■吹奏楽曲でたどる世界【第44回】第2次世界大戦(1939~1945)その5  ~パリ解放(1944年)フランス組曲(ダリウス・ミヨー)

Text:富樫鉄火

●原題:Suite Francaise
●作曲:ダリウス・ミヨー Darius Mihaud(1892~1974)
●初出:1945年、ニューヨークでゴールドマン・バンドにより初演。
●出版:MCA/HAL LEONARD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-9672/

●参考音源:『フランス組曲/東京佼成ウインドオーケストラ』(佼成出版社)、『なにわ<オーケストラル>ウィンズ 2005』(ブレーン)、『グレインジャー:リンカンシャーの花束/フレデリック・フェネル』(ユニバーサル)ほか
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0080/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-3216/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0808/

●演奏時間:全5楽章、約16~19分
●編成上の特徴:ほぼ標準編成。バス・サクソフォーンがあるが代用可。コルネット1~3+トランペット1・2あり。
●グレード:4~5

前回解説したノルマンディ上陸作戦により、連合軍は一挙にヨーロッパ大陸に展開し、第2次世界大戦は終結に向かって動き始めた。

ヨーロッパは、ほぼ全土がナチスドイツによって制圧されていた。その中でも、大都市パリを解放することが、戦争を終わらせる象徴的な反撃になることは誰の目にも明らかだった。ヨーロッパを代表する都市パリは、1940年以来、足かけ5年にわたってナチスドイツによる占領の状態がつづいていたのだ。

1944年6月にノルマンディから大量上陸を果たした連合軍兵士は、刻一刻とパリに迫っていた。もちろんヒトラーは、何としてもパリを掌中におさめたままでいたい。

ところが、連合軍上陸のニュースを聞いたパリのレジスタンスたちは、この機を逃すなとばかり、さっそく武装蜂起する。

レジスタンスの応援下、パリ市民は一斉にゼネストに入り、市内にバリケードを築いた。市内各所でナチスドイツとの小さな市街戦が相次いだ。

ヒトラーは、このままではパリが連合軍に奪還されると判断。市内各所に爆弾を設置させ、パリ全体を火の海に包んで、レジスタンスや連合軍ごと「消滅」させようと決意する。実際、エッフェル塔やルーブル美術館、駅、官公庁など市内のあちこちに、爆弾が設置された。

だが、パリ駐在司令官であるナチスのコルティッツ将軍は、もはやドイツの敗北を確信していた。すぐ目の前には、大量の連合軍が迫っている。勝ち目はない。その上、この美しい都を灰燼に帰させることは、耐えられなかった。コルティッツ将軍は、密かに連合軍側と停戦交渉を交わし、ヒトラーの命令を無視しつづけた。

かくしてパリ市内に進軍したフランス軍との戦闘を経て、ドイツ軍は8月22日に降伏。アメリカ軍が進軍してパリは解放されるのである。それは、以後に続くナチスドイツの最期を予感させる出来事だった。

ちなみに、この一連の出来事が、2人のジャーナリスト、ドミニク・ラピエールとラリー・コリンズによって詳細な記録ノンフィクション『パリは燃えているか?』(早川書房)となって、さらに、1966年、ルネ・クレマン監督によるオールスター・キャストの超大作映画『パリは燃えているか』となって大ヒットした。【注1】

この映画の音楽は、名匠モーリス・ジャール。細かく調べていないので、もしかしたらどこかで出版されているのかもしれないが、吹奏楽で演奏しても十分通用する名スコアである。主題歌のロマンティックなテーマは、のちに、フランスの国民歌手ミレイユ・マチューが歌詞をつけて歌っている。

さて、この「パリ解放」のニュースを、亡命先のアメリカで聞いて感動し、吹奏楽曲をつくった作曲家がいる。フランス人ダリウス・ミヨーである。

彼は、南仏プロヴァンス出身、ユダヤ人の大富豪の息子であった。生来、小児麻痺だったので車椅子に乗っていることも多かった。ピアニストとしても大活躍したが、ユダヤ人だったため、第2次世界大戦が始まるとアメリカに亡命し、教鞭をとっていた。

たまたまパリが解放された頃、ミヨーは、音楽出版社リーズから「学生でも演奏できる吹奏楽曲を作曲してほしい」との要請を受けていた。そこでミヨーは、母国が救われたことに対する感激・感謝を、5楽章構成のコンパクトな吹奏楽曲に仕立て上げた。【注2】

素材となったのは、レジスタンスがナチス・ドイツと闘った5つの土地と、その土地に伝わる民謡である。

第1楽章<ノルマンディー>
連合軍が上陸を果たした海岸地方。にぎやかな楽章で、ほぼすべての楽器に出番がある。

第2楽章<ブルターニュ>
曇天模様が多い地方。ホルンから始まって、オーボエやサクソフォーンが、民謡≪哀れなブルターニュの漁夫≫を演奏する。

第3楽章<イル・ド・フランス>
この地名「フランス島」は、首都パリを含むフランス中心部のこと。 都会の活気を表現する。

第4楽章<アルザス・ロレーヌ>
フランスとドイツが長年にわたって争いを繰り広げてきた問題の地。ゆったりと哀しげな表現は、葬送行進曲のようでもある。

第5楽章<プロヴァンス>
ミヨーが生れた南仏の地。ビゼー≪アルルの女≫を思わせる南仏風のドラムに乗って力強く展開する一種の舞曲。

ミヨーは、これらで、ナチスドイツの手を逃れた故国フランスの素晴らしさを世界中にアピールしたかったのだ。

第2次世界大戦の終結は目前に迫っている。
<敬称略>
【注1】この映画はドキュメンタリー・タッチを生かすためにモノクロで製作された。だが、ラストの、解放されたパリ市外を空撮で描くラストシーンだけは、カラーで華やかに表現されている。まさにパリの町が蘇ったことを象徴する、ルネ・クレマンの素晴らしい演出……かと思いきや、かつて、映画評論家・西村雄一郎がルネ・クレマン本人にインタビューした際、このラストの素晴らしさについて聞いたら「ちょっと待て。俺は、そんなカラーのラスト・シーンなんか、撮影していないぞ」と驚いていたそうだ。世界配給してヒットさせるために、映画会社が勝手に撮影して加えたものだったのだ。海外では、映画の「著作権」が、監督よりも製作会社にあることを彷彿とさせるエピソードである。

【注2】「学生でも演奏できる吹奏楽曲」との要望に応えただけあって、確かにこの曲は、編成も通常だし、譜面ヅラもそう複雑ではない。だから、グレードとしては「3~4」としてもおかしくはない。だが、この曲をきれいに演奏することは、そう簡単ではない。これは、一種の管楽器による「少し大きめなアンサンブル曲」なのである。多くの楽器はむき出しにされ、ごまかしがきかない。よって本稿ではグレードを「4~5」にしてある。

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