ヴァイキングの末裔、ノルウェー王国海軍バンド…定員は29名!! 世界最高峰のウィンド・アンサンブルを聴く愉しみ!!

▲ノルウェー王国海軍バンド
Pictures : by Courtesy of Specialist Recording Company

 

 かつて、ヨーロッパ広しと暴れまわったヴァイキングの故郷、ノルウェー王国の各ミリタリー・バンドの活躍が目覚しい。

 中でも、ホルストがウィンド・バンド(吹奏楽)のために書いたすべての作品、編曲を収録したCD「オラフ王を称えて」の世界的成功で、一躍その名が知られるようになった“ノルウェー王国海軍バンド”の充実ぶりは、その贅肉を完全にそぎ落としたようなピュアな管楽サウンドが愉しめる“ウィンド・アンサンブル”編成とともに、世界的に注目の的だ。

◎“吹奏楽は人数ではない”を地で行くバンド

 1820年に誕生したノルウェー王国海軍バンドの、2009年現在のレギュラー編成は、以下のとおりだ。

2 ピッコロ & フルート
1 オーボエ
1 バスーン
6 クラリネット
3 サクソフォン
4 トランペット
3 ホルン
3 トロンボーン
1 ユーフォニアム
2 テューバ
3 パーカッション

 定員はなんと29名。北欧諸国などでよく見受けられる、30名以下の人数で活動するミリタリー・バンドの典型的な編成だ。

 海軍バンドの定員がこう定められたのは、20世紀後半の改編以降のこと。最終的にこの人数に落ち着いた理由には、意外にも、ノルウェーにも導入されたオール金管の“ブラスバンド”から受けた影響があったことが挙げられる。

 つまり、イギリスからやってきた“ブラスバンド”は、ノルウェーでの活動が盛んになればなるほど、人々に、一人ひとりの奏者のスキル如何によっては、たった25名の奏者に必要数の打楽器を加えた人数で、それこそどんな種類の音楽でも表現できてしまうという事実を知らしめることになった。

 そして、ついには、ヨーロピアン選手権でハットトリックを達成し、本家イギリスのブラック・ダイクすら手も足も出なかった実力派、エイカンゲル・ムシックラーグのようなスーパー・ブラスバンドもノルウェーから登場! こういったモチベーションの高い音楽環境からは、すばらしい金管奏者が続々と輩出されるようになり、少しばかり大げさな表現をするなら、オーケストラを含めて、この国全体の管楽器の演奏レベルを著しく押し上げることとなった。

 こういった情勢に、ただでさえ人件費を抑制したい政府も敏感に反応。ミリタリー・バンドがオール金管の“ブラスバンド”に編成替えされることこそなかったが、徹底した見直しとリサーチの結果、ノルウェーのミリタリー・バンドは、1950年代にフレデリック・フェネルが提唱した、クラリネット以外のすべてのパートを原則1人の奏者で演奏する“ウィンド・アンサンブル”の理論を導入し、今日ある姿に変身。少ない人数でもハイ・スタンダードな音楽表現を可能にするために、プレイヤーは、ノルウェー音楽アカデミー出身者の実力者だけがオーディションで採用されることとなった。

 演奏中の楽器の持ち買えなど、当たり前。レコーディング等の場合は、音楽上の必要に応じてエキストラが加わるから、最少29名から、最大でも35名程度が、このバンドの通常編成となった。

 CD「オラフ王を称えて」の録音セッションでは、オーボエ x 1、バスーン x 1、クラリネット x 2、サクソフォン x 1、ホルン x 1、コントラバス x 1、パーカッション x 2 のエキストラ奏者が、スコア上必要な曲だけ、演奏に加わっている。

◎多彩な指揮者陣とCD

 一方、音楽監督など指揮者は、民間オーケストラなどとまったく同様に契約制をとり、BBCスコティッシュ交響楽団首席トランペット奏者から指揮者となったナイジェル・ボッディスや、オスロ・フィルの首席ソロ・クラリネット奏者としても有名なレイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセンのほか、複数の指揮者が、指揮台に登場してきた。

 この内、2003年秋~2008年夏のシーズンまで首席指揮者、音楽監督をつとめ、CD「オラフ王を称えて」を指揮したペデルセンは、契約に従って、年に8週間から10週間の期間、このバンドの指揮にあたった。

 その後、2008年8月に、ヴェルムランド歌劇場(スウェーデン)やオスロ・フィルなど、北欧各オーケストラでキャリアを積み重ねている指揮者インガル・ベルグビィが音楽監督に就任したが、輝かしい実績を残したぺデルセンは、海軍バンドからの退任後も、ノルウェーの各ミリタリー・バンドの客演指揮者として活躍を続けている。

▲レイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセン
Pictures : by Courtesy of Specialist Recording Company

 CDは、Doyen、de haske、Naxos、Specialistなど、各社からかなりの数のタイトルが発売され、いずれもハイ・スタンダードな演奏が評価され、すばらしいセールスを記録している。

ベルギーやフランスのような大編成でなく、少ない人数で透明感あふれる演奏を展開するこのバンドのCDは、ある意味、管楽合奏のひとつの理想の演奏として注目されるべきものが多い。

 少なくとも、前記のホルスト作品集「オラフ王を称えて」「マーチ・ディレクターズ・チョイス」、ピーター・グレイアム作品集「ゲールフォース」、広瀬勇人やトーマス・ドスなど、デハスケ・グループから出版されているオリジナル曲を収録した「ファナティック・ウィンズ」などの各CDは、演奏上のヒントも満載なので、ぜひとも聴いていただきたいものだ。

 少人数だが、ピリリとひきしまった理想系のウィンド・アンサンブル。

 “ノルウェー王国海軍バンド”の活動には、今後とも大いに注目していきたい。

(C)2009、樋口幸弘 / Yukihiro Higuchi (ウィンド・ナビゲーター)


《ノルウェー王国海軍バンドの注目CD》

■オラフ王を称えて~ホルスト:ミリタリー・バンドのための全作品集【CD2枚組】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1201/

■ゲールフォース~ピーター・グレイアム作品集
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0199/

■ノルウェー・バンドスタンド
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0713/

■マーチ・ディレクターズ・チョイス
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0971/

■ファナティック・ウィンズ
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0645/

■クロスオーヴァー
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0192/

■シーズンズ
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0799/

■プレステージ:ロバート・チャイルズ
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-0411/

【ノルウェー王国海軍バンド】
創設は1820年。ヴァイキング以来の伝統を誇るホルテンのカールヨハンスヴェルン要塞(現、海軍博物館)を本拠とする。厳しいオーディションによるノルウェーの最高水準の演奏家で構成され、20世紀終盤に、クラリネット以外のパートを1人の奏者で演奏する、完全なウィンド・アンサンブル編成となった。定員は29名。BBCスコティッシュ交響楽団首席トランペット奏者だったナイジェル・ボッディスや、オスロ・フィル首席ソロ・クラリネット奏者からこのバンドの音楽監督に就任したレイフ・アルネ・タンゲン・ペデルセンの指揮のもとで、Doyen、de haske、Naxosなどから数多くのCDをリリースし、ホルストが吹奏楽のために書いた作編曲のすべてを集めたCD「オラフ王を称えて」(Specialist)の成功で世界的名声を得た。ペデルセンの契約満了に伴い、2008年、ヴェルムランド歌劇場やオスロ・フィルなど、スウェーデンやノルウェーのオーケストラで活躍がつづく、指揮者インガル・ベルグビィが音楽監督に就任した。

(2009.08.18)

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