■吹奏楽曲でたどる世界【第43回】第2次世界大戦(1939~1945)その4 ~ノルマンディ上陸作戦(1944年)孤独な海岸~ノルマンディ1944(ジェイムズ・バーンズ)

Text:富樫鉄火

●原題:Lonley Beach ~Normandy1944
●作曲:ジェイムズ・バーンズ James Barnes(1949~)
●初出:1992年、米陸軍バンドにより初演
●出版:Southern Music
●参考音源:サザン・ミュージックのデモCDのみ(のはず。もし、一般発売の音源がありましたら、編集部までご一報ください)。

●演奏時間:約11分
●編成上の特徴:かなり特殊。標準大型編成に加えて……女声3部(ソプラノ2部+アルト)。トランペット1~4+オフ・ステージに8本必要。ハープ+シンセサイザー。打楽器1~4はオフ・ステージ。
●グレード:5超

第2次世界大戦は、連合軍のノルマンディ上陸作戦(1944年6月6日)の成功によって、一気に終局になだれ込むことになった。人類の戦争史上、最大の上陸作戦と称されている。

ノルマンディとは、フランス北西部にある地方の名称。ドーバー海峡を挟んで、イギリスはすぐ目の前である。

ナチスドイツによって侵略されたヨーロッパを奪還するには、いつまでも空爆に頼ってはいられない。いつかは、大量の兵士を地上に送り込んで、いわゆる「本土決戦」に持ち込む必要があった。

連合軍は、1944年6月6日をもって、このノルマンディから一挙に、大量の兵士を上陸させる計画を立てた。この決行日を通称「Dディ」と呼んだ。

もちろん、海岸線は、屈強なナチスドイツ部隊に守られている。まず夜間~早朝に落下傘部隊の降下と空爆があり、ドイツの守備施設を極力破壊することから始まった。

そして夜明けとともに、強行上陸が開始された。最終的に、300万人近い兵士が、ここからヨーロッパ大陸への上陸を果たしたのである。

この作戦全体を映画にしたのが、1962年の超大作アメリカ映画『史上最大の作戦』(原題:The Longest Day=いちばん長い日)。戦争娯楽映画の傑作である。ジョン・ウェインを中心に、米英仏独のオールスター・キャストで製作された。【注1】 この主題歌、通称≪史上最大の作戦マーチ≫を作曲したのが、出演者の一人で、人気ポップス歌手ポール・アンカである。もうあまりに有名な曲なので(よく≪大脱走マーチ≫と混同される)、いちいち挙げないが、吹奏楽版でも様々なスコアが出ている。

連合軍は、5つのビーチに分かれて上陸した。もちろん、どこでもドイツ軍の迎撃に遭ったが、おおむね被害は最小限ですんだ。

だが、オマハビーチだけは、そうはいかなかった。ここへ上陸したのは、アメリカ第1歩兵師団であるが、予想以上に波が高く、浸水する上陸艇が続出。また、海岸線を守るドイツ軍の要塞も守りが固く、上陸は想像を絶する大惨事となった。死傷者4000名。海は流血で真っ赤に染まり、通称「血のオマハ」と呼ばれた。

この大惨事をリアルに映像化したのが、スティーヴン・スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(1998年、アメリカ)である。冒頭約30分、この「血のオマハ」がスクリーン上にまさに「再現」される。その恐ろしさは想像を絶するリアルさで、公開当時、アメリカでは、吐き気を催したり、気を失う観客が続出した。いまでも筆者は、最初の劇場公開以来、いまだに再見できない。

この映画の音楽はジョン・ウィリアムズだが、メインテーマ曲≪戦没者への讃歌≫が、吹奏楽版でよく演奏されている。CD『ジョン・ウィリアムズ・ベスト!』(金聖響&シエナ・ウインド・オーケストラ)にも収録されている。悲惨な戦いによる戦没者を讃え、慰撫する壮大なバラード風讃歌である。

上記シエナ版は、人気作曲家フィリップ・スパークによる編曲。オリジナルどおり合唱付き大編成のスコアだ(シエナのCDでは、晋友会合唱団が歌っているが、合唱なしでも演奏できる) 。楽譜はイギリスのAnglo Musicからの発売。ほかにアメリカでも、中編成版などを含めるといくつかの版が出版されている。

そんなノルマンディ上陸作戦を描いた音楽で、私たち吹奏楽関係者が最も忘れてはならない曲が、今回の主題曲、バーンズ作曲≪孤独な海岸~ノルマンディ1944≫であろう。

バーンズといえば、多くの吹奏楽関係者にとっては、≪アルヴァマー序曲≫、もしくはコンクールでの人気曲≪祈りとトッカータ≫が浮かぶであろう。

バーンズは、ある時、ニュース映像で、オマハビーチの記録フィルムを見た。浜辺を覆う死体の山の中に、たまたま4人の若い兵士の死体が映った。なぜかバーンズはその光景が忘れられず、吹奏楽オリジナル曲を書いた。どこの誰とも分らない4人の死体への鎮魂は、第2次大戦で命を落としたすべてのひとたちへの壮大な鎮魂曲となった。

曲は、明るく楽しい≪アルヴァマー序曲≫のバーンズとはかけ離れた、真摯な前衛音楽である。流れとしては、≪祈りとトッカータ≫が、さらに前衛的になったような感じだ。何しろ冒頭部からして、「音を出す楽器」はひとつもないのだ。つまり、ほとんどの金管とフルートに「楽器に息を吹き込む」との指示がある。つまり、海岸線にひびく風の音、もしくは、遠くから聴こえてくる波の音を「息」で模すのである。「女声」がレクイエムのような哀しい響きを歌う。サウンド・クラスター(自由即興的な演奏)もあり、オフ・ステージを指定された楽器は、舞台裏ではなく、会場内で、客席を取り囲むような位置で演奏しろとの指示がある。

そんな編成の音楽なので、一般的な吹奏楽曲で与えられるカタルシスは、この曲にはない。譜面ヅラは、決して難しいものではない。だが、こういう曲で聴衆に感動を与えるには、単なるテクニック以上のものを要求される。いわゆる「総合力」のあるバンドでないと、「それらしい演奏」で終わってしまい、真の感動を導き出すことはできない。

バーンズは、ポップで明るい初心者向けの曲を書く一方で、「死」を題材にした作品も多い。たとえば、生後半年で亡くなった娘ナタリーへの哀歌≪交響曲第3番≫、特に第3楽章は、涙なしでは聴けない名曲だ。

なお、この≪孤独な海岸≫の音源は、楽譜出版元サザン・ミュージックが配布しているデモCDにはあるのだが、筆者が調べた限り、現在、一般発売されている音源は見当たらなかった。もし、ご存知の方がおられたら、編集部までご一報いただけると幸いです。
<敬称略>
【注1】原題『いちばん長い日』に対し、そのものズバリ『史上最大の作戦』という邦題を付けたのが、当時20世紀フォックス宣伝部につとめていた、現映画評論家の水野晴郎である。

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