あたしは、能・狂言は、せいぜい年に1~2公演くらしか行かないので、とても見巧者とはいえない。
ただ、仕事柄、入門書やガイドブックの類には興味があるので、その種の本には、時折目を通してきた。
最近面白かったのは、第286回でご紹介した、『教養として学んでおきたい能・狂言』(葛西聖司著、マイナビ新書)だった。
この葛西本の特徴は、本文でも述べたが、「能の歴史」のような章が一切なく、いきなり具体的な演目解説に入る点だった。
これに対し、本書は、全編が「能の歴史」である。しかも、書名に、葛西本とおなじ「教養として」が付されている。著者は横浜能楽堂の芸術監督だが、コンパクトな新書とはいえ、一冊まるごとを「能の歴史」で費やして、面白いのだろうかと、半信半疑で手にとってみた。
案の定、第一章「能の成立と世阿弥」は、若干”お勉強”調で、少々、退屈した。以後もこの調子なら、読むのをやめようと思った。
ところが、第二章「太閤の能狂い」に入るや、曇り空が一瞬にして晴れわたったような、抜群の面白さを醸し出し始めた。このまま、漫画化できるのではないかとさえ、思った。
いうまでもなく、太閤とは、秀吉のことである。
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