■樋口幸弘のウィンド交友録~バック・ステージのひとり言 第174話 台風14号と3人の作曲家たち

▲チラシ – 名古屋芸術大学第41回定期演奏会(2022年9月21日、東海市芸術劇場)

▲チラシ – フィルハーモニック・ウインズ 大阪 第36回定期演奏会(2022年9月19日、住友生命いずみホール)

▲チラシ – 九州管楽合奏団 下関特別公演(2022年9月25日、下関市生涯学習プラザ)

2022年(令和4年)9月18日(日)の午後、名古屋芸術大学教授の竹内雅一さんから一本の電話が入った。

『今、そちらに(大阪に)向かっているところです。』

“エッ!?”と一瞬驚きながらも話を伺うと、『行けなくなるといけないんで、予定を早めたんです。』とのこと。

実は、この少し前まで、竹内さんは、翌19日(月・祝)に住友生命いずみホールで開かれるヤン・ヴァンデルロースト(Jan Van der Roost)指揮の「フィルハーモニック・ウインズ 大阪 第36回定期演奏会」を聴くために愛車を駆って来阪。9月21日(水)に東海市芸術劇場大ホールで行なわれる「名古屋芸術大学ウィンドオーケストラ第41回定期演奏会」のための大学での練習に向けて、ヤンとともに前日の20日(火)朝10時に車で大阪をたつプランをたてていた。

同時に、筆者も、竹内さんから、この名古屋行きのドライブに『一緒にどうですか?』と声を掛けられていた。丁度、こちらの予定が20日だけ空いていたからだ。その結果、明くる21日に大阪でどうしても外すことができない大切な役回りがあった筆者は、残念ながら演奏会本番を聴くことは適わないものの、20日名古屋入りの後、名芸の練習を見学し、その日の内に大阪に舞い戻るプランを立てた。

本当に久しぶりに顔を合わせることになるトリオで“ワイワイがやがや”と騒ぎながら、竹内さんの車で名古屋に向かおうという計画があったのだ!

しかし、そのささやかな愉しみを奪ったのが、日本列島めがけて勢力を強めながらゆっくりと近づき、気象庁から九州では初めてという“台風特別警報”まで発表された台風14号だった。

「大型で猛烈な」とか「史上最強クラスで上陸か」という、マスコミが勢いづく派手な触れこみで来襲した台風14号は、本当に迷惑な台風だった。勢力範囲が広いだけでなく、予想進路や到達予想時刻もどうにもはっきりしなかったからである。

実際、ある予想図では、ヤンのコンサートがある19日に大阪直撃の様相を示し、またある予想では我々が名古屋に向かう予定の20日、真上を台風が通過中かも知れないという進路図が示されていた。万が一、そうなると高速道路は通行禁止になる可能性もあるし、運よく名古屋に入れたとしても、今度は鉄道運休で大阪に戻れないかも知れなかった。大学も台風直下になれば、登校禁止でリハどころではなくなる可能性もあった。

気が気でない筆者も竹内さんも16日あたりから連日気象庁の発表やウェザーニュースをチェックしながら連絡を取り合った。しかし、我々素人には台風の動きはまったく読めない。気象の専門家も、とくに九州北部あたりから速度を上げて日本列島に沿って太平洋に抜けるのがいつ頃になるのか、よく分からないようだった。

そして、それが冒頭の“行けなくなるかも”の原因だった。

そうは言っても、筆者ひとりのためにふたりに迷惑を掛けるわけにはいかない。

そこで、17日、『私のことなど気にせず、19日の終演後、直ちに名古屋に向かうのがベターかと思うので、ふたりでよく相談して欲しい。』と両者にメールを入れ、今回の自身の名古屋行きを断念した。

折り返しで、『いまのところ、危なそうですね。』と竹内さんからメールが入り、一応、18日のホテルを予約した旨も書かれていた。念のための前日入りのために。

その数分後のことである。

“成田に着いた”ヨハン・デメイ(Johan de Meij)からメールが飛び込んできた!!

かの交響曲第1番「指輪物語(The Lord of the Rings)」の作曲者としておなじみの彼は、現在、九州管楽合奏団の首席客演指揮者をつとめている。今回の来日は、9月22日(木)、宝山ホール(鹿児島県文化センター)で開かれる「九州管楽合奏団 鹿児島特別公演」および9月25日(日)、下関市生涯学習プラザ(ドリームシップ)海のホールで開催される「同 下関特別公演」の客演指揮のためのものだった。

しかし、メールの中身には、つぎのようなとても気になる内容も含まれていた。

『成田から福岡へのフライトはキャンセルされたので、月曜日朝の便をとり直した。今、空港のホテルをとるところだ。』

つまり、9月19日の便で福岡に向かうつもりでいるようだ。

しかし、これからヨハンが向かおうとしているのは、台風14号が正にやってこようとしている九州だ。ヤンの一件ですっかり台風14号と交通情報のスペシャリストと化していた筆者は、一瞬にして彼の判断は危ないと思った。

実際、これからの九州便の多くの欠航が予想され、JR九州管轄の九州新幹線も、台風の動きに応じた計画運休がすでに発表されていた。

そこで、間髪を入れず、ヨハンに『予約した19日の福岡便はキャンセルになると予想されるので、何としても明日18日の新幹線に切り替えて博多に向かうことを強く勧める。』とメールを送った。

九州新幹線がたとえ全線運休になっても、JR西日本管轄の山陽新幹線は、間違いなく終点の博多までは走るだろうから。ネイティブの言うことは聞け、という訳だ。

その後、ヨハンは筆者のアドバイスを受け入れ、東海道・山陽新幹線で博多に向かったようだ。18日の夜19時18分に「Made it!(うまくいった)」というメールが入り、それにはこう書かれていた。

『新幹線で、安全に、今まさに博多にいる。(キミの言うとおり)、明日のフライトも列車もすべてキャンセルとなった。今、ホテルの部屋にたたずんで、台風が通り過ぎるのを眺めているよ。』

一方、ちょうど同じ頃、予定をかなり早めて大阪に入りした竹内さんと筆者は、氏が泊る江坂のホテル近辺で食事をかねて情報交換の場をもっていた。

日本政府は安易にリモートばかり推奨しているが、実際に会って行なうすり合わせは、やはり密度が違う。

台風情報の交換だけではない。名芸の現状のほか、9月15日(木)に成田空港に到着したヤンが、入国時に日本語で印刷された書類を差し出されて記入を求められ、『私は日本人ではない。』と言って面喰った事件があったことなど、この直後、9月21日(水)に、フランコ・チェザリーニ(Franco Cesarini)の成田空港での入国を控えている当方にとっても参考になる情報も多々あった。また、直前に主催者から竹内さんに電話があって、19日のヤンのコンサートの開演時刻が2時間早められることもこのとき知った。JR各線などの計画運休が発表された(つまり終演後の電車がない)ための措置だろうが、チケット購入者への告知は本当に大丈夫なんだろうか。妙なことが気になってしまう。

しかし、台風の動きはその後も微妙だった。

すでに国内に入っているヤンとヨハンのふたりは主催者のもとにいるので問題ないが、これから入国するフランコのフライトは、21日の朝8:50の到着予定で、台風の影響をもろに受けるかも知れない時間帯だった。分かりやすく言うと、台風が関東地方をすばやく通過していった場合は、ほぼ問題ないが、台風の動きが遅かったり、空港が被害を受けた場合は、降りる空港が変更される可能性もあった。

フランコの来日は、9月25日(日)、大阪のザ・シンフォニーホールで開かれる「Osaka Shion Wind Orchestra 第144回定期演奏会」の指揮のためのもので、リハーサルは22~24日の3日間。だから、21日中に大阪に入れれば何の支障も発生しない。

早速、成田での出迎えとアテンドを依頼した黒沢ひろみさんに、どこに降りても対応できるように詳細な指示を出し、同時に、フランコとも電話番号を交換。万が一、入国審査や検疫で時間をとられても、臨機応変の対応ができるようにした。先のヤンだけでなく、成田での対応では相変わらずいろいろなことが起こっていると聞いていたので。

それにしても、同じ時期にヨーロッパの友人3人が揃って日本の土を踏み、別々の演奏会で指揮をすることになろうとは!?

いずれも、過去2年間のコロナ禍による中止や延期の末の偶然の結果だが、筆者からのメールでそれを知った3人は、皆一様に“本当か?”と大盛り上がりをし、互いに互いを称え合っていた。“よろしく伝えて欲しい”と言葉を添えながら。

こんなことは滅多に起こりえない!

2022年9月。大阪の私設トラベル・ビューローは、大忙しだった。

▲▼チラシ – Osaka Shion Wind Orchestra 第144回定期演奏会(2022年9月25日、ザ・シンフォニーホール)

▲チェザリーニ ミラノ – ウィーン – 成田のフライト

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