://www.bandpower.net/report01/2004/07/04.html

  富樫哲佳氏による「リベラ・ウインド・シンフォニー 第2回コンサート」
  http://www.bandpower.net/report01/2004/04/03.html

 そして、このリベラ・ウインド・シンフォニーの音楽監督であり、今回タクトを取ったのは、福田滋氏。福田氏は陸上自衛隊中央音楽隊のユーフォニアム奏者であり、チーフ・ライブラリアンも務めておられる才人。その興味は多岐に渡り、その積極的な活動は多くの識者の共感を呼んでいる。福田氏のエッセイである「吹奏楽・隠れた名曲紹介」がバンドパワーにもスペシャルとして掲載されているので、そちらもご一読頂きたい。

  http://www.bandpower.net/special/fukuda_sp/index.html

 このエッセイからもすぐにお分かり頂けるように、福田氏の團に対する思いというのは並々ならぬものがある。その深い理解と共感の上に行われた録音であるのだから、その演奏が悪かろうはずもない。事実、この演奏は技術的な面もさることながら、各曲の内面へのアプローチが強く感じられる。
 リベラ・ウインド・シンフォニーのメンバーや福田氏だけではない。このアルバムの制作に携わった全ての人々の熱い思いが、このディスクを極めて高い水準のものへと引き上げている。これほど感動させられるディスクがこれまでにあっただろうか。


 それでは、収録されている各曲について順不同で紹介しておきたい。と言っても、主要な作品については上記の福田氏のエッセイが非常に詳しいし、CDのブックレットにも詳しい解説がなされているので、ここでは簡単に紹介するに留める。

 團の吹奏楽作品と言えば絶対に欠かすことができないのが、「祝典行進曲」(1959)と「新・祝典行進曲」(1993)の2曲。あまりにも有名で数多くの録音が発売されている作品である。團の吹奏楽作品集を謳うのであるから、この2曲が収録されるのは当然。ちなみに「祝典行進曲」は皇太子殿下(今上天皇陛下)のご成婚を祝して行われた初演が有名だが、東京オリンピックやロサンゼルス・オリンピックで入場行進に用いられたり、吹奏楽コンクールの課題曲に制定されたこともある「戦後日本の吹奏楽を代表する曲」。もしまだ聴いた事が無いという方がいらっしゃるならば、基本中の基本なので、ぜひこの機会に聴いておきたい。

 別府大分毎日マラソンを記念して書かれた「べっぷ」(1976)、映画《戦場に流れる歌》の音楽を用いて作曲された「青年」(1965)、團と深い関係のあるブリヂストンのために書かれた「ブリヂストン・マーチ」(1955)。この3つの行進曲は、既に他のCDで音源が発売されたこともあるので、ご存知の方もいるかもしれない。だが、いずれの曲も録音機会は希少であるし、「團の作品」としてまとめて系統的に聴けるようになったことは実に喜ばしい。考えてみれば、作曲家に焦点を絞ったCD、というのも、吹奏楽の世界にはそう多くない。こうした視座も大事にしたいものである。

 そして、ここからがこのアルバムの真骨頂。世界初CD化となった貴重な作品の数々である。

 ディスクの冒頭を飾るのはファンファーレを伴った行進曲である「若楠国体行進曲」。1974年に佐賀県で開催された「若楠国体」のために書かれたもので、九州と縁のある作曲家である團の、郷土愛すら感じられるような華やかな行進曲である。とても私的なことで恐縮だが、佐賀県育ちの私としては、一番聴いてみたかった團の吹奏楽作品。感激至極である。

「航空自衛隊大行進曲」は、1968年に航空自衛隊の委嘱により作曲されたもの。同じく収録された「パシフィック・フリート」は、米国太平洋艦隊のために海上自衛隊佐世保音楽隊によって初演された1988年に書かれたものである。團はこのように自衛隊の委嘱による行進曲も書いている。他にも機動隊のための行進曲などもあるのだが、これらでは勇壮かつ華麗なスタイルを聴く事ができる。

 行進曲「横須賀」は、トリオに横須賀市歌を引用したもの。幅広い層に音楽を親しんでもらうことを望んでいた團の、親しみやすく温かみ溢れる曲想である。團が自分のお膝元を大事にしていたことが、よく分かる。厳密には初CD化ではないのだが、一般に手に入るようなものではなかったので、実質、初販売である。

 そして、何と言ってもこのCDで特筆すべきは、「吹奏楽のための奏鳴曲」が収録されていることだろう。これは、1976年に東京吹奏楽団の委嘱によって書かれ、山本正人の指揮で初演された20分を超える作品。古今東西の吹奏楽作品の内でも大曲の部類に入るだろう。この曲、その内容の素晴らしさにも関わらず、初演の後に完全な形で再演されたことがない。唯一、1985年にブリヂストン吹奏楽団久留米が吹奏楽コンクール全国大会で第一楽章を抜粋演奏しているのだが、残念ながらこの録音は市販されていない。半ば「幻の作品」となっていたものである。今回、こうして聴けるようになったこと、関係者の皆様に心から感謝したい。
 この曲は、沖縄の旋法を用いた第一楽章と、葬送曲の副題を持つ重々しい第二楽章の、2つの楽章から成っている。


 以上が、このCDの収録曲である。様々な性質の物が幅広くあり、どんなに価値のあるものかがお分かりいただけるだろうか?

 ちょっと詳しい人ならば、「この曲がない」と思うかもしれない。そう、例えば團の吹奏楽作品の中でも知名度の高い「行列幻想」のような作品は、今回は収録されていない。だが、焦ってはいけない。このアルバムは「vol.1」なのだ。当然、「vol.2」以下へと続けられていくことだろう。既に、幾つかの作品は録音が終わっていると聞いているが、「vol.2」には「オリンピック序曲」や「福岡国体行進曲」、さらには「ブルレスク風交響曲」が収録される予定だという。楽しみである。
 また、「スリーシェルズ」はその名前の通り「三人の会」(團伊玖磨、黛敏郎、芥川也寸志)の作品を録音・販売していく計画らしいのだが、関係者に聞いたところ、今後は更に広い範囲で邦人作曲家を取り上げていきたいとのことである。吹奏楽という枠に括られないアプローチの仕方も、という将来の展望も持っているそうで、実に頼もしい限り。ぜひ、実現させて頂きたいものである。


 このような素晴らしい企画を実現させてくれるレーベルが誕生したことを喜びたい。また、同時に多くの人々に知って頂きたい。
 新しいレーベルを立ち上げる、というのはとても大変なことである。そして、如何に貴重なCDをリリースをしたところで、実際に多くの人のところへ届けるのは、非常に難しいことである。新興勢力が大きな販路を確保することはなかなか厳しい、というのは悲しい現実なのだ。

 こうした新興レーベルの原動力となるのは、熱心な購買層の存在だ。口コミでの評判が多くの人々の関心を呼び、路を拓くこともあり得る。我々一人一人にできるのは、実際にディスクを手にし、率直な感想を多くの人と語り合うことだけだ。だが、その小さな活動こそが、未来への灯を点す。

 スリーシェルズは、為すべき事を成している、貴重なレーベルだ。ここを応援しなくて、どこを応援するというのだろう?

■BPショップでこのCDを購入する>>>
http://www.rakuten.co.jp/bandpower/


■團伊玖磨 吹奏楽作品集 vol.1

指揮:福田滋
演奏:リベラ・ウィンド・シンフォニー

《収録曲》
・若楠国体行進曲(序曲付き)★
・パシフィック・フリート★
・ブリヂストン・マーチ
・青年
・航空自衛隊大行進曲★
・べっぷ
・祝典行進曲
・新・祝典行進曲
・行進曲「横須賀」
・吹奏楽のための奏鳴曲★

(★:世界初CD化)

3SCD-0001
定価:2,800円(税込)


BPショップでこのCDを購入する>>> http://www.rakuten.co.jp/bandpower/

スリーシェルズHP http://3s-cd.com/index.htm

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シエナWO
第19回定期演奏会

【日時】6月14日
【会場】横浜みなとみらいホール/チケット購入>>チケットぴあ(Pコード195-690)

 

◎團伊玖磨の作品を収録したCD/DVD

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