スクープ!! ロン・ネルソンの人気曲『ロッキー・ポイント・ホリディ』の作曲年が書き換えられることになった!!

Text: 樋口幸弘

▲ロン・ネルソン(Ron Nelson)

 アメリカのベテラン作曲家ロン・ネルソン(Ron Nelson、1929~)の人気作品で、BPラジオ「ウィンド・シンフォニー・アワー」第9回でも、鈴木孝佳指揮、タッド・ウインドシンフォニーのライヴ演奏が放送された『ロッキー・ポイント・ホリディ(Rocky Point Holiday)』の作曲年が、“1969年”から“1966年”に書き換えられることになった。

 ロン・ネルソンは、1929年12月14日、アメリカ合衆国イリノイ州ジョリエットに生まれた。ニューヨーク州のイーストマン音楽学校、パリのエコール・ノルマルおよびコンセルヴァトワールに学び、2つのオペラを含む声楽作品、器楽、放送や映画のための音楽など、多岐にわたるジャンルに作品がある。ウィンド・バンド用の作品も多く、1993年、『パッサカリア』で、アメリカの三大作曲賞である「ABAオストウォルド賞」「NBAレヴェリ賞」「サドラー賞」を総ナメにするという快挙を成し遂げている。

 『ロッキー・ポイント・ホリディ(Rocky Point Holiday)』は、委嘱により、1969年春、4月から5月にかけて行われたミネソタ大学コンサート・バンドの7週間におよぶ“ソヴィエト(現在のロシア)演奏旅行”のための、コンサート・オープナー(コンサートの幕開けに演奏される音楽)として作曲された。当時、アメリカとソヴィエトはまさに冷戦下。文化交流のためのソヴィエト政府からの招待旅行とはいえ、同バンドの指揮者フランク・ベンクリシュート(1928 – 1997)は、委嘱にあたり、作品が“とてもアメリカ的であること”をネルソンに求めた。そして、エネルギーとスピードに溢れ、いかにもアメリカ音楽をイメージさせるきらめくようなスコアリングが特徴のこの作品は、委嘱時の計画どおり、ソヴィエト演奏旅行中すべてのコンサートで第1曲目に演奏され、初めて聴いたソヴィエト市民にも熱狂的に迎えられた。

 タイトルに使われているロッキー・ポイントは、ロード・アイランドの海辺に面したリゾート地の地名で、日米問わず、どの作品解説においても、この曲は、作曲者がヴァケーションでこの地に滞在中に作曲されたと書かれている。

そして、この作品は、これまで1969年の作品とされてきた。

 しかし、タッド・ウインドシンフォニーのライヴ演奏のCD化にあたり、作曲者に初演日のデータを照会したことがきっかけとなり、思いがけない証人による思いがけない証言が登場。公表されている作曲年自体が作曲者の記憶違いであることが明らかとなったのだ。

 実は、最初、初演日を照会した際、驚いたことに、作曲者は何の手がかりも持っていなかった。『委嘱した指揮者もすでにこの世の人じゃないし、難しいかも知れない。』という作曲者に、ツアーは、7週間の期間に10都市を訪問し、合計27公演。最後のコンサートは、アメリカ帰国直後の1969年5月23日、ホワイト・ハウスのローズ・ガーデンで行われたこと。それに出席したニクソン大統領がソヴィエト大使などを前に行った当日の演説がウェブでも公開されていることなど、こちらで調べたことを情報として知らせたところ、『すぐにミネソタ大学にFAXで照会した』と返答があった。

 しかし、今から38年も前のことだ。大学も代替わりしており、詳しいことは分からない。だが、そこはアメリカ。作曲家からの公式要請に八方手を尽くし、当時のこのバンドのテューバ独奏者で、ソヴィエト演奏旅行にも参加し、現在はディズニーランドのタレント・ブッキング・マネージャーをしているスタン・フリース氏から、作曲者は突然メールを受け取ることになる。

 『ハイ、ロン』で始まるこのメールには、『我々は、“ロッキー・ポイント・ホリディ”を、1967年の冬、CBDNAのコンヴェンションで初演しました。ロシアではすべてのコンサートで真っ先に演奏。この曲は、確かにアメリカ合衆国を有名にしましたよ。聴衆も熱狂。私は、今でもテューバ・パートを覚えています。』と書かれていたのだ。CBDNAとは、全米カレッジ・バンド・ディレクター協会(College Band Directors National Association)の略。作曲者は、自分の記憶より2年も前に、この作品が初演されていたことに愕然とした。

 作曲者からその新事実を聞かされた筆者も調べてみると、1967年2月8-11日の日程でミシガン州アナーバーで開催されたCBDNAの第14回全国コンヴェンションには、確かにミネソタ大学コンサート・バンドが出演し、9-11日の3日間コンサートを行っていた。とすると、作曲年を“1969年”とする通説は明らかに間違いということになる。

 筆者は、念のため、再度メールを送った。『ドクター。我々は、この事実により、少なくとも現行の作曲年を変えねばならないと思います。そこで、最後の質問ですが、作曲されたのは、1967年だったのでしょうか。それとも、それより前の1966年のホリディだったのでしょうか。お返事をお待ちします。』

 すると、すぐに返事が返ってきた。

 『ディアー・ユキヒロ。この間違いは、かなり昔に、作品番号を使わないと決めたことに起因すると思われる。イエス、私は、この作品を1966年夏のヴァケーションに作曲した。ロッキー・ポイントは、夏中、すごく快適なところだった。あなたがこの件に関心をもってくれたことに感謝する。』

 我々も、『ロッキー・ポイント・ホリディ』に関するすべての記録を書き換えないといけない。

 “ロン・ネルソンの『ロッキー・ポイント・ホリディ』は、1966年の夏、作曲者がヴァケーションで滞在していたロード・アイランドの海辺に面したリゾート地、ロッキー・ポイントで作曲された”と。


[ロン・ネルソン 主要作品リスト]

【ウィンド・バンド】

Concerto for Piano & Symphonic Band (1948) 未出版

Mayflower Overture (1958 / revised, 1997) Boosey & Hawkes

Rocky Point Holiday (1966) Boosey & Hawkes

Savannah River Holiday (1973) Carl Fischer

Fanfare for a Celebration (1982) Boosey & Hawkes

Medieval Suite (1982) Boosey & Hawkes
(Homage to Leonin – Homage to Perotin – Homage to Machaut)

Pebble Beach Sojourn (1983) Boosey & Hawkes

Aspen Jubilee (1984) Boosey & Hawkes

Danza Capriccio (1985) Ludwig

Te Deum Laudamus (1988) Ludwig

Brevard Fanfare (1986) 未出版

Morning Alleluias (1989) Ludwig

Fanfare for the Hour of Sunrise (1989) Ludwig

Resonances I (1990) Ludwig

Lauds (Praise High Day) (1991) Ludwig

To the Airborne (1992) Ludwig

Passacaglia (Homage on B-A-C-H) (1992) Ludwig

Epiphanies (Fanfares and Chorales) (1994) Ludwig

Chaconne (In Memoriam…) (1994) Ludwig

Sonoran Desert Holiday (1994) Ludwig

Courtly Airs and Dances (1995) Ludwig

Nightsong (1995) Ludwig

Fanfare for Kennedy Center (1995) 未出版

Fanfare for the New Millennium (1999) Ludwig

Pastorale: Autumn Rune (2006) Ludwig

【管弦楽】 

Ballet: Dance in Ruins (1954) 未出版

Sarabande: For Katharine in April (1954) Boosey & Hawkes

Savannah River Holiday (1955) Carl Fischer

This is the Orchestra (1960) Boosey & Hawkes

Jubilee (1960) Boosey & Hawes

Overture for Latecomers (1961) 未出版

Toccata for Orchestra (1961) 未出版

Rocky Point Holiday (1969) Boosey & Hawkes

Trilogy: JFK-MLK-RFK (不詳) 未出版

Five Pieces for Orchestra After Paintings by Andrew Wyeth (1976) Boosey & Hawkes

Meditation and Dance (1977) 未出版

Fanfare for a Celebration (1982) Boosey & Hawkes

Elegy I (不詳) Ludwig

Fanfare for Kennedy Center (1995) 未出版

Panels (Epiphanies II) (1996) 未出版

Resonances II (1997) 未出版

【室内楽】

Kristen’s Song (1982)(Violin/Flute/Organ) Boosey & Hawkes

And the Moon Rose Golden (1983)(Cello/Piano) 未出版

Nightsong (1986)(Solo Instrument/Accompaniment) 未出版

<註>出版社名は、曲名の最後に記載。記載年は、基本的に出版年。

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