■吹奏楽曲でたどる世界史【第8回】ジェリコの戦い その2~狂詩曲≪ジェリコ≫(モートン・グールド)

Text:富樫鉄火

●原題:Jericho~Rhapsody for Symphonic Band
●作曲:モートン・グールド Morton Gould (1913~1996)
●初出:1940年(ワシントン空軍バンドによって初演)
●出版:Warner Bros.
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/set-9639/
●参考音源:
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0778/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2764/
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1893/
●演奏時間 約12分
●編成上の特徴:イングリッシュホーン、バスサックスあり。トランペット3のほかに、コルネット3(内、1ソロ)、フリューゲルホーン(2声)あり。
●グレード:4~5

前回のアッペルモントの曲が登場するまで、吹奏楽界で≪ジェリコ≫といえば、事実上、このモートン・グールドの曲を指したものだ。

1940年(昭和15年)作曲・初演というから戦前の曲だ。吹奏楽曲としては、かなりクラシックな方に属する。日本でも、1960~70年代にかけて、盛んに演奏されたものだ。特に、コンクール自由曲にとりあげるバンドが続出し、ある時期、どの会場へ行ってもこの曲が流れていた時代があったほどだ。

さすがに、最近でこそ、演奏される機会は少なくなったようだが、戦前~戦後の吹奏楽オリジナル曲として、ほとんど第1号と呼んでもいい認知のされ方をした記念碑的な曲につき、取り上げておくことにした。

古い音楽ファンならば、モートン・グールドの名前は、吹奏楽を知らずともご記憶の方も多いはずだ。幼少の折からピアノや作曲に驚異的な才能を示し、「アメリカの神童」とうたわれた。ニューヨーク大学の音楽学校を経て、ラジオ番組の作曲・編曲をこなすようになり、以後、オーケストラ曲、ミュージカル、映画音楽など、広範な分野で作曲・編曲・指揮をつとめるようになる。クラシックとポピュラー、ジャズの垣根を飛び越えて活躍した人で、いわば、ガーシュウィンやバーンスタインのようなタイプのアーティストだったのだ。

おそらく、オジサン・オバサン世代は、毎週日曜日の夜、故・淀川長治の解説で放映されていた「日曜洋画劇場」のエンディング・テーマをご記憶と思う。あの曲は、コール・ポーター作曲のミュージカル≪キス・ミー・ケイト≫の挿入曲<ソー・イン・ラヴ>だが、あのアレンジが、モートン・グールドなのである。重厚なピアノ協奏曲風になっていた。あれこそが、古きよきハリウッド・スタイルにして、「モートン・グールド流」なのである。

一方、吹奏楽曲(管弦楽版からの編曲も含む)もさかんに作曲しており、≪アメリカン・サリュート≫≪バラード≫≪カウボーイ・ラプソディ≫≪サンタフェ・サガ≫≪ウエストポイント交響曲≫など、名曲がたくさんある。

この狂詩曲≪ジェリコ≫は、前回同様、『旧約聖書』(ヨシュア記)の「ジェリコの戦い」を音楽化したもので、雄大なプロローグに始まり、黒人霊歌「ジェリコの戦い」の旋律(変形)を使用した戦闘描写、前回でも紹介した「ラッパ作戦」に「壁崩し」とつづき、最後は圧倒的な賛歌で終わる。まことに気宇壮大、迫力満点、ひたすらまっとうな吹奏楽曲である。

冒頭は、木管群による激しい高音ユニゾンで始まる。ピッチ合わせや息の調節が難しい部分で、この一瞬でバンドの実力が判明してしまう、恐ろしい曲でもある。だからこそ、自信のあるバンドがコンクール自由曲に選んだのだ。

ただし、前項アッペルモント版が、題材の舞台となった中東の香りを漂わせているのに比べると、こちらはひたすらアメリカ的である。何も知らずに聴いたら、大西部の荒野を行くカウボーイたちの音楽に思えてしまう。そのあたり、いかにもアメリカ音楽の申し子モートン・グールドを思わせて面白い。

近年、グールド自身が指揮した名盤がCDで復刻されている(参考音源)。この中には、自作のほか、スーザやゴールドマンなどの曲も収録されているが、そのほとんどにグールドの手が入っている。それがまた実に見事で、グールドの多才ぶりを堪能するには格好のディスクである。

コンクール名演集のようなディスクにも時折収録されているが、カット演奏が多い。ぜひ、全曲版に触れてほしい。

なにぶん古い曲なので、現代とは少々異なった楽器編成になっているが(この時期のアメリカの吹奏楽には、バスサックスがよく使われていた)、どれも「その楽器がなければならない」ほどの書かれ方ではないので、バンドごと、適宜工夫すれば、いくらでも対応できると思われる。

これぞ戦後吹奏楽の歴史に燦然と輝く名曲だ。こういう曲が、長く演奏されたり、聴かれつづけることを、切に願ってやまない。

(言うまでもないが、バッハの名演などで知られる天才ピアニストに「グレン・グールド」という人がいたが、まったくの無関係。若い方々は、ネットなどで検索する際には特に要注意)
<敬称略>

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