■ベンジャミン・リシェトン(Benjamin Richeton) /グライムソープ・コリアリーバンド、コルネット奏者

◎インタビュー&文:多田宏江
2010年3月 Salford大学にて

▲Benjamin Richeton(ベンジャミン・リシェトン)

 今回のゲストは、今年のBBCラジオ2 ヤング・ブラス・ソロイスト2010の(BBC Radio2 Young Brass Soloist 2010)ファイナリストであり、グライムソープ・コリアリーバンド、コルネット奏者のベンジャミン・リシェトンです。

 フランス人であるベンジャミンは、現在サルフォード大学に在学中です。大学のサブバンド「アデルフィ・バンド」で指揮者を務め、大学バンドではプリンシパル(首席)奏者を務めています。学外のグライムソープ・コリアリーバンド以外にも、フランスのナショナル・ユース・吹奏楽団(ONHJ/選抜ユースバンド)で首席トランペット奏者、ヨーロピアン・ユース・ブラスバンド(EYBB)2007プリンシパル・コルネット、ヨーロピアン・ユース・ブラスバンド2008、2009ソプラノ・コルネット、ナショナル・ユース・ブラスバンド・オブ・スイス(NJBBS)のゲスト・ソプラノ・プレイヤーとして参加するなど、母国フランス、在学中のイギリスにだけにとどまらず幅広く活躍しています。

 今回はフランスのブラスバンド事情や、ヨーロピアン・ユース・ブラスバンドでの体験、そしてヤング・ブラス・ソロイスト2010出場について聞いてみました。

■日本にもパリ・ギャルド吹奏楽団が来日するなど、フランスではオーケストラや吹奏楽が盛んなイメージがありますが、ブラスバンドも盛んですか?

ベンジャミン:フランスのブラスバンドの数は40団体ぐらいだと思います。フランスでもブラスバンドが流行り始めてきて、バンド数も増え、最近ではイギリスのブラスバンドで活躍する指揮者を招待してのマスタークラスも開催されるようになりました。

■イギリスのバンドが「フレンチ・オープン・ブラスバンド・チャンピオンシップス」に参加した話しをよく聞きます。どんな大会ですか? またフランスのブラスバンドの大会について教えてください。

ベンジャミン:フレンチ・オープンに参加するバンドは、課題曲、20分のエンターテインメント・コンサート、野外でのマーチ演奏の3部門に出場します。フレンチ・オープンの他に、ヨーロピアン・ブラスバンド・チャンピオンシップスの予選大会にあたる「ナショナル・フレンチ・ブラスバンド・チャンピオンシップス」という大会もあります。この大会と比べると、フレンチ・オープンはフェスティバルの要素が強いコンテストですね。

ナショナルズ(ナショナル・フレンチ・ブラスバンド・チャンピオンシップス)は、ここ2年「Brass Band Nord-pas-de-Calais」が優勝し、指揮者もイギリスからフランク・レントンを呼ぶなど、よりブラスバンドらしい音になってきたと思います。それまでは「Aeolus」というプロ奏者によるバンドが優勝していましたが、コルネットもトランペットのような音だったり、ブラスバンドではなく、金管アンサンブルのような音色でした。フランスでもブラスバンドの形態が活きるブラスバンドのサウンドを出せるバンドが出てきていることはとても良い傾向だと思います。

■吹奏楽が盛んなフランスで、なぜブラスバンドで楽器を吹き始めたのですか?

ベンジャミン:自分で選んだというわけではなく、通っていた地元グレー(Gray)のミュージック・スクールでコルネットを習い始め、そのままミュージック・スクールのブラスバンドに参加しました。ブラスバンドを始める前には想像もつかない楽しさで大好きになりました。サルフォード大学に来る前の1年間、グレーの近くの都市、ディジョン(Dijon)で音楽を学んでいましたが、ディジョンはオーケストラ楽器の傾向が強く、グレーとは対照的でした。

ミュージック・スクールにはブラスバンドの他に、吹奏楽もありましたが金管楽器を習っている生徒が多くいたのでブラスバンドをつくったようです。グレーのミュージック・スクールで金管楽器を習っている人は、楽器をはじめて2年ぐらいでほとんどの生徒がブラスバンドに参加します。私は、ヨーロピアン・ユース・ブラスバンドに参加した初めてのフランス人プレイヤーだと思うのですが、その時もう一人、同じくグレー出身の女の子もフランス代表として一緒に参加しました。

■ヨーロピアン・ユース・ブラスバンドには2007年から3年連続参加されていますね。初参加からプリンシパル(首席)だったのですか?

ベンジャミン:はい。オーディション後「プリンシパル」と言われ、思ってもいなかったのでびっくりしました。2007年はイングランドのバーミンガムが会場で、指揮者はイアン・ポートハウスでした。ヨーロピアン・ユース・ブラスバンドは、事前に席が決まっているわけではなく、ヨーロッパ各地からプレイヤーが集まって、全員が揃う初日に、指揮者によるオーディションが行われ、そこで席が決まります。2008年はノルウェーのスタバンガー(Stavanger)、2009年はベルギーが開催地で、2008年と2009年はソプラノ(E♭コルネット)を担当しました。

■フランス人初参加者にして、初回からプリンシパルとは凄いですね。日本にはヨーロピアン・ユース・ブラスバンド参加のシステムがないのですが、フランスのファデレーション(フランスの吹連)から代表に選ばれて参加したのですか?

ベンジャミン: 参加した3回とも、フランスのファデレーションから、フランス代表として選ばれ、全費用(食費、宿泊滞在費、飛行機代など)をファデレーションが負担してくれました。

■ファデレーションのサポート体制も整っていて素晴らしいですね。3回連続で参加してみてどうでしたか?

ベンジャミン:素晴らしい体験でした。面白いのは、毎回バンドのメンバーの輪が、とても早く強くつながっていくことです。はじめはみんな吹くだけ。そこから話し始めてうちとけて、最後には離れたくない、みんなずっと一緒にいたい、このメンバーでこのバンドをずっと続けたいと思うようになるまで仲良くなるんです。

3回とも別々の開催地で、開催地がイギリス以外の国でもイギリスでも、みんな英語で会話しました。16カ国からの参加者は、イギリス人には母国語だけれど、頑張って英語を使ってコミュニケーションする。それがさらに音楽のつながりを強くしたと思います。イングランドに来て、大きな大会で一緒に参加したメンバーに再会できたのもうれしかったですね。

▲Benjamin Richeton(ベンジャミン・リシェトン)

■BBC ラジオ2ヤング・ブラス・ソロイスト2010には、どのようなきっかけで出場したのですか? また、出場してみての感想を教えてください。

ベンジャミン:父が参加者募集の知らせを見つけてすすめてくれました。同じ時期に大学でリサイタルをしていたので、その録音をBBCに送ってみました。

正直に言うと、私自身はあまりコンペティション(competition/競争・コンテスト)が好きではありません。コンペティションはスポーツのイメージで、音楽はアート。私の考えでは、アートは感情表現や叙情的なものであって、それを競争することはできないと思うのです。

初めからそんな姿勢だったので、予選通過も想像していませんでした。1次予選通過の知らせから3週間後に、フォーデンス・バンドとの録音が待っていました。出場はしましたが、毎回の演奏時には、音楽会だと思って、コンテストとは思わずに演奏しました。二次予選通過も全く予想していませんでした。

■二次予選はフォーデンス・バンドをバックに、決勝戦ではブラック・ダイク・バンドをバックに演奏されましたが、トップ・バンドと一緒にソロで演奏してみてどうでしたか?

ベンジャミン:レコーディングの前に、事前にフォーデンスとブラック・ダイク・バンドのバンド・ルームへ行ってバンドと一緒にリハーサルしました。どちらのバンドのバンド・ルームも、そのバンドの歴史や、イングランドのブラスバンドの歴史を感じました。

ブラック・ダイクのバンドルームに行った時は、知り合いのメンバーの方が、木製の譜面台に刻まれた、歴代のプリンシパル・コルネット奏者のサインを見せてくれて、フィリップ・マッキャンやロジャー・ウェブスターのサインを見つけたりしました。

トップ・バンドと吹くとなると、戦うような、張りあうようなイメージがあるかもしれないですが、そんなことは全くなく、雰囲気良くサポートしてくれて、リラックスして楽しんで演奏することが出来ました。

■現在グライムソープ・コリアリーバンドに所属されていますが、どんなバンドですか?

ベンジャミン:素晴らしいバンドです。全てのコンサートをいつも楽しんで演奏することが出来て、いつも演奏会が楽しみです。そんな思いになるバンドは人生で初めて所属しました。指揮者のジェームズ・ガーレイの指揮も司会も、演奏も姿勢も素晴らしいです。演奏も全然緊張することはないですね。なぜなら、失敗するわけがない、楽しくないわけがない、そんな夢みたいな環境だからです。メンバーもとても仲が良いです。

■グライムソープ・コリアーリーバンドのメンバーとして、1月は「アラン・ティッチマーシュ・ショー/Alan Titchmarsh Show」、3月は「ア・バンド・フォー・ブリテン/A Band for Britain」 と、コンテスト、コンサートの他に、今年に入ってテレビの出演も多いですよね。他にも出演しましたか?

ベンジャミン:CD「The Music Lives On Now The Mines Have Gone」の宣伝にTVのニュースにも出演しました。 毎週末は土日どちらか、もしくは両方本番があって、大学の課題も、リサイタルもコンダクティングも、とっても忙しい日々ですが、どれも逃したくないぐらい充実しています。

■今年もナショナル・ユース・ブラスバンド・オブ・スイス(NJBBS)のゲスト・ソプラノ・プレイヤーとして招待されているそうですが、前回参加してみてどうでしたか?

ベンジャミン:よく飲んで(笑)、一日平均3・4時間ぐらいしか睡眠をとらずにリハーサル&本番と、10日間があっと言う間に過ぎてしまうイベントでした。期間が終わる頃には、また来年も行きたくなります。毎年7月の上旬に開催され、講師陣もヨーロッパのトップ・バンドが集まる充実したナショナル・ユースです。一例をあげると、今年の講師陣はコルネットが、クリストファー・ターナー(コーリー・バンド)、ユーフォニアムがスティーブン・ミード、ベースがレズ・ニーシュ(フォーデンス)などです。指揮者は、去年はギャリー・カット、今年はジェームズ・ガーレイです。

■尊敬するプレイヤーや音楽家がいたら教えてください。また、大学を卒業後はどんな活動をする予定ですか?

ベンジャミン:モーリス・アンドレはヒーローですよね。人柄も、音楽・音色も最高で、彼の演奏を聴くだけで夢を見ているような気持ちにさせてくれます。彼の出身地は、フランス北部でその地域はフランスでも特に吹奏楽が盛んな地域です。それは、イングランド北部でブラスバンドが盛んなのと似ているようにも思います。指揮者はディビット・キング、アラン・ウィズィントン(Alan Withington)の2人ですね。2人ともサルフォード大学出身です。コルネット奏者はロジャー・ウェブスターとディビット・キングです。

今後は、もう少しイングランドで活動を続けて行きたいと思っています。フランスの家族や友達にも会いたいですが、楽器指導のトレーニングをイングランドで受けたいです。また、いつか日本にも行ってみたいです。今までいろんな国の人に会ってきましたが、今まで出会った日本人の人たちはとても親切な人たちばかりでした。

■グライムソープ・コリアリーバンド
http://www.grimethorpeband.com/

■「アラン・ティッチマーシュ・ショー/Alan Titchmarsh Show」の動画(Youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=_T3z-OGAESY

■「ア・バンド・フォー・ブリテン/A Band for Britain」の動画(Youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=TJcc4dh3qI4&feature=related

■CD「The Music Lives On Now The Mines Have Gone」のCM(Youtube)
http://www.youtube.com/watch?v=yKBwHuCLUGU&feature=related

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