■吹奏楽曲でたどる世界史【第1回】天地創造~ノアの方舟/映画『天地創造』より(黛 敏郎)

Text:富樫鉄火

●原題:From The Film “The Bible”
●作曲:黛 敏郎 Toshiro Mayuzumi (1929~1997)
●編曲:ケン・フォイトコム Ken Whitcomb
●初出:1966年(映画公開)
●出版:Robbin’s/Hal Leonard (米)
●楽譜セット ※現在絶版
●参考音源:『トーンプレロマス55/黛敏郎・管楽作品集』(佼成出版社)
●演奏時間:計約7分半(約3分半+約4分)
●編成上の特徴:イングリッシュホーンあり。スコア上はトランペットではなくコルネットを指定。
●グレード:3~4

1966年のアメリカ・イタリア合作映画『天地創造』(原題:The Bible…In The Beginning)は、大物プロデューサー、ディノ・デ・ラウレンティスと、巨匠ジョン・ヒューストン監督が組んで『旧約聖書』の第1巻「創世記」を完全映像化するという、前代未聞のプロジェクトであった。

この超大作に音楽担当として招かれたのが、当時36歳、日本の黛敏郎だった。

若い頃から天才作曲家として注目を浴びていた黛は、この数年前から、アメリカで新作を次々に発表し、一躍、世界的作曲家として名を馳せるようになっており、満を持しての起用であった。

撮影は、ローマのチネチッタ撮影所を中心に進められたが、音楽製作にあたって黛自身もローマに招かれ、広大なマンションの一室で作曲活動に没頭できる環境を与えられた。映画音楽家に対して貧しい環境と短時間しか用意されない日本の映画音楽界とのあまりの違いを、後年、黛は何度なく述懐していたものだ。

映画は3時間に及ぶスペクタクル巨編で、文字通り天地創造から始まり、アダムとイヴ、ノアの方舟、バベルの塔、ソドムとゴモラ…と、有名エピソードが圧倒的な迫力で描かれる。

が、いかんせん、全体が名場面の羅列に終わっており、いま観ても大味な印象はまぬがれえない。

だが、その一方で黛が書いたフルオーケストラの音楽はまことに壮大・美麗で、素晴らしいのひとことに尽きる。

このサウンドトラックから、ケン・フォイトコムにより、≪メイン・テーマ≫と≪ノアの方舟~動物たちの行進≫の2曲が吹奏楽版に編曲されている。楽譜は現在絶版中で入手困難のようだが、少し歴史のあるバンドだったら、楽譜棚の奥にレパートリーとして眠っているのではないだろうか。

 ≪メイン・テーマ≫は、文字通り、映画のオープニング・タイトルに流れる雄大な音楽。ドラの一撃で始まり、金管中音部のファンファーレ風のイントロ、それにつづく木管群の美しい旋律…と、聖書の世界がスケール豊かに描かれる。いかにもロマンティックなスペクタクル映画音楽という感じだ。

≪ノアの方舟~動物たちの行進≫は、「創世記」の有名な場面。驕り高ぶった人間界を一掃するため、神は巨大な洪水を起こすことを決意する。それを事前に知らされたノア(この時600歳!)は、神の啓示に従って、巨大な方舟をつくり、地上のすべての動物たちを、ひとつがいずつ乗り込ませる、その乗船の様子を描いたマーチ風の曲だ。

これぞ、黛の才能が爆発した、あまりにもユニークなマーチ。方舟に乗り込む動物たちを表現したとおぼしきユーモラスな旋律が重なり、次第に緊迫感を増して行く手腕は、見事としか言いようがない。ラストは、≪メイン・テーマ≫冒頭と同様、ドラの一撃で終わる。

2曲続けても8分ほどの小曲なので、コンサートのオープニングなどには合うかもしれないが、≪メイン・テーマ≫の雄大な旋律は、クラリネットを中心とする木管群で演奏されるため、原曲(オケ)のように弦楽器群で演奏された際の力強さが、どうしても出ない。よって、それなりの補強を加えるか、多人数のバンドで演奏される方が、効果が高いように思われる。

余談だが、この2年後に黛は、日本映画の超大作『黒部の太陽』(1968)の音楽を書いているが、どこか『天地創造』に作風が似た、これもまた雄大な音楽である。実は、『黒部の太陽』監督の熊井啓が、ローマで『天地創造』作曲中の黛に会い、「今度、一緒に仕事をしよう」と意気投合した、その結果生まれたのが『黒部の太陽』の音楽だったのだ。だから、どこか共通点があるのかもしれない。

黛はあらゆるジャンルの音楽を手がけ、映画音楽も生涯に200本近く書いているばかりか、管・打楽器のためのオリジナル曲をはじめ、マーチ≪黎明≫≪祖国≫、自衛隊の≪栄誉礼≫、日本テレビのスポーツ番組テーマ曲など、吹奏楽曲もけっこうある。テレビ番組「題名のない音楽会」の企画・司会は30数年に及んだ。参考音源に挙げたディスクにも、モダンな実験精神に溢れた傑作が、たくさん収録されており、芸術祭の優秀賞を受賞している(岩城宏之指揮、東京佼成ウインドオーケストラ)。

これからも多くの人たちに長く聴き継がれてほしい、日本が世界に誇る作曲家だ。<敬称略>


 

コメントを残す