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■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第141話 小山清茂作品集の登場

▲LP – 吹奏楽のための太神楽(東芝音楽工業、TA-9301、1971年)

▲TA-9301 – A面レーベル

▲TA-9301 – B面レーベル

▲東芝レコード広告(1971年)

2020年(令和2年)12月20日(日)の朝、東京佼成ウインドオーケストラの元ユーフォニアム奏者で、日本吹奏楽指導者協会(JBA)副会長の三浦 徹さんから一本の電話が入った。

『ちょうど今、バンドパワーに書かれている樋口さんの話の最新の回を読み終えたところで、どうしても樋口さんにお話しておきたいことがあって電話しました。』

“最新の回”とは、その1日前にアップロードしたばかりの《樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第138話 普門館、落成の頃》のことだった。

『実は、あの“佼成”の演奏会は、藝大(東京藝術大学)の4年生のときで、呼んでもらったんです。「ローマの松」が阪口 新先生(1910~1997)の編曲で、ユーフォニアムが4本必要だったんで、それで呼ばれたわけです。』

東京佼成吹奏楽団(後の東京佼成ウインドオーケストラ)が、1970年(昭和45年)11月20日(金)、完成したばかりの普門館で初めて行なった「第12回定期演奏会」の現場証人の登場である。

楽団創立10周年を期して開かれたこの演奏会の客演指揮者は、伝説のマエストロ、山田一雄さん(1912~1991)だった。なので、当然、電話口のこちらのテンションも一気に盛り上がり、当時の模様について、あれやこれやと質問を投げかける。

すると、『ヤマカズ(山田一雄)さんが右へ行ったり左へ行ったり、忙しかったんですが、「1812年」では、NHKからわざわざ“ロシア正教会”の鐘の音や大砲の音を借りてきて、テンポを決めて演奏とシンクロさせる練習を行ない、リハーサルは完璧だったんですが、本番では指揮者が約束とは違う速いテンポで振ったので、エンディングの音が終わった後、(カンカラコンと)鐘の音が盛大に降り注いできてしまったんです。でも、さすがだったのは、そのアクシデントをまるで演出であるかのように指揮台で振る舞ってから客席に向かって一礼したことでした。』(カッコ内は筆者)

“ヤマカズさん”とは、リスペクトも込めて、いつしかそう呼ばれるようになったマエストロへの親称で、指揮ぶりはとくに若い聴衆に絶大な人気があった。

そのアツい指揮の結果、オーバーアクションになって、指揮台はおろか、ステージからも転落して這い上がった件とか、指揮台でジャンプして落とした眼鏡を踏み砕いてしまった件のような数々のエピソードを伝説のように残したマエストロは、この日の佼成定期でもしっかりと爪跡を残していったわけだ。

三浦さんとの演奏会についての対話は、その後もはずみ、マエストロには失礼ながら、“その日はステージから落ちなかったか”についても確認したところ、『あの普門館の広いステージだけに、さすがに落ちなかった!』(笑)との返答。

ステージの広さを知る当方も、それを聞いて、“そりゃそうだ!”と思わず納得の展開となった。

他方、ヤマカズさんは、その生涯を通じて数多くの初演を行なった指揮者としてもよく知られている。

この佼成定期でも、小山清茂(1914~2009)さんが自作の管弦楽曲を自ら吹奏楽曲に改編した『吹奏楽のための“木挽歌”』の初演が行なわれた。

作曲者の小山さんは、長野県更級郡信里村字村山の生まれ。日本各地に残る民謡などの旋律をモチーフとした多くの作品で知られ、管弦楽、吹奏楽、オペラ、室内楽、合唱、放送音楽など、多岐にわたるジャンルで活躍した。1980年(昭和55年)の『吹奏楽のための“花祭り”』は、第28回全日本吹奏楽コンクール課題曲として書かれたものだ。

山田一雄指揮、東京佼成吹奏楽団が初演した『吹奏楽のための“木挽歌”』については、演奏会のプログラム・ノートに、こう書かれている。

『九州民謡の木挽歌(故三好十郎の範唱による)を主題とした、一種の変奏曲で、4つの部分から成っています。原曲は管弦楽曲として書かれたもので、昭和32年10月3日、渡辺暁夫指揮、日本フィルハーモニー交響楽団により初演、以来、国内はもとより外国においても、しぱしば演奏、及び放送されております。この度は、音楽の友社のご好意により、作者自身によって、吹奏楽用に編曲していただき、吹奏楽として初めて演奏されるものであります。』(著者不詳、一部引用、原文ママ)

管弦楽原曲の出版後、部分的に吹奏楽に編曲する人も現れたため、作曲者自身が全曲を吹奏楽に改編することを思い立ったことがこの吹奏楽版を作る契機となった。

そして、佼成定期の翌月、1970年(昭和45年)12月11日(金)と16日(水)の両日にわたり、東芝音楽工業は、普門館で、1枚のLPレコードのレコーディング・セッションを行なった。翌1971年4月に、「吹奏楽のための大神楽」(東芝音楽工業、TA-9301)としてリリースされた小山清茂吹奏楽作品集のための録音だった。

演奏は、山田一雄指揮、NHK交響楽団団員で、ジャケットには、ラストの『イングリッシュ・ホルンと吹奏楽のための音楽より“田植唄”』の独奏者が似鳥健彦さんであることがクレジットされている。

この録音にNHK交響楽団の管打楽器奏者が起用された理由については、全く資料を持ち合わせていないが、「バンドジャーナル」1970年12月号(管楽研究会編、音楽之友社)56~57頁に打楽器奏者の有賀誠門さんが書いた「日本のオーケストラ・プレーヤー〈管・打〉」には、『現在のN響は総勢一二三名という大世帯であります。そのうちの五○名を管打楽器奏者でしめています。~』(原文ママ)というくだりがあるので、管弦楽に使わない楽器さえプラスすれば、吹奏楽演奏も可能だ、というレコード会社サイドの計算も働いた可能性はある。同時に、いつも他社の成果を自社にも取り込みたい日本のレコード会社のこと。当時トリオが発売したケンウッド・シンフォニック・ブラス・アンサンブル(NHK交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団など、在京のオケマンたちによって編成)の「我が国最高の管楽器奏者による《マーチの極致》」LP:トリオ、RSP-7004 / 19cm/sステレオ・オープンリール・テープ:TSP-7008)がたいへんな評判を呼んでいたこともあったのかも知れない。(参照:第135話 我が国最高の管楽器奏者による《マーチの極致》

いずれにせよ、この小山清茂作品集は、N響メンバーを中心に録音された。

収録されたのは、以下の6曲。

・吹奏楽のための“大神楽”(小山清茂
(1970)

・吹奏楽のための“もぐら追い”(同)
(1970)

・吹奏楽のための“おてもやん”(同)
(1970)

・吹奏楽のための“越後獅子”(同)
(1970)

・吹奏楽のための“木挽歌”(同)
(1957 / 1970)

・イングリッシュ・ホルンと吹奏楽のための音楽より“田植唄”(同)
(1969)

これは、吹奏楽レコードの世界では、レコード(東芝音楽工業)と楽譜出版(音楽之友社)がタイアップした日本初の企画であり、さらに言うなら、マーチ以外でひとりの邦人作曲家の作品だけを収録した初の吹奏楽アルバムとなった。

そして、発売されたレコードは、日本吹奏楽指導者協会(JBA)の昭和46年度「第一回吹奏楽レコード賞」を受賞。楽譜とリンクしたロングセラー盤となり、1984年(昭和59年)に、ジャケットをリニューアルし、同じタイトルのまま、LP(東芝EMI、TA-72109)として再リリース。2009年(平成21年)には、デジタル・リマスタリングされ、「小山清茂 吹奏楽のための太神楽」というタイトルでCD化(日本伝統文化振興財団、VZCC-1020)された。

見事だったのは、この3度のリリースに際してカップリングの変更が全くなかったことだろう。それだけ完成度が高かった証だ。

“邦人作品集”というジャンルを確立!!

日本の吹奏楽録音史上、忘れてはならないアルバムである!

▲LP(再発売盤) – 吹奏楽のための太神楽(東芝EMI、TA-72109、1984年)

▲TA-72109 – A面レーベル

▲TA-72109 – B面レーベル

▲CD – 小山清茂 吹奏楽のための太神楽(日本伝統文化振興財団、VZCC-1020、2009年)

▲VZCC-1020 インレーカード

▲「バンドジャーナル」1970年12月号(管楽研究会編、音楽之友社)

【コラム】富樫鉄火のグル新 第296回 ありがとう、山下国俊さん

 編曲家の山下国俊さんが亡くなった。
 所属する音楽出版社「ミュージックエイト」社(以後「M8社」)のサイトによれば、昨年12月31日に、胃がんのため逝去されたという。享年76。
 おそらく、吹奏楽に携わっていて、「山下国俊編曲」と記された楽譜を演奏したことのないひとは、少ないのではないか。
 ご本人は謙虚な方で、めったに表に出なかった。しかも、キャリアが長く、むかしからいまに至るまで、常に名前を見るので「実在する人物なのか」「複数アレンジャーの合体ペンネームでは」なんて、都市伝説まがいの冗談まで飛び交っていた。

 M8社は、1963年創業、吹奏楽の楽譜を中心とする音楽出版社の老舗である。
 青森の八戸高校でトランペットを吹いていた山下国俊さんは、1960年に上京、働きながら音楽を勉強するため、当時二部のあった国立音楽大学へ進む(最終的に中退したらしい)。
 在学中に、M8創業者の助安由吉氏(元・陸上自衛隊東部方面音楽隊員)と知り合い、同社の吹奏楽アレンジを担当するようになる。

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■アウトレイジャス・フォーチュン(演奏:ロイヤル・ノーザン音楽カレッジWO)

2017年9~10月、英マンチェスターのロイヤル・ノーザン音楽カレッジで録音された「吹奏楽グレート・ブリティッシュ・ミュージック」シリーズの第23集で、その後プロデューサーのスタン・キッチンが体調をくずし、2018年1月10日に亡くなったため、CD化は中断。その間、エンジニアのリチャード・スコットは、編集、マスタリングまでを終えていたが、彼も2019年8月4日に死去。今回のCD化は、2人を惜しんだ作曲家のマーティン・エレビーが制作資金を拠出したことで実現した。アルバムは、キッチンとスコットの追憶のために献げられている。

アルバム・タイトルのナイジェル・クラークの『アウトレイジャス・フォーチュン』は、一般に“生きるべきか、死ぬべきか~”で知られるシェイクスピアの「ハムレット」の有名なセリフ“The slings and arrows of outrageous fortune, Or to take arms against a sea of troubles, And by opposing end them.”からの引用で、日本語では『暴虐な運命』とか『残忍な運命』といったように訳される。ブラック・ダイク・バンドのソロ・トロンボーン奏者ブレット・ベイカーと女優ナタリー・グレイディ、米ミドル・テネシー・ステート大学の指揮者リード・トーマスに献じられ、その顔合わせでアメリカで初演。3人はこの録音でも顔を揃えている。

マーティン・エレビーがイギリスのクリスマス・キャロルをもとに書いた『イングリッシュ・キャロルの小交響曲』とこの曲は、アルバム中でもとくにライヴ感あふれる圧倒的なパフォーマンスが愉しめる!

シエナ・ウィンド・オーケストラの定期演奏会のために委嘱されたフィリップ・スパークの『ドラゴンの年(2017)』(新バージョン)が初のセッション・レコーディングで収録されているのも注目したい。1985年のウィンド・オリジナル版との変化のディティールが克明に捉えられた録音で、ロイヤル・ノーザン音楽カレッジ・ウィンド・オーケストラもエネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げている。

この他、アルバムには、ロイヤル・マリーンズに委嘱されたエレビーの『アンフィビオシティ(海陸両面で)』と、ロブ・ウィッフィンがさまざまな“ライト感覚”を3つの楽章で捉えた組曲『ライト・ミュージック』が収録されているが、アルバム全体を通し、演奏者の高いモチベーションとサウンドの心地よさが光っている。

■吹奏楽グレート・ブリティッシュ・ミュージック Vol.23
:アウトレイジャス・フォーチュン

演奏:ロイヤル・ノーザン音楽カレッジWO
Outrageous Fortune:Great British Music for Wind Band Vol.23
http://www.bandpower.shop/shopdetail/000000000795/

【データ】

・演奏:ロイヤル・ノーザン音楽カレッジ・ウィンド・オーケストラ
 (Royal Northen College of Music Wind Orchestra)
・指揮:リード・トーマス(Reed Thomas)1 / マーク・ヘロン (Mark Heron) 2 / ジェフリー・マシューズ (Geffrey Mathews) 3 / アレグザンダー・ウェブ(Alexander Web)4 / クラーク・ランデル (Clark Rundell) 5
・発売元:ポリフォニック(Polyphonic)
・発売年:2020年
・収録:2017年9~10月、ロイヤル・ノーザン音楽カレッジ、マンチェスター(UK)
・メーカー品番:

【収録曲】

  1. アウトレイジャス・フォーチュン/ナイジェル・クラーク【24:16】
    Outrageous Fortune/Nigel Clarke
    トロンボーン:ブレット・ベイカー(Brett Baker)
    アクトレス(Actress):ナタリー・グレイディ(Natalie Grady)
  2. ドラゴンの年(2017)/フィリップ・スパーク【13:50】
    The Year of the Dragon(2017)/Philip Sparke
  3. アンフィビオシティ/マーティン・エレビー【9:03】
    Amphibiosity/Martin Ellerby
  4. ライト・ミュージック/ロブ・ウィッフィン【12:17】
    Light Music/Rob Wiffin
  5. イングリッシュ・キャロルの小交響曲/マーティン・エレビー【16:16】
    A Little Symphony of English Carols/Martin Ellerby
    コーラス(Choir):カントス・チェンバー・クワイアー(Kantos Chamber Choir)
    小序曲(酒宴)【1:37】
    Miniature Overture(Wassail Song)
    冬のバラード(真冬の雪の中を見てごらん)【2:53】
    Winter Ballad(See Amid the Winter’s Snow)
    インテルメッツォ(ひいらぎとつたは)【1:26】
    Intermezzo(The Holly and the Ivy)
    第一間奏(コヴェントリー・キャロル)【1:25】
    First Interlude(Coventry Carol)
    炉辺の前で戯れ(よのひと忘るな)【1:39】
    Fireside Frolic(God Rest You Merry, Gentlemen)
    第二間奏(まぶねの中で)【2:40】
    Second Interlude(Away in a Manger)
    物思い(木枯らしの風 吹きたけり)【2:25】
    Reverie(In the Bleak Mid-winter)
    フェスティヴ・フィナーレ(ディンドン空高く)【2:09】
    Festive Finale(Ding Dong! Merrily on High)

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http://www.bandpower.shop/shopdetail/000000000795/

【コラム】富樫鉄火のグル新 第295回 睡魔に襲われる映画

 第293回で、ヴィヴァルディが効果的に使われている映画を紹介した。
 だが、クラシックさえ流せば映画に格が生まれるわけではなく、かえって逆効果になりかねないこともある。今回は、そんな映画をご紹介する(映画そのものがダメなわけではないので、ご了承を)。

 2019年に、ルーヴル美術館で「レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年展」が開催された。準備に10年を費やした空前絶後の美術展で、日時指定のチケットは早くから完売、最終的に107万人の大記録を達成した。わたしの知己の美術ジャーナリストも、チケットが入手できず、地団駄を踏んでいた。
 その美術展を、閉館後の深夜、接写撮影でじっくりカメラにおさめ、2人の学芸員が解説してくれる、美術ファン垂涎のドキュメント映画が『ルーブル美術館の夜/ダ・ヴィンチ没後500年展』である。下絵なども一緒に見せてくれるので、ダ・ヴィンチが、どのような考え方で作品に取り組んだのか、とてもよくわかった。「モナリザ」はもちろん、「聖アンナと聖母子」なども圧巻だった。

 しかし……一瞬たりと睡魔に襲われることなく、この映画を最後まで観通したひとは、少ないのではないか。マスクで少々息苦しくなっている観客は、あちこちからかすかな寝息を立てていた。SNS上でも「寝てしまった」との感想が多い。おそらく近年、もっとも「居眠り率」の高い劇場映画だと思う。
 理由はさまざまあろう。

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【コラム】富樫鉄火のグル新 第294回 のた打ち回る《大フーガ》

 ベートーヴェンは、最後の交響曲が第9番なので、なんとなく、あの《第九》が死の直前の作品のように思われがちだ。だが《第九》の初演は1824年5月で(53歳)、彼が56歳で亡くなったのは1827年3月。つまり《第九》後、3年近く生きたのである(しかもスケッチらしきものがあるだけだが、交響曲第10番も視野に入っていた)。
 ピアノ・ソナタはもっと前に“打ち止め”していて、最後の第32番は1822年(51歳)の作曲である。(ただし、翌年に《ディアベッリ変奏曲》を書いている)。大作《ミサ・ソレムニス》が完成したのも同年だ。

 では、これらウルトラ級の名作を書き上げたあと、ベートーヴェンは、何をやっていたのか。たしかに体調はボロボロだったし、耳も聴こえなくなっていた。だが、決して寝たきりだったわけではない。
 彼は、人生最後の3年間を、弦楽四重奏曲に打ち込んだのである。
 弦楽四重奏曲は、1811年の第11番《セリオーソ》Op.95以後、書いていないので、《第九》初演の時点で、すでに14年間の空白があった。おそらく周囲は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲も“打ち止め”になったものと思っていたのではないか。
 ところが、ここから彼は、怒涛の勢いで5曲+αの弦楽四重奏曲を書きあげるのである。

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■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第140話 ブリーズのデビューとブラック・ダイク

▲「バンドピープル」1995年3月号(八重洲出版)

▲手書きブラスバンド・フルスコア – Orient Express(Philip Sparke、Studio Music、完全限定版)

▲ブラスバンド・パート譜 The Year of the Dragon(Philip Sparke、Studio Music)

“今ヨーロッパで起こっている新しい潮流を、タイムラグなくオン・タイムで日本で再現する!”

そんなメッセージを込めたコンセプトを旗頭に掲げ、1990年代を鮮やかに駆け抜けたブリーズ・ブラス・バンド(BBB)は、デビュー年の1990年(平成2年)から2000年までのほぼ10年間、ミュージカル・スーパーバイザーを委ねられた大阪のブラスバンドだ。

BBBの胎動期は1980年代で、本場イギリスでは、ちょうど、エドワード・グレッグスン(Edward Gregson)やフィリップ・スパーク(Philip Sparke)ら、新進気鋭の作曲家たちが、ブラスバンドのための魅力的な新作オリジナルをつぎつぎと発表し始めた頃だった。

当時、大阪シンフォニカー(後の大阪交響楽団)のトロンボーン奏者だった上村和義さんは、出身大学の大阪芸術大学や大阪音楽大学を卒業した若手プレイヤーたちと大阪ロイヤル・ブラスという金管グループを作って活動し、いつかこのグループをブラスバンドとして本格デビューさせたいと考えていた。(参照:《第49話 ムーアサイドからオリエント急行へ》)

氏のこの着想は、オーケストラ中心主義の音楽界にあっては、間違いなく異端児扱いされてアッという間に弾き跳ばされてしまいそうな超アグレッシブなアイデアだった。しかも、大阪には、市民生活に浸透する大阪市音楽団(現Osaka Shion Wind Orchestra)という歴史あるウィンドオーケストラがあった。

そんな音楽環境の中に新たにプロのブラスバンドをデビューさせようというのである。それには、これからやろうとするブラスバンドが、既存のオーケストラやウィンドオーケストラとはまるで違う異種の音楽形態であることを誰の目にも耳にもはっきりと示す必要があった。

言い換えれば、独自のレパートリー、サウンド、使用楽器、編成やステージ配置等が既存の音楽形態とは完全に一線を画す明確なコンセプトを必要としたのである。

上村さんは、伝を頼って情報やアドバイスを得ようと試みたが、最新のブラスバンド事情は、あらゆる音楽情報が集まる東京でさえ、ブラスバンドへの誤解や偏見から、一昔前の情報以外、ほとんど得ることができなかった。

そんなとき、上村さんは、大阪・心斎橋の三木楽器旧2階管楽器フロアの責任者、植松栄司さんの引き合わせで、“運悪く”筆者と出会ってしまった。

早速、話をうかがうと、上村さんたちが全力で集めた情報や楽曲が、このジャンルのクラシックを知るという点では大いに意義があるが、やはり二昔前のものであり、当時、イギリスを中心としたヨーロッパの広いエリアで行なわれていたものとかなり乖離があることがすぐにわかった。当然、話の主導権はこちらへと移る。

筆者は、まず、前述のような大阪の音楽界において、評論家も来場するコンサートで新たな音楽グループをデビューさせるわけだから、それは『どうせ、ブラスバンドなんて……』なんて言わせない鮮烈なデビューでないと意味がないと主張。『ブラスバンドの何たるかも知らずに、偉そうなことをいう難しい人たちを黙らせるような独自の最新レパートリーと魅力あるサウンドをまずものにしなくてはなりません。』と話した。また、『友人にフィリップ・スパークという、今売り出し中のすばらしい作曲家がいるので、まずそこから手をつけてみませんか。話せばすぐに楽譜を送ってくれるので。』とも加えた。

上村さんへの話はそれだけで充分だった。速攻で『聴かせて欲しい。』という話に発展。その後、日を改めて来宅した上村さんは、今度はオーディオ装置の隣のラックに列を成して並んでいるものに目が点になってしまった。

この当時は、個人的道楽で、イギリスEMIやRCA Victor、Polydor、Decca、Polyphonicなどの各レーベルから発売されるブラスバンドのLPレコードの新譜を片っ端から買い揃えていた頃で、イギリスのマニアには到底及ばないものの、我が家には、旧譜の名盤のほか、100枚以上の最新ブラスバンドLPがゴロゴロ転がっていた。一日やそこいらで全部聴くことなど到底不可能な数の。また、それらは出版社が参考音源として作った類いのものでなく、多少の出来不出来はあるものの、すべてバンドが伸び伸びプレイしているものばかりだった。

上村さんには、その中から“これは”と思う曲をどんどん聴いてもらうことにしたが、予想したとおり、フィリップの『ドラゴンの年(The Year of the Dragon)』や『ジュビリー序曲(Jubilee Overture)』、『オリエント急行(Orient Express)』は、一発で『楽譜が欲しい。』という話に発展。その日の内にフィリップにFAXでリクエストを送信すると、フィリップの方もアッという間に楽譜を揃えて送ってくれ、早速、週一の定例練習でリハーサルが開始された。

ブラスバンドの専門紙もその辺に散らばっていたので、『樋口さんのところは、まるで宝の山です。』と言う上村さんの来宅はその後も継続的に続いた。1990年7月2日(月)、いずみホールで行なわれたBBBの「デビュー・コンサート」のプログラムは、こうして次第に組み立てられていったのである。

また、さらに運がいいことに、BBBデビュー直前の6月11日(月)、イギリスのブラック・ダイク・ミルズ・バンド(John Foster Black Dyke Mills Band)が大阪国際交流センターに来演した。同年5月5日(土)、スコットランドのファルカーク・タウン・ホール(Falkirk Town Hall)で行なわれた“ヨーロピアン・ブラスバンド選手権1990(European Brass Band Championships 1990)”で、ヨーロッパ・チャンピオンに返り咲いたばかりのブラック・ダイクがである。

この日のコンサートは、BBBがデビューに向けて積み上げてきたものを当時最高のバンドのステージから再確認するまたとない機会となった。

“ヨーロピアン”でも演奏されたピーター・グレイアム(Peter Graham)の『エッセンス・オブ・タイム(The Essence of Time)』やフィリップの『ハーモニー・ミュージック(Harmony Music)』は、“圧巻”という表現がふさわしいパフォーマンスで、既存の演奏形態と明確な差別化を図りたい新しいグループのレパートリーとプログラミングに、ブラスバンドの最新オリジナルは欠かせないアイテムであることをまず確認した。場内の反応を見ていても、少なくとも“新しいものが大好き”な地元大阪の聴衆には間違いなく“受ける”と確信できた。

上村さんは、『これからやりたいものがハッキリ見えました。』と言った。

ついで、各セクションの楽器がすべて同じラッカー仕様のベッソン(ソヴェリン)で統一されていることも目をひいた。とくに、『ハーモニー・ミュージック』のように、奏者一人ひとりに異なる音が割り当てられているコンテンポラリー作品では、全員が使う道具(楽器)のキャラクターが統一されていることが合奏面でとてつもない優位性を発揮することが分かった。これからどんどん進化するオリジナルを取り入れていこうとするBBBにとって、これは重要なポイントとなった。

同時に、この日聴いたブラック・ダイクのピュアなサウンドの実現を当面の目標としたいという上村さんの意思はここで固まり、議論の末に、サクソルン族各楽器はベッソンのラッカー仕様、楽曲の上でサクソルンとは違ったキャラクターが求められるトロンボーンだけはキングで揃えるというサウンド・ポリシーが定まった。

ただ、デビュー時のBBBは、奏者が持ち寄った様々な楽器の集合体であり、経済的事情も手伝ってこの目標の実現には3年近い時間を要した。また、大型楽器のため、同時にいくつも輸入されるわけではなく、かつ高額なバス(Ebバス x 2、Bbバス x 2)は、筆者が順次購入し、バンドに貸与することに決めた。最終的に、BBBには10年間で2500万ほどの個人資金を投下したが、これはその一部である。海外から新しい楽器が届くたび、こちらの奏者に自由に試奏させてもらった東京のブージー&ホークス社(後のビュッフェ・クランポン)には、感謝するほかない。

また、ブラック・ダイクに帯同したロイ・ニューサム(Roy Newsome)、デヴィッド・キング(David King)、ケヴィン・ボールトン(Kevin Bolton)の3人の指揮者とも終演後の会食でめでたく知己を結び、デビュー後の密な協力関係が構築された。

これらに加え、ブラック・ダイクのナマを聴いた最大の成果は、練習で聴くBBBのサウンドとダイナミック・レンジがこの日を境にガラリと変わったことである。聴けばわかる見本のような結果だった。

そして、迎えたデビュー当日、まるで知らない曲をまるで知らない楽器編成で聴かされた評論家諸氏は、将来に期待をこめて好評価の演奏会評を寄せた。

BBBデビュー大作戦、まんまと大成功である!!

その後も、探究心の固まりと化した上村さんは、同年10月6日(土)、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開かれた全英ブラスバンド選手権(Boosey & Hawkes National Brass Band Championships of Great Britain)をその目と耳で確認するために渡英。ユース選手権にも足を運ぶなど、ブラスバンドに対する見識と経験をさらに深めてきた。(参照:《第133話 全英ブラスバンド選手権1990》)

そして、帰国後、最初のリハーサルで上村さんが放った一語は、その後、BBBの内部で流行語となった。

『もっと“リブリブ”に吹かんかい!』

BBBの定期公演「ライムライト・コンサート」が開始されるおよそ半年前の出来事である。

▲チラシ – Black Dyke Mills Band 大阪公演(1990年6月11日、大阪国際交流センター)

▲Solo & Tutti Cornets, & Flugel Horn:(左から)R. Webster、R. Westacott、J. Hudson、J. Pritchard、D. Pogson(同、撮影:関戸基敬)

▲Soprano, Ripieno, 2nd & 3rd Cornets:(左から)N. Fielding、L. Rigg、P. Rose、G. Williams、I. Broadbent、D. Clegg(同)

▲Tenor Horns:(右から)S. Smith、T. McCormick、S. Jones(同)

▲Baritones:(右から)P. Christian、S. Booth(同)

▲Euphoniums:(右から)M. Griffiths、S. Derrick(同)

▲Trombones:(右から)N. Law、A. Gray、M. Frost(同)

▲Basses:(右から)S. Gresswell(Bb)、P. Goodwin(Eb)、G. Harrop(Eb)、D. Jackson(Bb)(同)

▲Percussion:(右から)R. Payne、R. Clough、M. Arnold(Timpani)(同)

■オオサカンアカデミー・ウインドバンド 第16回ファミリーコンサート(1月11日)

小さいお子様から大人の方まで楽しめるファミリーコンサート!
今年も、幅広い世代に愛されるプログラムをご用意しました。
0歳のお子さまから入場できます。3歳未満入場無料!
どうぞご家族皆さんでお越しください。

日時 : 2021年1月11日(月) 開場 13:30 、開演 14:00
会場 : ローズ文化ホール(大阪府 豊中市野田町4-1)
交通手段 : 阪急宝塚線「庄内」駅から北へ約500メートル
料金 : 全席指定・要予約 ■大人1000円(中学生以上) ■子供500円(3歳~小学生) ■3歳未満入場無料(座席を必要としない「膝の上鑑賞」のお子さまの場合)
曲目 : ♪紺き空へ、碧き海へ
♪ドラえもん
♪ひまわりの約束
♪アニメ「鬼滅の刃」より 紅蓮華
♪スタンドアローン
♪ディズニー映画「美女と野獣」プロローグ~朝の風景~愛の芽生え~美女と野獣
♪マイホームタウン
♪天の剣
♪パプリカ
♪蘇州夜曲
♪坂本冬美メドレー あばれ太鼓~また君に恋してる~夜桜お七
問合せ :

担当者(下記ホームページより)
E-Mailoawb@pa.zeath.jp
HomePagehttp://www.osakan.jp/academy/index.html

■アルコバレーノウインドオーケストラ 第7回定期演奏会(1月30日)

今年のテーマは「再始動」。

2020年2月に行われた、第6回シンフォニックジャズ&ポップスコンテスト全国大会において金賞を受賞した当団。
以降、新型コロナウイルスにより活動を休止しておりましたが、一年ぶりの演奏会となります。

こうした時代だからこそ、ご来場の皆様に笑顔になって頂けるように、クラシック曲からポップス曲まで幅広い曲目をご用意しました!

皆様のご来場を団員一同お待ちしております。

※新型コロナ感染予防として、事前申し込みが必要になります。
下記フォームにご記載の上、当日お越しください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdwo4Vf52OojzT-fUKAT-8wxdQ5_UlJ1h-bzo_gXamHDLPE-w/viewform

・館内入り口での検温、アルコール消毒にご協力ください。
・マスク着用でご来場ください。
・37.5℃以上の発熱や体調が優れない場合は、ご来場はご遠慮ください。
・出演者への差し入れ等はご遠慮ください。

日時 : 2021年1月30日(土) 開場 13:30 、開演 14:00
会場 : 大和市文化創造拠点シリウス 芸術文化ホール
交通手段 : 小田急江ノ島線・相鉄本線 大和駅から徒歩3分
料金 : 入場無料 全席自由 ※要申し込み
曲目 : 1部「クラシカル」
♪ナヴァル・ブルー(真島俊夫)
♪ラシーヌ賛歌(編曲:鈴木英史)

2部「アルコバレーノ・ポップス・セレクション

♪イン・ザ・ムード
♪ジョイフル・ジョイフル、他
問合せ :

担当者山根
TEL09063071837
E-Mailarcobaleno.w.o@gmil.com
HomePagehttps://arcobalenowindorchestra.jimdofree.com/

■全英ブラスバンド選手権2018(演奏:フォーデンズ・バンド、他)

イギリスでブラスバンドをやる人たちの最大の関心事は、何といっても“全英ブラスバンド選手権”だ。これはその2018年決勝のライヴ・アルバムで、最上位のチャンピオンシップ部門決勝が、10月16日、ロンドンのロイヤル・アルパート・ホールで、ファースト~フォースの各部門決勝が、9月15~16日、英グロースターのチェルトナムのセントー・コンファランス・センターで収録された。エグゼクティブ・プロデューサーをトレヴァー・カッフル、エンジニアをダニエル・ロックとメリッサ・ディーが担っている。

ファン注目のチャンピオンシップ部門決勝のテストピース(課題)は、ケネス・ダウニーの『ヘンデル・イン・ザ・バンド』で、大作曲家ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルがキイボード(ハープシコード)のために書いた曲の中で最も良く知られている『組曲第4番(HWV437)』の“サラバンド”のテーマの変奏曲として書かれている。もともとはスイスのブラスバンド、ブラスバンド・トライツ・エトワールが2013年11月24日のスイス・ブラスバンド選手権で演奏するために委嘱した作品で、この初演はジェームズ・ガーレイの指揮で行なわれている。作品は、音楽的な機知に富み、ドラマチックな性格をもつ。有名なメロディーの変奏曲なので、聴衆へのアピール度も高い。

チャンピオンシップ部門決勝にエントリーされた20バンドの中から、優勝を飾ったのは、イングランド・ノース・ウェスト地区代表のフォーデンズ・バンドで、6年ぶり14度目の全英チャンピオンに輝いた。指揮はラッセル・グレイ。このCDに収められている優勝演奏はスリリングでエキサイティング! 終わった後の聴衆の歓声も凄い! これぞ全英の興奮だ!!

この結果、フォーデンズは、ヨーロピアン選手権2020(コロナ禍で中止)へ推薦されることが決まった。

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■全英ブラスバンド選手権2018
演奏:フォーデンズ・バンド

The Nationals 2018

【データ】
・演奏:(曲目欄に記載)
・指揮:(曲目欄に記載)
・発売元:ドイエン (Doyen)
・発売年:2018年
・収録:2018年10月6日、Royal Albert Hall, London, U.K.(1、3、6、8、9)/ 2018年9月15日、The Centaur Conference Centre, Cheltenham, U.K.(2、5) / 2018年9月16日、The Centaur Conference Centre, Cheltenham, U.K.(4、7)

【収録曲】

  1. フライング・ホーム/ライオネル・ハンプトン(trs. バリー・フォージー)【3:09】
    Flying Home/Lionel Hampton(trs. Barry Forgie)
    【リーダー】アンディ・メアーズ(Sergeant Andy Mears)
    【演奏】ロイヤル・エア・フォース・スコードロネイアーズ(Royal Air Force Squardronaires)
  2. ディヴェルティメント・フォー・ブラス/ダーロル・バリー【10:46】
    Divertimento for Brass/Darrol Barry
    【指揮】ジュリアン・ブライト(Julian Bright)
    【演奏】スタムフォード・ブラス(Stamford Brass)
  3. フェア&フェン/リチャード・ロジャーズ&ローレンツ・ハート(arr. テッド・ヒース)【3:51】
    Where or When/Richard Rodgers & Lorenz Hart(arr. Ted Heath)
    【リーダー】アンディ・メアーズ(Sergeant Andy Mears)
    【演奏】ロイヤル・エア・フォース・スコードロネイアーズ(Royal Air Force Squardronaires)
  4. エピソード・フォー・ブラス/ギャレス・チャーチャー 【12:50】
    Episodes for Brass/Gareth Churcher
    【指揮】ウィリアム・ラッシュワース(William Rushworth)
    【演奏】バーンズリー・ブラス(Barnsley Brass)
  5. ファイアストーム/スティーヴン・ブラ 【10:46】
    Firestorm/Stephen Bulla
    【指揮】ケヴィン・ギッブズ(Kevin Gibbs)
    【演奏】ミドルトン・バンド(Middelton Band)
  6. フュー・グッド・メン/ゴードン・グッドウィン【3:34】
    A Few Good Men/Gordon Goodwin
    【リーダー】アンディ・メアーズ(Sergeant Andy Mears)
    【演奏】ロイヤル・エア・フォース・スコードロネイアーズ(Royal Air Force Squardronaires)
  7. アーサー王~ラジオ・ドラマのシーン/ベンジャミン・ブリテン(adpt. ポール・ヒンドマーシュ【12:55】
    King Arthur – Scenes from a Radio Drama/Benjamin Britten(adpt. Paul Hindmarsh)
    【指揮】ジョン・コリンズ(John Collins)
    【演奏】オールダム・(リーズ)・バンド(Oldham (Lees) Band)
  8. マンハッタン/リチャード・ロジャーズ&ローレンツ・ハート(arr. ディック・バーレル)【3:52】
    Manhattan/Richard Rodgers & Lorenz Hart(arr. Dick Barrell)
    【リーダー】アンディ・メアーズ(Sergeant Andy Mears)
    【演奏】ロイヤル・エア・フォース・スコードロネイアーズ(Royal Air Force Squardronaires)
  9. ヘンデル・イン・ザ・バンド/ケネス・ダウニー 【17:00】
    Handel in the Band/Kenneth Downie
    【指揮】ラッセル・グレイ(Russel Gray)
    【演奏】フォーデンズ・バンド(Forden’s Band)

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■ランドスケイプス(演奏:コーリー・バンド)

2019年7月10~11日及び12月4~6日、ウェールズの首都カーディフのキャセイスにある聖テイロ教会でレコーディングされたコーリー・バンドの本格アルバム。プロデューサーは、アダム・ゴールドスミス、エンジニアは、ダニエル・ロックが担っている。

収録されているのは、イギリスのブラスバンド・レパートリーの中でも“クラシック”と言われるオリジナル曲が5曲。すべてが全英ブラスバンド決勝のために書かれた委嘱作で、定番レパートリーとして繰り返し演奏されてきた作品ぱかりだ。

冒頭のジョン・マッケイブ(1939~2015)の『クラウドキャッチャー・フェルズ』は、1985年10月6日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品で、タイトルは、デヴィッド・ライトの詩「コッカーマス」から採られている。連続して演奏される4つの楽章からなり、イギリス湖水地方バターデールの山岳地帯の自然美や情景を描写する深みのある詩的な音楽となっている。

ジョン・アイアランド(1879~1962)の『ダウンランド組曲』は、1932年10月1日、ロンドンのクリスタル・パレスで開催された「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピースとして委嘱された作品で、イングランド南東部のサセックス地方の丘陵地帯の情景を描写する4楽章構成の組曲だ。

3曲目のエドワード・エルガー(1857~1934)の『セヴァーン組曲』は、1930年9月27日、ロンドンのクリスタル・パレスで開催された「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピースとして委嘱された作品。それまでブラスバンド曲を書いた経験がなかったエルガーはピアノ・スコアまでを書き、ブラスバンド用のスコアリングをヘンリー・ギールに託したが、その際、ハ長調から変ロ長調に転調が行なわれた。しかし、エルガー没後かなりたってから、エルガーのオリジナル・ピアノ・スコアが発見されたことから、近年では、このCDと同じくエルガー自筆スコアに基づく演奏が行なわれるようになった。

エドマンド・ラッブラ(1901~1986)の『ヴァリエーションズ・オン・ザ・シャイニング・リバー』は、1958年10月25日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品。作曲家としても知られるフランク・ライトがブラスバンド用編曲を行なったが、これは前曲と同じ様な事情があった。大戦中のある夜、スコットランドのネス川の堤みを散策している最中、明るい月が川面に輝いている美しい情景を見たときの印象に触発されたテーマと6つの変奏からなっている。

フィナーレを飾るエリック・ボール(1903~1989)の『ハイ・ピーク』は、1969年10月11日、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行なわれた「全英ブラスバンド選手権」決勝のテストピース(課題)として委嘱された作品で、“ラプソディ・フォー・ブラスバンド”の副題をもつ。アルプスのような最高峰を目指す登山者の姿を描くように“ビジョン”“願望” “上り坂”“達成”のセクションからなっている。太陽が輝く最高峰に到達するシーンは、多くのブラスバンド・ファンを興奮させてきたクライマックス・シーンだ。

すべてに情景があり、イギリス人の歌ごころに満ちている。教会での録音だけに、サウンド面も太鼓判! 全英ブラスバンド選手権がブラスバンドのオリジナル曲を発展させてきたことをまざまざと感じさせるすばらしいアルバムに仕上がっている。

【コーリー・バンド】
1884年、南ウェールズ屈指の炭鉱地帯として知られるロンザ・ヴァレー(Rhondda Valley)で結成されたウェールズの代表的ブラスバンド。当初はトン・テンペランス・バンドの名前で活動したが、1895年、演奏を聴いた同地の鉱工業の盟主、コーリー・ブラザーズ社の社長サー・クリフォード・コーリーからのスポンサードの申し出を受け、コーリー・ワークメンズ・バンドに改称。1920年には“チャンピオンシップ”セクションのステータスを得た。その後、炭鉱との関係が薄くなり、コーリー・バンドの名前で活動。1998年以降、スポンサー変更などにより、ジャスト・レンタルズ・コーリー・バンド~バイ・アズ・ユー・ヴュー・コーリー・バンド~バイ・アズ・ユー・ヴュー・バンドと改名を繰り返したが、2007年にバンド名に“コーリー”の名前を取り戻した。各選手権においても輝かしい成績を誇るが、近年においても、2000年に音楽監督に就任した世界的ユーフォニアム奏者ロバート・チャイルズ(Dr. Robert B. Childs)の指揮のもと、2000年、2002年、2007、2009年の全英オープン優勝、2000年の全英選手権優勝、2008-2010年のヨーロピアン選手権3年連続優勝、2009年のオランダ・ケルクラーデの第16回世界音楽コンクール優勝と、実力者ぶりをいかんなく発揮している。有名なフィリップ・スパークの『ドラゴンの年』は、コーリー・バンド結成100周年記念委嘱作だった。2012年5月、フィリップ・ハーパーが新音楽監督に就任した。

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■ランドスケイプス
演奏:コーリー・バンド

Lanscapes

【データ】
・演奏:コーリー・バンド(Cory Band)
・指揮:フィリップ・ハーパー(Philip Harper)
・発売元:ドイエン (Doyen)
・発売年:2017年
・収録:2019年7月10~11日、12月4~6日、St. Teilo’s Church, Cathays, Wales

【収録曲】

  1. クラウドキャッチャー・フェルズ/ジョン・マッケイブ【17:16】
    Cloudcatcher Fells/John McCabe
  2. ダウンランド組曲/ジョン・アイアランド【17:31】
    A Downland Suite/John Ireland
    第1楽章:プレリュード Prelude【4:59】
    第2楽章:エレジー Elegy【4:21】
    第3楽章:メヌエット Minuet【4:52】
    第4楽章:ロンド Rondo【3:19】
  3. セヴァーン組曲/エドワード・エルガー【17:44】
    The Severn Suite/Edward Elgar
    第1楽章:イントロダクション Introduction【2:25】
    第2楽章:トッカータ Toccata【4:05】
    第3楽章:フーガ Fugue【3:41】
    第4楽章:メヌエット Minuet【5:15】
    第5楽章:コーダ Coda【2:18】
  4. ヴァリエーションズ・オン・ザ・シャイニング・リバー
    /エドマンド・ラッブラ【9:35】
    Variations on the Shining River/Edmund Rubbra
  5. ハイ・ピーク/エリック・ボール【12:24】
    High Peak/Eric Ball

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