■吹奏楽曲でたどる世界史【第31回】アメリカ南北戦争(1861~65)その2 ~機関車大追跡(ロバート・W・スミス)

Text:富樫鉄火

●作曲:ロバート・W・スミス Robert W.Smith(1958~)
●原題:The Great Locomotive Chase
●初出:1999年(ジョージア州タップ中学の委嘱初演)
●出版:Belwin‐Mills/Warner
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-0619/
●参考音源:『INCHON The Music of Robert W.Smith Vol.2』 (Warner Bros. Publications)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1139/
●演奏時間:約5分
●●編成上の特徴:小編成向け…クラリネット群はB♭クラ1・2とバス・クラのみ。トランペットは1・2のみ。ホルンは1(div.)のみ。トロンボーンも1のみ。打楽器4(ティンパニ、鍵盤含む。アンヴィルやトレイン・ホイッスルなどあり)。
●グレード:2~3

今回は、中学校で初心者中心の小編成バンドでも演奏できる楽しい曲を紹介しよう。

南北戦争の始まりや原因については、前回【第30回】を、あらためてお読みいただきたい。

この南北戦争が始まってすぐの1862年、リンカーン大統領は、アメリカ大陸横断鉄道の建設を開始させた。広大な大陸のド真ん中を列車で突っ切って、東西を結ぶことは、全国民の悲願でもあった。しかし、巨大なロッキー山脈やシェラネバダ山脈を越えて2800キロもの距離を1本のレールでつなぐことは、想像を絶する大事業でもあった(開通は1869年)。

そんな鉄道建設初期の1862年、北軍のスパイ、ジェイムズ・アンドリューズは、約20名の覆面部隊を組織し、南軍の列車を強奪した上、鉄道施設を破壊せよと密命を受けた。

彼らは、南軍志願の農民を装い、アトランタ近郊のマリエッタ駅から、1855年製最新機関車「ジェネラル号」が牽引する客車に乗り込んだ。そして、大胆にも途中の駅で客車との連結器を外し、貨車付きジェネラル号のみを乗っ取って、平然と北へ向かって発車した。

当初、駅周辺にいた人々は、何が起きたのかよく理解できなかったが、たまたまホームに降りていて取り残されたジェネラル号の車掌ウィリアム・フラーたちは、すぐに異常事態を察し、線路工夫用のトロッコに乗り込んで、決死の追跡を始めた。

先行するジェネラル号のアンドリューズたちは、途中の施設を破壊しながら、巧みに逃げて行く。トロッコで追うフラーは、当然追いつくはずもなかったが、途中の駅で空いた機関車を見つけ、乗り換えて追跡を再開。

だが、その機関車は旧式でスピードが出ない。相変わらず追いつけないフラー。先の駅で、もう少しましな機関車に乗り換えるが、それでも追いつけない。極まったフラーは、とうとう、対抗車線から来た速力十分な「テキサス号」を止め、またまた乗り換えて、何と後ろ向きのまま追跡を再開する。

ようやく前方を行くジェネラル号に追いついた、後ろ向きのテキサス号! 逃げる北軍アンドリューズ、追う南軍フラー! この結末は……?

結局、アンドリューズたちは先の駅で騎兵隊に包囲され、逮捕。死刑判決を受けるが、刑務所から脱走し、逃げ延びた半数は北軍から勲章を授与されるのだった……。

以上、実話である。これを音楽にしたのが、近年、人気絶頂のロバート・W・スミスだ。近年注目されている作曲家である。なかなか多作家で、日本では≪海の男たちの歌(船乗りと海の歌)≫≪伝説のアイルランド≫や、ダンテの詩篇をもとにした≪神曲≫などで知られている。≪神曲≫は全4楽章の大作だが、日本では、第1楽章<地獄篇>がよく演奏されているようだ。スケール豊かな大曲から、初級レベルの小曲まで、様々なタイプの音楽を書くオールマイティである。編曲も多い。そんなスミスだが、ハイレベルな大曲をつくる一方で、こんな愉快で楽しい音楽も書いているのだ。

曲は、ジェネラル号が乗っ取られる場面から始まる。駅で発車を告げる鐘が鳴り、演奏者たちが、口で「ハ~」と蒸気の音を模したりして、いよいよ出発だ。以後は、解説どおり、追いつ追われつの追跡劇が展開する。

小編成の中学バンドのために書かれただけあって、演奏そのものはたいへん易しい。譜面もシンプルだ。しかし、面白く演奏するのは、意外とむずかしい。現に、筆者は、さる中堅の高校バンドがこれを演奏しているのを聴いたことがあるが、まったく面白くなかった。それはスコアのせいではなく、「単に楽譜どおりに、真面目に演奏している」からなのだ。なにしろ題材は、機関車の追っかけっこである。スピーディーに、かつユーモラスに、思い切り大袈裟に演奏しなければ、聴いている方だって楽しめない。昔の西部劇映画を見慣れていない世代には、イメージが湧きにくいかもしれないが……。

この実話は、1956年に、ディズニーによって実写映画化されている(原題も邦題も、この曲と同じ)。それだけアメリカでは知られた題材なのだろう。残念ながら、日本ではビデオやDVDにはなっていないようだが、海外サイトで見ると、なかなか面白そうな映画だ。言うまでもないが、この曲は、その映画の音楽を吹奏楽版にしたものではなく、完全にロバート・W・スミスのオリジナルである。

なお、この楽譜は、日本では≪列車大競争≫の邦題で紹介されているが、同じ原題の映画の邦題に合わせて、ここでは≪機関車大追跡≫とした(原題のLocomotiveは「機関車」の意味)。
<敬称略>

【ちなみに蛇足のおまけの余談】

南北戦争にまつわる音楽は、たいへんな数がある。

日本では昔から「ゴンベさんの赤ちゃんが風邪引いた……」の替え歌でおなじみ≪リパブリック賛歌≫は北軍の軍歌。日本で≪アルプス一万尺≫になっている≪ヤンキー・ドゥードル≫も南北戦争時に歌われていた。昔の西部劇映画によく流れていた≪ディキシー≫は南軍の曲で、事実上、ディキシーランド・ジャズの代名詞のような曲。賛美歌≪もみの木≫は、もともとは≪メリーランド≫なる題で、南北戦争時代の同地を偲ぶ曲。そのほか、枚挙に暇がない。戦争なんて、もちろんないほうがいいに決まっているが、世界中いつの時代でも、戦争が起きるたびに優れた音楽が生まれているのも事実なのだ。

昔、フレデリック・フェネル指揮=イーストマン・ウインド・アンサンブルによる『The Civil War~Its Music and Its Sounds』(南北戦争時代の音楽)なるレコードがマーキュリーから出ていて、そこに、上記のようなマーチや進軍ラッパなどが山ほど収録されていた(確か、南軍の音楽は、全曲が金管バンドだったような記憶がある)。子供の頃に見た西部劇映画に流れていたような曲が次々出てくるので、楽しかった。CDは、国内盤は少なくともいまはカタログ上にはないが、輸入盤ならあるはずだ。

「機関車」を描いた音楽では、オネゲルの管弦楽曲≪パシフィック231≫が有名だが、これが吹奏楽版になっているという話はあまり聞いたことがない(もし存在したら、教えて下さい)。1948年、フランスの映画研究家ジャン・ミトリが、蒸気機関車「パシフィック231」号の疾走シーンを撮影した約9分間の実験映画があり、これにオネゲルが音楽を付けた。のちにこれを本格的な管弦楽曲にまとめたのが、交響的断章第1番≪パシフィック231≫である(ちなみに第2番が≪ラグビー≫)。そういえばドボルザークも、「狂」がつくほどの機関車マニアだった。

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