「吹奏楽」カテゴリーアーカイブ

第100回定期演奏会を迎えた佼成ウインド!その舞台裏を探る。~秋山和慶氏と北爪道夫氏に聞く~

 

 1960年創団以来、常に我が国の吹奏楽界をリードしてきた東京佼成ウインド・オーケストラ。新しい響きを求め続け第100回定期演奏会を迎えた。

“from one to infinity”と名打った記念すべき100回目を迎えるTKWO定期演奏会。この演奏会では、佼成ウインドがこれまでに委嘱してきた作品群から、選りすぐりの曲を再演することで、これまでの足跡を振り返ると共に、北爪道夫の新作「雲の変容」を世界初演し、無限に広がるであろう吹奏楽の未来を展望した。満員の聴衆で埋まったホールは、過去にコンビを組んで多くの名演[注1]を残した秋山和慶。秋山の知的かつ精緻な音楽性がTKWOと融合して、壮大で新しい世界を切り開いた。

記念コンサートということで、リハーサルからゲネプロ、さらに終演後の打ち上げまでお付き合いをし、このジャンルのトップを走るプロ・バンドを余すところなく堪能させていただいたが、とくに今回の指揮者”秋山効果”がいたるところで発揮されており、ライブとして超一流の技を見せつけられた感がある。
指揮者、作曲者のおふたりにお話を伺った。

[注1]=記念コンサートに起用された秋山の佼成との付き合いは意外に古く、初期の定期演奏会(早くも第4回定期に登場)、また1979年から84年にかけて都合8枚の「東京佼成ウインド・オーケストラ・オリジナル・シリーズ」と名を打ったLPを制作している(これは後に6枚のCDとして再発売)。

■指揮者、秋山和慶氏に聞く

▲熱く語る秋山和慶氏(09.2.17)

-佼成との記念定期について

 「25年位前にはずっとお付き合いがありましたが、僕が外国に行っていた期間ご無沙汰でした。しかし、どういう訳か今回100回ということで声がかかりまして、何か古巣に帰ったようで嬉しいですね。東京佼成ウインド・オーケストラの熱心で、真摯な音楽創りには敬意を表します。また100回を数える定期演奏会の指揮者に選ばれたことはとても光栄に思います」

-記念コンサートの選曲について

「これは、佼成さんの方が新作を含む委嘱作品を構成したようです。この団体の歴史を知るという意味でも大変興味深いプログラムですね」

-佼成ウインドについて

「前の時とは時間が経ちましたからずいぶん若返っているように感じました。しかし、全員で音楽を創るという前向きさは今も昔も変わりません。ともするとプロ・オケなどでは”練習、早く終わろう”ということや演奏が出来ていないのに”なんで何度も繰り返し演奏させるんだ”みたいな意見がでることもあります。佼成さんは30年前と変わらず、上手くいかなければ”もう1度やってください”といった良い意識が継承されています。

-コンサートの聴きどころは?

「やはりウインド・オーケストラなので、管楽器の色彩豊かな響きを存分に楽しんで欲しいと思います。また北爪道夫先生の新作も非常に複雑なからみで書かれています。そのサウンドがどのようにホールに響くかということも聴きどころと言えるでしょう」

-吹奏楽を指揮して

「僕はもともとピアノ弾きでしたが、学生時代はホルンを演奏してもちろん吹奏楽も経験していますから、あの響きがやはり好きなんですよね。ということでチャンスがあれば吹奏楽は指揮したいと思っています。最近ではオーケストラでも吹奏楽の曲を演奏する機会が増えました。これからはそういった企画もどんどんやっていきたいと思っています」

-オケと吹奏楽の音楽作りについて

「オケも吹奏楽も作曲ではなく演奏面だとほとんど同じだと思っています。もちろん弦楽器がないということは大きいと思いますが…。例えば演奏する時のバランスですが、それはオーケストラでも難しいことです。リムスキー=コルサコフやR.シュトラウスのようにオーケストレーションが上手い作曲家のものはそのままやれば良いのですが、ベートーヴェン、ブラームス、シューマンなどは細かくバランスを作ってあげなければなりません。つまり指揮者・指導者は演奏をして今響いている音に対して常に理想的なバランスをとるということです。そういった練習、本番の積み重ね、長い経験を通してプレーヤーも育っていかなければいけませんね。これは時間のかかることです」

-先生からみた吹奏楽とは?

「コンクールはとても大切な要素があるのですが、それが最終目的になってしまうといけませんね。音楽とは幅の広いものですから練習した通りを演奏するのではなく、本番でどう動けるか、ということが非常に大切だと思います。ステージで鳴っている音は常に生きているのですから。また、吹奏楽の良い作品を増やすためには、作曲家の人たちが興味をもってくれる演奏を、そして誠意をもってくれる演奏とは何なのか、ということをもう一度考えなければいけません」

-指揮者、秋山和慶の今後の目標は?

「とくに今までと変わりはありませんが東京交響楽団と40年間やってきて、今は広島、九州とも同時にやっています。近年は地方のオケも大変力をつけて非常に面白い状態になっています。聴衆も大変増えています。今後はこれらを主体に日本の音楽をしっかりと育てていきたいと思っています」

-ありがとうございました。先生の今後の活躍を楽しみにしています


■委嘱作品「雲の変容」(世界初演)について      作曲家:北爪道夫

▲委嘱作について熱く語る北爪道夫氏

-完成おめでとうございます。

「いつもながら仕上がりが遅くってね(笑)。目に少々異常がおきて、五線が十本に見えていました。バンド維新から続いたのでストレスでしょうか。さて、今回の作品を書いていて感じたのは”バンドって難しい”ということでしょうか。難しいことはプロの佼成さんがやっても難しいっていうか、シンプルなことがまた難しいんですよね」

-今回の委嘱作「雲の変容」の狙い

「これからの”吹奏楽のありかた”についてでしょうか。これは言葉にするのは簡単ですが、それを音にするのは至難の業です」

-合奏の後、奏者と熱心に話し合っていますね

「いろいろバランスのとり方とか大変で、曲の形が見えてくると少し楽になります。吹奏楽は狙いを絞って演奏しないと、オーケストラよりも種々雑多なものになってしまう。しっかりとコントロールしていかないと放し飼いでは飽和状態になるでしょう。ライオンやトラを放牧しているようでは困ります。そうなるとネズミなんかは逃げまくるしかないし、ネズミの存在もわからないみたいになりやすいから。しかし、佼成ウインドさんなら大丈夫だと思っていたんですが、練習の初日ではやはり吹奏楽の体質は難しいっていうことを感じました」

-吹奏楽は、オケの管楽器の感覚とは違いますか

「弦楽器的な感性というのが音楽にどれだけ重要な位置を占めということを痛感しました。ウインドの人たちも言っていますね。でも、次の作品は吹奏楽のもっと不得意なことばかりで書いてやろうと思っているんです。最高メッゾ・ピアノくらいまでで、フォルテ以上のエリアは2割くらいしかない、みたいなね。テュッティであえてピアニッシモでちゃんと溶ける音を研究して。今回の作品のおまけに続編を書こうと思っています。ただ、演奏者や現場的には”なんだよう!”みたいなことになると思うけれど。そういった曲をもっと増やさないとこなれないでしょう。コンクール向けのひとつのパターンばかりではなくね。そういった作品を選らばざるをえないような世の中にしたいですね。そのような曲の良さは作品数が少ないとなかなか理解できないんです。現在の状況は”必要性、可能性があるのはわかるんだけど”このあたりまではいっていますよね。だからこういった曲が増えていけば、そのような作品の造り方、演奏テクニックも進化していくと思います。だから今後は曲の体質のパーセンテージを少し変化させていきたい。まぁ、吹き鳴らすことが悪いとは言わないのですが…」

-新作について

「この作品はしっかりと鳴らすところも多いのだけれども、不協和状態が突然に協和状態になる、とかが強調されないと意味がない。またカノンの部分では金管がバリバリとカノンを吹くんだけれども、バランスがオケと違うのか難しい。演奏面でも少し考えて欲しいところもあります」

-この曲の聴きどころは?

「ずばり、この作品は音質(トーンカラー)でしょうか。タイトル通り”雲”なんですね。つまり多層ですよね、今あったはずの雲がもう変化していく、といったものが欲しかったのです。和音みたいに見えるけれどそれは違っていて、次に響きの塊が奥にいる、また手前のものがいなくなるとその塊が見えてくるとか。そんなことばかり考えていました。響きの一番薄い部分、快晴ではなくて薄曇りの雲の層を打楽器とハープが帯のようにもっているんだけれど、そこに日が差してくるといった表現なんかは、ウインドで表現するってのがいかに難しいか、思い知っています」

-本番を前に今の心境は?

「先ほども言いましたが、徹底した曲をまたもう1曲書こうと思っています。定番ではないものがもっとあって良いでしょう。しかし、今の作曲家はみんな上手いですよね。人気のある作品は美味しいところと辛いところの組み合わせがしっかりしている。そういったパターン、役割を意識しない作曲家は、この世界を勉強しないしね。それで「バンド維新」っていうのをはじめたんですよ。名をなした作曲家に書いてもらって洗礼を受けてもらいたいのです。著名な作曲家ほどバンドについての捉え方に固定観念があると思いますよ。それは良くない、どんどん書いて欲しいですね」

-吹奏楽の可能性について

「広い音域でピアニッシモの表現が欲しいですよね。テュッティの合間に残っている弱音などが出来ると面白くなると思います。変わった楽器を使用すれば良いという人もいますが、あまりに大がかりな打楽器群、数台のマリンバなどを多様するのはどうかと思います。だったらオケを持ってきなさいということです。まぁ、今後は実験的に偏らず、音楽で」

-最後に練習現場の雰囲気は?

「秋山先生はとても信頼しています。作曲家のことをよく聞いてくださいますし、現場的ではニュートラルでとても良いですよ。作曲家が熱くなって騒ぐより冷静に本番に向かって仕上げる、これはプロの仕事です。演奏者も大変に良くやってくれます。個々の質問も大変多いですし、嬉しいですよ」

-長い間ありがとうございました。次回作も期待しています。


■佼成メンバーから一言

★須川展也(コンマス-サクソフォン)
「100回という節目を迎えられるということは多くの人の支えがあってのこと、それに応えるべく全身全霊を込めて演奏をしました。今日のプログラムは、いままで我々が吹奏楽の芸術性を高めたい、という想いをこめて委嘱した作品群で、これらを多くの方々に聴いていただき再認識してもらえたとことと、お客さんたちがその演奏に対して温かく答えてくれたこととが嬉しかったですね。今後とも佼成ウインドをよろしくお願いいたします」

★奥山泰三(トランペット)
「100回という記念すべき節目の今、現場にいられたことが嬉しいですね。この100回というのは佼成ウインドにとって歴史でもあり、また若い人に伝えていかなければいけないという積み重ねであったわけです。佼成ウインドはこんなにも素晴らしい作品を持っているということを若い団員に知って欲しかった」

★前田綾子(フルート)
「私自身は2001年に入団し8年目ということで、以前のことは想像するしかなかったのですが、こういうことがあった、あんなことがあったと先輩からお話を聞くといろいろな思いにはなりました。そういった経験豊かな人たちと一緒に演奏をして、団で暖め、育ててこられたレパートリーを音にしたときは”あぁこうなんだ”ということを実感できました。また、秋山先生の力は素晴らしく、本番の気迫は4日間の練習の時とは全く違いました」

★萩谷克己(トロンボーン)
「僕は以前にレコーディングをお願いしていた頃から秋山先生にはずっとコンサートをといい続けて、今回それが実現して本当に幸せでした。やはりライブは熱かったですね」

★松生知子(E♭ クラリネット)
「100回ということで、みんな凄い思い入れがあり、それに答えないといけないというプレッシャーがありました。私はまだ4年目ですが、北爪さんの委嘱作品などは、しっかりとベルアップして気持ち良く吹けました」

★パーカッション奏者(エキストラ)
「長くやってきたので、どの曲も想いがありますね。ホロヴィッツの”舞踏組曲”ではフェネルさんの指揮姿が想い出され演奏中にジーンときてしまいました。多くの偉大な先生方と音楽を創ってこれたことに今は感謝いたします。」

■身近な人たちの声

☆小貝俊一(レコーディング・エンジニア)
「秋山先生はもっと上品な指揮をする方だったと思っていたのですが、今日はねぇ、最初からアクションが大きく全然違いました。佼成のみなさんもテンションが高くなっているのが良く伝わってきました。僕は長い付き合いで、佼成の良いところも悪いところも知っているから、でもちゃんと良いところを引き出していましたね。指揮者って凄いと思いました」

☆秋山紀夫氏(吹奏楽研究家-プレ・トークを担当)
「大変おめでたいことですね。くしくも第50回の定期演奏会もここ東京芸術劇場でした。来年は創団50周年を迎え、また新しい指揮者(ポール・メイエ氏)も就任ということでますますのご発展をお祈りいたします。本日はおめでとうございました」

【プログラム】

セレブレーション/フィリップ・スパーク
Celebration/Philip Sparke

舞踏組曲/ジョセフ・ホロヴィッツ
Dance Suite/Joseph Horovitz

法華経からの三つの啓示/アルフレッド・リード
Three Revelations from Lotus Sutra/Alfred Reed

TKWO委嘱作品「雲の変容」(世界初演)/北爪道夫
Matamorphosis for the Clouds -TKWO commissioned Work(World Premiere)/Michio Kitazume

舞楽/ドナルド・グランサム
Court Music/Donald Grantham

 演奏を聴いた後、84年以来その死まで常任指揮者を務めたフレデリック・フェネルが「オーケストラは、400年かけて現在の位置を築いて来ました。私たちはとても若くどのようにしていけば良いのか、いま道を探し、今後開拓していかねばならないのです」と語った言葉を思い出し、その歩みは着実で間違っていなかったと確信できた。

次の200回定期までの時間で《吹奏楽》という分野はどのように変貌を遂げていくのであろうか。それは決して明るい前途ばかりではないと思うが、この100回記念を弾みに、他団体には真似のできないこれまでの方向性(多彩なプロのコンダクター起用、内外の著名な作曲家への委嘱・作品コンク-ル、また幅広い意味での後進の育成など、常にわが国の吹奏楽界のためを考えている姿勢。)をもって、ひたすら走り続けていって欲しい。
積み重ねてきた素敵なコンサートのひとつひとつに大きな拍手をおくりたい!

▲秋山和慶氏と須川展也氏によるサイン会は大人気
▲プレトーク担当の秋山紀夫氏とコンマスの須川展也氏
▲作曲者北爪氏の指示を聞く(リハーサルで)
▲委嘱作品「雲の変容」を聴く作曲者(北爪道夫氏)
▲秘密兵器!(ミュートが間に合わない部分に使用)
▲本日の練習予定!(ボード)

(2009.03.07)