■吹奏楽曲でたどる世界第41回】第2次世界大戦(1939~1945) その2 ~泰緬鉄道建設工事 組曲≪戦場にかける橋≫(マルコム・アーノルド作曲/木村吉宏編曲)

Text:富樫鉄火

●作曲:サー・マルコム・ヘンリー・アーノルド Sir Malcolm Henry Arnold(イギリス/1921~2006年)
●編曲:木村吉宏 Yoshihiro kimura
●原題:The Bridge On The River Kwai
●初出:映画公開1957年
●出版:ブレーン(レンタル)
●参考音源:『戦場にかける橋/広島ウインドオーケストラ』(ブレーン)他
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0288/

●演奏時間:約25分(本文参照)
●編成上の特徴:大型編成。フルートⅠ~Ⅳあり。トランペットⅠ~Ⅲの他に、コルネットⅠ・Ⅱ必要。ハープ、ピアノ各2必要。
●グレード:5

太平洋戦争が始まって、日本軍は東南アジア各地に侵攻した。

外地での戦争となった時、重要なのは「人(兵士)」「弾薬(武器)」「食糧」の3点セットだと、よく言われる。これらのどれかが足りなくても、前線で勝利をおさめることはできない。「人」は、1回送り込めば、戦死しない限り、ずっとそこに留まることができる。だが、「弾薬」と「食糧」は、消耗品である。どんどん足りなくなるから、どんどん補給しなければならない。腹が減っては戦はできず、弾(タマ)がなければやられるのみ、である。「補給」がちゃんと行なわれるかどうかが、勝敗の分かれ道になると言っても過言ではない。

だから外地では「補給路」が重要になる。前線の兵士たちに、後方から、どんどん弾薬や食糧を届けるルートである。車、船、鉄道…あるいは、空から落下させる、なんて方法もあろう。

東南アジア周辺は、海に囲まれているが、それだけに海路だと敵艦に遭遇する可能性が高くなる。海上に補給路を求めることは極めて危険であった。なるべく内陸地に補給路を確保したかった。

1942年(昭和17年)、日本軍はビルマ(現ミャンマー)を占領した。そして、タイとビルマを結ぶ鉄道建設を計画する。

当時の日本軍は、東南アジア周辺に、大量の連合軍捕虜を収容していた。彼らを使え、となっておよそ6万人が強制労働に駆り立てられた。また、周辺諸国の住民、タイ、ビルマ、マレーシア、インドネシアなどからも一般労働者が集められてきた。その数、計40万人とも50万人とも言われている。【注1】

そんな彼らを酷使し、劣悪な環境の下、強制労働で突貫建設されたのが「泰緬鉄道」(たいめんてつどう)である。

いったい、あんな山奥に鉄道なんか敷けるのか…最初は誰もがそう思ったが、1年半ほどで完成してしまった。何しろ、労働者の半分近くが事故や病気で死んだと伝えられている、それほどの強行突貫工事だったのである。

この工事で最も難関だったのが、クワイ河(現地では「クェー河」とも発音するようだ)に架ける鉄橋工事であった。あまりに急流で、地形も複雑だったため、本鉄橋工事と同時に、近くに建設物資などを搬送するための木造の仮橋を建設した。本鉄橋はのちに完成したが、ここが連合軍の攻撃ポイントとなり、しばしば爆撃を受けた。日本軍は、本鉄橋が破壊されると木橋を利用したり、応急工事で復活させるなどして臨機応変に対応したため、最終的に連合軍は、クワイ河を渡る鉄路を完全に遮断することはできなかった。

この史実をもとに、1957年に製作されたイギリス映画が『戦場にかける橋』である。原作ピエール・ブール【注2】。監督デヴィッド・リーン。アカデミー賞作品賞を含む6部門で受賞した名作だ。

工事現場の日本軍責任者に早川雪洲。工事に従事させられるイギリス軍捕虜のリーダーにアレック・ギネス。鉄橋を爆破するアメリカ兵にウィリアム・ホールデン。早川雪洲は、捕虜を酷使しながらもイギリス人魂に尊敬の念を覚えてしまう。アレック・ギネスは捕虜の立場ながらイギリス兵の誇りを捨てずに鉄橋建設に邁進する。ウィリアム・ホールデンは、そんなことおかまいなしに鉄橋爆破に挑む。

デヴィッド・リーン監督の生涯のテーマでもある「異文化の衝突」が見事に描かれた傑作映画であった。

音楽は、マルコム・アーノルド。吹奏楽界では、≪第六の幸福をもたらす宿≫や、狂詩曲≪サウンド・バリアー≫、≪ピータールー序曲≫などが有名だ。【第28回】参照【注3】

この映画の音楽から、4曲が抜粋されて、木村吉宏編曲で吹奏楽組曲になっている。構成は、Ⅰ<前奏曲>(約7分)、Ⅱ<夕暮れ>(約8分)、Ⅲ<ジャングルの旅>(約7分)、Ⅳ<クワイ河マーチ>(約3分)となっている。いかにもイギリスの品格ある映画音楽といった感じで、クラシックな味わいがある名曲である。すでにコンクールにも登場しているスコアだ。抜粋演奏をすれば、コンクール向きなのは確かだが、スコアはたいへん巨大な編成である。しかも、音楽自体もドラマティックで、まとまった演奏の形に持っていくのは容易ではない。

なお、この連載でしばしば書いていることなのだが、この映画の中で、アルフォード作曲の有名なマーチ≪ボギイ大佐≫【第36回参照】が使用され、これに重ねてアーノルド作曲の≪クワイ河マーチ≫が流れる。音楽でアジアと西洋を対比・合体させているわけだ。ところが、そのために、≪ボギイ大佐≫と≪クワイ河マーチ≫が同一曲であるかのような誤解が流布している。この2曲は、まったく別の曲である。だから、この木村版スコアを演奏しても、≪ボギイ大佐≫の旋律はまったく出てこないので、誤解なきよう。

ちなみに、この吹奏楽版のもととなったオーケストラ組曲版が、シャンドス・レーベルからCD化されている。『The Film Music of Sir Malcolm Arnold Vol. 1 』(リチャード・ヒコックス指揮、ロンドン交響楽団)。この原曲では、前記≪ボギイ大佐≫も含めた5曲構成となっている。このCDには、≪サウンドバリアー≫や、≪六番目の幸福をもたらす宿≫なども収録されているので、オーケストラ原曲を聴いてみたい方にはお薦めである。

なお、泰緬鉄道は、戦後、一部を除いてほとんどが連合軍によって撤去された。あまりに奥地にあるので、メンテナンスが大変だったようだ。また、当初、建設工事で多くの捕虜や現地人が酷使され、生命を失った事実に関しては、当初あまり知られていなかったが、次第に証言が浮かび上がり、今では、戦時中に日本軍が行なった残虐非道行為の一つとして有名になっている。

確かにこの音楽は「映画音楽」であり、ということは「娯楽音楽」といってもいいのだが、もし演奏する際には、史実がもとになった音楽であることを、ぜひ忘れないでいただきたい。

当のクワイ河鉄橋は、戦後補修され、今では周辺に追悼碑などがある観光名所になっているようだ。
<敬称略>

※「木村吉宏」の「吉」は、正確には上部が「土」です。

【注1】もちろん日本からも建設に参加したが、その数は1万人ちょっとだった。

【注2】これも以前にも述べたが、あらためて。この映画の原作は、フランスの作家ピエール・ブールによる体験実話小説。彼は戦時中、ビルマで日本軍の捕虜となっており、終生、日本人=黄色人種を憎み続けた。『戦場にかける橋』は、日本人への恨みが込められていたのだ。ところがこの小説だけでは怒りがおさまらなかったと見えて、今度は日本人=黄色人種をサルに見立てたSF小説まで書いた。それが映画にもなった『猿の惑星』である。

【注3】ちなみに≪第六~≫も、第2次大戦中、日本に侵攻された中国を舞台にした戦争映画『六番目の幸福』(1958年)の音楽である。

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