【コラム】富樫鉄火のグル新 第379回 ある洋食店の閉店

あたしが会社に入社したのは、1981(昭和56)年4月のことだった。入社してすぐ、先輩から「夕食に行くぞ」と誘われ、近所の洋食屋に連れていかれた。
それが、レストラン「IKOBU」(イコブ)天神町店だった(地下鉄東西線「神楽坂」駅のすぐそば)。安くてうまいだけあり、毎晩、「夜の社員食堂」と化していた。

会社で打ち合せ後、作家とここで食事をする編集者も多かった。
あたしが担当していた演出家の故・和田勉さんも大のお気に入りで、よく夕刻に来社されていたが、実は、そのあとの「イコブ」のほうが目的だったフシがある。焼酎のお湯割りと「カレー味の洋風揚げ餃子」が大好きで、「ガハハおじさん」だけあって、酔うにつれて大音声となり、さすがに店長に「もう少し、お声を低く…」と諭されたことがある(一緒に新幹線に乗ったときも、車掌に同じことをいわれた)。
また、あえて名前はあげないが、ある大ベストセラー作家が、「イコブのビーフカツがおいしかった」とエッセイに書いて、一時、女性客が押しかけたこともあった。

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