日時:2009年3月26日(木)~4月5日(日)
会場:神戸文化ホール(中ホール)
レポート:Marigaux
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ミュンヘン、ジュネーヴ、ランパル(パリ)と並ぶ国際的なフルートコンクールである神戸国際フルートコンクールが3月26日から4月5日の11日間に渡って神戸文化ホール(中ホール)で開催されました。このコンクールは4年に一度、通常は夏に行われているのですが、今年は主催の神戸市と会場の神戸文化ホールの都合によりこの時期に変更されたということでした。
フルート吹きでない私がこのコンクールを聴きに行くのは、持っている定期券で会場まで行けるので交通費がかからないからでも、毎回何だかんだで招待券が手に入るからでもなく(いや、それも少なからずあるんですが・・・)、世界的なレベルの演奏が生で聴けて、しかも出場者や審査員とも直接話ができる機会があるからです。休憩時間中にはホールのロビーやカフェで出場者が審査員と熱く議論を交わしたり、違う国の出場者同士が談笑したりしていますし、私もいろいろな国の出場者に声をかけて親しくお話させていただきました。
さて、第7回となる今回は世界35ヶ国・1地域から232名の応募があり、書類・録音による予備審査により22ヶ国・1地域の64名に絞られ、最終的に56名が3月26日から28日の第1次審査に出場しました。その中から24名が3月30日、31日の第2次審査に進出、さらに13名が4月2日の第3次審査に挑み、6名が4月4日の本選のステージに立ちました。
本選の結果と特別賞は以下のとおりとなりました。
1. 入賞者(本選出場者)
第1位:ダニエラ・コッホ(オーストリア)
第2位:ロイク・シュネイデル(フランス)
第3位:デニス・ブリアコフ(ロシア)
第4位:メーガン・エミ(アメリカ)
第5位:アレサンドラ・ルッソ(イタリア)
第6位:マリヤ・セモチョク(ウクライナ)
2. 特別賞
現代音楽最優秀演奏賞:
古田土 明歌
アレクサンドラ・グロット(ロシア)
グリゴリー・モルダショフ(ロシア)
ロマン派音楽最優秀演奏賞:マリヤ・セモチョク
オーケストラ賞:ロイク・シュネイデル
オーディエンス賞:デニス・ブリアコフ
予選の課題曲であった現代音楽については演奏レベルが高かったということで、従来の奨励賞に代えて現代音楽最優秀演奏賞が3名に贈られました。また、オーケストラ賞は本選の伴奏を行った神戸市室内合奏団のメンバーの投票で、オーディエンス賞は第3次審査出場者に対して入場者による投票で、それぞれ受賞者が決められました。
課題曲は、予備審査と第1次審査はC.P.E.バッハと現代(前衛)、第2次審査はバロックと現代、第3次審査はJ.S.バッハとロマン派~近代、そして本選がモーツァルトの協奏曲というものでしたが、バロックから現代まで幅広いジャンルをバランスよくしっかりポイントを押さえた説得力のある演奏をしたコッホが1位の栄冠に輝きました。昨年の東京吹奏楽団の定期演奏会に出演しバンドジャーナル誌の表紙も飾ったブリアコフは、前評判が高く客席の反応も極めてよかった(ファンクラブ?)のですが、演奏自体は意外に印象が薄く3位に終わりました。
第1次審査からレベルの高い熾烈な競争であり、わざわざ海を渡って出場した海外勢は熱い思いを胸に秘めてコンクールに望んでいた人も多かったようです。日本人では昨年のランパル・コンクールを制して話題になった上野星矢だけが第3次審査まで進んだものの、本選には至りませんでした。前回が本選進出7人中1位獲得を含め4人が日本人だったことを考えると、少々寂しいものがありますが、それでもレベルの差はごくわずかなものだったように思いますし、演奏順が少し違うだけで結果は大きく変わっていたかもしれません。
また、コンクールにあわせて記念演奏会シリーズとして、コンクールに先立ってNHK交響楽団の首席・首席代行奏者による木管五重奏、第2回の第1位受賞者で現在ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者を務めるエマニュエル・パユを迎えたフルート協奏曲の2つの演奏会、そして第3次審査と本選の間には審査員によるスペシャル・コンサートと、こちらもほぼ満員の会場で熱い演奏が繰り広げられました。
ただ、春休み期間中というのに学生の姿は決して多くはなかったことは少々残念でした。演奏会の時期かもしれませんし、実際に期間中に隣のホールで定期演奏会を開いていた学校もあったのは事実です。クラシックのソロのフルートということで、吹奏楽コンクールやアンサンブルコンテストと異なり、普段自分たちが演奏しているものとは違う世界のように思われたのかもしれません。
しかし、フルート演奏ということではすぐ明日の演奏の見本にもなりますし、同じ曲をさまざまな解釈やスタイルの演奏で聴くことはとてもいい経験になると思います。たとえば、第1次審査の課題曲の1曲目はC.P.E.バッハの「ソナタ イ短調 Wq.132」ですが、最初は3/8拍子のポコ・アダージョでスタカートの付いた八分音符とスラーで次の小節へつながれた2つの八分音符、このたった3つの音だけでも長さや強弱など出場者56名が56種類のニュアンスの演奏を聴かせてくれました。ある日本の出場者は、特に海外の人は自分なりに消化して、普段日本では聴けないような解釈でも自分の演奏スタイルとして自分の音楽を出してくるので、国際コンクールはとても刺激になるということをおっしゃっていましたが、全く同感です。フルート奏者ならずとも得るものが大きい機会だったと思います。
次回の第8回は4年後の開催が計画されており、関係者の検討が始まっています。次回はぜひみなさんも世界の演奏を体験してみませんか。
(敬称略、出場者名は主催者発表に基づく)
■神戸国際フルートコンクール ホームページ
http://www.kobe-bunka.jp/flute/