◎インタビュー&文:多田宏江
2010年8月ブラスバンドサマースクールinフラムリンガム
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▲Paul Lovatt-Cooper
【ホームページ】http://www.plcmusic.com/(英語) ビデオのページ(http://www.plcmusic.com/video/)から作品と演奏の様子が鑑賞できます。 |
今回のゲストは、今や世界中のブラスバンド・シーンに欠かせない作曲家の一人となったポール・ロヴァット=クーパー 氏です。ブラックダイクバンドの打楽器奏者でありながら、ワードルハイスクールの音楽教員、また音楽教育責任者も務められ、プレイヤーとしても教育者としても忙しく活躍されています。
日本には2009年6月東京シティ・コンサート・ブラス(TCCB)の招待で来日され、TCCB第19回定期演奏会にて「南極大陸」の日本初演に立ち会った他、自身もソロ・パーカッション奏者としてゲスト演奏されました。同年6月末には「ウィズイン・ブルー・エンパイヤーズ」がイングリッシュナショナルズ(※)課題曲として各バンドにより演奏され、8月にはブラック・ダイク・バンド、オーストラリア・ツアーにて、有名なシドニー・オペラハウスで演奏される忙しさ。いったいいつ作曲する時間があるのか?? 作曲家ポール・ロヴァット=クーパー氏の日常に迫ります!!
※イングリッシュ・ナショナルズ・ブラスバンド・チャンピオンシップス、レポート
http://www.bandpower.net/news/2009/07/02_bb/01.htm
■いつからブラスバンドで演奏をはじめたのですか?
ポール:12歳からです。両親がサルベーションアーミーのオフィサーだったので、私も幼い時、サルベーションアーミーに通っていました。初めはそこでコルネットを渡されたのですが、自分には合わず、パーカッションに移りました。その後、 “私がパーカッションを演奏していること” を、友人が学校の先生に話し、その先生から「学校のバンドでドラマーを探しているんだ。もし君がロックのリズムを演奏できるなら学校のバンドで演奏できるよ」と言われ、独学でドラムを叩けるようにしました。それからブラスバンドでの演奏がスタートしました。
■影響を受けた作曲家はいますか?
ポール:フィリップ・ウィルビー氏、フィリップ・スパーク氏、ピーター・グレイアム氏ですね。学生の頃から演奏したり、聴いたりして、この方々の作品に特に影響を受けました。一番大きな影響を受けたのは、ピーター・グレイアム氏です。
サルフォード大学に進学後、大学でピーター・グレイアム氏に作曲を習い始め、作曲を専攻して卒業しました。その時から、ピーター・グレイアム氏とは家族ぐるみで、今でもとてもよいお付き合いをさせていただいています。数年前、家族とホリデーでフロリダに出かけたのですが、その時同じ道を向こうからピーター・グレイアム氏が歩いてきたことがありました。偶然のことで信じられませんでした。同じ時間に同じ場所にいるんですから、不思議な縁です。
■ポール・ロヴァト・クーパー作品集CD「ウォーキング・ウィズ・ヒーローズ」のジャケットにも、影響を受けた3人の作曲家と、ニコラス・チャイルズ氏が写っていますね。
ポール:そうです。私の人生に大きな影響を与えた4人のヒーロー達と私が写っています。4人とも写真の使用を快く了承してくれて、とても嬉しかったですね。CDのタイトルは、このCDのオープニング曲「ウォーキング・ウィズ・ヒーローズ」から取っています。
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▲ポール・ロヴァト・クーパー作品集CD「ウォーキング・ウィズ・ヒーローズ」、 BPショップにて間もなく発売予定 >>> |
■日本ではどんな体験をしましたか?
ポール:とても素晴らしい時間を過ごすことができました。日本へは、リチャード・エヴァンス氏の紹介によりTCCBのゲストとして来日しました。一週間の滞在中、宇都宮ブラスソサエティでも合奏指揮の他、マスタークラスも行い、私の作品も演奏しました。TCCBの演奏会では私の作品「南極大陸」を日本初演し、ソロイストとして演奏もしました。日本はとにかく素晴らしいところでした。
滞在中は、どんなものが食べたいかと聞かれて、みなさんが普段食べているものと同じものが食べたいと、なんでも食べました。食文化からも日本の文化に触れたかったためです。日本での食事は、私が普段イギリスで食べるものと全然違いましたが、全ておいしかった。また、日本酒もたくさん飲みました。
■今年1月のバトリンズ(※)課題曲「スリープレス・シティズ」のスコアにも、この曲は世界の国々を回ったその雰囲気を織り込んだと書かれていましたね。
ポール:スリープレス・シティズは、音楽のポストカードのような作品にしようと思いました。私が訪れた国々の、様々な文化や、街の雰囲気を音楽で表現しました。来日した際は、まだこの作品が完成していなかったので、日本の雰囲気も取り入れたつもりです。
※英国ブラスバンド通信vol.4「バトリンズ・マインワーカーズ・ナショナル・オープン・ブラスバンド・フェスティバル」
http://www.bandpower.net/soundpark/03_bbn/bbn04-1.htm
■2008年3月ナショナルズ地区大会3rdセクション課題曲「ザ・ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」、2009年の6月のイングリッシュナショナルズ課題曲「ウィズイン・ブルー・エンパイヤーズ」、2010年1月のボトリンズ課題曲「スリープレス・シティズ」と連続で、課題曲にあなたの作品が選ばれていることについてどう思われますか?
ポール:とても嬉しいことですよ。課題曲を作曲することはとても難しいことです。ただ書きたい曲を書くだけではなく、課題曲として奏者に課題を出し、指揮者への課題も作品に盛り込んでいます。それでいて、奏者の方々にも、観客の皆さんにも楽しんで頂ける曲を目指しています。
国内の大会の他、2009年7月のワールド・ブラスバンド・チャンピオンシップス1stセクション課題曲に「イーコィリブリアム(Equilibrium)」を作曲し、2008年のオランダのナショナルズ課題曲にも「ザ・ダークサイド・オブ・ザ・ムーン」が使用されました。
■作曲するときに、何か意識していることはありますか?
ポール:私が作曲する時は、自分も聴きたい音楽を書きたいと思っています。私は映画音楽のファンでもあり、ジョン・ウィリアムス、ハンス・ジマー、クラウト・バデルト、アラン・シルヴェストリ等の映画音楽作曲家が好きです。そのため映画音楽のスタイルで作曲することが多くあります。ですので、私の作品を聴いたときには、空を飛ぶシーンや、水の中に飛び込むアクション的なものをイメージしやすいのではないかと思います。
そして、私が聴きたい音楽、チューンフルな音楽を書きたいです。作曲活動をするなかで、私の作品に対してのいろいろな意見も聞きます。それは、コマーシャルな音楽だというような意見ですが、そういうことを言う人に限って難しい音楽を書く人が多く、では私はどうかというと、そういう音楽はあまり聴きたいとは思わないのです。私が作曲するときは、演奏しても楽しい、聴いていても楽しい、そういう音楽を目指しています。
■作曲のアイディアはどのようにうまれるのですか?
ポール:正直に言って、私もどこから曲のアイディアが来るのか良くわかりません。私の作曲の流れを大きく二つに分けると、最初は音楽がインスピレーションとして頭に流れて、次にそこから、机の前に座ってコードやメロディーを調整していきます。
その最初の段階、インスピレーションとして頭に流れる(=作曲する)のは、普段の生活の中。たとえばシャワー中や、ドライブ中、歩いているときに、メロディーが頭の中を流れます。それでそのメロディーがいいなと思ったら、そこからその音楽を膨らましていきます。
通常、携帯電話のボイスメモを使い、メロディーのメモを記録しておきます。浮かんだメロディーはすぐに消えてしまうので、メモをとっておかないとそのアイディアを失ってしまうのです。これまで使ってないメロディーのメモは約50あります。そして、依頼が来たら、その中からもう一度使うアイディアを選んで膨らまし、作品にしていきます。大体これが上手くいく方法ですね。
私は先ほど述べたように、毎日普段の生活の中で作曲し続けているので、そのアイディアをいつもためておくようにしています。そして頭の中に聴こえてきた音楽を、素晴らしい奏者たちがステージ上で演奏することを想像します。たとえば、リチャード・マーシャルや、デヴィッド・チャイルズが、その音楽を素晴らしい演奏でお客さんに届けているところを想像し、私はその舞台のテンションや、観客からの空気を感じながら、作品を完成させていきます。
■ワードルハイスクールでは、音楽教育責任者も務められていますよね。
ポール:はい、学校では重要な役職についています。私は音楽の授業を担当する他に、学校の全ての音楽活動の責任者でもあります。ワードルハイスクールでは、トレーニングバンド、ジュニアバンド、スクールバンド、ユースバンドの4つのブラスバンドが活動しているほか、ウィンドバンド(吹奏楽)、ビッグバンド、クワイヤー(合唱)、パーカッションアンサンブル、フォークグループの合計9つの団体が活動しています。
私は常に全ての活動が、問題なく円滑に進んでいるか、生徒の近くで活動を見て、必要な時はアドバイスを出します。音楽教員&音楽教育責任者を務め、その他、作曲活動&演奏活動の毎日、とても忙しいですね。
■サルフォード大学在学中は「ロイ・ニューサム指揮者賞(Roy Newsome Conductors Award)」を受賞され、ワードルハイスクールでもビックバンドの指揮をされていますよね。
ポール:はい、指揮も大好きです。今は演奏と作曲をメインに忙しく活動していますが、フリーランスの指揮者として、世界中で指揮しています。この夏は、リチャード・エヴァンス氏が指揮するナショナル・ユース・ブラスバンド・オブ・スコットランド(NYBBS)にエヴァンス氏が招待してくださり、彼とともにNYBBSを今後3年間指揮する契約を結びました。
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▲ブラックダイクバンドで演奏するポール・ロヴァト・クーパー氏
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■ブラックダイクバンドでの演奏活動について聞かせてください。
ポール:とても楽しいです。ブラックダイクバンドで演奏することは、プロ・フットボール(サッカー)でプレーすることと似ていると思います。フットボール・チームのメンバーは多くの時間を共に過ごします。同じくブラスバンドも、私は多くの時間をよい仲間と共有しながら、楽しい時を一緒に過ごしています。
私のモットーは「熱心に仕事し、熱心に演奏する」です。ブラックダイクバンドは年間60以上のコンサートで演奏し、その他たくさんのコンテスト、ツアーも行っています。いつも私たちのできる最高の演奏を目指し、コンサートではエンターティメントと共に音楽性の高さを大切にしています。同時に、演奏が終わればメンバーとともにたくさん笑い、ジョークを飛ばしたりしています。いい時間をいい仲間と過ごし、演奏も楽しんでいます。
■今後はどんな活動をする予定ですか?
ポール:これからは特に作曲活動において大事な時期を迎える予定です。最近、自分の会社「PLCミュージック」をスタートし、自分の作品を、自分の会社から出版、宣伝する活動を始めました。テレビや映画音楽の仕事も予定していて、これから12か月はとても大きなチャンスが待っていると思います。契約の関係もあり、今はまだこれ以上詳しくは話をすることができませんが、とても楽しみで、少し違う一年になると思います。
■バンドパワー読者に、メッセージ、アドバイス等お願いします。
ポール:みなさんにこの言葉を贈りたいと思います。
「老いたから遊ばなくなるのではない、遊ばなくなるから老いるのだ」
(We don’t stop playing because we grow old. We grow old because we stop playing)
byジョージ・バーナード・ショー
この言葉は「若い心を持ち続けていれば、いくつになっても遊び楽しむことができる」ということを思い出させてくれる、素晴らしい言葉です。(※playは遊びと演奏と両方の意味を含んでいる)
また、私の曲を演奏してくださる皆さんへのアドバイスは、とにかく楽しんで演奏してください。私が作曲する時は、演奏者もお客さんも、みなさんがこの音楽を楽しんでほしいという願いを込めて作曲しています。だから、みなさんが私の曲を演奏する時は、演奏を楽しんで素晴らしい時間を過ごしてほしい。音楽とは楽しむこと、素晴らしい時間を過ごすこと、それが全てだと思います。
【ポール・ロヴァト・クーパー&ブラックダイクバンドのCD、DVD】
「ウォーキング・ウィズ・ヒーローズ」が収録されているCD
全英ブラスバンド選手権2007/The National Brass Band Championships of Great Britain 2007
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1538/
「永遠の生命/Vitae Aeternum」が収録されているCD
エッセンシャル・ダイク Vol.8/Essential Dyke Vol.VIII/ブラック・ダイク・バンド
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1593/
「鷲が歌うところ/Where Eagles Sing」が収録されているDVD
ヨーロピアン・ブラスバンド選手権2008/
Highlights from the European Brass Band Championships 2008【DVD2枚組】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/dvd-9328/
【youtube動画 ポール・ロヴァト・クーパー作品】
「永遠の生命/Vitae Aeternum」byブラックダイクバンド
http://www.youtube.com/watch?v=woH-rHaRlP4&feature=related
☆小学校の金管バンドにおすすめ☆
ナショナル・チルドレン・バンドのために作曲された「ドリームキャッチャーズ」byNCBB
http://www.youtube.com/watch?v=77qZEn1RQzM&feature=related
(「ドリームキャッチャーズ」byブラックダイクバンド)
http://www.youtube.com/watch?v=ORJ8kX6dvg4&feature=related
「エンター・ザ・ギャラクシー」byコーリーバンド
http://www.youtube.com/watch?v=32K9xwE00G0&feature=related