近年の吹奏楽の人気曲に、ジョン・マッキー(1970~)作曲、吹奏楽のための交響詩《ワインダーク・シー》がある。2014年にテキサス大学ウインド・アンサンブルが初演し、翌年、ウィリアム・レベル作曲賞を受賞している。
日本では、2015年度の全日本吹奏楽コンクールで、名取交響吹奏楽団(宮城)が全国大会初演し、金賞を受賞したことで注目を集めた。以後、全国大会だけで計9回登場の人気曲となっているほか、東京佼成ウインドオーケストラやシエナ・ウインド・オーケストラなども定期で取り上げた。CDも、現在、国内外あわせて十種以上が出ている。
曲は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を3楽章(Ⅰ傲慢/Ⅱ不滅の糸、とても脆く/Ⅲ霊魂たちの公現)、40分近くをかけてドラマティックに描く、最高難度の大曲である。
で、これほどの人気曲だけあって、あたしもコンサート・プログラムやCDライナーで、何度となく本曲の解説を書き、FM番組でも語ってきた。
そのたびに頭を悩ませたのが、この叙事詩に枕詞のように何度も登場し、かつ曲名にもなっている《Wine-Dark Sea》の解説だった。直訳すると「葡萄酒のような暗い色の海」で、戦前から、日本では「葡萄の酒の色湧かす大海」(土井晩翠訳)、「葡萄酒色の海」などと訳されてきた。英訳テキストを検索してみると、全24歌中、10数か所に登場している。
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