◎インタビュー&文:多田宏江
2009年11月18日 Salford大学Peel Hallにて
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金管奏者なら一度はお世話になったことのある、バイブル的教本「アーバン金管教則本」。その「アーバン教則本」に載っているソロ曲を、アーバンの持っていたコルネットで吹くというユニークなCDを出した人、その人がラッセル・グレイです。
彼はコルネット、トランペット奏者としても有名ですが、イギリスのブラスバンド情報サイト「4バーズレスト」、コンダクター・オブ・ザ・イヤー2002にも輝いたブラスバンド界では世界的に有名な指揮者です。2009年の1年間だけで、指揮をしたコンテストは18コンテスト、という驚異的な数。ブラスバンドだけでなく、吹奏楽、オーケストラの指揮者として、世界中からひっぱりだこな彼が、私の学ぶ大学に来たー!ということでインタビューをしてきました。
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▲ラッセル・グレイとSalford大学バンド(photo by Kanae Tauchi)
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■どのようにをトランペット&コルネットをスタートされましたか?
ラッセル:私の通っていたスコットランドの小学校にはスクールオーケストラがありました。私の父が、私の生まれる前にトランペットを吹いていたという話は聞いていて、オーケストラもトランペットも、もともと興味がありました。
9歳のとき、小学校のオーケストラのトランペットの席に空きが出て、実家の物置から、父のトランペットを発見し、初めて吹きました。2日目にはオクターブが吹けて、1ヶ月後には、スクールオーケストラをバックにソロを吹けるようになっていました。
12歳になった頃にはグレードブリテン・ソロチャンピオン(コルネット)になり、ある程度楽器は吹けていたので、中学校の音楽のレッスンは、スコットランドのプロオーケストラのトロンボーン奏者の先生2人と、よくデュエットしていました。とてもいい勉強になりましたね。小学校でも中学校でも、よき先生に恵まれました。
同時にその間、2008年に来日したNYBBSのプリンシパル(首席)コルネットを7年務めていたんですよ。
■どのように指揮を始めたんですか?
ラッセル:ヨークシャーのハデスフィールド大学で、大学生の頃から副専攻として指揮を学んでいました。当時はメジャー・ピーター・パークス、ジェフリー・ブランド、リチャード・エバンスなどイギリスのブラスバンド界の大御所指揮者達の指揮を見て育ってきました。
現在は、指揮が自分のメインの仕事になっています。そのきっかけとなったのが、今から約10年前に、ノルウェーのスタバンガーバンドに指揮者として招待され、2年間指揮をしたことです。
キャリアの初めは、特にコンテストの成績がその後の仕事を左右します。2000年イングランドのラムサムバンドに指揮者として呼ばれ、すぐさまナショナル・ファイナルズ2位に輝き、1位のコーリーバンド(ウェールズ代表)に続き、イングランド代表としてヨーロピアン選手権に出場しました。この成績をキッカケにイギリスのバンドで指揮をする機会が増ました。フォーデンスで指揮をしていたときは、5回出たコンテストのうち優勝3回、準優勝2回という好成績を残すことが出来ました。
今ブラスバンドでは、カートンメインバンドに席を置いていますが、ずっとバンドに付きっ切りというわけではなく、フリーランス・コンダクターとして、ブラスバンドに限らず、オーケストラ、吹奏楽の指揮もしています。
吹奏楽はロンドンのコーストリングガード、オーストラリア・ブリスベンのアーミーバンド、シドニーのネイビーバンド、ノルウェーの軍楽隊、オーストラリアのスクールバンドで指揮を振っています。
グラスゴーのロイヤルアカデミーで大学院オーケストラコンダクティリングを取っているので、オーケストラでは、ブリスベンのチェンバーオケストラ、ノースウェールズのカンブリアフィルハーモニーオーケストラなどでも指揮者をしています。今はどの分野でも指揮がふれるという自信があり、これからも指揮の活動を広げていきたいですね。
■指揮者として、そんなに忙しいのに、今でもソロイストとしての活動を続けていらっしゃるんですよね?
ラッセル:ヤマハアーティストとして、世界各国で演奏活動をする機会があります。特にオーストラリアと強いコネクションがあります。スペインでマスタークラスなどもしていますね。
■指揮者、ソロイスト、さらにはクリニシャンとしても活動されていますよね?
ラッセル:コルネットやトランペットだけではなくて、どんな楽器にも通じる一般的なアプローチを心がけてクリニックしていますね。どんな人にも私のクリニックから、何かプラスになること、ヒントを得られるように心がけて活動しています。
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▲レポーター多田(左)と、ラッセル・グレイ(右)(photo by Kanae Tauchi)
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■今日はSalford大学バンドのゲストとして演奏していただきましたが、本番前に、いつインタビューするか話していた時、私が「今はリラックスしていただいて、本番後にお願いします」と言ったのに対して「私はいつもリラックスしてるので大丈夫ですよ」と言ってくださいましたよね? その言葉から、ラッセルさんの本番でのリラックスした姿勢は、普段の生活にあるように感じたのですが、どう思われますか?
ラッセル:まったくその通りですね。普段の生活から、リラックスしてナチュラルでいることはとても大切なことだと思います。 緊張をした状態で、楽器を持つと、そのまま楽器・音楽を通して間違ったメッセージが観客に伝わってしまう。
毎日を楽しむことも大切だと思います。音楽から楽しみをとったら何が残るの?と思うんですよね。リラックスが大事なのは指揮を振る時も同じです。指揮をするとき、たとえ心の中は忙しくても、外からはリラックスして見えるようにして、奏者に間違ったメッセージを伝えないようにしていますね。
■前日の大学でのクリニックで話されていた、目標となるパフォーマーのイメージと、アレクサンダー・テクニックの話にとても興味をもったのですが、ラッセルさんはどんなパフォーマーをイメージされているんですか? また、アレクサンダー・テクニックのことを意識するようになったきっかけを教えていだだけますか?
ラッセル: クリニックでは音楽に限らず、パフォーマンスとして目標になる人を3人イメージするという話をしました。このテクニックは私が若いころに自分がどんなパフォーマーでありたいか、見つけるのに役立ちました。
パフォーマーとして、お客さんの前に立つ時、自分の目標となるパフォーマーをイメージするんです。そして、そこから自分らしさを表現していくんですね。結果的にあなた自身のパフォーマンスをするんですが、そのパフォーマンスの入り口に、このテクニックが助けとなると思います。
私がどんな人を目標にしてたかというと、1人目は俳優の「ロビン・ウィリアムズ」。彼のパフォーマンス・エネルギーは、音楽や演技という分野を超えて、スケールの大きなパフォーマーとして目標の人ですね。2人目はトランペットプレイヤーの「ウィントン・マルサリス」。彼はいつ見ても聞いても、素晴らしい演奏ですよね。3人目はテナー歌手の「パバロッティ」。彼は常に私のリストにある尊敬するパフォーマーです。
アレクサンダー・テクニックは「動き」「姿勢」「力を抜くこと」を基本としてとらえています。ある時期に、首の筋肉を痛めた時期があって、その原因が、気付かないうちにしっかりと楽器を握っていた左手の力だったことがわかったんです。
ある時、誰かが、実際どのくらい楽器を持つのに力が必要なのか? そこまで握る必要があるのか?と聞かれてわかったんですけど、それから、左手も握りすぎないように、右手の指が集まりすぎないように意識するようになりました。右手は楽器とは関係なしに、一番楽な状態で添えるようになったんですが、その話をしたらピアノ奏者の方にも共感してもらって、どの楽器にも共通することだなぁと思いました。
■今後の予定や、目標などを教えていただけますか?
ラッセル:今活動しているように、吹奏楽、オーケストラ、ブラスバンドなど、1つの分野だけではなく指揮の活動を広げていきたいですね。吹奏楽はブラスバンドより世界的シェアが大きく、吹奏楽の指揮もいっぱいしてみたい。
オーストラリアで頻繁に活動しているんですが、日本を経由する形で日本で仕事をいっぱいしてみたいと思っています。
■最後に、音楽にとって一番大切なことはなんだと思いますか。
音楽の哲学はお持ちですか?
ラッセル:指揮者のジェフリー・ブランドが「音楽は音符と休符の感情の反響(Music is an emotional response to sound and space )」と言っていましたが、私はこの言葉をいつも忘れずに音楽をつくっています。音楽からどんな気持ちを感じ取り、表現するかによって奏者も観客の気持も変わります。休符だって感動的な間の取り方を表現することもできる。この言葉はとっても深い内容だと思います。
【ラッセル・グレイ連絡先】
rusgray@btinternet.com