■吹奏楽曲でたどる世界史【第4回】ヤコブのみた夢~三日月に架かるヤコブのはしご(真島俊夫)

Text:富樫鉄火

●英語題:Jacob’s Ladder to a Cresecent
●作曲:真島俊夫 Toshio Mashima (1949~)
●初出:1993年(関西学院大学吹奏楽部による委嘱初演)
●出版:De Haske(オランダ)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-8252/
●参考音源:
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1325/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0988/
●演奏時間:約 8分
●編成上の特徴:標準編成に加えて、オーボエ1・2、イングリッシュホーン、バスーン1・2、バストロンボーンなどあり。
●グレード 5超

『旧約聖書』第1巻「創世記」の後半は、通称“族長物語”などとも呼ばれ、様々なタイプの初期人類の行状が記録されている。生臭い、リアルな話も多い。その多くは“家長権争い”、いわばリーダーの地位を巡るいざこざである。

その中でも、ある程度のヴォリュームで書かれているのが、のちにイスラエル12部族の始祖となるヤコブにまつわる物語だ。

紙幅の関係で、とてもすべてを解説できないが、このヤコブも一族内の争いに巻き込まれ、家にいられる状態ではなくなっていた。心配した母リベカは、故郷にいる自分の兄、つまりヤコブにとっては伯父にあたるラバンのもとへ一時避難させる。

毎晩、野宿をしながら伯父ラバンのもとへと旅をつづけるヤコブ。

ある晩、砂漠で眠っていると(エルサレムの北、10数キロの地点)、不思議な夢をみた・・・地上から天にかけて、巨大な階段(はしご)が架かっており、そこを、無数の天使たちが、昇ったり降りたりしていた。

さらに、すぐそばに神ヤハウェが現れ、「この土地をあなたに与える。子孫を増やしなさい。私はあなたを見守っている」とのお告げまであった

目を覚ましたヤコブは恐縮し、枕にしていた石を記念碑にして油を注ぎ、その地を「神の家(ベテル)」と名づけるのである。以後ヤコブは、収入の十分の一を神に奉納する戒律をつくった(これって税金の始まりか?)。

現在、「ヤコブのはしご(ジェイコブズ・ラダー)」といえば、「夢」もしくは「予知夢」の代名詞となっている。同名の映画もあった(1990年、エイドリアン・ライン監督『ジェイコブズ・ラダー』)。ただし、この映画は、ベトナム帰還兵が悪夢に悩まされるサスペンス・スリラーである。

このヤコブのエピソードを自由な発想で音楽にしたのが、≪三日月に架かるヤコブのはしご≫だ。

タイトルの「三日月」とは……実は、この作品は、関西吹奏楽界の名門・関西学院大学吹奏楽部が、創立40周年を記念して委嘱したのだが、同大学はキリスト教系であり、校章に「三日月」があしらわれているのである。その校章たる三日月に、地上から巨大な「ヤコブのはしご」が伸びてかかっている…というわけだ。

ちなみに、阿刀田高『旧約聖書を知っていますか』(新潮文庫)の中に、和田誠による「ヤコブのはしご」の楽しいイラストが載っているので、参考までにご覧になっておくといいかもしれない。

曲は、一瞬、ハリウッドSF大作映画のオープニング・テーマを思わせる、超ド級のスケールである。ここで作曲者がイメージしたのは、伝説時代の旧約聖書の世界というよりは、大宇宙の彼方に燦然と輝く三日月に向かって、悠然と突き進むスペースシップのような、現代的な感覚かもしれない。

作曲者・真島俊夫は、いまや日本の吹奏楽界を代表する作編曲家である。神奈川大学からヤマハ・バンド・ディレクターズ・コースで作編曲やジャズ理論を学んだ。それだけに、この曲の中間部でも、ゆったりした流れの中に、ジャズを思わせる和声が見え隠れする。

しかし、さすがに名門バンドのために書かれただけあって、一筋縄ではいかないスコアである。そう簡単に演奏できる曲ではない。下手をすると、やたら大音響の洪水がうずまくだけで、何が何だか分らない曲になりかねない。トランペットに要求される高音域もまことに過酷である。家を追われたヤコブの苦悩に通じるものがあろう。編成は、せいぜい標準プラスアルファといった程度だが、中間部に登場する、哀愁を帯びたイングリッシュホーンのソロなど、代用では味が出ない。

こんな曲を受け取り、平然と演奏する大学生がいるのかと思うと、それこそ夢をみているのではないかと思いたくなる。
<敬称略>

■吹奏楽曲でたどる世界史【第3回】8代目の人類メトセラ ≪メトセラⅡ~打楽器群と吹奏楽のために≫(田中 賢)

Text:富樫鉄火

●作曲 : 田中賢 Masaru Tanaka(1946~)
●発表 : 1988年(初演/ヤマハ吹奏楽団)
●出版 : サウンド・エム(レンタル)
http://www.sound-m.biz/index.html
●参考音源 : 『深層の祭』(佼成出版社)ほか
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-3221/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1553/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-3266/

●演奏時間 : 約7分
●編成上の特徴 : 打楽器奏者7人(各種打楽器のべ28種類)必要。
●グレード : 5

『旧約聖書』の第1巻「創世記」に、神が、最初の人類たるアダムとイヴを創造された、との記述がある。そこから子孫が代々つながって生まれていくさまがつづられ、アダムから数えて8代目の子孫として「メトセラ」なる族長の名前が登場する(訳によっては、メトシェラ、メトシェラハなどもある)。

この人、記述によれば969歳まで生きたらしい。概して『旧約聖書』に登場する人たちは、みんな数百歳まで生きた超長寿ばかりだが、それにしても、このメトセラ氏は群を抜いて長生きである。要するに“永遠の生命”の象徴なのであろう。

では、この曲は、そんな「創世記」の登場人物の1人であるメトセラ氏の生涯でも描いた曲なのか…と思えば、さにあらず。ことは、そう単純ではない。

まず作曲者は「相反する2つの要素」を持つ曲を考えたという。それらがひとつの曲の中で対立する…たとえば「打楽器群」(日本の祭りに代表される和楽器の響き)VS「管楽器群」(西洋の音楽)であり、「前半部」(現代語法による無調音楽)VS「後半部」(グレゴリオ聖歌をもとにした調性音楽)であり、「理知的」VS「激情的」である。

これらの構想から、「光」や「スピード」「宇宙」といったイメージが喚起され、必然的に「メトセラ」があらわれた。

そして、この構想を具現化するために、作曲者は、打楽器群に7人の演奏者(のべ28種類の打楽器)を必要とするスコアを書き上げた。その7人のサムライならぬ打楽器奏者が扱う楽器とは・・・

Ⅰ)サスペンドシンバル、ボンゴ、ティンパニ
Ⅱ)ザイロフォン、ボンゴ、トムトム(3)
Ⅲ)ヴィブラフォン、ウッドブロック、コンガ、カウベル、ゴング
Ⅳ)マリンバ、テンプルブロック(5音)、バスドラム、シンバル
Ⅴ)グロッケンシュピール、木鉦(浄土宗で使われる仏具)、コンガ
Ⅵ)タイ・ゴング(東南アジアに流布する音程のあるヘソ付きドラ)、
ボンゴ、トムトム(2)、マラカス
Ⅶ)テューブラーベルズ、テンプルブロック(4音)、カウベル、コンガ、
バスドラム、トムトム(表面をスーパーボールでこする)

…となっている。

曲は、衝撃的な無調の響きから始まる。ここは「現代」を表現している部分なのであろう。

やがて中間部で打楽器群のみの演奏となり、聴き手は、しばらくタイムトンネルの中を旅することになる。ここから最後まで、打楽器奏者は休みがない。ヘトヘトになる。

音楽は、次第に時間をさかのぼって、「現代」から「過去」へ。

ようやくタイムトンネルを抜けると、今度は、西洋音楽の原点であるグレゴリオ聖歌の旋律が始まる。しかし、バックでは、打楽器群が、まるで日本のお祭り太鼓のような演奏をつづけている。まるで「和」と「洋」が、あるいは「聖」と「俗」が合体したかのようだ。

そして、西洋の聖歌が、いつしか日本民謡のように響き始める。そこに輝いているのは、まさにすべての制約から解き放たれた「永遠の生命」=969歳のメトセラである。

作曲者自身が述べる「理知」と「激情」のぶつかり合いは、吹奏楽でこそ表現できたといっても過言ではない。演奏は決して易しくはないが、打楽器奏者さえ揃えば、挑戦する価値は十二分にある、これぞ吹奏楽史に残る名曲といえよう。

この曲は、当初、ヤマハ吹奏楽団のために書かれた12分前後の曲だったが、コンクール自由曲用に短縮版がつくられた。それが、この≪メトセラⅡ≫である。原典版≪メトセラⅠ≫も出版(レンタル)されているが、正確には初演時の原典版とは、少々違うようだ。いってみれば「Ⅱ」をもとに、原典版に近いイメージで再構成されたのが「Ⅰ」のようである。

作曲者・田中賢は、東京音楽大学作曲科を卒業後、ベルリンで教職をつとめ、日本よりもヨーロッパで先に人気となった、気鋭の作曲家である。他にも≪紅炎の鳥≫≪エオリア≫など、多くの吹奏楽曲を書いている。
<敬称略>

■吹奏楽曲でたどる世界史【第2回】ノアの方舟伝説 ≪ノアの方舟≫(アッペルモント)

2Text:富樫鉄火

●原題:Noah’s Ark
●作曲:ベルト・アッペルモント Bert Appermont (1973~)
●初演:1998年、ベルギーのレメンス音楽院にて。作曲者自身の指揮、同音楽院バンドによる。
●出版:Beriato(ベルギー)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-8001/
●参考音源:『Colors』(Bertiato/海外盤)、『パリのスケッチ』(佼成出版社)他
●演奏時間:約10分半
●編成上の特徴:オーボエ1・2(内、イングリッシュホーン持ち替え1)。B♭クラリネット1~3とトランペット(またはコルネット)1~3に各div.あり。ユーフォニアムにもdiv.あり。ハープあり。打楽器かなり多数必要(雷板かバスドラム、ウインドマシーンかシンセサイザーなども)。
●グレード:5

前回の黛敏郎に引き続き、今回も同じ「ノアの方舟」である(「箱舟」「箱船」の表記もある)。だが、前回が映画音楽=サウンドトラックの編曲だったのに対し、こちらは純粋な吹奏楽オリジナル曲だ(なのに、黛以上に映画音楽的なところが面白い)。

作曲者アッペルモントは、これからも登場すると思うので、簡単にご紹介しておこう。生まれが1973年なので、まだ33歳の若さだ。

ベルギーに生まれ、レメンス音楽院(発音は「レマンス」に近い)に学び、卒業後、作曲家・指揮者・音楽教師として活躍している。樋口幸弘氏のコラムによれば、彼が制作した幼年向けの音楽テキストはベルギー中の小学校で採用されているそうだ。そういえば、CDのジャケット写真などを見ても、たいへん優しげなイケメンぶりで、子供にも親しまれそうな容貌である。

作曲家として様々なタイプを書いているようだが、吹奏楽作品となると、たいへん分りやすく楽しい、それでいて相応のグレードを要する曲が多い。特に文学作品や史実を題材にした作品に抜群の手腕を発揮する。きっと音楽的なイマジネーションが豊富な人なのであろう。

この≪ノアの方舟≫は、そんなアッペルモントが、26歳頃にレメンス音楽院の卒業制作として作曲したものだ。だから「委嘱作品」ではなく、自らの意思によって題材を選び、書かれたことになる。学生時代にこんな曲を書くなんて、驚くほかない。

ただし、いわゆる「卒業論文」だから、ちゃんと指導教授のアドバイスがあった。その指導教授が、かのヤン・ヴァンデルローストである。そのせいか、曲の中には、チラチラと「ヴァンデルロースト節(ぶし)」とでも呼びたくなるような味わいが登場する。それだけ親しみやすく、明朗な曲だということだ。

前回の黛版≪ノアの方舟≫は、動物たちが行列をつくって方舟に乗り込む様子をコンサート・マーチ風に描いた曲だった。だが、こちらは「旧約聖書」の「創世記」に登場する「ノアの方舟」伝説全体を、抜群の描写力とスケールで描いた作品だ。それゆえ、「黛以上に映画音楽的」と感じるのである。

曲は4部構成で、約10分半、続けて演奏される。

 第1部「お告げ/The Message」……金管楽器の、静かで端正なファンファーレの積み重ねで始まる。ここは、神が人間界を一掃するため大洪水を起こそうと決意し、そのことをノアに事前通告する場面だ。「ノア」とは「正しき人」「神に選ばれし者」の意味もある。神は、ノア一族と、動物をひとつがいずつ乗せられる巨大な方舟(全長約130m)を作るよう告げる。1分ちょっとの短いプロローグで、すぐに第2部へ入る。

 第2部「動物たちのパレード/Parade of the Animals」……ここは、前回の黛版と同じ場面。パレードというよりは、動物たちがあちこちから集まってくるような賑やかな雰囲気で、なかなか楽しい。ここも1分半ほどで、曲は、中心部分へ移る。

第3部「嵐/The Storm」……いよいよ大洪水が発生。すべての大地は呑み込まれ、一面が水におおわれる。方舟は、嵐の中をさまよう。曲中、最も激しい部分だ。ウィンドマシーン(シンセサイザー代用可)で、吹きすさぶ大暴風雨が表現される。アッペルモントの表現は、あくまで具体的な描写に徹しており、抽象感はない。まさに映画音楽的な部分だ。ジョン・ウィリアムズを彷彿とさせる響きも登場し、聴いても演奏しても、たいへん親しみやすく接することができるはずだ。

第4部「希望の歌/Song of Hope」……やがて嵐もおさまる。ノアは、試しに、一匹の鳩を放ってみた。鳩は、オリーブの葉をくわえて戻ってきた。洪水がおさまり始め、大地があらわれてきた証拠だ。方舟は、アララト山の山頂に漂着する。曲は、残り約5分間、新たな人類の再建、旅立ちへの喜びを奏でる。クラリネットで「希望の歌」が奏でられ、次第に全体に広がり、壮大な盛り上がりを見せる。神はノアを祝福して「もう二度と洪水は起こさない」と約束し、その証拠に、空に大きな虹をかける(つまり「虹」は、神の証文なのだ)。彼方にかかる虹を彷彿とさせながら、静かに全曲は閉じられる。

構成も曲調も明確に4部に分かれているので、それぞれの部分でいかに違いを表現するかがカギになる。各部の情景を思い浮かべながら演奏することが極めて重要だ。演奏時間は10分強なので、課題曲が短い年だったら、コンクール自由曲に採用することも可能だろう。

ちなみに、方舟が漂着したアララト山(標高5165m)の山頂はトルコにあるが、山裾は周囲のアルメニアやイランにかけて広がっている。「方舟伝説」は、あくまで「旧約聖書」に記述された「物語」だが、昔からアララト山では「方舟の残骸」を思わせる遺跡が発見されている。近年の衛星写真でも、「巨大な舟」らしき「何か」が埋まっていることも判明している。どうやら「方舟伝説」は、ある程度事実だったようなのだ。

(追記)アララト山は、今後、リード≪アルメニアン・ダンス≫の回にも登場する予定。<敬称略>

■吹奏楽曲でたどる世界史【第1回】天地創造~ノアの方舟/映画『天地創造』より(黛 敏郎)

Text:富樫鉄火

●原題:From The Film “The Bible”
●作曲:黛 敏郎 Toshiro Mayuzumi (1929~1997)
●編曲:ケン・フォイトコム Ken Whitcomb
●初出:1966年(映画公開)
●出版:Robbin’s/Hal Leonard (米)
●楽譜セット ※現在絶版
●参考音源:『トーンプレロマス55/黛敏郎・管楽作品集』(佼成出版社)
●演奏時間:計約7分半(約3分半+約4分)
●編成上の特徴:イングリッシュホーンあり。スコア上はトランペットではなくコルネットを指定。
●グレード:3~4

1966年のアメリカ・イタリア合作映画『天地創造』(原題:The Bible…In The Beginning)は、大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと、巨匠ジョン・ヒューストン監督が組んで『旧約聖書』の第1巻「創世記」を完全映像化するという、前代未聞のプロジェクトであった。

この超大作に音楽担当として招かれたのが、当時36歳、日本の黛敏郎だった。

若い頃から天才作曲家として注目を浴びていた黛は、この数年前から、アメリカで新作を次々に発表し、一躍、世界的作曲家として名を馳せるようになっており、満を持しての起用であった。

撮影は、ローマのチネチッタ撮影所を中心に進められたが、音楽製作にあたって黛自身もローマに招かれ、広大なマンションの一室で作曲活動に没頭できる環境を与えられた。映画音楽家に対して貧しい環境と短時間しか用意されない日本の映画音楽界とのあまりの違いを、後年、黛は何度なく述懐していたものだ。

映画は3時間に及ぶスペクタクル巨編で、文字通り天地創造から始まり、アダムとイヴ、ノアの方舟、バベルの塔、ソドムとゴモラ…と、有名エピソードが圧倒的な迫力で描かれる。

が、いかんせん、全体が名場面の羅列に終わっており、いま観ても大味な印象はまぬがれえない。

だが、その一方で黛が書いたフルオーケストラの音楽はまことに壮大・美麗で、素晴らしいのひとことに尽きる。

このサウンドトラックから、ケン・フォイトコムにより、≪メイン・テーマ≫と≪ノアの方舟~動物たちの行進≫の2曲が吹奏楽版に編曲されている。楽譜は現在絶版中で入手困難のようだが、少し歴史のあるバンドだったら、楽譜棚の奥にレパートリーとして眠っているのではないだろうか。

 ≪メイン・テーマ≫は、文字通り、映画のオープニング・タイトルに流れる雄大な音楽。ドラの一撃で始まり、金管中音部のファンファーレ風のイントロ、それにつづく木管群の美しい旋律…と、聖書の世界がスケール豊かに描かれる。いかにもロマンティックなスペクタクル映画音楽という感じだ。

≪ノアの方舟~動物たちの行進≫は、「創世記」の有名な場面。驕り高ぶった人間界を一掃するため、神は巨大な洪水を起こすことを決意する。それを事前に知らされたノア(この時600歳!)は、神の啓示に従って、巨大な方舟をつくり、地上のすべての動物たちを、ひとつがいずつ乗り込ませる、その乗船の様子を描いたマーチ風の曲だ。

これぞ、黛の才能が爆発した、あまりにもユニークなマーチ。方舟に乗り込む動物たちを表現したとおぼしきユーモラスな旋律が重なり、次第に緊迫感を増して行く手腕は、見事としか言いようがない。ラストは、≪メイン・テーマ≫冒頭と同様、ドラの一撃で終わる。

2曲続けても8分ほどの小曲なので、コンサートのオープニングなどには合うかもしれないが、≪メイン・テーマ≫の雄大な旋律は、クラリネットを中心とする木管群で演奏されるため、原曲(オケ)のように弦楽器群で演奏された際の力強さが、どうしても出ない。よって、それなりの補強を加えるか、多人数のバンドで演奏される方が、効果が高いように思われる。

余談だが、この2年後に黛は、日本映画の超大作『黒部の太陽』(1968)の音楽を書いているが、どこか『天地創造』に作風が似た、これもまた雄大な音楽である。実は、『黒部の太陽』監督の熊井啓が、ローマで『天地創造』作曲中の黛に会い、「今度、一緒に仕事をしよう」と意気投合した、その結果生まれたのが『黒部の太陽』の音楽だったのだ。だから、どこか共通点があるのかもしれない。

黛はあらゆるジャンルの音楽を手がけ、映画音楽も生涯に200本近く書いているばかりか、管・打楽器のためのオリジナル曲をはじめ、マーチ≪黎明≫≪祖国≫、自衛隊の≪栄誉礼≫、日本テレビのスポーツ番組テーマ曲など、吹奏楽曲もけっこうある。テレビ番組「題名のない音楽会」の企画・司会は30数年に及んだ。参考音源に挙げたディスクにも、モダンな実験精神に溢れた傑作が、たくさん収録されており、芸術祭の優秀賞を受賞している(岩城宏之指揮、東京佼成ウインドオーケストラ)。

これからも多くの人たちに長く聴き継がれてほしい、日本が世界に誇る作曲家だ。<敬称略>


 

ユーフォ大好き人間集まれ! 2006ユーフォニアム・キャンプ in 飯綱

三浦徹が主催する「ユーフォニアム・キャンプ in 飯綱」が5月4日(木)~7日(日)の間、長野県飯綱高原のユーフォニアムロッジにて開催されます。今年は好評のアンサンブル・レッスン、工作講座など様々な催しに加え、北欧フィンランドの名手ユッカ・ミュッリュスをゲストに迎えてのマスタークラス、コンサートと例年以上に盛りだくさんの内容となっています! ユーフォがもっと好きになる!音楽がもっと好きになる毎日になることうけ合い!皆さん是非ふるってご参加ください!

2006ユーフォニアム・キャンプ in 飯綱

【日時】2006年5月4日(木)~7日(日)
【場所】長野県飯綱高原ユーフォニアム・ロッジ

【講師】
・三浦 徹(東京佼成ウィンドオーケストラ、国立音楽大学・相愛音楽大学)
・幡野 武(名古屋芸術大学・くらしき作陽音楽大学講師)
・児島 瑞穂(第22回日本管打楽器コンクール1位)
・小畑 ゆかり(フリーランス)
・西郷 雅則(東京佼成ウィンドオーケストラホルン奏者)
※工作講座特別講師

【ゲスト】ユッカ・ミュッリュス(シベリウス音楽院、オウル大学、オウルコンセルバトワール講師)

【申し込み締切日】4月20日(木)

【講座内容】(予定)
・天才はこう作られる!ユッカ・ミュッリュス基礎講座
・金賞へまっしぐら! 三浦徹による吹奏楽コンクール課題曲講座
・「ホラ!」食べてみる?、作ってみる?、吹いてみる?人類最初の管楽器「ほら貝」工作講座
・ちょっと真面目にお勉強。 伴奏つきソロ演奏講座
・もうマウスピースはいらない!「これよし、あれよし、それもよし」 迷わないための傾向と対策
・からおけUFO2 あなたが主役!気持ちよく歌ってみよう!
・男子禁制!?女性の女性による女性のためのユーフォ講座
・巨匠 ユーフォニアムを語る!!!
・受講生によるアンサンブルレッスン
・個人レッスン
・受講生による発表会
・講師陣とユッカ・ミュッリュスによるスペシャルコンサート
ほか

詳細は以下ホームページをご覧下さい。

■ホームページhttp://euphnet.gozaru.jp

【問い合わせ】 euphnet@hotmail.co.jp

日本一早いコンポーザー・ノーツ – ピーター・グレイアム :『地底旅行』

今月(4月24日)、発売される大阪市音楽団の最新CD「ニュー・ウィンド・レパートリー2006」(大阪市教育振興公社、OMSB-2812)は、フィリップ・スパーク、ピーター・グレイアム、広瀬勇人という3人の作曲家の注目作が世界初録音されただけでなく、ヤン・ヴァンデルローストやアルフレッド・リード、ロバート・W・スミスというビッグネームの最新作がずらり並んだ超ゴージャスな内容で、発売前から大きな話題となっている。

 ズバリ、バンド・ファンなら、ぜったいに見逃すことのできないものすごい内容のアルバムだが、その収録曲の中でも、今年もっとも関心を呼びそうなのが、CDのタイトル曲でもあり、『ハリスンの夢』『シャイン・アズ・ザ・ライト』『ゲールフォース』『ザ・レッド・マシーン』『モンタージュ』といった一連の作品で日本でもアッという間に超注目作曲家に踊り出た感のあるイギリスのピーター・グレイアムの『地底旅行』だろう。

 この作品の楽譜は、4月中の出版をめざし、現在鋭意編纂作業中だが、バンドパワーでは、2月の滞在中に作曲者自身から直接手渡されていたコンポーザー・ノーツを、ここに日本一早く公開する!!

『地底旅行 – Journey to the Centre of the Earth』  

 フランスの作家 ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)は、『驚異の旅』として知られる小説シリーズを発表する中で、科学と冒険を融合する、独自の作風を確立した。1864年に刊行された『地底旅行』も、表面上は冒険物語の様を呈しているが、教育研究家のダイアナ・ミッチェルは、この小説に隠されたもう一つの主題を「“自分自身の深部に潜んでいるものと相対しそれを知ることで成長していく、人間の心の内面への旅物語”と読み取れる」と述べている。

物語は、オットー・リーデンブロック教授の甥であるアクセルが書き綴った日記、という形を取っている。二人は古文書の暗号に従ってアイスランドに渡り、そこで出会ったガイドのハンスと共に、死火山スネッフェルスの火口へ入り、地底への道を辿っていく。危険に満ちた冒険と間一髪の命拾いを繰り返し、ついにこの大胆不敵な探検家たちは、途方も無い地底世界に遭遇するのである。

本作品では、その小説に描かれているいくつかの場面が、ほぼ時系列に添って表現されている。曲は、闇夜のスネッフェルス山の頂きで物思いにふけるシーンから始まり、次に、探検家たちが大地の底へ向かって降下していく様子を描写する。旅の途中で彼らは、様々な地球深部の神秘(電気的に彩られた大空洞など)や、アクセルの悪夢(有り得るはずもない前史時代の怪物が争い合う様子を夢にみる)など、最後に地底から吹き上げられ地上への生還を果すまでの間、想像を絶する出来事に遭遇し続ける。

この小説及び音楽双方の中で、一番の見せ場となるシーンは、仲間とはぐれ独り地底で迷子になったアクセルの絶望の描写である。
そして彼は、音を伝えるという特殊な音響効果を持つ岩盤に囲まれた“ささやきの回廊”で、自分を呼ぶ仲間の声を聞いて、救出されるのである。

この『地底旅行』は、その物語を愛するリャンとメーガンの二人に捧げる。

Text:ピーター・グレイアム/訳:黒沢ひろみ

デメイ: 交響曲第3番『プラネット・アース』世界初演 フォト・ギャラリー

3月7日のニュースでお知らせしたとおり、『指輪物語』や『ビッグ・アップル』で知られるオランダの作曲家ヨハン・デメイの新作、交響曲第3番『プラネット・アース(惑星地球)』の世界初演は、3月2日、ロッテルダムのコンサートホール、デ・ドゥーレンで行われ、スタンディング・オーベーションの大成功となったが、このほど、その現地の興奮を伝える写真がデメイから届いた。

日本初公開!! 初演後のスタンディング・オーベーションやポスターを前にポーズをとるデメイの顔がいかにも誇らしげだ!!

なお、近く、初演を行った顔ぶれによるレコーディング・セッションが行なわれる予定。続報を待て!!

指揮:オットー・タウスク
管弦楽: 北オランダ管弦楽団
合唱: 北オランダ・コンサート・コワイア

1枚をのぞき、2006年3月2日、オランダ・ロッテルダム、デ・ドゥーレンにて。

田中久美子「青銅のイノシシ」曲解説

2006年2月末にオランダのデハスケ社から発売された「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)に収録されている田中久美子の作品「青銅のイノシシ」について、作曲者本人による解説を紹介しよう。

■田中久美子「青銅のイノシシ」

この作品は,アンデルセンの童話「青銅のイノシシ」が題材になっていて、「星空を翔る夢」「ポルタ・ロッタ通り」「アルノ川の夕べ」の3楽章でできています。

故・鈴木竹男先生から「アンデルセンの童話を題材に、3部作の吹奏楽作品を書いて欲しい」という依頼を受けて書いた、吹奏楽のための組曲「みにくいアヒルの子」(株・すみやさんより出版)に続く2作目です(3作目は未だ実現していませんが・・・)。

「青銅のイノシシ」はフィレンツェが舞台になっている物語です。

 画家を目指す少年と青銅のイノシシの物語で、広場にあるイノシシは、普段は口から澄んだ水が流れ出る青銅の像ですが、無邪気な子供が背に乗ると、その間だけ走ることができるというお話です。

 私はこの組曲を書くにあたり、実際にフィレンツェの街を訪れて、「ポルタ・ロッサ通り」やウフィツィ美術館でイノシシの像を見て、作曲のイメージを膨らませました。

 2003年初頭に作曲、その3月、旧阪急商業学園の定期演奏会(大阪シンフォニーホール)で鈴木先生の指揮で初演されました。

解説:田中久美子

※なお、この「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)は、現在、デハスケ社の方で日本語表記版が製作中。また、収録曲の楽譜も急ピッチで製作が進んでいるとのこと。楽しみに待つことにしましょう!」(2006.3.25現在)

■「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0889/

広瀬勇人「ノーマン・ロックウェル組曲」曲解説

2006年2月末にオランダのデハスケ社から発売された「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)が話題になっている。収録曲すべてが邦人作品というのも魅力の1つで、すでに海外でも高い評価を得ている酒井 格をはじめ、広瀬勇人、田中久美子、八木澤教司、坂井貴祐といったバリバリの若手作曲家たちの生きのいい作品が楽しめる。

今回はこのCDの中から、特に注目度の高い、広瀬勇人の「ノーマン・ロックウェル組曲」を作曲者自身の解説で紹介しよう。

■広瀬勇人「ノーマン・ロックウェル組曲」

「ノーマン・ロックウェル組曲」は、アメリカの有名な画家、ノーマン・ロックウェル(1894-1978)の代表的な3つの絵画を元に作曲されました。大衆誌「サタデー・ポスト」の表紙のイラストレーターとして広く知られたロックウェルは、20世紀初頭のアメリカ庶民の日常生活をテーマに、ユーモラスで心温まる作品を数多く残し、その作品は世界中で多くの人々に親しまれてきました。

作曲者の広瀬勇人は、ニューイングランド学生作曲コンクールで第一位を受賞したのを機に、主催者であるメトロポリタン・ウィンド・シンフォニー(米国)より委嘱を受け、ニューイングランド地方にゆかりのあるノーマン・ロックウェルを題材に同作品を作曲。2005年10月、同団体により初演されました。

同作品は以下の3つの楽章から成っています。

1.婚姻届(1955)
街の市役所で、新婚カップルが婚姻届にサインをする様子を描いた作品。
8分の6拍子のワルツで、期待に胸を膨らませながら婚姻届けにサインをする初々しい情景が、希望と喜びに満ちた音楽で描かれています。

(軽やかなテンポで、清々しく爽やかに演奏すると良いでしょう。クライマックスのHn/Euphのユニゾンは、力強く、しかしもたつかない様に演奏すると良いでしょう。)

2.シャッフルトンのバーバーショップ(1950)
閉店後の街の小さな理容店で、壮年の音楽愛好家が楽器を奏でる様子を描いた作品。
仕事を終えた一日の終わりに、音楽仲間が集い、ささやかな楽しみに興じる様子が、心温まる音楽によって描かれています。

(この楽章では全体を通じて、深く、柔らかく、そして温かい音色での演奏を心掛けると良いでしょう。さらりと歌う部分と、情感豊かに歌う部分のメリハリがつくと、更に良いでしょう。)

3.クリスマス・ホームカミング(1948)
クリスマスに帰省したロックウェルの長男が、家族や親戚一同に温かく迎えられる様子を描いた賑やかな作品。
汽車の中で次第に近づく故郷に胸を弾ませる息子、再会の瞬間に思いを馳せながら迎え入れる準備に忙しい家族たち。
エンディングで両者は遂に再会を果たし、歓喜の中で曲を締めくくります。

(場面が次々と転換されていきますが、一定のテンポできびきびと前に進むと良いでしょう。Bsnのメロディは軽やかでユーモラスに、木管楽器のテーマは郷愁の想いを込めて歌い上げ、クライマックスの金管コラールに向けて、ドラマチックに音楽を盛り上げていくと良いでしょう)

解説:広瀬勇人

※なお、この「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)は、現在、デハスケ社の方で日本語表記版が製作中。また、収録曲の楽譜も急ピッチで製作が進んでいるとのこと。楽しみに待つことにしましょう!」(2006.3.25現在)

■「森の贈り物/Legacy of The Woods」(CD-0889)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0889/

スパーク :『宇宙の音楽』レヴェリ賞受賞秘話

昨年(2005年)12月、全米バンド・アソシエーション(The National Band Association)主催の第29回ウィリアム・D・レヴェリ記念バンド作曲コンテスト(William D. Revelli Memorial Band Composition Contest)において、フィリップ・スパークの『宇宙の音楽(Music of the Spheres)』が最優秀作品に輝いたのは既報のとおりだが、このほど、そのエントリーに際し、フルスコアとともに大阪市音楽団(市音)による世界初演ライヴ音源が提出されていたことが、関係者の証言で明らかとなった。

エントリーの締切は昨年11月1日。コンテストの規定は、スコアだけでなく、コンピュータ合成などではない実際に演奏されたときの音源の提出を求めているが、作曲者は、迷うことなく、自らの眼前で展開された市音の演奏を選んだ。1994年の『シンフォニエッタ第2番(Sinfonietta No.2)』(出版された現行の改訂版)の初演以来、作曲者と市音は強い信頼関係で結ばれているが、こんどの『宇宙の音楽』世界初演につづくレヴェリ賞受賞により、その関係をさらに深めるかたちとなった。

なお、作曲者が手放しで褒め称えたこのときのライヴは、現在オクタヴィアから発売されているCD「スパーク:宇宙の音楽<吹奏楽版世界初演>」で愉しむことができる。

吹奏楽、ブラスバンド、マーチングの情報マガジン