■吹奏楽曲でたどる世界史【第21回】大航海時代(15~16世紀):マゼラン その1 ~交響詩≪マゼラン≫(フェルレル・フェルラン)

Text:富樫鉄火

●原題:Magallanes ~Poema Sinfonico(スペイン語)
●作曲:フェルレル・フェルラン Ferrer Ferran
●発表:
●出版:IBER MUSICA(スペイン)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-8397/
●参考音源:
『マゼラン~フェルレル・フェルラン作品集』(IBER MUSICA)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0866/
●演奏時間:約14分
●編成上の特徴: オーボエ・バスーン・ユーフォニアム各1・2あり。トランペット1~4あり。フリューゲルホーン1・2あり。ホルンは1~3まで。打楽器多数。管楽器奏者による声・歌唱のほか、自然音の模写(鳥笛や森のざわめきなど)あり。
●グレード:5

世界史年表を見ていると、1400年代末以降、やたらと「発見」「到達」の文字が目立つようになる。いわゆる「大航海時代」である。

もともと大昔のヨーロッパ人は、地中海沿岸が「世界のすべて」だと思っていた。それが、アレクサンダー大王の東方遠征(4世紀頃)あたりから、どうも、東の果てにもそれなりの文明があるらしいと分ってきた。

さらに11世紀末から十字軍が始まり【第17回参照】、多くのヨーロッパ人(キリスト教徒)が、アラブ世界に足を踏み入れることになった。十字軍は、キリスト教徒の無謀な軍事行動ではあったが、それなりの「産物」もあった。ヨーロッパとアラブの交易路が開拓され、両世界の商人が、交流を始めたのだ。ヨーロッパ→アラブへは、鉄鉱石などが売り込まれ、アラブ→ヨーロッパへは絹織物や香辛料が入り込んできた。

特に香辛料(コショウやクローブ、ナツメグなど)は、食物の味つけのみならず、保存・殺菌に絶大な効果があることが分り、ヨーロッパ中でこぞって求められた。だが、これらはアジア方面(亜熱帯・熱帯地域)の特産物であり、ヨーロッパで入手することは、簡単ではなかった。

ところが、1453年、オスマントルコ帝国によって東ローマ(ビザンティン)帝国が滅亡すると、アジアとヨーロッパをつなぐ貿易中継基地がなくなり、ヨーロッパ各国は、直接、高額な関税を払って物資を輸入しなければならなくなった。特に、香辛料や絹織物、陶器は、アジア近辺から直接求めるしかなくなり、新たな「交易ルート」の確保に迫られていた。

そこで、1400年代から1500年代にかけて、ポルトガルとスペインを中心に、未知の航路を開拓する「大航海時代」に突入する。それは、王侯貴族が探検家を雇い、一獲千金を求める「夢と冒険の時代」でもあった。

まず、ポルトガルが、エンリケ王子やヴァスコ・ダ・ガマによって、アフリカ周りインド航路を発見する。日本の種子島に鉄砲を伝えたのも、このルートである。

一方、スペインも、遅れをとるなとばかり、コロンブスを雇って大西洋横断航路を発見。バハマ諸島まで達する(コロンブスは、そこをインドと思っていたが、北米大陸の端であったことを、後年、アメリゴ・ヴェスプッチが証明する)。

これらの冒険で、彼らがテキストにしたのが、前回ご紹介した、マルコ・ポーロ(語り)&ルスティケロ(筆記)による『イル・ミリオーネ』(東方見聞録)であった。【第20回参照】 当初「ホラ吹き話」と嘲笑されていたこの本は、実は100年以上にわたって、多くの冒険家の夢とロマンをかき立てつづけていたのである。

こうなると、残されたのは「地球は丸い」ことを証明する、世界一周航路の発見である。

スペインに雇われたポルトガルの船乗りフェルディナンド・マゼラン(1480頃~1521)が、5隻からなる艦隊と200人以上の船員を引き連れ、西回り世界一周航路発見の旅に出たのは、1519年のことだった。

彼らは、まず大西洋を南下し、南米大陸の最南端に“通り道”があることを発見した(マゼラン海峡)。そこを抜け、南太平洋の大海原へ。ここから飢餓と病に苦しみながら、グアム島を経由し、フィリピンに達するが、マクタン島の酋長ラプ・ラプと戦闘状態になり、マゼランは殺害されてしまう(ラブラブは、英雄としてフィリピンで偉人となっている)。

残された一行は、マゼランの遺志を継ぎ、インドネシアで、コショウやナツメグなど、多くの香辛料を仕入れ、インドの南~アフリカ大陸の南から西側を通って母国スペインに向かう。

そして、1522年、生き残ったわずか18名の船員が、出港地に帰還したのである。持ち帰った香辛料は、現地価格の2000倍以上の値段で売れた。だが、あまりに長い航海と、リーダーが殺害されてしまうほど危険な航路であるとの理由で(ほかにも、数え切れないほどのトラブルがあった)、彼の開拓した航路がすぐに評価されることはなかった。それでも「地球が丸い」ことは見事に証明され、「香辛料の確保先」も判明したのである。

この航海を見事な吹奏楽曲による交響詩≪マゼラン≫に仕立て上げたのが、スペインのフェルレル・フェルランだ。この連載では、すでに【第14回】の≪キリストの受難≫で登場している。スケール豊かな曲想と、「超」が付く抜群の描写力を誇る作曲家だ。

しかも今回は、フェルラン自身の母国スペインの英雄が題材である。力の入りようも格別のものがあったに相違ない。とんでもなく難しい曲に仕上がったが、それでも全編、息をもつかせぬ展開である。

曲は、出港を思わせるファンファーレ風の出だしで、以後、波を蹴立てて艦隊が進む様子、さらには、嵐や、おそらくフィリピンでの戦闘場面と思われる、激しい描写に至る。そこでは、奏者が「叫び声」をあげる指示がある。そして、鳥笛や効果音を加えて、深い森の場面を経て、小声で「マゼラン…マゼラン…、マゼラン…」と、囁くように歌う。森の中で、島民に囲まれたのだろうか。

それでも最後は、本人が死んだとはいえ、世界一周航路を見つけて帰還した残りのメンバー、そしてマゼランの功績を讃えた終結部を迎える。

なかなかの大曲で、演奏時間も14分と、吹奏楽曲としては大曲だが、ぜひ挑戦していただきたい曲だ。

<敬称略>

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