【コラム】富樫鉄火のグル新 第362回 50年目の《ゴルトベルク変奏曲》

 日本を代表する鍵盤奏者、小林道夫氏(89)は、毎年12月に、チェンバロで、バッハ《ゴルトベルク変奏曲》を演奏するコンサートを、1972年からつづけている。
 昨年末が、記念すべき、50年連続/第50回となるはずだったが、体調を崩されて、直前に中止となってしまった。
 その代替公演が、8月29日、東京・上野の東京文化会館小ホールで開催された。

 残念ながら、ぴったり「50年連続」とはならなかったが、90歳になろうかというひとが、半世紀かけて、あのような複雑極まりない大曲を弾きつづけてきたわけで、まさに偉業としかいいようがない。
 なぜ、もっとメディアが注目しないのか、不思議でならない。
(わたしは、せいぜい2000年代に入ってから2回ほど行ったことがあるにすぎない。よって今回が3回目)
 2回のアリアと、全30曲におよぶ変奏は、ささやきかけるような、実に温かな響きだった。

 会場では、昨年に配布されるはずだった解説プログラムが、あらためて配布された。
 これが実に面白い内容で、50年間分のプログラムから、小林氏本人の解説や、寄稿エッセイなどを抜粋再録した、一種の”50周年記念誌”となっていた。
 そこで驚いたのは、第1回=1972年のプログラムに寄せた、小林氏自身による解説である。
 たとえば、こんな具合だ。

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